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雷の子は、空を識る  作者: かつお武士
第1章 旅立ち
40/43

史料:潮導の民に関する古記録

読まなくても本編に支障ありません。

[翠風海沿岸伝承集成より抜粋]


潮導の民(別名︰Axhera)

学名︰Aqualis Thalassae(意訳︰「海を宿す者」)

古代神語︰Squamiel(意訳︰「鱗を宿す半身」)


---


潮導の民を論じるにあたり、人間と精霊の交流が盛んであった時代に遡る必要がある。

当時、人間界と異界の境界は曖昧であり、人間は精霊を良き隣人として共生していた。


海の女神リヴァスティアにより生み出された五つの大海には、最初に海の精霊が棲みついた。

これらの精霊は人間の生活圏から隔絶しており、人との接触が生じるのは他の精霊に比してかなり遅い時期であった。

具体的には、最初の人類誕生から数百年後のことである。


記録によれば、一人の女性が海の上級精霊(以下、セイレファス)と邂逅したとされる。

舞台は翠風海に点在する諸島周辺の岩礁で、倒れていた女性をセイレファスが救助したという(諸説あり)。


女性は言語が通じないセイレファスに対し、できる限りの礼を尽くした。

セイレファスは女性からの物質的な贈与を受け取らなかったが、女性が訪れる時間には必ず姿を現したと伝えられる。


やがて、女性は何も持たずに訪れ、児を授かったため、これ以降の訪問が叶わない旨を告げた。

この際、セイレファスは「精霊の鱗」を女性に与えた。

精霊の鱗は、言語を介さずとも意思を伝えることが可能な精霊の一部を象徴するものである。


その後、女性は男児を出産したが、児は誤って精霊の鱗を飲み込んでしまう。

その結果、児は人間の姿を失い、髪色は焦茶色から海を宿す青色へ、肌には鈍く光る鱗が生じた。


女性は即座に児を抱え岩礁へ赴いた。

数年前と変わらず佇むセイレファスに対し、言葉を尽くして助命を願ったが、精霊は児を通じて語った。


「この童、妾が授けた鱗を喰らったな。精霊の一部を取り込んだ者の末路は決して人には戻れぬ。

人間としてこの童と共に同じ時を生きることは叶わぬぞ。」


これにより、児は人ではなく、精霊との共生を宿命づけられた存在となった。

この一連の出来事を以て、潮導の民の祖が誕生した。


女性は我が子がセイレファスのもとで無事に育つよう祈りを込め、七日七晩、浄めの泉で石を削った。

これが現在に伝わる「静蒼石」であるとされる。


---


潮導の民の祖が成人した頃、帰魂の儀※で上陸している期間に人間の女性と恋に落ち、二人の間に子が生まれた。

この子もまた半精霊であったが、母親は人間社会の中で育てることを決意した。


父親である潮導の民の祖は、1年の間のひと月しか我が子の成長を見守ることができなかった。

しかし、子に海の精霊の力の一部が受け継がれていることを確認した祖は、我が子に告げた。


「精霊と人、海と陸、双方を母と思い守るのだ。

これは海を操る力を持つ者の使命だ。」


さらに、祖はセイレファスから教わった詩と詞を我が子に伝えた。

これが現在でも伝わる潮導の務めの起源である。


(※帰魂の儀︰潮導の民の祖が海から帰還する一年のうちのひと月を大切にする慣習。現在も潮導の民が棲息する一部の地域に伝わっており、儀式は継承されている。)

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