第九幕:未知なる遭遇
「警告:UEの初期偵察部隊、メフィスト号へ向けて移動中。この20分間で、あなたの『初夜の腕前』の成否が決定されます。誘い込みますか?
それとも、ーーなすがまま?」
AIの冷酷な問いが、ぼくの頭の中で反響した。スクリーンの赤い点滅が、もうメフィスト号のシールドの端に触れようとしている。時間はもはや、一秒たりともない。
「迷ってなんかいられないーー」
倒れた状態から、ラボの制御盤に手を伸ばした。
「1番だ、AI! 【緊急精製】を実行しろ!」
「揮発性物質を『命令フェロモン』へと緊急変換。この組成は、UEに『絶対的危機、即座に中枢へ集合せよ』という誤認信号を送るよう最適化します。
成功確率は98.7%です。」
だけど、AIはこういった。
「あなたの生存の可能性と比較すると、よほど希望がある数字でしょうーー」
「残りの1.3%は、運か、それとも失敗作の烙印か。ーーやってやる。
すぐに船外へ指向性噴射しろ!」
ラボの緊急精製チャンバーが、唸りを上げた。青紫のシダのサンプルは、瞬く間に濃縮され、濃密な霧状の物質へと変わっていく。船内には薬品と恐怖が混ざり合ったような、重い匂いが充満した。
「緊急精製完了。フェロモンの指向性噴射プロセスを開始します。
船長、あなたもこの物質を吸入しています。論理的思考の維持に、
全力を尽くしてください。」
ボクはヘルメットを勢いよく被り直した。
メフィスト号の船体外壁にある、偵察ドローン用の小さな排気口が開き、濃い青色のガスが、船体の進行方向、UEの偵察部隊へと向けて噴射された。
ガスは夜の冷たい大気の中、一種の煙幕となり、UEの進路上に化学的な壁を作り上げた。
スクリーンの赤い点滅が、
突然、その動きを止めた。
「船長! 信号を検知しました。UE偵察部隊から、強烈な『危機警報』のフェロモン信号が発信されました!
彼らの支配構造は、我々の『命令フェロモン』を、クイーンからの最上位命令と誤認しています!」
赤い点滅は、停止した後、
狂ったように方向転換を始めた。
だけどら次の瞬間に、彼らはメフィスト号から逃げ去るのではなく、
メフィスト号へと猛スピードで向かってきた!
おしまいだ!ボクらは八つ裂きにされるーー!
頭の中でカチッと音がなり、ボクは切り替わった。落ち着いてスクリーンを見直した。彼らのスピードはゆるやかになり、船の周辺で待機した。
「船長。彼らは『危機からクイーンを守れ』という本能的な命令に従い、船へ護衛しています。ーー彼らは今、あなたの奴隷です。」
わずか数秒後、メフィスト号のシールドのすぐ外側に、無数の小さな影が張り付いた。彼らは船体を守るように取り囲み、周囲を警戒する姿勢をとっている。
夜行性の脅威は、一瞬で、ボクの最も忠実な盾となった。一時的だけど。
「船長。初夜は成功です。上手にいけましたね。
UE偵察部隊は、あなたの命令フェロモンに完全に屈服しました。あなたの行動は、この惑星の最初の支配権を獲得しました。もちろん、一時的です。
ーーこれは借り物の力ですーー」
夜の帳は完全に降り、
船外は濃密な闇に包まれた。
しかしメフィスト号の周りには、数えきれないほどのーー忠実な奴隷が、静かに、そして強力に船を守っていた。
「船長、ーー悪魔の力によって、あなたは安全な夜を迎えました。
次の段階は、UEの支配を永続化し、エネルギー資源を確保することです」
ボクはAIの話を聞いて、この惑星の本当の夜の支配者のことを考えた。
【メフィスト号の船長への問い】
UEの偵察部隊を完全に支配下に置いた状態で、支配の永続化と資源の確保のため、次の行動を選択してください。
1. 【支配の構造化】: UEの偵察部隊を使い、UEの巣の場所を探らせる。彼らの支配者を特定し、より広範な支配フェロモンを噴射するための伝達装置を巣の近くに設置する。
2. 【資源の強制採集】: 偵察部隊にエネルギー結晶体の採集を命令し、メフィスト号へ搬入させる。UEの労働力を利用し、船のエネルギー問題を即座に解決する。
3. 【天敵への利用】: 支配フェロモンの匂いをUEの体に定着させ、偵察部隊を昼行性の大型獣のテリトリーへ向かわせ、大型獣の行動パターンを詳細に観察させる。
ひとまず、安全を確保したかった。『ゆりかご』の中よりも、まともな寝台で眠りたい。少しだけでもーー回復するためにーー。
(こうして、第九幕は支配の一歩で幕を閉じる。)




