第1話 :攻撃できない盾
はじめまして。
「攻撃できない盾」が勇者を守る物語です。
毎日更新予定です。
楽しんでいただければ嬉しいです。
俺は攻撃できない。
だが、飛龍のブレスなら受け止められる。
だから今日も、街の正門の前に立っている。
山岳都市グランゼル。
崖と岩山に囲まれた、逃げ場の少ない街だ。
定期的に飛龍が降りてくる。
理由は知らん。
巣が近い。それだけで十分だ。
兵士が叫ぶ。
「来るぞ!」
空が赤く染まる。
巨大な影が旋回し、一直線に門へ向かってくる。
ああ、いつものやつだ。
俺はタワーシールドを構える。
重い。分厚い。可愛げの欠片もない。
だが信用はできる。
俺と違ってな。
「さっさと吐け」
飛龍が口を開く。
灼熱が落ちる。
轟音。衝撃。石畳が割れる。
腕が軋む。歯が鳴る。
だが退かねぇ。
俺の後ろには街がある。
酒場も、パン屋も、泣き虫のガキも。
守る理由なんざ、いくらでもある。
炎が収まる。
煙の向こうで、兵士たちが息を呑む。
「……効かねぇよ」
俺は盾を地面に叩きつける。
飛龍が苛立ったように咆哮する。
その足元に、白いものが転がっているのが見えた。
骨だ。
小さい。
……ちっ。
胸の奥がざらつく。
守れてねぇ。
飛龍が再び舞い上がる。
次のブレスが来る。
構え直した、その瞬間だった。
風が裂けた。
黒い軌跡が空を走る。
次の瞬間、飛龍の首が宙を舞っていた。
「……は?」
門の上に立っていたのは、銀髪の少年。
十代後半。細身。軽装。
だが立ち姿が妙に静かだ。
その隣に、青髪の女が立っている。
「先生、弱かったな」
「うむ。某が出るまでもない」
先生?
俺が何年も受け止めてきた相手だぞ。
少年が軽やかに飛び降りる。
焼けた石畳に着地し、まっすぐ俺を見る。
「ダグラスさんだな」
「……誰だお前」
「俺はカイル。勇者だ」
さらっと言いやがった。
冗談にしては、飛龍が死んでいる。
「龍皇から聞いた。良い盾使いがいるって」
龍皇?
山の向こうの伝説が、なぜ俺の名前を知っている。
「勧誘なら断るぞ」
俺は即答する。
「俺がいなくなったら、この街は焼ける」
カイルは振り返る。
焦げた門。割れた石。転がる骨。
その視線に、迷いはない。
「なら、焼かせない方法を取ればいい」
「……どうやってだ」
「巣ごと潰す」
即答。
「複数いるぞ」
「問題ない」
その言い方が気に食わん。
「お前が問題なくても、街が問題だらけだろうが」
カイルはわずかに考える。
本当に、ほんの一瞬だけ。
「なら、街も守る」
「どうやってだ」
「俺が強くなればいい」
真顔だ。
こいつ、本気で言っている。
「強ければ、全部守れる」
その目は澄んでいる。
澄みすぎている。
悪意はない。
だが――危うい。
「ダグラスさん」
カイルが一歩近づく。
「俺には、あんたが必要だ」
「俺は攻撃できねぇ」
「知ってる」
「役立たずだぞ」
「違う」
即答だった。
「俺は強い。でも、それだけだ」
その言葉に、ほんの少し影が落ちる。
「先生は止めない。俺も……多分、止まらない」
背筋が冷える。
「だから、止めてくれる人が欲しい」
止める?
「俺が間違えたら、止めてくれ」
子供の顔と、大人の目。
その中間に立っている。
俺は頭を掻く。
「面倒事だぞ」
「知ってる」
「死ぬかもしれん」
「その時は、俺が守る」
「だからそれが危ねぇって言ってんだ」
青髪の女が淡々と言う。
「ダグラス殿。貴殿は合理的だ。勇者には必要だ」
合理、ね。
俺はもう一度、転がる骨を見る。
守れなかったもの。
止められなかった何か。
……ちっ。
「巣まで案内するだけだ」
俺は言う。
「それ以上は知らん」
カイルが笑う。
無邪気だ。
だがその奥に、刃がある。
俺はまだ知らなかった。
この勇者を守ることが、
俺の仕事になるなんてな。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
「強い勇者」と「止める盾」の物語です。
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次回は勇者の“危うさ”が少し見えます。




