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名前を書く前に考えさせてくる異世界教師―越境者ワールド・トレーサー―  作者: 甘藍


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リィネ視点 ー定義できないものー

私は、置き去りにされた


――最初に思ったのは、それだった。


世界が裂けて、光に飲み込まれて。

次に目を開けたとき、佐伯はいなかった。


知らない空。

知らない大地。

知らない言語体系の魔法陣。


私は、ひとりだった。


「……まただ」


思わず、声が漏れた。


私はいつも、

彼の“世界の外”に置き去りにされる。


彼を憎もうとした


佐伯は言っていた。


「俺は、世界を観測する存在だ」


その言葉を、私は理解したつもりだった。

理解しようと、していた。


でも――


理解と、受け入れは違う。


「……世界より先に、人を見なさいよ」


怒りは、ちゃんとあった。

怖さも、あった。


私は研究者だ。

魔法とは「定義」だと知っている。


定義できない存在が、

どれだけ不安定で、危険かも。


それでも。


それでも――




私は、この世界で生き延びた。


魔法体系は異なるが、根本は同じ。

「意味を世界に通す」こと。


私には、私の定義があった。


――私は、魔法を理解する者。


だから生き残れた。

だから、研究者として居場所を得た。


だが、夜になると考えてしまう。


(佐伯は、どこにいるんだろう)


(……生きてるのかな)



再会した瞬間、

私は全部、吹き出した。


安心も、怒りも、恐怖も。


「生きてたんだな」


その一言で、決壊した。


私は殴った。

泣きそうになった。

叫びたかった。


――あなたは、いつもそうだ。


自分が消える可能性より、

世界の構造を優先する。


でも。


殴った拳が、彼の胸に当たったとき、

私は気づいてしまった。


(……あれ?)


変わっていたのは、彼だった


佐伯は、逃げなかった。


弁解もしない。

理屈も言わない。


ただ、受け止めた。


そして、あの口癖。


「ここ、テストに出るよ」


意味が分からない。

でも――


それは、彼なりの「場を和らげる方法」だった。


前の彼は、そんなことしなかった。


世界を見る人だった。

人は、観測対象だった。


今の彼は――

ちゃんと、私を見ていた。




ナギという少女が現れたとき、

私は即座に理解した。


――この子、危険。


頭が切れすぎる。

恐ろしいほど、純粋。


そして、佐伯を見る目が、

研究対象を見るそれだった。


胸が、ちくりとした。


(……ああ)


(私は、彼を“研究対象”にされたくなかったのに)


気づく。


私は、彼を独占したいわけじゃない。

ただ――


「人として見てほしい」


それだけだった。


■ 彼の魔法が、怖い理由


佐伯の魔法は、あり得ない。


世界を仮の舞台として扱う力。

因果に割り込む存在。


それは、神に近い。


でも――


彼自身は、驚くほど人間的だ。


悩む。

後悔する。

冗談を言う。


「特別講座」


そう言われたとき、

胸の奥が、少しだけ温かくなった。


(……ずるい)


ー定義できないから、怖い


魔法使いは、定義できるものを信じる。


だから私は、彼が怖かった。


定義できない存在は、

いつか、消える。


でも今は、違う。


彼は「追う」と決めた。

私を、追ってきた。


それだけで――

私は、世界に繋ぎ止められた。


それでも、怖い未来


空の向こうに、嫌な気配がある。


魔法国家。

異端審問。

世界管理局。


彼を、放っておかない。


(また、彼は選ぶ)


(世界か、人か)


私は、祈るように思った。


(今度は……)


(私を、選んで)


でも、口には出さない。


彼が、定義できない存在だからこそ。

選択は、彼自身のものだから。


■ 私の定義


私は、リィネ・アーカ。


魔法研究者。

異端。

そして――


「彼を、見続ける者」


たとえ、世界が彼を拒んでも。


定義できない存在が、

人であることを証明できるなら。


それを見届けるのは、

きっと、私の役目だ。


佐伯が笑う。


「ここ、テストに出るよ」


私は、少しだけ笑った。


「……覚えなくていい」


でも心の中で、刻みつける。


これは、きっと。

世界でいちばん大事な問題だ。


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