第四世界
第四世界――魔法が「言語」である世界
目覚めた瞬間、佐伯は理解した。
――ここは、意味が力になる世界だ。
空気が重い。
だが物理的な重さではない。
「概念」が満ちている感覚だった。
石畳の街。
尖塔の並ぶ都市。
人々は詠唱と共に光を生み、火を灯し、水を操っている。
魔法が存在する世界。
だが佐伯は、すぐに違和感を覚えた。
(……魔法が、“技術”じゃない)
この世界の魔法は、才能や血筋ではなかった。
自分が何者かを、どれだけ明確に定義できるか
それが魔力量を決めていた。
「あなた、変な“輪郭”をしてる」
そう言って声をかけてきたのは、少女だった。
銀灰色の髪。
魔法士のローブ。
年は佐伯より少し下に見える。
「輪郭……?」
「うん。存在の境界線」
「この世界の人は、みんな“自分”がはっきりしてるの」
彼女は名を名乗った。
リィネ・アーカ
魔法学院に属する研究者見習い。
彼女は佐伯を見て、困ったように微笑んだ。
「あなた、どこにも属してないみたい」
「でも……消えてもいない」
その言葉に、佐伯の胸が強く鳴った。
――この世界でも、見抜かれた。
この際魔法って何か聞いてみたい
だって憧れるよね
リィネは教えてくれた。
この世界の魔法は、「自分はこういう存在だ」と
世界に宣言する行為だと。
火の魔法とは、「私は燃える意志を持つ存在だ」と定義すること。
防御魔法とは、「私は壊れないと決めた存在だ」と主張すること。
だから迷いが強い者ほど、魔法は弱い。
佐伯は、致命的だった。
「……俺、何者でもないんだ」
詠唱しても、魔力は霧散する。
形にならない。
リィネは首を横に振った。
「違う」
「あなたは、“決まっていない”だけ」
そして、こう言った。
「なら、今は仮でいい」
「仮の自分を、決めればいいの」
佐伯は考えた。
英雄でもない。
賢者でもない。
選ばれた者でもない。
――だが。
「俺は……“観測する者”だ」
世界を渡り、死を越えて、意味を探す存在。
その定義を、言葉に乗せる。
「我、在り方を定めず、ただ在る者」
「されど今は――」
手のひらに、淡い光が宿った。
派手ではない。
火でも雷でもない。
だがそれは、世界を認識するための魔法だった。
・魔力の流れを読む
・虚偽の存在定義を見抜く
・世界の“綻び”を感知する
戦闘向きではない。
だが、生き残るための力だった。
リィネは、息を呑んだ。
「……そんな魔法、聞いたことない」
佐伯は苦く笑った。
「俺もだ」




