こちら異世界転生受付窓口ですが、ご希望にそえるかどうかは分かりませんので予めご了承ください。
「次の世界ではドラゴンがいて魔法が使えて、十人が十人振り向くような美少女でお姫様で、世界最強の魔法使い!って設定でお願いしますって希望出したでしょ!どうしてまだ日本の普通の女子高生やってるのよ!!」
今日も今日とて、僕が務める“界役所・異世界転生専用支部”は忙しい。
此処は、異世界転生を希望する死者達を整理して、次の転生先へと案内するための契約を交わす場所。しかしどうにも最近は、ライトノベルとやらの影響で“中世時代の西欧風ファンタジーな剣と魔法の世界に転生してチートがしたい!”という困った客が増えている模様。
異世界転生は、実は神様が一人で転生先を決めているわけではないのです。
僕達のお仕事と、異世界転生の実情を、ほんのちょっぴりご紹介します。
※この小説は、エブリスタにも投稿しています。
「ノグチさん、悪いんだけどこっちのFAX送信お願い!大至急!こっちのコピーもね!!」
「はーいただいま行きマース!」
ノグチ、こと僕は、渡された書類の束を抱えてFAXの前にダッシュした。幸い、今は使用中の者はいない。旧時代からさほど仕組みの変わらぬこの機械は、急いでいる時に限って紙詰まりを起こすと大変不評である。頼むから今日はご機嫌ナナメになってくれるなよ、と祈りつつ僕は操作パネルにタッチした。
とにかく時間までに全てのFAXを終えて、会議資料の印刷を終らせなければいけない。FAXも酷いが、会議資料はどうしてこう毎回毎回上がってくるのが遅いんだろうかとうんざりしてしまう。定例会議の日取りはいつも二週間は前に決定しているし、時間も確定しているのだ。頼むから、一時間は前に資料を準備してボックスに入れておいてくれと思う。困るのは、全ての準備を任されている僕達新人の職員なのだ。
FAX送信は全て二人以上で確認してね!なんてルールはあるが、こうも忙しくては他の人を捕まえることもできない。この部署には繁忙期なんて言葉がないのだ。つまり、ねんがら年中忙しい。死んでからも欝になって倒れるなんて嫌だよなあ、なんて苦笑もしていられない。そう。
此処に勤めている職員は、みんな一度は“死んだ”ことのある者達ばかり。
そして此処の役所のお仕事は。
「皆さん一列に並んでくださいね!こちら異世界転生受付窓口ですが、初転生の希望者様には別個で説明がございます。必ず一桁の受付窓口で申し込みを済ませてくださいー!」
そう。今流行の(というのも忌々しいが)異世界転生希望者達の受付をするお役所というのが、ここ“界役所・異世界転生専用支部”なのである。
窓口はずらっと五十個も並んでいる――のだが、受付は全く追いついていない。ベテランの受付嬢達が丁寧かつ迅速に捌いているにも関わらず、だ。理由は大きくわけて二つ。一つは純粋にやってくる人の数が尋常でないことと――とにかくクレームが後を絶たない、ということである。
自分が今まで生きていた世界ではない、異世界に転生を希望する者が圧倒的に増えてしまった昨今。多くの世界で爆発的に流行してしまった“ライトノベル”とやらの影響なのだろうが、おかげさまでこの役所の仕事もここ数十年で爆発的に増えることになってしまったのである。
何が困るって、多くの者達が“剣と魔法の西洋風の世界に行きたい”“でもってチートになって無双したい”なんて滅茶苦茶な希望を押し付けてくるからである。で、それがかなわないと次の転生受付時に鬼の形相でクレームを延々と言ってくるのだ。最初にちゃんと説明しているというのに――“こちら異世界転生受付窓口ですが、ご希望にそえるかどうかは分かりませんので予めご了承下さい”、と。
――は!?ちょい待ってよD-1389世界の天国と地獄、規模縮小するの!?天使と悪魔の人員削減のため!?ちょ、ふざけんなよ俺らの仕事がまた増えるだろーが!!
