侵略星人ボルトの提案
一度人類は陸上総体総司令官である私、鮫島健介を残し滅亡した。
信じられない話だが、それは一ヶ月前にさかのぼる。
突如人類の前に現れた空飛ぶ円盤の大軍は世界各国を侵略し、いや、滅ぼし侵攻して行った。
そしてその魔の手は我が国日本にも及び、陸上総体最高責任者である私自ら戦車に乗って指揮し戦った。
戦場は日本全土だが、我々主力部隊は東京の防衛を任された。
「鮫島司令官っ大型の皿ダチョウ十機降下しました」
私の右腕の狗飼が報告した。若いのに中々腕の立つ自衛官だ。
「たったの十機とは舐めたものだと言いたいが……」
皿ダチョウとは正体不明の異星人の兵器の呼び名だ。まあ、勝手につけた訳だが、円盤に逆関節の長い足がついた形状からそう私が名付けた。
「攻撃しますか?」
「…………止むおえん。撃て」
私の命令で戦車隊が皿ダチョウ目がけて一斉砲撃。しかし、謎のバリアに砲弾が吸い込まれて消えた。
「駄目です鮫島幕僚長っ!」
「……矢張り効かぬか……」
皿ダチョウを覆うバリアは通常兵器が機体に着弾する前に異次元の彼方に消え去る。つまり効かない?故に一機であろうと充分脅威であり、だからたった十機のみでも東京を壊滅させるのは可能な数だ。
それだけ異星人の軍事テクノロジーは神の領域まで登り詰めていた。
異星人は手始めに某大国を見せしめに攻め落とし、小国はおろか他の大国まで残らず滅ぼされた。そして最後に残った国が我が日本だ。
何故奴らは日本を最後に残した? そこが疑問に残る。
「鮫島司令官っ皿ダチョウが攻撃体勢に移りました!」
「チッ怯むなよ!」
皿ダチョウから三機の小型円盤が分離して三角形の陣形を取った。そして編隊の中央の空間から高出力のプラズマストームレーザーを掃射させた。
「来ますっ!」
「分かってる」
だが、どうにもならん。
プラズマストーム風レーザーはビルを飲み込み、逃げ惑う市民や車をなぎ倒しながら、稲妻状の巨大レーザーが我々を呑み込んだ。
◇ ◇ ◇
私が目を覚ました時にすでに周りは焼け野原だった。しかし運良く私は額に血を流しただけで無傷だった。
しかし、部下の狗飼は両手足を失い傍らで倒れていた。
「おいっしっかりしろ狗飼っ!」
「さ、鮫島司令っ……あ、あとは、我が日本を頼みます……」
「おいっ狗飼ぃぃっ……」
「…………」
狗飼は私に抱かれ絶命した。
「日本を頼むか……当たり前じゃないか」
私は立ちあがると空を見あげた。上空に東京ドームサイズの巨大な円盤が浮かんでいた。
「私は逃げも隠れもしない!」
拳銃を取り出し円盤に向かって構えた。
すると、円盤の底の部分から一線の黄色い光が地上を照らし、一人のエイリアンが現れゆっくりと降下した。
「なんだアイツは……」
恐らく異星人の姿を見たのは私が最初で最後だろう。この異星人の姿は身体中がネジの様に渦巻いた銀色の異質な形状だった。
一般に言うグレイタイプとは異なるタイプだ。
ソイツが地上に降り立つと歓迎するかの様に両手をあげた。
「初めまして、私は銀河系第八惑星スピラリス星から来たスピラリス星人地球壊滅軍総司令官ボルトです。以後お見知りおきを……」
ボルトとか名乗った異星人は紳士的にら深々と頭を下げた。地球を破壊してお見知りおきをって洒落にならんぞ。
「……」
たった一人になっても私は祖国を守るために絶対に怯まない。だから銃口をボルトに向けている。
「おやっ……私は地球の言語に合わせて話しかけているのですが、聞こえてますか?」
ボルトは耳に手を当てるジェスチャーで聞いてきた。そもそも耳なんかあるのかよ?
