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死刑宣告

『6月1日のニュースです。梅雨市にて、行方不明だった女子高生が見つかりました。女子高生は「解放されて嬉しいです」と話しており、警察は未成年者誘拐罪を視野に調査を続けております。次のニュースです――』


 んー、スーツのズボンはどこだ?俺は会社の飲み会に行くために身支度をしている最中である。テレビを消し、30歳を超えた辺りから物忘れがひどく、家を出る際は毎回何かを探している。

 部屋にある布団をどけたり、ソファーの下を覗きこんだり、いつも置いてありそうな場所を探したりしたが見つからない。


「おかしいな…」


 っとぼやきながら、必死に頭をフル回転させるも思い出す事が出来ない。なんとなく洗面所へ行くとそこにはお気に入りのズボンが洗濯機の上に置いてあった。


「あるやないかー」


 あたかも自分のせいではないという独り言を口に出しながらズボンをはく。あとはー携帯、財布、鍵、タバコと口ずさみながらポケットにいれていく。

 上着を着て準備完了。玄関へ向かう途中に洗面所に寄り鏡で軽く髪を整えながら


「いってくるね」


 返事が返ってくるわけでもないが、家を出る時の日課である。


 飲み会の場所は家を出てそんなに遠いわけではないので、徒歩で向かう。時計を見るとあまり時間がない、猛ダッシュで歩道を走る。

 走ったかいあり無事時間までに到着。自慢ではないが足だけは速いんです。




「乾杯!」


 料理や酒が目の前に並び、上司の乾杯で始まるのが俺の会社の王道パターンである。

 飲み会が始まってしばらくするとみんな席を立ち、仲の良いやつらで固まりワイワイするのも見慣れた光景だが今日はいつもと少し違う。


「マジックやりまーす」


 普段ものすごく静かな同僚が酒に酔ったのか大きな声で立ち、手鏡を使いマジックを披露し始めた。遠目で見る限り、鏡を持ち自分の顔を反射させると映っていないというものだった。

 周りから歓声が沸き上がり、大勢の職場の人に話かけられている。


「あの人普段静かなのにどうしちゃったんだろうね」


 喋りかけてきたのは、上司であるが友人みたいに振舞ってくる右京さん。俺の隣に座り込むと、酒の匂いですぐに分かる。すでに出来上がっているようだ。


「来山君も飲みなよ」


 そう言うと、俺の目の前で空になっているジョッキに酒を注がれる。ジョッキを片手に酒を一気に身体に流し込む。隣にいる右京さんは満足げに笑い、空になったジョッキにまた酒を注ぐ。

 もう何杯目だろうか。わんこそばの要領で注がれた酒を飲んでは注がれしているうちに飲み会の時間が終わった。


 飲み会後、完全に飲み過ぎた俺は酔っぱらってふらふらとおぼつかない足取りで家までの道のりを歩きだした。

 雨が降っていたのか。さっきまで強い雨が降っていたんだろう、いたる所に水たまりが出来ている。水たまりをよける気力もない。


 水たまりの跳ね返りで足を濡らしながらただただ歩いていると…突如身体が宙に浮く感覚が襲いかかり<そこに>に落ちたのだった。




 え?目が覚めると見たことがない部屋。

 その場に座り周りを見渡すと机とイスが1つずつ、上を見上げると天井はかなり高く、壁は本で埋めつくされている。どうやら俺は書斎らしき部屋の中にいるようだ。一体ここはどこなんだ…?

 不安な気持ちを抑え立ち、部屋を散策してみる事にした。部屋には窓がない窓枠が1つ、扉は開いている。窓枠に近づき外を見ると空は明るい曇り空、下を見ると大きな街があり、目を凝らして見ると祭りっぽい何かが行われている。


 1つだけ言えるのはどうみてもここは俺が居た世界ではない。空の色や街の作りが明らかにこことは違う。

 窓から離れ、近くの棚にあった本を手に取った。【題:哀れな水の魔人 著書:ラフト】

 何となくページを開き、描かれていた1枚の絵を見ると急に呼吸が激しくなり今までにない感覚に襲われた。はぁ…はぁ…はぁ?なんなんだよ。怒りや恐怖、悲しみの感情が一気に湧いてきた。怖いんだけど、もう帰りたい。


「おい、お前そこで何をしている!」


「怪しいやつだ!」


 突如怒鳴り声がした。声の方向から扉の方だと思ったが時既に遅く、振り向く暇もなく体を取り押さえられた。すごく痛い。

 抑えつけられて顔を上げると二人組の兵士が怖い顔でこちらを睨みつけてくる。なんもしてないって。むしろ被害者だよ。

 両脇をガッチリ抑えられたまま身動きがとれず、廊下や階段を容赦なく引きずられていく。

 階段を下りた所で、謎の仮面の者とすれ違った。


「やっとだやっと…」


 そう微かに聞こえた。

 しばらくして城の扉を引きずられ出るとさっき見た街並みが間近に現れる。上からでは分からなかったけど、装飾された高そうな店が並んでいる。

 街行く人は飼い主に引っ張られている犬のような俺を軽蔑した目で見てくる。なにもやってないからそんな目で見ないで欲しい。


 しばらくすると道が開け海岸についた。海岸には四角い檻がいくつも有り、その中の1つに入れられた。檻から様子を伺っていると見るからに偉そうなやつが、さっきの兵士と話しをしている。なんもやってないんだけどなぁ。

 ふと別の海岸を見ると街の人と、黒い服装の人物が海の方へ行くのが見えた。


「――よって被告人は死刑に処す。今ここで死刑執行する」

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