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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ブチギレた幼馴染にホテルに連れ込まれそうになっていた俺を助けてくれたお姉さんが実は大の寝取られアンチで寝取られ大好きな俺に数々の脳破壊を受けてきたNTR体験報告を急にし出して怖すぎる件

 寝取られが好きだ。

 そう心から言えるくらい俺、杉原学(すぎはらまなぶ)は寝取られが好きだった。

 いや、好きなんてもんじゃない。

 好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きでたまらないのだ。


 きっと、俺という人間に刻まれた、魂の性癖だったのだろう。人生の初期に己の性癖を知ることが出来た俺は、きっとこの世の誰よりも幸運な男に違いなかったはずなのだが。


「学、大人しくして。気持ちよくしてあげるから」


「いやああああああ!!! 犯されるうううぅぅぅ!!!!!」


 現在の俺は幼馴染である燐子に引きずられ、ラブホテルに連れ込まれようとしている真っ最中だったりする。


「犯される、じゃない。犯す。ブチ犯す。ただそれだけ。学がニブチン過ぎて、流石の私もいい加減限界にきている。これまでの鬱憤も溜まってるし、朝チュンしたいから朝までヤるけど、学は黙って天井の染みでも数えてれば大丈夫だから」


「大丈夫じゃない! それ、ぜんっぜん大丈夫じゃないから! 俺はまだ、間男さんのために清い身体でいたいのおおおおお!!! 」


 全力で抵抗しているのだが、如何せん燐子の力が強すぎる。

 高校生でありながらラブコメ漫画家としても活躍している俺は生粋のインドア虚弱人間であり、寝取られるために日頃から鍛えることも放棄しているので力業には滅法弱いのだ。

 例え女の子であろうともこうして一方的にラブホに連れ込まれかけてるのがその証拠である。


「学、いい加減往生際が悪い。男の子なんだから覚悟を決めて」 


「だったら燐子も女の子らしくしてくれよ! 嫌がる男を引きずってラブホに入ろうとする女の子とか聞いたことねーんだけど!」


「ん、女の子らしくちゃんと学を気持ちよくさせてあげるから心配しないで。大丈夫、ちゃんと快◯天とアトリエか◯やで予習してきたから安心していい」


「安心出来る要素微塵もないんだけど!? 俺アトリエ◯ぐやの主人公みたく絶倫じゃねーよ! あんな量を5回も6回も出したら死んじゃうよおおおおおおおお!!!」


 本気で命の危険を感じ、俺は必死で抵抗を試みる。

 きっとタ◯クact4のオラオララッシュを喰らって何度も穴に引き戻される大統領より必死だったことだろう。

 何故よりによってかぐ◯なんだ。せめてゆ◯ソフトだったなら……そう思わざるを得ない。


「学は死なない。私が犯すから」


「だから不安だってっつってんだろ!? 人の話聞いてる!?」


「ん、暴れないで。暴れるならこの後私の中で思う存分暴れればいいから」


「それセクハラァッ!? 今の時代男相手でもアウトな発言だからなそれ!? 大体、俺が暴れるんじゃなくお前が搾り取るつもりなんだろーがよぉっ!」


「さっきから学、とっても元気。これなら大丈夫だね。一緒に朝まで頑張ろう、学」


「いやああああああああああ!! 許してぇっ! 誰か、誰か助けてええええええええ!!!」


 絹を切り裂くような悲鳴をあげてしまうが、これではどっちが女か分かったものじゃない。

 だが、このまま犯されるわけにはいかなかった。俺という人間の性癖が、寝取られから寝取られるということを断じて許容出来ないのだ。


「俺、このままじゃ寝取られから寝取られちゃうよぉぉぉぉぉ!!!」


 殊更大きく声を張り上げた、その時だった。


「————あの、ちょっといいですか?」


 唐突に、燐子に声がかけられたのだ。それも女性の声。

 流石に燐子にとっても予想外のことだったらしく、ラブホを目前にして彼女の足がピタリと止まった。


「ん、なに? 私たち、今ちょっと忙しい。出来れば後にして欲しいんだけど」


「いえ、ちょっと引っかかる叫びを耳にしまして。その足元にいる人、引きずってましたよね。どうやらラブホに入るつもりだったようですが、ちゃんと合意を得てのことなんですか?」