「地球を破壊して何のつもりだ?」
「おやおや、話しが通じるじゃございませんか、ふむ、目的は地球人の殲滅。同族同士殺し合う人類は余りに野蛮で愚かだ。故にスピラリス星評議会で殲滅が決まった」
「だから攻めて来たのかっ!」
たった数日で家族や友人、部下や多くの人々が命を落とした。奴らは話し合いもせずにだ。
私は無力感に打ちひしがれ膝を突きうなだれた。
「どうしました?」
「ヤレよ……私一人生き残っても仕方ない」
「そうですか……ですが君が死ぬことは許されない」
「何だと!」
私は首をあげた。
「殲滅以外に私は知りたいことがあって、辺境の惑星地球まで来ました」
「どう言うことだ……」
「その前に」
ボルトはパチンと指を鳴らすと一瞬で世界が再生した。
「なっ馬鹿な一瞬で元通りだと?」
横を見ると手足を失い絶命した狗飼が元通りの身体になって、不思議そうにしていた。
「我々が地球内部に仕込んでいた超巨大時空装置を反転させたから地球が元に戻った。だが、今すぐにでもまた壊滅出来る」
ボルトの丸い眼球が紅く光った。
「分からんっわざわざ再生させたのに、また破壊出来ると脅す?」
「ふっそれは君たち人類とゲームをしたいからだよ」
「ゲーム?」
「そうゲームだ。少し話しが脱線するが、我々スピラリス星人は機械の身体で性行はしないで工場で生産される。故に愛と言う概念がない」
愛だと……一体何を言ってるんだ……まぁ、時間稼ぎになれば何でも聞いてやる。
身振り手振りでボルトは話しを続ける。
「私は愛を知りたい。だから提案する。私と君でゲームをしよう」
ボルトは私に指を指し指名した。なるほど、だから私だけ生かしたのだな。
「どんなゲームだ……」
「ふっふ、まずはこの映像を見てもらおうか」
ボルトは指を鳴らすと上空に巨大スクリーンが現れ二人の少年少女の姿が映し出された。
二人は高校の制服を着たごく普通の市民に見える。少年の方は特徴のないごく普通の見た目で、少女の方は長い黒髪にとても美しい顔立ちで少年とは対照的だ。
「あとで詳しい資料を提供するが簡単に説明する。引っ込み思案で見た目も地味な少年は、同じ高校に通う生徒会長の容姿端麗成績優秀で皆の憧れの的のこの少女に恋をしている」
ボルトの解説を聞いて二人の関係は月とすっぽん。酷な様だが現時点では恋愛成就は至難の業と言えよう。
しかし、ボルトが提案したゲームと関係があるのか?
「ふっそこでだ。新学期が始まり卒業までこの二人が恋人同士になれば人類の勝ち。だが、途中少年がフラれたり卒業まで恋愛成就出来なかった場合我々の勝ちとして人類を滅ぼす」
「お前っそんなことのために、再び人類を滅ぼすのかっ!?」
「無論だ。私は大真面目なのだそう、私は愛が知りたい。ゲームを通して君たち人類の愛が勝利する姿を見せてくれ。
私はそのために地球まで来たのだ」
愛を知りたければホームステイでもして平和に行えば良いと私は思うが、宇宙人の考えることは人類の常識を超えていた。
「司令官よ私の提案を呑むか?」
ボルトが手を差し伸べる。私はおいそれと返事は出来ない。
「ゴフフ……私からの提案を拒否すれば問答無用に地球を更地にする」
独特な笑い声でボルトは脅す。
「ちょっと待て!もっと詳しくルールの説明してくれないと首を縦には振れんぞ!」
「そうか、もっともだな良かろう。細かいルールを説明しよう。先ずは私が指定した少年少女が一年以内に恋人同士にならなかったら地球を滅ぼす。逆に恋が成就したら私の負けで侵略を取り止め褒美として高度な宇宙科学技術を提供し、他の侵略宇宙人から未来永劫守ってしんぜよう」