ちらちら見える、異世界の天国や地獄(という名称でないことも多いのだが、死者が行く世界は大抵似たような方向で分類分けされていることが多い。暫定的に、自分達では異世界の死者の世界をそう呼ばせてもらうことが多い)とのやり取りを見ながら、僕は内心でキレ始める。
異世界は、星の数ほど存在している。それらは全て時空の区画ごとにアルファベットと一桁~七桁の数字で区別されているのだ。基本的に、同じアルファベットで紐付された世界は、世界観が似ていたり同じ世界の並行世界であったりすることが多い。その中には僕の出身である“日本”や“東京”がある世界もあれば、大人気の西欧風の魔法やら剣やらの世界も当然存在している。
で、何故僕がキレているかというと。
剣と魔法の世界もあるにはあるが、その方面の世界は全体からするとほんの一部にすぎないということと――その上で、基本的には“チートでハーレム希望!”なんて要望は叶えられないということ。
そして、そもそも異世界転生受付窓口にやってくる客が増えている背景には、希望者が多いだけではなくもう一つ。それぞれの世界の“死者を受け付ける地獄や天国”の受付可能容量が、どんどん縮小されている傾向にあるから――というのもあるのである。
理由は簡単。天国や地獄は死んだ人間から希望者を募って雇い入れて、死んだ人間の案内人をする“天使”や懲罰を行う“鬼”や“悪魔”を配置して成り立っているのだが。最近はそちらの世界でも“労働基準法”なるものが設けられる傾向にあるのである。
ぶっちゃけると。神様だろうが天使様だろうが悪魔様だろうが――ありえるのだ、鬱病やら、過労死やらというのが(みんな一度は死んだ人間だったなのに天国や地獄で死んで、再度お客様に早変わりというのは非常に笑えない話である)。
彼らの労働環境改善を考えた結果、一番簡単なのは“そもそも元の世界で受け付ける死者の数を減らしちゃえばよくね?仕事減るんじゃね?”だったのである。
結果として、元の世界の天国や地獄から溢れた人間達は、みんながみんな異世界への転生希望者としてこちらの支部に流れてくることになってしまったのだ(まあ溢れただけの人間ならば、元の世界に転生させることも可能なのだが。大抵好きな世界に転生できると聞いた時、元の世界ではなくもっと都合のいい世界に生まれ変わりたいと言い出す人間が少なくないので困った話なのである)。
――勘弁してくれよ、Dエリア最近多すぎだろ……!そりゃ、面倒な客多すぎて獄卒がバタバタ倒れた件を聞いた時は気の毒だと思ったけどさあ!
ぶつぶつと文句を呟きながら、僕はFAXの送信に専念することにする。どうにか正午までに全て送り終えることに成功。あとはコピーを終わらせるだけだ。
異世界で、天使らの労働条件を改善しよう!という運動が起きたことそのものは悪いことだとは思わない。思わないのだが、その結果のしわ寄せが全部こっちに来る仕組みは本当になんとかしてもらいたい。
自分達だって同じく死者。誰かの役に立ちたいという願いから、他の世界に転生せずにこうしてマメな事務仕事に従事しているだけでさほど立場は変わらないというのに――こうも我侭な客ばかりに当たってはうんざりするのも無理ないことなのである。