「もち「いいえ! 合意なんてしてません! 一方的にホテルに連れ込まれそうになっていたんです!」


 燐子が喋りだす前に、俺は一気にまくし立てた。

 こんな千載一遇のチャンスを逃すわけには決していかない。

 将来間男さんに彼女を差し出すときのために、俺は童貞のままでいなければいけないという使命があるのだ。


「……彼はこんなことを言っていますが、どうなんですか?」


 俺の必死な想いが伝わったらしく、女性は冷ややかな声を燐子に向ける。

 スマホを取り出そうとしているのか、手がバッグに差し込まれたのを見て、燐子はまるで寝取るのに失敗したチャラ男さんのように「チッ」と小さく舌打ちをして俺から手を離すと、踵を返して背を向けた。


「……この場は引いてあげる。でも忘れないで学。学は私のもの。いつでも学を狙っているから、そのつもりでいて欲しい。さらば」


 怖すぎる捨て台詞を吐き残し、雑踏の中へと消えていく燐子。流石に通報されるのはまずいと思ったんだろうな。どうやら大人しく引き下がってくれたようだ。

 

「た、助かったぁ~」


 へなへなと地面に身体を横たえ、俺はようやく一息ついた。

 捨て台詞からして全然安心は出来ないが、今はホテルに行かずに済んだという安堵感の方が遥かに大きい。


「あの、大丈夫ですか?」


 心を落ち着けていると、頭の上から声が降ってくる。

 ああ、そういえば助けてもらったのにまだお礼も言っていなかったな。自分の無礼を恥じつつ、俺は出来る限りの笑顔を浮かべて恩人へと向き直り、


「ああ、すみません。助けて頂き、本当にありがとうございまし——」


 ————息が止まる。

 ドえらい金髪美人がそこにいた。

 

「えっと、本当に大丈夫ですか? 立てますか?」


 俺好みとしか言いようがないその人が手を差し伸べてくるのを呆然と見つめながら、俺は思った。



 ————ああ、俺はこの人と出会い、寝取られるために生まれてきたのだと。



 俺はこの日、運命(寝取られて欲しい人)に出会った。


 ♢  ♢  ♢

 

「いやぁ~、本当にありがとうございました! 助かりましたよぉ、えへへへ」


 あれから少しの時間が経ち、俺たちはとある喫茶店にいた。


「いえ、それほど大したことをしたわけではなかったのですが……」


「いえいえ! 本当にお姉さんには感謝してるんですよぉ。おかげで貞操を守ることが出来ましたし、あのままだとどうなっていたかと思うと怖くて怖くて……マジで感謝してもしきれません!」


 向かいに座る俺を助けてくれた金髪お姉さんは少し居心地が悪そうにしていたが、それは俺がここに強引に連れ込んだせいもあるだろう。

 だが、俺としてはこの好機を逃すつもりはない。なんとしてもお近づきになり、彼女のことをもっと知らなくてはならない。

 

(これだけ美人ならきっと彼氏もいるだろうしなぐへへへへ)


 さり気なく会話の流れで彼氏の話題を振れば、きっと彼女は「いる」と答えてくれるだろう。

 その瞬間、俺の抱いているこの淡い恋心は木端微塵に砕け散り、既にこの人を他の男に寝取られていたという事実で脳が破壊されるに違いない。最高かよ。


「さぁなんでも頼んでくださいね、ここは俺が全部奢りますよ! 金の心配はしないでください! これでもそこそこ持ってるんで!」


「は、はぁ。じゃあ申し訳ありませんが、注文させて頂きますね……」


 困惑しながらメニュー表をめくるお姉さん。

 ああ、そんな仕草すら美しい。店員さんに声をかけながらも、俺はお姉さんから目を離せない。この人は寝取られるためにこの世に舞い降りてきた女神なのではないかと本気で思う。最高かよ。


「ご注文をお聞きしてもよろしいですか?」


「えっと、それではこのハヤシオムライスとデミグラスハンバーグ、あとマカロニグラタンに生ハムとサラダのピザ。それとミートソースパスタに鯛のカルパッチョ風サラダと食後のデザートにジャンボサイズパフェをください。あ、飲み物はクリームソーダとコーラで」


「あ、俺はコーヒーでオナシャス」


 なにやら店員さんが「え? マジでそんな食うの?」みたいな空気を出して一瞬固まっていたが、軽く催促すると慌てて厨房の方へ消えていく。

 ちなみに俺は全然気にしてない。たくさん食べるのはいいことだからな。ああ、俺もこんな美人の食道を通って胃の中に流れ込み、輪廻転生して永遠に寝取られを味わい続けたい……そんな想いに耽りさえしてしまう。俺って詩人だ。天才かよ。


