第四話 豪華絢爛
虎春の前に青白いディスプレイが浮かんでいる。
俺は絶望した。
このディスプレイは、俺が刺され、殺され、そして生き返った時に現れた物。
そこから考えるに、コレに関わるということは死に歩み寄るということと同義だろう。
俺だけならまだいい。勝てばいいから。勝てるから。
じゃあ、こいつは…?
肉弾戦になったら…勝てる。頭脳勝負になったら…まぁこいつの脳味噌なら勝てる。
あれ、心配要らなくね?
こいつ基本的に負けないじゃんか。なんだ、絶望して損した。
「あー安心したわ。びっくりさせんなよ」
「は?急に俺の物奪ってなに勝手にびっくりして勝手に安心してんだよ返せよ」
「おっと、すまんすまん」
まぁいいだろう。こいつならどうせ誰かとの殺し合いになっても死なないだろうからな。
今はただ、新しいゲームプレイヤーに虎春が選ばれた事を喜ぶとしよう。
こんな楽しそうなゲーム、しかもこいつと一緒にできるのか…
まてよ、ゲームバランスが崩壊しそうなんだが…大丈夫かゲームマスター。
「でさ、お前なんか知ってそうだけどこの画面なんなの?」
虎春の方から少しイラついているような声が聞こえてきた。
まぁ急に相手の物取って破こうとしてやっぱやめて勝手に安心してるんだからな。
イラつくくらいするか。
「あ、それ?ガチャでしょ?回していい…はずだよ多分。」
「ふん。そうか」
一応言葉の最後に保険を掛けておいたけど、何も疑ってないみたいだ。
一般人なら自意識過剰もいいとこだが、こいつならほぼ何でも己の身一つで対応できてしまうから本当に怖いものなし。というかそこまで来ると虎春自体が怖くなってくる。
ガララッ ガララッ
だけれど俺は少し疑問を持っていた。俺のガチャは駄菓子屋にありそうな質素なものだったが、こいつのガチャは黄金色の機体に神々しい後光のような背景。
これって贔屓じゃないか?ゲームが初期ガチャで贔屓してどうする。俺もこの何かすごそうなガチャを引きたかった。
ゴトン、コロコロコロ…
虎春のガチャからも、画面から飛び出てくるようにしてカプセルが3つ出てきた。
色は俺の時と同じく銀が2つに金が1つ。
見た目は違っていても、中身は同じなのだろうか。
「んじゃ、開けるぞ。」
「おう。」
虎春はそのカプセルを軽くぱかりと開けた。
中には、やはり俺の時と同じくそれぞれ入っていたカプセルと同じ色の一枚のカードが入っていた。
「これなんだ?」
「カードだろ。」
「それは見りゃ分かるよ。俺が聞きたいのはカードの情報。なんか知ってんだろ?」
「まぁほんの少しだけ。」
「教えてくれ。」
俺は虎春に、昨日起こった事を事細かに話した。
虎春の家から帰っている途中にカードデッキを見つけたこと、拾おうとしたら刺されたこと、死んだと思ったら生き返った事。そしてその後、同じようなカード三枚を俺も手に入れたということ…
「…災難だったな。」
「疑わないのか?」
「この画面見れば流石に信じるよ。」
「それもそうか…」
俺の不幸について他人事のように言っているが、これからは自分もその災難に巻き込まれるかも知れないことを分かっているのだろうか。
こいつの思考レベルなら分かっているはずだが、俺と同じでゲームに目がくらんで見えて無いんだろう。かわいそうなやつめ。
「まぁいい。二人ともカードをゲットしたんだ。神様に感謝して有難くプレイさせて貰おうや。」
「おい入鹿、あまりに楽観的過ぎじゃないか?もう少し警戒心という物を持てよ…まぁ、このゲームをプレイするってのは、俺も賛成する。」
楽観的は二人とも、だな。これが類友ってやつか。
「どんなゲームかはよくわからんが、まぁ俺たちなら勝てるだろ。」
「あぁ。誰だろうとぶっ倒してやるよ。」
そう言ってにやりと笑った顔を合わせていると最終下校時刻の鐘が鳴り、俺たちはいそいそと帰る支度を済ませ、校門からさっさと飛び出した。
途中までは二人同じ帰り道。その分岐が来るまで、ゲームの話をして過ごした。
いや、”過ごすはずだった”。
「すみませんが、そこのお兄さん…」
「ん?ああ、どうしたんですか?」
話しかけて来たのは50〜60のダンディな感じのお爺さん。
道にでも迷ったのかな?この辺は特に道が入り組んでるからな。
「この辺に中学校があるはずなんですが、道をお教え願えませんでしょうか。」
「全然いいですよ。えっと、こう行ってこう行って…」
虎春がお爺さんに道を教えている間暇だったので、暇つぶしにポケットに入っていたカードを見た。しかし、何度見ても何からできてるかわからん。
「…で、次に角を右に曲がれば中学校ですよ。」
「おお、丁寧にありがとうございます。」
老人が虎春にぺこぺこと頭を下げているのを横目でちらりと見る。案内は終わったようだ。
さっさと帰ろうぜ。そう言おうとしたその時、
「おや…?その手に持っている物…」
「ん?これ?カードだよ。ゲームに使う奴。」
「…失礼だが、名前を教えて貰ってもいいかな?」
なんでそんなことを聞いて来るのだろう。
少し困惑しながらも、俺はその質問に答えた。
「入鹿。狂寺入鹿。いちおう言っとくとこの親切な青年は豹堂虎春って言うんだ。」
「俺の説明までするなよ。個人情報だぞ。」
「入鹿…あなたが…ですか…」
俺の見間違いか、老人の口角がぐにゃあッとつりあがった気がした。
「そうですか。探す手間が省けましたね」
「?」
「!」
老人が何か言っているが、俺の一般的聴力だとぼそぼそとしか聞こえない。
だが、野生動物のような五感を持つ虎春には聞こえていたらしい。
「入鹿、下がれ。」
「は?何言ってんだお前。」
「いいから!」
こいつ、急に意味の分からない事を言い出しやがる。でもまぁこいつの勘は鋭いからな。一旦聞いておこう。
俺がゆっくりと虎春にの方に歩いて言ったその時、
シュピッ
くるりと虎春の方を向いた俺の頬に、切った時特有の熱い感覚が伝わる。
なんだ!?
「おや、一撃で仕留めるつもりでしたが外してしまいましたか。では改めまして。」
いつの間にかお爺さんの手には白く輝くナイフが握られていた。
俺はその時、瞬時に体で理解した。
やはり俺が関わってしまったゲームには、”命を賭ける必要がある”と。
「貴方の命を頂戴致します。」
続く
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