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人類未踏の地 〜Sランク階層〜

 今の状況はまさに蛇に睨まれた蛙。

 これほどピッタリな言葉は他に無いだろう。

 しかも、スライム相手にそんな感想が生まれるなんて思いもよらなかった。

 

 まぁ、スライムといっても、ドラゴンすら凌ぐサイズの巨大スライムなんだけど……。


 今も灯りの先には巨大な目玉があり、じっとこちらを見つめている。


 下手に刺激したら、あっという間に捕食されるに違いない。きっと、お得意の酸でじわじわ溶かされて、苦痛に苛まれながら殺されるんだ。


 そんな死に方はしたくない……。


 そんな被害妄想に囚われていると興味が失せたのか、それとも脅威にならないと判断したのかスライムは目玉を静かに閉じた。


「助かった……のか?」


 俺はその場で倒れ込み、大の字になると深呼吸を何度も行った。幾度となく訪れる命の危機に心臓……いや、全身が興奮している。

 

 今一度冷静にならないといけない。

 考えるんだ。助かる方法を!


 上の階層では奥深く進んでいた、そのため入口を目指すにしても遠いだろう。

 運に任せ、そこらの宝箱を開けて帰還玉を引き当てるにしても確率が低すぎる。スカウトがいない今。罠の可能性の方が高い。

 

 なら、道はただ一つ。

 各階層の奥深くにある、あの装置を目指して進むだけだ。

 あれならダンジョン外に脱出することができる。


「よし、行くか!」


 俺はそっと立ち上がり、息を殺した。

 周囲を警戒しながら、運を頼りにひたすら進み続ける。幸い、魔物は他の階層に比べ格段に少なく、魔物の気配すらしない。当然といえば当然だ。


 スライムですらあれほど巨大だったんだ。

 おそらく、魔物の数自体が少ない代わりに一匹、一匹の強さが半端じゃないんだろう。

 

 むしろ好都合だ。

 どっちみち一人じゃ、SランクどころかAランクの魔物にも殺される。

 希望を捨てるにはまだ早――


「「グゥバアァァアァイィ」」


 二つの咆哮が突如、壁を伝わり、空気を伝わり響き渡った。魔物同士がやり合っているのか、大きな振動が走る。


「あっちの方角に魔物がいるのか……近づかない方が――いや、逆に今がチャンスか?」


 もしあっちにあの装置があるのなら。

 魔物同士がやり合っている、今しかないか?

 しかし、相当なリスクを背負うことになる。

 だが俺の直感はこっちだといっている……。


 ――俺は覚悟を決め、歩みを進めた。

 

 近づく度に壮絶な音、振動が大きさを増し、足取りがこわばる。


「これ以上はランプを消して行かないと危険だな」


 ランプの灯を消し、手づかみで前に進んだ。

 暗闇で罠を視認できないが、それに関しては気にしなくてもいいだろう。

 これまでの道中、罠はすでに発動済みだった。

 おそらくあの大きすぎる巨大な体が罠を誤作動させていたのだ。


 とにもかくにも、早く移動したほうがよさそうだ。すぐ隣で二匹の魔物が戦闘を繰り広げている。


 俺は巻き込まれないように祈るりながら走り抜けた。


 地下でこんな化け物たちが暴れていることを考えると背筋が凍る。俺はこんな場所で十六年も暮らしていたのか……。


 しかし、この化け物たちですら結界の外へは出れないのか? 

 

 ……今は少しでも早く、闘いを繰り広げている間に先へ進まないと……。





「……はぁはあ、生きた心地がしない……」


 たぶん一生分の運全て使い切った、間違いない。

 ある程度離れたし、もうランプをつけても問題ないな。


 こうしてつけた灯りによって広がる視界の先には、あの機能が備わっている装置があった。


 「――えっ!?」


 あまりの唐突さに驚きを隠せず、声を出してしまう。そして俺は心の底から安堵した。

 

 なぜなら、これを使えばすぐにでもダンジョンを脱出できるからだ。


 すぐにギルドカードを手に取り、装置にかざすが……


「――な、なんで使えない!」


「それはあなた様がその前の階層をクリアなさっていないからです。ズルはいけません」 


「!?」


 装置より奥から声が聞こえてきた。

 

「……そこに誰かいるのか?」


 ……いや、Sランクの階層を攻略しているパーティーなんて、この国にはいない。


 俺は空耳を疑った。

 精神的に疲れているのだと、混乱しているのだと思っていたが……


「? ……聞こえているでしょう。こっちです、こっち」


 声がする方にランプを掲げると、人間のような人間じゃないような曖昧な女性がいた。


 姿や形は人間っぽいが……メカメカしい。

 ところどころ体の一部が機械で動いている。


「……機械仕掛けの人形? でも、なんでこんなところに?」


「その質問に答えます。待っていたのです、私は。このダンジョンを完全にクリアする者を。……ですが、少し状況が違うようですね。まぁ、この際いいでしょう」


「なんか、すみません……」


「あなた様を新たなご主人様に登録します。これより人体機能把握および登録のため、スキャンを開始します」


「え?」


 メカ女の目から放たれる網状の光が体を隅々を調べ上げる。


 いきなりのことで俺は気が動転、光の奇妙な揺れや今までのストレス、状況の飲み込めなさにとうとう脳が限界を迎え、気絶した……。

 

 

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