「さて注文も終わったことですし、改めてお礼と自己紹介をさせてください。俺は杉原学って言います。さっきは危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」


 内心を隠しつつ、俺は頭を下げた。

 感謝の気持ちも勿論あるが、先に名前を名乗ることで向こうからも名乗らせるという、恋愛における高等テクニックのひとつだ。俺の愛読するエロ漫画でそう言ってたから間違いない。


「お礼はもう受け取ってますので頭なんて下げなくても……まぁいいでしょう。私は聖場せいばリアと申します。一応大学生ですが、杉原くんは高校生で合ってますよね?」


「はい。合ってますよ」


 リアさんというのか。彼女の可憐な容姿にピッタリな名前だ。

 寝取られる時に言いやすい名前なのも実にいい。最高かよ。


「ふむ、それでこんなことを聞いていいのか少し迷うのですが……あの、杉原くんをホテルに連れ込もうとしていた彼女とは、どういう関係なのですか? 知り合いのようでしたし、おそらく同年代かと思うのですが」

 

「ああ。あいつは俺の幼馴染なんですよ。なんかよくわかんないですけど、今日家を出たら外で待ち構えられてて、行きたいところがあるって強引に引っ張られて……まさかそれがホテルだとは思いませんでしたけどね」


 燐子も何を考えているのかサッパリ分からん。

 昔から無表情でよく分からないやつであったことは確かだが、俺の生涯は寝取られに捧げているので、ああいうところに連れ込むなら彼氏が出来てからにして欲しいものだ。

 彼氏とシているプレイを目の前で見せつけられたら俺は大いに喜び感謝するっていうのに……まったく、女心ってやつは読めないもんだぜ。


「なんと……幼馴染だったとは。しかも嫌がる相手を無理矢理連れ込もうなどと、許し難い行為ですね。今からでも然るべきところに連絡すべきでは? あの様子では諦めていないでしょうし、何かしらの対処は必要でしょう」


「あ、いえそこまでは流石に……昔からの知り合いでもありますし」


「情がある、と。その気持ちは分からないでもないですが、だからといってなあなあにしてはいけません。こちらが甘さを見せれば、向こうは必ずつけあがる。結果、絶望することになるのはこちらなのです。私はそれを味わってきたんですよ、そう何度もね……」


 低い声でそう呟くリアさんの目から、次第にハイライトが消えていく。


「あ、あの、リアさん?」

 

「いいですか、杉原くん。優しいのはいいことです。ですが、世界は決してやさしくなんてない。むしろとても残酷なんですよ。希望を見出すたびに、絶望の底へと叩きつけられる。この世界にはまだ光があるはずだと信じようとしても、すぐに闇が顔を覗かせる。この世界に救いなんてものは存在しないんですよ。あるのは漆黒の闇と裏切りのみ。人の心はどこまでもドス黒く、そして残酷になれるんです」


 闇のオーラを纏いながらそう語るリアさん。

 目には光というものがなく、まるでこの世全ての絶望を見てきたかのように漆黒の闇へと染まっている。

 急展開というべきか、もはやさっきまであった穏やかな空気はどこへやらだ。

 明らかに不穏なものを感じ、彼女から目をそらした俺を誰が責められるというのだろうか。


「そ、そうなんですか。へー、世の中って怖いなぁ」


「時に杉原くん。貴方はあの時、言ってましたよね。寝取られちゃうって」


「え、い、言ってたかなぁ。ちょっと記憶があいまい〇ぃストロベリーエッグなおね〇いティーチャーで……」


「言ってましたよ。私は確かに聞き届けました。だからあの時、私は貴方を助けたんです」


 あまりの剣幕にビビってしまい、なんとか矛先をずらそうとしたのだが、そうはいかなかったようだ。

 リアさんは一度目を閉じ、大きく息を吸う。そして、


「私はね、寝取られが嫌いなんです」


「え……」


 信じ難いことを彼女は言う。

 突然の告白に困惑する俺を無視するように、彼女は続けた。


「いえ、嫌いなんてものじゃありません。嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで仕方ないんです。きっと、私という人間に刻まれた、魂の性癖なのでしょうね。人生の初期に自分の性癖を知ってしまった私は、きっとこの世の誰よりも不幸な女に違いありません」


 フッと諦めたような笑みを浮かべるリアさんだったが、そんな彼女に俺はショックを隠せずにいた。


(寝取られが嫌い? そんな人類がこの世に存在するのか?)


