第一回恋愛防衛隊作戦会議
国防総省本部でスピラリス星人と開始した恋愛ゲームについての対策会議が行われていた。
会議を主導したのはこの私だが、女の子になったあの日に居合わせた隊員以外、特に年配のお偉い様方は奇異な目で見つめていた。
まぁ仕方ない。何せ極秘会議を主導するのが女子高生姿の私なのだから……
自分で喋っていて、耳から聞こえる可愛らしい己の声に困惑しているのだから。
「では、皆様お揃いの様で本日恋愛ゲームについての作戦会議を始めたいと思います」
すると早速防衛省の熊田大臣が手を上げた。
「本当に君が陸上自衛隊幕僚長の鮫島君かい? あのたくましい男がこんな可憐な少女になる何てにわかに信じられん」
「おっしゃる通りです。しかし、スピラリス星人の驚愕の科学力を見たことでしょう。ですから、少女型素体に男の魂を移し替えることなど造作もないのです」
「……そうか、まぁ頑張ってくれたまえ」
肥えた身体の熊田大臣は眠そうな目で言った。分かったからそのまま眠ってくれ。
さて会議を進めるか。
「スピラリス星人が指定した少年少女は同じ桜橋高等学校に通う三年生。少年は取り柄のない引っ込み思案の性格で、一方少女の方は男子なら大好きな腰まで伸びた黒髪に容姿端麗成績優秀な完璧生徒会長です」
私がターゲットのデータを説明すると周りがザワつき始めた。
「何てこった。取り柄のない少年が完璧少女に告白を成功させる? ハッキリ言って無謀な賭けだ」
お偉いさんの誰かが弱音を吐いた。
「確かに困難ですが、猶予は卒業まで一年あります」
「何を言うか君はー人類滅亡までたったの一年だろ? そもそも、卒業前に少年がフラれたらお終いなのだろ?」
「確かにそうですが、私は少年の奇跡を信じ陰からサポートして勝利に導きたいと思っております」
「まぁまだ始まったばかりだからのう。それより大丈夫なのか君のルックスで告白を回避出来るのか?」
いかにも色好きそうな狸親父が、私の身体と顔を舐める様に見て聞いてきた。
そんなこと充分承知だ。私の身体は結構胸もあるし顔も良い魅力的な美少女に仕上がっている。作った異星人は告白されるリスクを与えるために美しくしたと思う。
「とにかく私はターゲットの少年少女が通う桜橋高校に転校生として入学し、接点のなかった二人を引き合わせ生徒会に参加し任務を遂行したいと思います」
私は教壇の前に立って高らかに宣言した。しかし、一部の人しか拍手はせず困惑していた。
分かっている。ここにいるのは頭の硬い役人ばかりだ。これから私が相手にするのはうら若き高校生だ。感受性鋭い若者たちは嘘何かすぐに見抜き、真剣に向き合わなくては私の正体など簡単に見抜かれてしまうだろう。
だから女子高生鮫島楓でになり切る覚悟が必要。
こうして第一回作戦会議が終了した。
◇ ◇ ◇
名も知らぬ男子生徒から告白されてから翌日。消極的なターゲットの少年と真逆な実に眩しい少女をくっ付ける行動に移ることにした。
幸い恋敵は見られないので今の内にくっ付けときたい。しかし、油断は禁物だ。告白が失敗に終わったら人類は滅亡してしまう。
だからじっくり交流を重ね二人の仲を親密に導くつもり。
そう意気込んだ私は朝一に生徒会室に乗り込んだ。
「あら早いわね副会長」
「あ、生徒会長こそ、お、おはようございます」
いつもなら遅く登校してくる生徒会長椿が珍しく、私より先に登校し椅子に座っていた。
それに私から視線を外さず観察するその目が、正体を見抜かれそうで恐ろしい。
「あっ……あっそうね、無糖の紅茶でも入れましょうか?」
苦し紛れに戸棚からティーカップを出した。
「貴女何者なの?」
「えっ!」
唐突に聞かれ振り向くと生徒会長が目の前に立っていた。
「ちょっと近いですわ」
「実にエレガントな君が昨日見せた苛立ちの表情が凄く気になるの……」
矢張り特に彼女は鋭い。ちょっとした違和感を見抜く。だから一瞬でも気を抜いたら正体がバレてしまう。
正体がバレたら我々の負けで人類は滅亡してしまう。だから気は抜けないな。
「……嫌ですわ。壁に手をぶつけて苦痛で顔が歪んだだけですわ」
「本当にそうなの……」
疑い深げにじっくりと私の目を見すえる生徒会長。
「ふふっですわ。それより紅茶飲みますか?」
こんな時に役立つのが紅茶です。
「悪いが、ミルクと砂糖はあるかい?」
生徒会長は席に戻り肘を突いて聞いた。私への興味と疑いが晴れ気分は上機嫌な様子。
「ええ、もちろんありますよクリープと角砂糖が」
「それじゃあ角砂糖三つ入れて頂戴」
「分かりました」
良かった紅茶のおかげで様様です。
さて、この一筋縄ではいかない完璧女と取り柄のない少年を親密にさせるのは至難の技。
だけど恋愛防衛隊司令官の誇りに賭けて任務を達成します。