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自業自得

「冒険者人生、最悪な一日だ……」





 時が遡ること一時間前。


 冒険者ギルドにパーティーメンバーが揃い、ダンジョンに向かう準備に取りかかっている最中であった。いつもと違い、その日は一段と雰囲気が暗く。皆、黙々と手を動かしている。


 思えば、そこから始まっていたのかもしれない。俺の不運、いや、自業自得が……。


 そんな陰険な雰囲気を壊し話を切り出したのは、パーティーで一番の実力をもち、司令塔でもあるヘイヴンだ。


 ただ、彼の口から発せられる言葉は、場の空気をクリアにするための発言では無く。さらに場の空気を濁す、()()だった。


 「リオール・ルーザー。……君には今日限りでパーティーを抜けてもらう……」


 俺は耳を疑った。

 心臓が爆発しそうなほど鼓動する。

 なぜなら、リオール・ルーザーとは俺のことだからだ。

 仲間にすがりつくように視線を送る。

 ……どうやらこれはパーティーの総意らしい。目を伏せ、誰も口を出さない。


 俺は手が震え、持っていた帰還玉を落としてしまう。……いや、今はそんなことどうでもいい。


 俺は張り付く喉から言葉をひねり出す。


「な、なんで……今日まで一緒にやってきたじゃないか……」


 彼は眉間にシワをよせ、悩んだ素振りを見せたが……


「はっきりと言う。君はこのパーティーの足を引っ張っている」

「…………」


 言い返す言葉も無い。

 自分自身、足を引っ張っている、その自覚があった。


 パーティー結成当初は、皆で手を取り合い、助け合って実力の差を埋めていた。だが、Aランクの階層に潜り出した辺りから、それは顕著になった。


 ダンジョンから戻ってくる度に怪我をするのは俺一人だけ。ダンジョン内でも大した戦果を得られないのも俺一人だけ。


 徐々にパーティーメンバーの不満を貯めてしまっていたのだろう。


 ……意地を張って、迷惑をかけても仕方がない。だったら最後に――


「……わかった。俺はパーティーを抜ける。だけど最後の思い出に、最後の冒険をさせてくれ」


「……あぁ、それでいいなら」




 俺たちは準備を整え、ダンジョンに向かった。

 冒険者ギルドから歩いてすぐの好立地。

 街中に魔物が巣食うダンジョンがあるなんて問題がある。……と、子供の頃は思ったが、慣れてくるとなんてことはない。

 強力な結界によって出入り口に近づく魔物はいない。しかも人間等には無害。


 ダンジョン内に入ると魔法の移動装置がある。攻略中の階層に自動で運んでくれる優れものだ。この装置も結界も最初からあった物らしい。


 便利だけど……自然と発生したダンジョンとは思えない。もしかして……誰かが――

 

 (ピコーン)

 珍妙な音が響き渡る。

 目的の階層に到着した合図だ。


 ここからは気持ちを入れ替えろ。

 今はダンジョンの秘密なんて考えている暇はない。俺は最後に、最高の冒険をしてみせるんだ!





 この日は俺のわがままで皆に無理をさせてしまった。けれど、それだけ奥深く進んでいけた。


 しかし、俺のわがままが最悪な事態を招く。

 今まで以上に無理をしていたからか、スカウトのセシルが罠を見逃し、聖職者エリナが落とし穴に落ちかけたのだ。

 近くにいた俺はいち早く違和感に気づき、エリナの身代わりとなり穴に落ちていった。





 そして、今に至る。

 仲間に無理を言った挙句、落とし穴に真っ逆さま。

 急ぎ帰還玉でダンジョンから脱出しようとしたが……。


「発動――しない!」


 あの時、緊急脱出用の帰還玉を落とし、壊してしまっていたのだ。


 ちゃんと確認しなかった俺の自業自得……。

 

 俺は死を覚悟した。

 落とし穴に対策も無しに引っかかってしまうと即死する。冒険者において鉄板の常識。


 一つ、とんでもない高さから落ちるわけだから、死ぬ。

 二つ、辛うじて生きても下の階層は上の階層よりランクが上だから生き残れず、死ぬ。

 三つ、まぁ、とにかく死ぬ。


 そろそろ地面か……。

 死が近づくと感覚が研ぎ澄まされるという。

 地面までは真っ暗で見えない。

 だけど、感覚でわかる。

 もうすぐ死ぬのだと……。

 

 俺は死への覚悟を決め、体の一切の力を抜く。

 その次の瞬間、ぷよぷよした物体にぶつかり体が弾む。同時に衝撃が緩和され、ズキズキ痛みがくるが生き残った。


「一つ目の鉄板では死ななかったか……」


 ことなきを得たが、遅かれ早かれ結果は変わらないだろう。だが、まだ命はある。


「最後まで生きてみよう」


 ぷよぷよの物体から滑り降り、バックからランプを取り出し、灯をつける。


 先が見えない暗闇を、ランプの心許ない小さな光を頼りに進むことを決めた。


 それはそれとして、ぷよぷよの正体が気になったので振り返りランプを向けると、暗闇の中、巨大な目玉がこちらを見つめていた。


「きょ、巨大なスライムだったのか……」


 

 




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