第十章・3
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その後、少女たちは、それぞれの部屋に閉じ込められているのが見つかった。
風間 陽子の体調には問題なかったが、他の二人は心身共に衰弱していて、すぐに病院へと運ばれた。しかし、命に別状はないということだった。
驚いたのは、ドアを破り入った部屋の綺麗さだった。
おそらく、常磐のアパートよりも快適なその部屋は、どうやら黒崎の手で修理されたものらしかった。
黒崎が、本当に少女たちを大事に扱おうと思っていたのだろうということが伺えた。
「西山の処分決まったぞ」
東田が言いながら課に戻ってきた。
「ど、どうでした?」
「一ヶ月の謹慎処分」
思っていたよりも軽くて、常磐はほっとした。と同時に、黒崎に自殺のチャンスを与えた責任は、自分にもあるのにと、申し訳ない気持ちになる。
西山は黒崎が取調室から逃がしたのは、自分の責任だの一点張りだった。
「羨ましいぜ。一ヶ月も休めるなんてよ」
言うと思った。
西山がいたら、ふざけたこと言ってんじゃないと怒っていただろう。
「何て顔してんだよ。俺は上に掛け合ってやったんだぜ? ちっぽけなストーカーの犯人だった奴が、実は連続少女誘拐犯だったってことを探り当て、なおかつ被害者を無事に救出できたんだ。褒められればこそすれ、なんで処分をうけなきゃなんねぇんだって」
確かにそうかもしれないが、
「俺は黒崎に死んで欲しくはなかったんです」
思わず言った言葉に、頭の上に東田の拳骨が落ちる。
「痛い……です」
そのうち、暴行で訴えてやろうかと思う。
「犯人に同情してんじゃねぇ」
「別にそういうわけじゃ」
「まあ、死なせたくなかったのは、俺も同じだけどな」
「え?」
意外な言葉だと思ったが、
「あいつは自殺だ。それも捜査の途中でだ。あの世に逃げるなんてのは絶対に勘弁ならねぇ。犯人の思い通りになるなんてのは許せねぇんだよ!」
理由は東田らしかった。
常磐は殴られた頭をさすりながら目を閉じた。
黒崎に同調していたときの、あの感覚が戻ってくる気がして気分が悪くなる。
何が、あそこまで黒崎を駆り立てたのだろう。あの歪んだ正義感はいつから黒崎を支配していったのだろう。
「やっぱ、お前にこの話をするのは、止めといたほうがいいかもな」
常磐の様子を見て、東田が自分のデスクの椅子に座り言った。安い事務用の椅子がギシギシと悲鳴を上げる。
「なんですか」
うつむいていた常磐は顔を上げて、東田を伺う。
東田は一枚の写真を顔の前でひらひらと振った。
「それは」
身元が分からなかった、最後の一人の少女の写真。
「長谷川 沙耶香。当時十七歳」
東田が言った。
「身元が分かったんですか」
常磐は身を乗り出して、そして眉を寄せた。
「……当時?」
東田は写真をデスクの上に置いた。
「長谷川 沙耶香。当時十七歳。二年前に死んでいる」