そう、本当に参ったことに、異世界転生の希望者にはワガママな者が多い。ライトノベルを間に受けて、間違った知識を本気で信じて希望を押し付けてくる者も少なくない。――そもそも、異世界転生の転生先は、前世の“業”も深く関わってくるということさえ、知らない者が大半である。つまり、前世で人を貶めるようなことばかりやった人間が、来世で“なんでもかんでも思い通りになる幸せいっぱい異世界まったりチートライフ”なんてものを過ごせると思ったら、大間違いなのだ。
ただでさえ西欧風異世界というのは人気が高い=倍率がハンパないし――仮に転生できたところで、ライトノベルのようなチート補正などまずつくはずがないというのに。
「だから!あたしは言ったでしょ、もう日本に転生するのだけは絶対嫌だって!!」
女子大生っぽい女性が、窓口でぎゃんぎゃんと喚いているのが聞こえる。
「次の世界ではドラゴンがいて魔法が使えて、十人が十人振り向くような美少女でお姫様で、世界最強の魔法使い!って設定でお願いしますって希望出したでしょ!どうしてまた日本の普通の女子高生やってるのよ!!」
「ちゃんと元の世界とは違う異世界に転生させましたよ、同じF区画ではありますが」
「ふざけてるの!?だからっ……!」
「イイジマ・アヤコさんですよね?貴女、前世でSNSを使って、気に食わない漫画家に誹謗中傷の書き込みを大量に送りまくりましたよねー。それも、根も葉もない悪評込みで。それで鬱病に追い込んだ」
「は?それが何!?あの女がいけないんでしょ!?」
「そういう行為をした人は、来世でも転生の希望優先順位下がっちゃうんですよねー。というわけで、次の転生もご希望の“西欧風異世界”は無理ですねー」
「はあああああああああああ!?」
――あー、またやってるよ。
窓口では今日も、無理難題を押し付けるクレーマーの罵声が響き渡っている。そもそも十人が十人振り向くチート美少女なお姫様ってなんだよ、と苦笑するしかない。人の好みなんか人それぞれだし、十人見て十人が好みな外見なんかあるわけがないではないか。もしそんなものが本気であるのなら、何かヤバイ術でも使って洗脳でもしてるんじゃないの?と疑いたいところである。
第一、一番問題なのはその“チート”なのだ。ぶっちゃけると、自分達では能力の設定などでできないのである。というか見た目もぼんやりとしか設定できない。基本的に此処でできる処置といえば、彼らの転生先の異世界を決めることだけなのだ。
もっと言えば、どの世界でも“その世界の絶対的なルール”というものがある。特に“最強の存在”とか“一番美しい存在”なんてものは、その世界が世界そのものの意思で既に決定させていることが多いのだ。物語で考えてみればわかるはずである。世界最強の魔王をワンパンチで殺せる勇者、なんてものが出現したら物語が破綻してしまう。白雪姫が、毒りんごを食べる前に魔女を見抜いて虐殺するだけの能力と意図があってはいけないように。
そもそも“世界最強のチートになりたい”奴が、一体受付に何人来ると思っているのやら。どうあがいたところで、その全員をチート最強にしてやることなど、不可能どころではなく不可能なのである。
「大体、こんな役所みたいなところで異世界転生先を決めるなんてのがおかしいのよ!普通そういうのは神様が決めるもんでしょ!?なんであたしの転生先を、一般の職員達みたいなのに決めさせられないといけないの!!」
――いや、大昔はそういう風に、全異世界をまとめる創造主様が割り振ってたんだけどさあ。……一体全ての異世界で何人が死んで、何人の異世界転生希望者がいると思ってんだよ。死ぬぞ普通に。神様過労死とかマジで笑えないからな?
