第十幕:しばしの休息
「船長、ーー悪魔の力によって、あなたは安全な夜を迎えました。
次の段階は、UEの支配を永続化し、エネルギー資源を確保することです」
ボクは、その言葉を聞きながら、身体の疲労を感じていた。
幼児の身体では、恐怖の物質に耐え、重大な選択を求められるのはーー重すぎる負担だった。
「ひとまず、安全を確保したいーー『ゆりかご』の中よりも、まともな寝台で眠りたい。少しだけでもーー回復するためにーー」
願いは、生存に直結していた。
一時的な安全では意味がない。
ボクの身体には休みが必要だった。
「AI。1番だ。 【支配の構造化】を実行しろ。」
支配フェロモンが「借り物の力」であることを理解していた。
ーー科学の力だ。この力は暴力だ。
ーー慈悲も何もない。
それでも、すがるしかないーー。
偵察部隊の支配が解ける前に、
根源であるクイーンを抑え込む必要がある。
「承知いたしました、船長。
ーー支配の永続化を最優先します。」
AIは即座に命令に従った。ボクとは違う。ためらいなんかない。
「UE偵察部隊へ、最初の『帰還命令』を発信。
偵察部隊は即座に、
地下にある巣へと帰還行動を開始しました。
彼らの行動を追跡し、
巣の場所とクイーンを特定します。」
UEの偵察部隊の無数の影は、メフィスト号のシールドの縁から離れ、クレーターの特定の亀裂へと一直線に潜行していった。
「船長、UEの移動速度と生体信号の解析により、巣の場所を特定しました。彼らは現在、着地したクレーターの地下150メートル地点へ向かっています。
ここに巨大な有機体シールドと、
クイーンと推定される巨大生命体の反応を確認。
偵察部隊は、彼らの来た道を辿っています。」
「AI、フェロモン伝達装置をドローンに搭載し、UE偵察部隊の帰還経路を追跡させろ。彼らが巣に入るメインの換気口を探させ、装置を設置させるんだ、すみやかにーー。」
「命令実行。ドローンをサイレントモードで射出。クイーンへの直接噴射は、巣全体の活動を一瞬で麻痺させ、支配を永続化させます」
数分後、偵察部隊は巣の中心部に到達。ドローンは換気口に伝達装置を設置し、待機状態に入った。
あっけないものだった。
拍子抜けした。
こんなもんなのか、
相手を破滅させるサインなんて。
「船長、支配の永続化の準備完了。あなたの命令一つで、UEの支配構造は不可逆的にあなたの制御下に置かれます。」
「ーーよし、AI。伝達装置を作動させろ。そして……全てのUEを、メフィスト号の警備と資源供給に割り当てろ。ーーボクは、眠る。」
「命令実行。フェロモン噴射開始。——支配完了。UEのクイーンは、『ファウスト船長の論理』を、群れの存続を保証する絶対的な支配者と認識しました。メフィスト号周辺のセキュリティは最大レベルで確保されました。」
ーー船内のまともな寝台に倒れ込み、初めて安堵と共に目を閉じた。
「おめでとうございます。
あなたは、この惑星の夜の支配者なのです。船長ーーおやすみなさい」
(こうして、第十幕は一旦幕を閉じる。)




