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【恋愛 現実世界】

あまりにも壮大な待ち合わせ

作者: 小雨川蛙

 

 その日、私はカフェでコーヒーを飲んでいた。

(流石にもうおしまいかな?)

 そんなことを考えていると、明るい声で一人の子供が駆けてくる。

「おまたせ!」

 ようやく来たかと思いそちらを見やればまだ五つになったかも怪しい男の子が駆けてくる。

 私と男の子には面識はない。

 それでも私は言った。

「ううん。待っていないよ」

「嘘ばっか」

 そう言って男の子は笑うと私の真ん前の椅子に座り込んだ。

「お母さんは?」

「探しているね。多分、30分は誤魔化せると思うけど」

 男の子はそう言った後、私の右手をそっと握って笑う。

「会いたかった。寂しかったでしょ?」

「そうね。少しだけ」

 微かに温かいコーヒーを一口飲み込んで私は笑い返す。

「今回はもう会えないかもなんて思っちゃった。ほら、見てこの手」

「すっかりおばあちゃんだねえ」

「うん。もう92歳だもん」

 男の子は申し訳なさそうに言うと、年齢からは信じられないほどに綺麗な文字で書かれたメモを手渡してきた。

「これ、今の僕の生活スタイル。ほとんど幼稚園と両親に囲まれていて……」

「それじゃ、もう会うのは難しいかもね」

 私がそう言うと男の子は寂しそうに頷いた。

「そうだね。自由に動けるようになるまで最低でも5年……いや、8年かな」

「流石に死んじゃっているかな」

「だよね、ごめん」

「仕方ないよ。こればっかりは」

 私は笑うと残ったコーヒーを全て飲み干して言う。

「それじゃ、次回はどこで待ち合わせをする?」

「うーん……今回は君が決めてよ。前回は僕が決めたからさ」

 そう言われて私は少し考えた後に言った。

「それじゃ、久しぶりにあの公園にしようよ。もしなくなっていたらその近辺」

「OK。そうしよう」

 最重要事項である待ち合わせの取り決めをした後、私と男の子はほんの僅かな時間だけ互いのことを語り合えた。

 そして、男の子の母親が慌てて駆けつけてくる。

「ごめんなさい! うちの子がこんなことを……! こら! 探したんだからね!?」

 すっかり慌てた様子で叫び、そして謝罪する母親に私は穏やかに対応をする。

「気にしないでください。私も楽しかったですから」

 男の子の母親は何度も謝って、その後、男の子の手を引いて歩き去っていった。

 途中、男の子がちらりと振り返り手を振ったので私も手を振り返した。


 私とあの男の子は恋人だった。

 とは言っても、もう何千年も前のことだけど。

 貧しい村の幼馴染として生まれた私達は飢えと苦しみの中で死んだ。

 互いに抱きしめ合いながら彼は言った。

「守れなくてごめん。でも、必ず生まれ変わって君を探すから……今度こそ幸せになろう」

 そんな彼の最期の言葉に私もまた言った。

「うん。どれだけ生まれ変わってもあなたを待っているから……」

 それが、一番最初の私達の死だった。


 そうして、死んだ私達だったが来世となり彼は約束通り私を探してきたのだ。

「見つけた! 今度こそ、君を幸せにする!」

 その言葉を彼は確かに叶えてくれた。

 私は幸せな生を生き、そして最期には彼に手を握られたままに息を引き取った。

「ありがとう。今度は私があなたを探しに行く」

 心からの感謝を彼に告げて。

 こうして、私達は二度目の死を迎えた。


 さて、望外な幸運なことに私達はさらに次の生でも再会出来た。

 互いに互いの事を覚えていることを喜び、分かち合いながらも三度目の生を二人で楽しみ、幸せに生き、そして幸せに死んだ。


 そして、さらに次の生でも。

 そのまた次の生でも。そのまたまた次の生でも……。

 そう。

 お察しの通り、私達はもう何度も転生し何度も幸せに死んでいるのだ。

 一番始めの頃と同じように同い年の時もあれば、親子やそれ以上の年齢差であることもあったけれど。

 それでも、私達は何度生まれ変わっても必ず互いを探し出して結ばれてきた。

 気づけばもう死ぬことさえ怖くなくなっていた。

 何せ、来世で必ず出会えるという確信があるから。


「おまたせ」

 私がそう声をかけると十代後半の少年がくるりと振り返った。

「や。久しぶり」

 新しい私の年齢は十代半ば。

 今回の両親はそれなりに過保護だったから、約束の場所に来るのに思いのほか時間が掛かってしまった。

「待った?」

「いや、前回の君に比べれば全く」

 そう言って彼は笑う。

 確かにそうだ。

 何せ、前回の私は92歳のお婆さんだったのだ。

 それに93歳を迎える事なく死んでしまった。

「あの時はあんまし喋れなかったし、今度こそ色々と話そうよ」

「そうだね、何から話そうか……」

「まず私からでもいい? 前世の分も含めて」


 来世でも一緒になる。

 物語で言えば最高のハッピーエンドだ。

 しかし、実際にその奇跡を傍受し続けている私達からすれば最早ただの待ち合わせに近い。

 だけど、こういうのをきっと。

「本当、幸せだよな」

 彼の言った言葉に私は満面の笑みで頷いた。

「うん!」

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