まだまだ彼女の怒りは収まらないらしい。ご愁傷様、そう思いながら僕は終わったコピーをまとめて、自分の机に戻ろうとした。窓口業務ほどではないが、僕だって忙しい立場であることに変わりはないのである。
と、その時僕の目に映ったのは――受付の待合所で一人、頭をたれて座っている一人の男。あれ、と思ったのは、その手に受付済みの紙が握られていなかったからである。まだ受付していない人間ならば、一にも二にも窓口に並ばなければ始まらないはずである。ここでただ、ぼーっと待っているだけ待っていても、無為に時間が過ぎていくばかりだ。
そう、本当に何も変わらないし始まらない。――一度死んだ現実も、これからの未来も。
――この人も、僕と同じ……F区画の出身っぽいなあ。しかも、髪の毛も黒いし日本人っぽい。F区画のどこかはわかんないけど。
自分は接客の担当ではないが、それでも職員として果たすべき仕事は果たしておくべきだろう。僕はそろりそろりと、男性に近づいていく。日本人っぽい外見。大体三十路くらい。髪はぼさぼさで、死んだ時に来ていたであろう服は――工場のツナギのようなもの、だろうか。
「あのう……」
僕はそろそろと男性に近づき、声をかけた。
「窓口で受付、終わってます?終わってないなら早く済ませちゃったほうがいい、と思うんですけど……」
僕が告げると、彼は緩慢に頭を上げた。無精髭。おちくぼんだ眼。人相は、お世辞にも良いものとは言えない。
「……受付してもらって、意味はあるのかよ、職員さん」
「え?」
「だって、どうせ好きな異世界になんか、行けないんだろ?俺は転生五回目だが……また、散々な人生だったんだよ。畜生、今回は、一生懸命働いて稼いだってのに……作業機械に巻き込まれて死ぬなんて……」
「…………」
なんとなく、察した。僕は彼が腕につけている認証番号を見、自分の端末で検索をかける。前世の名前――クボタ・トラオ。やはり、僕がかつて存在していた世界に、近い場所の出身であることは間違いないようだ。
「でも、別の世界に行きたいと思ったから、ここにいるんですよね?クボタさんの前世の世界はまだ、天国にも地獄にも空きあったはずですし」
まあこの人は、煉獄行きになりそうなところであったようだが――とはここだけの話。すると彼ははっ、と鼻で笑ってみせた。
「そりゃそうだ。どうしてあんな、クソくだらねえ、稼いでも稼いでも疲れるだけ、楽しいことなんかなんもねえ世界にまた生まれ変わりたいと思うもんかよ。前の世界も、その前の世界もそうだ。大嫌いだつってんのに、剣と魔法の夢みたいな世界でスローライフしてえってずっと希望出してんのに……結局また日本人の、冴えない男として生まれてくだんねえ一生で終わる。せめてイケメン補正くらいかかってりゃいいものを、それも全くねえ。つまんねえ奴ら、ムカつく奴らばっかり溢れてる世界ばっか巡らされてんだ」
「そりゃ、前世の行いがよっぽど聖人クラスでないと、人気の異世界なんかに行けませんし……。ましてや、以前の世界の業が深い人は、来世でもその罰を受けるように手配されなきゃいけない規則がありますから」
「はあ?意味わかんねえよ。前世の罪ってなんだ。俺は前の世界では一生懸命働いて、頑張って稼いだだけだ!犯罪なんか何も犯してねえのに、まだ好きな世界を選べねえってのかよ!」
そりゃ優先順位が高かったところで最後は抽選だし――と言いかけて、僕はやめた。彼が訊きたがっていることも――その理由も、そんなところにはないと気づいたからである。
データベースに載っている、彼の転生履歴。そして“業”の数値を見て気づいたのだ。何故、彼が望まない世界での転生ばかりを繰り返しているのか、ということを。
「……クボタさん」
そっと膝をつき、僕は彼に語りかけた。
「……最初に生まれた世界で、犯した罪は。ひとつの来世では、償いきれないこともあるんですよ」
「何?」
「ある男の話です。……彼は、インターネットでのいじめ行為をとても好んでいました。平凡な外見、平凡な成績、平凡な日常、平凡で退屈な仕事。頑張っても、上司に怒鳴られるばかりの人生に嫌気がさしていた彼は、ストレス発散の手段として人を虐げることを選んだんです。それもネットを使って、自分は一切傷がつかないやり方で。大嫌いな芸能人、大嫌いな会社の同僚。それらのSNSを見つけては誹謗中傷し、根も葉もない噂を振りまいた。やがて彼は交通事故で死ぬんですが……そこから先が、本当の罰の始まりだったんですよね。彼は前世で追い詰めて、知らないうちにたくさんの人を病気にしたり自殺に追いこんでいました。その罰を、来世で受けなければならなくなったんです。チートで誰からも愛されるファンタジーな異世界の生活を希望していた彼が転生した先は……あの昔話の“桃太郎”を模したような世界でした」