 性癖カミングアウトだけでもドン引きなのに、まさか寝取られが嫌いだなんて……百年の恋も冷めるというか、一気に冷や水を浴びせられたような気分になる。

 

「私の初恋は近所の優しいお兄さんでした。いつも自分に優しくしてくれるあの人に、私は幼い恋心を芽生えさせていたのです。ですが、そんな初恋の人を私の母は寝取りました。遊びに行っていた私がたまたま早く家に帰ったところ、リビングで母とあの人がくんずほぐれつねっとり寝取りしているのを見てしまったんです。あの時の母の『あ、もう帰ってきたの? ちょっとつまみぐいしてごめんなさいね。人妻だけに』という言葉は忘れられません。妻〇ぐいは名作ですが、あんな展開エロゲーだけで十分です。そもそもアンタは妻である前に私の母でしょうがと言いたかったですが、当時の私はツッコミスキルが足りなかったので無理でしたね。残念で仕方ありませんが、とにもかくにもあの瞬間、私の初恋は木端微塵に砕け散りました。母の不貞に脳が破壊され、あの人とも疎遠になって傷心のうちに気付けば中学へと上がりましたが、そんな私を慰めてくれたのは同じクラスの優しい男の子でした。彼とは昔から一緒だった、所謂幼馴染という関係でした。丁度杉原くんと杉原くんをホテルに連れ込もうとしていたあの子と同じような関係と言えば分かりやすいでしょうか。彼に心を癒され、やがて惹かれあった私たちは付き合うようになったのですが、ここで話は終わりません。私の親友であった子もまた、彼のことを好きだったのです。私たち三人は幼馴染でありましたが、私は彼女の気持ちに気付きませんでした。そのこと自体は申し訳なく思っていますが、私の親友は彼のことを振り向かせようと、なんと己の身体を使って誘惑したのです。これは凄まじい裏切りですよ。何故そんなことをする前に相談してくれなかったのかと、今でも思います。そうしていれば、あるいは別の道もあったのではないかと……ですが、裏切ったのは彼女だけではありません。私の彼氏は親友からの誘いを拒絶することもせず、行為に及んだのです。たまたま忘れ物を取りに戻った教室でふたりが寝取りックスしている現場を目撃したのですが、これはある意味幸運だったと思っています。裏切りを早くに知れたわけですからね。もし私があの時点で気付かなかければ、彼らはその後も私と付き合っている陰で浮気行為に励んでいたことでしょう。勿論言い訳も聞かされましたよ? 私がさせなかったからだの、私が彼を獲ったからだの、挙句彼を満足させられていなかった私が悪いなんてことも聞かされました。悪い? 悪いってなんですか? 私たち、まだ中学生ですよ? 性欲の赴くままに励んで、子供が出来ちゃったらどうするんです? あの時は母の初恋脳破壊の件もあってそういった行為に嫌悪感を抱いていたのもありましたが、それはそれとして後のことを全く考えずに性行為に励むのはどうかと思いますね。性交が成功して子作りも成功なんて、学生じゃ洒落にならないじゃないですか。案の定的中して、彼らは現在進学することなく子育ての最中らしいですが、ここで触れるのは辞めておきましょう。全ては過去のことです。さて、この一件で更に脳が破壊され、完全にNTRに対する憎しみを植え付けられてしまったわけですが、それでも時間は止まってくれません。出来ちゃった同棲を始めた元幼馴染たちを置き去りにして、私は高校に進学するのですが、当然人間不信を拗らせていました。ですが、そこである先生に出会ったのです。新任教師として赴任したばかりだったその人は青臭いところはあるけど、本当にいい人で私の話をよく聞いてくれました。この人なら信じられるかもしれない。次第にそう思うようになっていったんです。馬鹿ですよね。これまで散々この世に希望なんてないと突き付けられてきたというのに。そしたらもう、案の定でしたよ。あれは二年生になってからのことでした。大学の教育実習で、私の姉がうちの高校に来たんです。あそこの卒業生であったことは知っていたので、そのこと自体に不思議はありませんでした。ですが、私は気付いてしまったんです。先生が姉を見る目。それはまるで、恋焦がれていたものに再び触れてしまったものであることを……ここまで言えばもう分かるかもしれません。そう、先生と姉は同じ高校に通っていて、その時からずっと姉に想いを抱いていたんです。先生は、私に姉の面影を重ねていただけだったんですよ。だから自分の気持ちに改めて気付いた先生は、当然のように私を捨てて姉と……。ふふっ、私はとんだ道化だったというわけです。あるいは恋のさや当て、キューピッドでしょうかね? ……あの時の気持ち、杉原くんに分かりますか? いいえ、誰にも分かるはずがない。あの時から私は悟ったんです。この世に救いなんてない。寝取られは悪そのものであると。ですが、それでも私は……」


