第1話 迷宮の主
俺はダンジョンの主、バラキアス。第百層の地下迷宮の奥深くに居を構えるボスモンスター。遥か昔、誰にも倒せないと言われていた竜王を倒し、英雄となったなれの果て。今は見た目は人間でも中身は腐ったアンデットだ。死んだときに天から声が聞えて気づけばこのダンジョン、奈落の英雄王のボスモンスターとして生まれ変わっていた。
「はあ、暇だ」
なぜなら俺のいる百層に到達する人間が誰一人現れないのだ。今年で主歴約三百年になる。俺は一体いつになったら本気で暴れられるんだろうか。と、友達を欲しがりながら嘆いている。
「友達っていってもここにはダンジョンだしなあ」
モンスターしかいないはず。しかも意思を持ったモンスターが俺の他にも居るのかはわからない。このまま待っていても誰も来なそうなので、俺はそろそろ計画を実行に移すことにした。
「よし、俺がダンジョンを攻略しよう」
そう。このボスモンスター自身である俺がこのダンジョンを攻略するのだ。理由は寂しくて早く誰かと話したいから。ずっと一人でいて話し相手もいないから俺の声は少しどもって聞こえる。これは人前に出る前に直さないとな。
「まずはこのボス部屋からなんとかでないとな」
俺は愛剣であるスティールウェイルを抜いた。そして俺をこのボス部屋に縛り付けている原因であろう俺専用のこのバカでかい玉座を破壊した。バキッと音がして封印が解除されたのがわかった。この調子で行こうと思い、ボス部屋の奥に行く。そこに置いてある攻略者に送るであろう金銀財宝を俺の異空間バッグにすべて詰め込んでいく。ボスが財宝を手にしてどういうことなんだとツッコまれてしまいそうだが良しとしよう。もし俺より強くてこのダンジョンを攻略できる人間が居たらごめんね! 俺は待つのに疲れた。このダンジョンから荷物ごと飛び出そうと思うよ。
「よし、これでダンジョンを出てもお金には困らないな」
しかし、それにしても俺を転生させた天の声は聞こえてこない。俺を転生させてここのボスにしたのは天だから邪魔してくるかと思ったのに。邪魔する気配はまったくない。良いことなんだけど理由は気になる。考えても仕方ないので切り替えることにした。
「レッツゴー!」
俺はボス部屋を出た。まずボス部屋の外がどうなっていたかと言うと洞窟にいろんな光り輝く鉱石やキノコが生えている不思議な空間だった。
「このキノコなんなんだろう」
毒キノコじゃないなら持っていこうかと悩む。お金になりそうなものはダンジョンのなかで取っていこうと決めた。俺は慎重にいろんな色違いのキノコを集めながら歩いていく。鉱石のほうも使えそうだから愛剣で粉々に砕いて欠片を集めていく。
「この鉱石も少しは金になるだろう」
というわけでサクサク進んでいくとなにかが動く音がした。慎重に歩を進めていくとデカいコウモリのモンスターがたくさんいた。俺は愛剣を抜き、魔法で炎をエンチャントし、瞬時に一番近くにいたコウモリめがけて剣を向けた。ザンザンとコウモリを斬って斬って斬りまくって倒していく。傷口から延焼しながらコウモリの群れを屠る。鑑定してみるとジャックバットと言う名前のモンスターだった。
「これ音で相手の身体をハッキングする能力だよなあ」
そんな能力を持っているとは危険だ。俺は愛剣になあと語りかける。なぜ俺が愛剣に話しかけているというとこの剣には斬った相手の能力を記憶しコピーする能力があるのだ。だからジャックバットというモンスターの音で対象の身体をハッキングするという能力を使えるようになったのだ。
「次行くか」
さて、今気になったんだけど、俺の身体って匂うかな? アンデットだから腐っているはずだし、臭いかも。しかし自分の匂いは自分じゃわからない。身体は普通に運動できるし全盛期と何ら変わらない戦闘ができる。というか俺は自分の本当の種族を知らないのだ。死んで生まれ変わって生きてるからアンデットだと思うのだけど、自分の身体を客観的に鑑定してもなにも出てこなかったのだ。
「俺ってなにに生まれ変わってんだろうな」
不思議だ。気になるけど今は知らなくてもいい気がする。きっと知るべき時がいつか来るはずだ。そう思い俺はダンジョンを進んでいく。ジャックバットの他にもクマ型や蜘蛛型、蟻型などのモンスターがいっぱいいた。俺は瞬足を生かして近づくことを察知される前に斬って倒していく。
「モンスターばかりでつまらないなあ。俺もモンスターだけど」
くだらないことを言ってもなにも出てくるものはなく、モンスターを倒し続けていく。時々見える水たまりで俺の今の顔を確かめたらびっくりした。俺は五十歳ぐらいの年齢で死んだはずだったが今では若返って二十歳ごろの顔になっていた。サクサク進むとモンスターの数も減り、階段が見えてきた。
「これって一つ上の階層、いや、俺が百層のボスだから一つ下のボス部屋に繋がっているのか」
俺は慎重になにが待っていても驚くことないように昇っていく。頂上には大きな扉があった。俺は覚悟を決めてその扉を開いた。光が差し込みその先が見える。すると予想通りやはりボス部屋だった。
「驚きました。まさか、ここに来る人がいるなんて」
そんな顔で待ち受けていたのはとんでもない美少女だった。歳は今の俺とそこまで変わらなそうでタメで話してもよさそうだ。
「えっと、俺はバラキアス。百層のボスモンスターをやってたんだけど」
俺がそう言うと美少女は逆座からぴょんと飛び降りた。
「わたしは九十九階層のボスモンスター、ヘルです。ようこそわたしの庭園へ」
落ち着きを保った綺麗な声でそうヘルは自己紹介した。