当時はまだ、創造主がある程度の裁量で異世界の転生先を決めていた。カミサマに会えた男は喜んだのである。これは、自分の大好きなライトノベルの展開だ、こんなくだらない世界ではなく、魔法と剣の夢のような世界に転生して楽しい生活ができるに違いない――と。
だが、そうは問屋が下ろさなかった。彼が背負った業は、とても事故で死んだだけで償えるものではなかったのである。
「彼は桃太郎の世界で鬼に転生して、桃太郎に殺されました。そして、殺されるとまた同じ世界に生まれ変わり、鬼に殺される……を繰り返すようになったんです。合計、九十九回。それは、彼が無責任な悪意で……人の心を“殺した”数と同じでした。彼は自分が“差別される弱者”“圧倒的な強者に殺される存在”を経験することで初めて、自分の罪の重さに気づかされたんです。……百回目でやっと許された彼は……初めて桃太郎と和解して、生涯を全うするというエンディングを迎えることができました」
いいですか、と僕は彼に目線を合わせて問いかける。
「前世の罪が、来世一回で償いきれるとは限らない。あなたが最初の世界で、気に入らない同僚や後輩をいじめて病気にして、退職に追い込むことを繰り返した罪は……たった一度希望しない世界を経験しただけでは償えない罪だったんですよ」
「なっ……!?」
「しかも貴方は桃太郎の世界の彼とは違う。まだ、自分の罪が何であるかも理解していない。そして……希望しない世界に行ったとわかった途端、どの世界であっても一生懸命生きようとしない。最初の世界と同じように、人に責任転嫁をして八つ当たりをして生きるばかり。そんな人間が、どうして罪を許されて……自分が望んだ幸せを手にすることができると思うんですか」
気づいていなかったのだろう。彼は動揺した様子で、僕から視線を逸らした。確かに欧州風ファンタジーな異世界、は大人気だ。転生できる椅子はそう多くはない。けれど、多くの場合、望んだ世界に転生できないのには理由があるのである。
神様でも、世界の意思でも、自分達職員であっても。――応援したいと思うのはいつだって、自分の世界で一生懸命生きる努力をした人間なのだ。
「望んだ世界にいつか、生まれたいと願うなら。まずは次の世界がどんな場所であっても……そこで自堕落にならず、一生懸命その世界の自分を生きてください。今度は、誰かを無為に傷つけたりなどせず。幸い貴方の罪は……桃太郎の世界の彼より。……僕よりはまだ、少ない回数で償えるものなんですから」
「あんた……」
彼は驚いたように目を見開き、僕の名札を見て――大きく、ため息をついた。
職員達も全員、どこかの世界の死者である。僕らももともとは自分達と同じ存在であったことを、ようやく思い出したのだろう。
「ノグチさん、とやら。……なんで、職員になったんだ。罪を償ったのに、次の世界に転生せずに」
此処で働くことを選ぶなんてもの好きだ、とよく訪れる客たちからは言われているのを知っている。この質問も慣れたものだった。
だから僕は、そのたびに笑顔で答えることにしているのである。
「そりゃ決まってます。……前の世界で貰った幸せを、貰った優しい気持ちを。今度こそ誰かの役に立つことで返したいって、そう考えたからですよ」
此処は異世界転生受付窓口。
来る客も職員も、変わり者と困り者ばかりが集まっている。望んだ世界に転生できるものなどひと握り。クレーマーは数知れず。疲れて休職する者も、いないことはない。
それでも。多くの魂が集い、生まれ変わる手続きをするこの場所で、確かに僕は知っているのである。
「だって誰かの不幸を願って生きるより、誰かの幸せを願って生きる方が……遥かに人生、楽しいじゃないですか」
罪は償わなければならない。それでも、洗い流すことはできるのだ。
人が誰かとの出会いと努力で、変わっていくことができるように。
ここは、魂が生まれ変わる場所なのだから。