[1] 父の人形 .1
タイトルは「魔王のベーコン」です。
面白くなるように頑張ります。読んでいただけたら嬉しいです。
初投稿です! よろしくお願いします!ヽ(〃´∀`〃)ノ
魔王が死んで世界が平和になったので、商売がやりやすくなった。
荷車に品物を満載して世界中を回る。世の中は復興で大忙し。どこに何を持って行っても飛ぶように売れる。
みんな手が離せないから道中に盗賊は出ないし、魔物もヒジョーに少ない。
快適!
僕たちは青の第三拠点で布類と雑貨を仕入れ、ベーカリー共同体の研究所跡地に形成されているという大規模な集落を目指して進んでいた。布なんてものはいくらあっても困らない。青の奴らは戦争の被害をあまり受けずに物資をため込んでいたから、放出してもらった。
太陽が柔らかな日差しを投げかける中、補給路を外れて森の中に入り、少し進むと、木々を切り開いて作られた広場の中に小さな村を発見した。
円を作るように家が六、七軒。その中央に大きな篝火。布や木っ端で継ぎのあてられたぼろ屋には焦げた跡や矢傷が残り、丸太を抱えて歩く大人たちの間を子どもが元気に走り回っている。
今の世界にはこういう小さな共同体がいくつもある。長い戦争でほとんどの国は滅び、ご近所さんで手を取り合って助け合うしかなかったのだ。そして困窮しているのはどこも同じ。
「稼ぎ時だ!」
広場の真ん中に陣取って荷台に柱を立て、真っ青に染めた布を被せて屋根を張る。丁寧につやを出したテーブルにきらきらした小物類を並べる。オシャレな衣服はハンガーにかけてマネキンと一緒にその辺に出しておき、食品は日光に当てないよう、看板にメニューだけ貼る。「なんでも売ってるぜ」と手書きで作った旗を地面に突き刺して、荷台で寝ていた護衛の大男を立たせ、腕組みをさせる。
土色の村に、一瞬にして華やかな市場が現れた。
「おいそこの人ら! なんか欲しい物ない」
怪訝そうな顔でこちらを眺めていた村人たちに適当に声を掛けると、スコップや鍬を担いだまま、わらわらと群がって来た。
「なになに」
「補給か!」
「うちにも来てくれたのか!」
「もっと丈夫な服はない?」
「かわいいりぼん!」
「おい兄ちゃん、壊れないスコップはないか」
青いつなぎのおっさんが難しそうな顔で尋ねてきた。肩に担いだスコップはひしゃげて、あちこちへこんでいる。
おっさんは村の外れを指さした。
「あっちに畑作ろうと思ってんの。前にゾウの魔物が出たとこでさ、踏み慣らされちまったんだよ。地面がかったくてよ」
「地面くらい、筋力増強あたりで簡単に掘れるんじゃないの?」
「力はいいんだよ、道具がダメになるから困ってんの」
おっさんはむんと鼻を鳴らして両腕を曲げ、力こぶを見せつける。鋼のような筋肉は武神のようだ。屈強な村人たちがなんだなんだと集まってきて、僕の周りで筋肉祭りを開催する。肩の周りに赤い魔法陣を浮かべている者もいる。うちの護衛も参加している。
「オーケー、暑苦しい。土を掘るような道具でいいやつはこの辺かな」
荷台から取り出した丈夫なスコップやつるはしを十本ほど並べてみる。わずかに赤みがかった金属部が日陰だというのにきらりと光った。おっさん共は勝手に手に取って品定めを始めた。
「おお、未知の金属じゃねえか。未知の金属を見るのは初めてだ」
「へぇ、こいつは良さそうだな。接続部も不明の方法で補強されており壊れにくい……おい待て、パン工房のマークが入ってるじゃねえか」
「ベーカリー共同体の作品は道具類も質が良いんだよ。そのシャベルは50年は使えるね。保証するよ」
「人間の脳が一つまみ入ってたりしないだろうな」
「ざっと調べてみたけどたぶん大丈夫だよ」
おっさんはしばらく矯めつ眇めつしていたが、どうやら納得したようでふむふむと頷いた。
「いいもんには違いねえな。よし、こいつくれよ」
「まいど。連合銀貨で3枚だ」
「はぁ? 金とるのかよ」
「えぇ? 当たり前だろ」
「えっ、お金?」
「お金がいるの?」
「このりぼんほしー」
「お金ないよ」
急にあたりがざわざわとし始めた。お金と聞いて皆一様に眉をひそめ、不安そうにしている。子どもがべそをかき、カラスがかあと鳴いた。
スコップのおっさんが村人代表のような顔をして口を開いた。
「兄ちゃん、この村は青の連合とは関わりのない小さな小さな共同体だから、連合通貨は一枚もねえよ」
「ここもかよ……」
「ていうかお金なんて持ってる人たちの方が少ないんじゃないの?」
「そうだー!」
「お金ないよ!」
「この!! りぼんが!! ほしい!!!!!」
村人たちは騒ぎ始めた。子どもが飛び跳ね、大人たちが地面に転がって駄々をこね始める。
狭い村の中にざわめきが広がっていく。茶色い猫が怯えて風船のように膨れ、逃げ去った。三人組の女子が鬼の形相で地面を踏み鳴らし、ひげを生やした老人が涙を流しながら、
「うおおお! 娯楽品! 目前にして 金がない!」
大声で川柳を詠み、駆け回る。
「クソッ! なんなんだこれは! なにがどうなっているんだ! おいガトー! なんとかしろ!」
慌てて護衛に声を掛けるが、四、五人のちいさな子どもたちにすね毛を引っ張られており、役に立ちそうにない。
てんやわんやの大騒ぎの中、途方に暮れて立ち尽くしていると、上空で見張りに当たらせていたもう一人の仲間が、金の魔粒子を纏ってふわふわと降りてきた。
「アサさん」
「く、くらげ! どうにかできるか!? お前ならこの状況をどうにかできるか!?」
「なんかさっきからあっちで子どもが泣いてて……うわっなんだこれ」
「子どもが!? それは大変だ! すぐに行こう!」
「えー祭り!? これお祭りですよね!」
「案内しろくらげ! 泣いてる子を見過ごすわけにはいかないぞ!」
「お祭りは!?」
「さあ行くぞ!」
僕はけらけら笑っている小娘の手首をひっつかみ、そういう種類の地獄みたいになった村から一目散に逃げ出した。