「ちょ、ちょっとリアさん! 待って! ストップ、ストッープ!」


 突然の長文NTR脳破壊報告に、俺は思わず待ったをかけていた。

 いや、勿論NTR報告なんて好きだしそりゃもう大好物ではあるけれど、こうも一度に長々と聞かされては心もそうだが身が持たない。

 

「ああ、すいません。つい」


「つい、で語るような量でも内容でもないような気がするんですが……」


 なんでもないことを言ったかのようにけろっとしているリアさんに、俺は恐怖を覚える。

 ひょっとしてこの人、とんでもない地雷女なんじゃないか?

 確かに寝取られに対して何故憎しみを募らせていたのかは分かったが、それはそれとして実質初対面の相手に聞かせるような話では決してない。


「まぁとにかく、私は寝取られが絶対許せないウーマンなんです。この世から寝取られを撲滅するためなら、どんなことでもする覚悟があるということを言いたかったんですよ」


「は、はぁ。そっすか。それはすごいっすね。ははは……」


 ただひとつ分かったことは、この人の前で寝取られの話をするのはご法度であるということだけだ。

 リアさんの前で寝取られが好きだと暴露しようものなら、おそらく命の保証はないだろう。それだけの圧を、今の彼女からは感じるのだ。


「そのために私はペンを手に取ったんです。忌々しい寝取られを殲滅するには、自分も悪に染まる必要がある。生身の接触より二次元こそが至高であるという意識を数多の人間に植え付けることで寝取られの連鎖を断ち切ること。それが私の至った結論です。それにはまず、ラブコメを学びいかに効率的に読者の脳を破壊して現実への未練を断ち切らせるかについての方法を模索……」


(うん。この人に関わるのはやめとこう)


容姿に釣られたのが間違いだった。人間にとって一番なのはやはり中身だ。

なにかブツブツ呟いているリアさんをガン無視しつつ、固く誓った瞬間だった。


 カラン カラン


「ふぃ~あっちぃっすね。まだ夏前だって言うのにこの暑さじゃこの先が思いやられ……って、あっ! 先生じゃないっすか!」


「んげぇっ!」


 喫茶店に誰か入ってきたかと思ったら、その人は俺の漫画の担当さんだったのだ。

 しかも入口近くに座っていたため、あっさりと見つかってしまうという運の悪さ。

 まるで神のいたずらかのようなタイミングで彼女と出くわしてしまい、何も言えずに口をパクパクさせていると、編集さんの方からこっちへと近づいてくる。


「いやー、丁度いいタイミングだったッス。前々から先生に話していたアシスタントの件で改めてお話が……って、あれ? リアさんじゃないっすか!? なんで先生と一緒にいるんスか?」


「へ?」


 何故かリアさんに対し驚きの声をあげる編集さんに訳も分からずにいると、リアさんが口を開く。


「どうも。話すと長くなるのですが、女の子にラブホテルに連れ込まれそうになっていた彼を助けたお礼として、食事を奢ってもらっているところだったんです」


「え!? ラブホ!? ちょっ、先生ダメっすよ! アンタ高校生じゃないっすか!? いくら寝取られが好きだからって、金払ってまで寝取られプレイ堪能しようとするのはよくないっすよ!」


