エル=カナン
世界は「正しくある」ことを強いる
この魔法国家の名は、エル=カナン。
存在定義を国家が管理する、極めて合理的な国だった。
人は出生時に「属性」と「役割」を登録される。
兵士、研究者、農夫、司祭。
魔法は役割に最適化され、無駄な個性は排除される。
その裏側で動いているのが、異端審問所。
定義できない者。
役割を拒む者。
曖昧な存在。
――処分対象。
佐伯は、両方から目をつけられた。
ーだって「観測する魔法」は危険思想らしいよ?
佐伯の魔法は、魔法国家にとって致命的だった。
・国家が与えた定義を「読む」
・定義の矛盾を見抜く
・魔法の根拠が、信仰か支配かを暴く
それは、制度そのものを崩す力。
「お前の魔法は、世界を疑わせる」
異端審問官はそう断じた。
「世界に疑問を持たせる魔法は、悪だ」
同時に、魔法国家の上層部も動いた。
「管理できない力は、兵器としても価値がない」
「ならば排除する」
敵は一つではない。
秩序と信仰、両方が敵だった。
リィネは、佐伯を守ろうとした。
「佐伯、逃げよう」
「あなたはこの国に合わない」
だが佐伯は、首を振った。
「逃げたら、また同じだ」
「どの世界でも、俺は“違う”って言われて終わる」
リィネの声が震えた。
「でも……あなたは死ぬ!」
「三ヶ月で、必ず!」
佐伯は静かに答えた。
「だからだよ」
「今回は、死ぬ理由を選ぶ」
その言葉が、決定的だった。
「……あなたは、自分のことしか見てない」
リィネの瞳に、失望が浮かぶ。
「世界を観測するって言うけど」
「人の気持ちは、観測対象でしかないの?」
その言葉は、剣より深く刺さった。
ーっていうか、俺、自分を観測すべき?なんかしばらく世界観に合わせてシリアスすぎない???
「……違う」
否定したかった。
だが、言葉にできなかった。
リィネは背を向けた。
「あなたが“誰か”になりたいなら」
「私は、あなたの実験材料にはなれない」
彼女は去った。
三ヶ月目の夜
期限の日は、唐突に来た。
空が、歪み始める。
佐伯は分かっていた。
――世界が、彼を“排出”しようとしている。
異端審問所の地下。
拘束されたまま、佐伯は座っていた。
「やはり三ヶ月か」
「異端は、世界に定着できない」
処刑の準備が進む。
だが、佐伯は静かに目を閉じた。
(今までの世界は)
(俺を“存在”として定義しなかった)
(だから、世界が終わらせた)
(なら――)
魔法による「期限の破壊」…可能か?
佐伯は、初めて世界そのものを定義し直した。
火でも、水でもない。
存在定義の魔法。
「この世界は」
「存在を定義することで、魔法を成立させる」
「ならば――」
彼は、世界に向かって宣言する。
「俺は、この世界に属さない存在だ」
一瞬、空間が凍りつく。
「だが同時に」
「この世界を観測した“履歴”を持つ」
「履歴を持つ存在は、世界から削除できない」
それは、世界のルールの盲点だった。
“属さない”が、
“関わっていない”わけではない。
世界が、答えを出せずに揺れる。




