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五月編5 スーパーで菓子を選ぶ

 

 娘の蘭とスーパーのトイレにこもっていた。他の客に迷惑だけど二人きりになった会長と御門少年が交流する機会を与えるためなんだ。

 腕時計を見ると三十分が経過していた。これだけの時間があれば流石に二人の仲に進展があるはず。

 私は蓋を閉めたトイレに座り絵本を夢中に読んでいる蘭に目をやった。


「蘭そろそろ出よう」

「うんっ」


 トイレから出ると腕を組んで私を睨む会長と困った表情の御門少年が待ち構えていた。話しかける前にカートに乗った籠を見ると商品は空だった。

 二人は無言で待っていたから、親睦が深まるどころか微妙な雰囲気になっていた。要は作戦失敗だ。


「長かったわね副会長。最近お腹の調子悪いの?」


 会長はオブラートに包む様に聞いたけど、十分悪意があってトゲのある声だった。待った分、滅茶苦茶私に怒ってますね。


「いえ……別に……」

「じゃあ30分もトイレで何してたの?」


 私のことを気に入ってるかライバル視かのどっちかだけど、しつこく追求され私はうんざりだ。

待ってる間、御門少年と会話した様子もないし、結局会長にキレられただけで終わった。


「妹がちょっと……」


 言い訳に利用してごめんね蘭。謝罪を込めて頭を撫でた。


「へえっあなた妹想いなのね副会長」


 意外だと言わんばかりの感想。いつも和かな私をなんだと思ってるんだ。

 まぁ、そんな訳で買い物が再開した。


「ねぇ副会長始めお菓子コーナー見る?」

「いえ、最初に重いジュースを籠に入れましょう」

「なるほど菓子を先に入れたら潰れるからね。流石副会長」

「……」


 誰でも思いつくこと褒められてもねぇ……そんな訳で1.5リットルのコーラとオレンジジュースを各二本づつ入れた。本当は生ビールを購入したかったが諦めました。


 続いて菓子コーナーに来た。


「ねぇ副会長は何が良いと思う?」

「ん……」


 だから私にばかり聞くな! その横にいる男子の意見も聴いて欲しいね。だけど彼は黙っているだけで意見を言わない。これは前途多難だ……


「副会長聞いてるの?」

「ああっ分かりました。私が食べたいお菓子をチョイスするから皆んなも好きなお菓子選んだらどうです?」

「それは良いわね。でっ副会長の菓子の好みが気になるわね」


 もう会長は私ばっかり気にかける。どうしたら御門少年に興味持って貰えるのかな? 私は苛立ちながら普段食べている菓子をやや乱暴に籠に入れていった。


「ちょっと副会長、ずいぶんと渋いお菓子のチョイスね?」

「えっ!?」


 会長にツッ込まれたので掴んだ菓子を見たら、それは酒飲み御用達の照り焼きイカゲソだった。慌てて籠に入れた菓子を確認すると皆同じ匂いのするツマミ系だった。


 これは菓子と言えるのか? 仮にそうだとしてもおっさんが好む系の菓子だ。


「ふふっ副会長っておっさん臭いツマミ好きなんだぁ〜?」

「ぐっ!」


 カリカリしてたとは言え、無意識に普段食べているツマミを籠に入れてしまい。それを見た会長が嬉しそうにツッコミ肘で私の胸に突いてきた。


『まじか……』


 同性とは言え胸を触られたのは初めてなので顔が一気に熱くなった。そして赤くなった顔を悟られない様に背を向けた。


「べ、別に良いでしょ……女子高生がイカゲソ好きでも……」

「ふふっ副会長イジると楽しいぃ〜さて、予算オーバーするからツマミ系全部棚に戻して」


 急に真面目モードに切り替わった会長。確かにツマミ系全般に高いから一つ入れただけで予算オーバーだ。

 本当なら私が全額出しても良いが、そこは規則正しい生徒会。限られた予算でやりくりするのが社会人になっても役立つ考えだ。


 だから私は会長の方針には口出ししないよ。


 それから皆お菓子を予算内で籠に入れた。あとは精算するだけなんだが、背後からスカートの裾を引っ張られた。

 振り返ると蘭がキュアムーンの食玩の箱を持って、物欲しそうに私を見つめていた。


「買ってパパ……」


『ちょっと!』会長の前でネタ餌を撒くんじゃない娘よ。私のポケットマネーから出してあげるからパパは止めて。


「今この子、副会長のことパパって言ったよね?」


 ほら早速好奇な目で会長が聞いてきた。私は首を横に振って否定した。しかし会長は勝ち誇る様に閉じた口の口角をあげていた。


「い、妹の蘭は私のことをパパと呼んじゃう癖があるのよ」

「ふ〜ん、だったらその癖直させた方が良いわよ」

「いや、別に私は気にしないし、小さな子に無理矢理辞めさせるのは良くないと思うわ」


 真っ赤な大嘘。滅茶苦茶気にする。しかし、会長の言う通り辞めさせても性格が歪む可能性があるからほっとく方針。

 それにちょっと恥ずかしいけど、私が娘にパパと呼ばれたからって誰にも迷惑かけてないからね。


「副会長が気にしないのならあたしもパパって呼んで良い?」

「……駄目よ」


 会長にあだ名にされないことを願うのみだわ。


 これで会計を済ませスーパーを出た訳だが、私の目的だった二人の親睦を深める目論みは失敗に終わった。

 まぁ逆に会長との距離は一層縮まった気がするが、それじゃ駄目じゃない?


 いやまだ策はある。


「あのっ皆さんよろしかったら私が奢りますのでお昼のランチ行きません?」

「へ―副会長がお昼奢ってくれるの?」

「よろしいですよ」


 どうでも良いけどさっきから会長としか会話してない。それに引き換え御門少年は黙りだ。

 いやいや、口下手なのは仕方ないけど、この少年と生徒会長を卒業までにくっ付けろって無理ゲー過ぎるっ!


 私は心の中で頭を抱えた。


 いや、落ち着け、落ち着くんだ。私は人類を代表してスピラリス星人とリアル恋愛ゲームのプレイヤーだ。

 ゲーム序盤からクリアなんか不可能なんだから、序盤から考えながら進めていく。


 そうまだ時間はある。次の私の選択は会長と御門少年をレストランに連れて行き交流の機会を与える。

 そうなると会話が弾み協力し合う食べ物が良い。それはすなわち焼き肉だ。


「あのっよろしかったら焼き肉に行きません?」


 私は手の平を合わせ笑顔で聞いた。


「やっぱりあんたの食の趣味おっさん臭い」

「ぐっ……」


 会長の余計な一言に私は撃沈しそうになった。

 確かに焼き肉と言えばビールでおじさんの大好物だけど、若い子も大好きでしょう?


 とりあえず焼き肉屋に行くことに決まったけど、幼い蘭が煙を吸わない様に、個人店より空調設備がしっかりした大手チェーン店を選んだ。


五月編はボクシングで言うジャブの段階で、何気ない日常メインになります。

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