「ちょっ! 編集さんなに言ってんのぉぉぉぉぉ!?」


 とんでもないことを言い出した編集さんに俺は慌てた。

 誤解もいいところだが、それよりリアさんがいる場でそんなことを言われるのがまずすぎる。


「え? 違うんスか? てっきり連れ込まれたホテルの中に彼氏役の人が待機していて、美人局される負け犬疑似NTRプレイを堪能しようとしてたのかと思ったんスけど」


「おおっ! 編集さん、それナイスアイディーア! 早速今度採用させて……って、違うからっ! そんなことしてないしマジで!」


「えー? ホントッスかぁ? 先生は寝取られ好きすぎるッスから、全然信用出来ないんスよねぇ」


 あまりに編集さんがいいことを言うものだからつい乗っかりかけてしまったが、マジでそんなプレイはしていない。寝取られの神に誓って本当のことだ。


「…………あの、杉原くんって、寝取られ好きなんですか?」


 だが、それを信じてもらえるかはまた別の話でもある。

 特に知り合ったばかりの人には。底冷えのする声が店内に響く。


「え? そっすよ。純愛ハーレムラブコメ描いてるのに、そのヒロインたちを間男さんたちに寝取らせたい! 幼馴染は寝取らせてこそ輝くんだっていつも力説してるんス。全く困ったものっスよねぇ」


「へ、編集さん? あの、もうそのくらいで……」


「いや、この際だから言わせてもらうッス。先生は寝取られ寝取られ言い過ぎなんスよ。おまけに毎回NTR描いたネーム渡してくるのもマジ勘弁ッス。うちだからまだいいッスけど、一歩間違えればあれセクハラッスからね? ラブコメにNTR持ち込むのはルール違反ッスよ。忌憚の無い意見ってやつッス」


「へー、そうなんですか。へぇー……」


「」


 喫茶店の気温が一気に下がったようにすら思えるのに、空気の読めないエセロリは延々と俺に対する愚痴を言い続けている。

 なんだろう、この人は俺が憎いんだろうか? あるいは俺にここで死んで欲しいと、そう思っているのか?

 そんな錯覚に陥りそうになるほど果てしない時間が流れ、やがて落ち着いたのか編集さんが一息つく。


「まぁとにかく、今後はマジでああいうのは控えて欲しいッス。これからはリアさんがアシスタントとして付くんだから、そこらへんも監視してもらう予定ですからそのつもりで」


「ほぇ?」


 そしてとんでもないことを言い出した。

 

「え、あの。アシスタントってなんスか? 俺の聞き間違えッスよね?」


「なんかウチの口調移ってるッスけど、聞き間違えなんかじゃないッスよ。前言ったじゃないッスか。いくら先生の仕事が早いからってひとりに任せるのは無理させすぎて申し訳ないって」


「え、ええ。それは確かに言ってましたが……」


「なので、探してきたんスよ。先生の仕事についていけるアシスタントを! それがリアさんッス! 同人経験はあるけど連載はまだなので先生には色々教えてあげて欲しいんスよね。今日先生のお宅に行って直接紹介するつもりだったんスけど、もう知り合っていたなら話が早いッス。いやー、もしかしたらふたりは何らかの縁で結ばれているのかもしれないッスね。アッハハハハ!」


 編集さんがなにを言っているのか、もはや聞き取ることは出来なかった。

 ただ俺は吸い寄せられるように、リアさんと目が合い、


「……よろしくお願いしますね、先生。これから色々お話しましょう。特に寝取られについては、じっくりとね……」


「ふぇぇぇぇ…………」


 あまりの恐怖に、ただ身を震わせることしか出来ないのであった。







 ちなみに後日。


「学。私というものがいながら、浮気? そんなのダメ。私は絶対に許さない」


「杉原くん、貴方には使命があります。私と一緒にNTR漫画を描き、童貞と処女を貫いたまま寝取れがいかに悪かをこの世に知らしめるという使命がね。そのために誰かと付き合うなんてしてはいけないんです。分かりますよね?」


「コラお前らぁっ! なんで共謀して読者の脳破壊しようとしてんスか!? あとこの同人誌はなんスか!? こっちに苦情ガンガン来てるんスけど!? 答えろやゴルァッ!!!」


 美女と美少女に挟まれながらホテルに引きずれそうになっている俺の胸倉を編集さんが掴んでくるという傍から見れば修羅場な地獄絵図が展開されることになるのだが、それはまた別の話である。


ちょっと筆が乗ってきたので6月は長編の続きなど色々書いていこうと思います。

読んで面白かったと思えてもらましたら↓から★★★★★の評価を入れてもらえるとやる気上がってとても嬉しかったりしまする(・ω・)ノ


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エタル心配?エタってこそなろうっすよ 面白けりゃいいんや
もう無理して長編なんて書かず一生短編だけ書いてて欲しい。 短編ならエタる心配なんかせずに済みますし。
最高のntr作家との邂逅かあw しかし彼女の体験はntrじゃなく精々wssだよなあ。 獲られるためにはまず自分のものにしてないとねえ。
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