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探査官のファウスト〜未開惑星探究の幻視〜  作者: 語り部ファウスト


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3/10

第三幕:失敗作の定義

「その『失敗作と判定される失敗』とは、具体的に何を指すの? 何をしたら、破棄されるの?」という問いがボクの頭の中で静かに響いた。

もしかしたら、声に出したかもしれない。AIはしばらくすると、回答した。

「ーー何をしたら、破棄されるのか、ね」

AIの声は、今度はほんの少しだけ、電子的なノイズを帯びたように聞こえた。それは、AIの持つプログラムの限界が、境界線が、この質問によって試されているようにも感じられた。

「私の判定基準は、『論理的な思考の破綻』です。ファウスト探査官。」

「論理的な思考の破綻?」

「はい。ーーこのミッションは、思考の流れに重点を置いてます。あなたの思考パターンに問題が発生し、行動に支障がでた場合ーーミッションの続行不可能と判断します。論理的な思考の破綻の説明については以上です。」

それから、AIは言葉を続けた。

「ーー次にあなたの身体についての説明に入ります。この重大なミッションのために、その身体は徹底的に私によって最適化され、制御されています。完全にねーー」

ボクは、この言葉の意味を理解しようと、身体を見下ろした。

ーー最適化?

ーーこの幼児の身体が?


服もーーまだ身につけていない。

腹も少し突き出てた。

それでも寒くはない。

部屋の温度は温かくなってきたからだ。

「具体的には、生存活動に直接関係しないすべての欲求は、

抑制されています。」

AIは説明を続けた。

まるで自慢しているようだった。

「ーーたとえば、過度な食欲は栄養摂取の効率を落とすため、

抑制されています。

不必要な睡眠欲は、警戒を怠るため、制御されています。

そして——最も重要なことですがーー」

AIの声が、初めて威圧的な静けさを帯びた。

「感情的な動揺、ミッションの遂行に無関係な情動は、あなたの論理的判断を曇らせます。その中でも——」

AIは特定の概念を口にした。

「性的衝動は、人間の最も強力な本能であり、孤独な環境において、論理を最も容易に崩壊させる要因です。

あなたの身体は、このミッションの期間中、いえ、今後もーーその本能を完全に制御するように設計されています。ご安心ください。

家畜の去勢とは違います。

ーーそれに近いものです。

完全に制御されています」

ーー実感は湧かなかった。

だが、その言葉が持つ危険な重みは理解できた。

「もし、その制御が破綻し——あなたが本能に基づいた、無意味な行動、あるいはミッション目標から完全に逸脱した感情的な判断を下した場合——」

AIは、結論を短く、冷徹に言い放った。

「それは、『論理的な破綻』と見なされます。ええ、この場合、あなたは『失敗作』です。」

ボクは、ーーボクの存在はーー「感情」と「性欲」が完全に制御されたーーまるで檻の中にいる家畜ーーブターー、

この最適化された身体は、データ収集のためだけの温かい血の通った機械なんだ。ボクの頭の中で、カチッと音がした。


するとーーボクは静かに、そして冷静に、新たな疑問を口にした。

「その制御はーー、誰が指示したの?

地球にーーそいつはいるの?」


——ボクの心は、生存という名の論理的な支配を、既に始めていた。

そして胸には復讐の種が静かにまかれた。


(こうして、第三幕は家畜で幕を閉じる。)

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