悪夢の侵略者が味方となればこんな心強いことはない。宇宙科学も手に入るし悪くない提案だ。
「だがまだ細かいルールがあるぞ。誰か一人代表者が私が用意した素体に魂をまとってもらいターゲットの少年少女の身近でサポートしてもらう」
「そんなことして良いのか?」
「まぁ話しを最後まで聞け」
ボルトは指を鳴らすと円盤から2メートルの筒状のカプセルが降りて来た。表はガラス張りで中が見えた。
「おいっ少女を拉致したのかっ!?」
カプセルには裸の少女が眠らされていた。
「君は少し落ち着いて物事を考えた方が良い。カプセルの中に眠る少女は我々が作った人工生命体。とは言え魂は入ってないから誰かこの少女に魂を移す者はいないか?」
「……要するに、この少女になって少年少女をサポート出来ると言うことだな?」
「イエス。だが良く考えろ。次のルールを説明する。もしこの少女になった者がターゲット以外の学生に告白された場合ペナルティーとしてランダムで国一つを滅ぼす」
「何だって!」
「そう驚くなよ。そうでなくてはゲームは成立しない」
ボルトが手を振って説明する。表情は全く見えないが、皮肉の笑みを浮かべてる様だ。
「一つ聞いて良いか?」
「宜しい」
相変わらず偉そうだなスピラリス星人。
「もしも日本が選ばれたらどうなる?」
「んーまぁしょっぱなから日本が選ばれたらそこでゲームは終了だ。だから、ターゲット以外の生徒に告白された場合は日本以外の国が滅ぶ。そして、ターゲットに告白された場合は関東以外の地域を滅ぼす」
「……それは中部や四国みたいな区切りか……」
「イエス」
「……」
何たるルール。残念ながら私の実家は関東ではない。もしもと思い目眩がしてきた。
だが私に人類の命運がかかっているのは間違いない。だから気を取り直して質問を続けた。
「サポートして良いのは分かった。だが、どの程度か分からないから線引きを教えてくれ」
「イエス。上手くターゲットの輪に入ってくっ付く様に誘導するのは可能とする。しかし、この秘密を政府関係者以外に喋ったら問答無用で世界を滅ぼす」
「分かりやすいルールだが厳しいな……」
「ふむ、くれぐれも我らの目を盗んで秘密をバラすなよ」
高度な宇宙人の科学技術の目からは逃れないと言うことか。
「それと不用意な人物をコッソリ暗殺することも禁止だ」
「不用意とは?」
「んっ恋愛に精通している人類なら分かるだろう? 恋愛主人公の宿敵である恋敵だ」
「まさかそれも用意してるのか?」
「いや分からん。しかし、世の中は科学でも説明出来ないことが起きる。だから分からんぞ。ゴフフ……」
ボルトは漫画みたいな笑い声で締めくくった。とは言え宇宙人の科学でも解明出来ない物事があるのだな。
「大まかな説明をしたが、不明な点があればあとからでも答えてやる。さて、サポート役のこの素体に魂を移し替える者は手をあげてみよ」
「……」
失敗すれば人類滅亡な重大な任務に手をあげる部下はいなかった。
「お前はどうだ?」
隣にいた狗飼に聞いてみた。すると彼は首を横に振って『そんな趣味ありません』と断りを入れた。
全くどいつもこいつも全人類の危機だと言うのに悩んでる場合か。
「分かった。私がその任務引き受けよう」
私は手をあげた。
「鮫島幕僚長っ!」
「止めるなよ狗飼。この重要な任務私以外誰がやると言うのだ?」
私は肩を掴み狗飼をなだめた。
「……済みません。この様な重大な任務を鮫島司令官に任せるなんて……」
「ふふっ良い。なぁ私も若者の力を信じて自らサポートしたくなって心がウズウズしてるんだ。だから任せろ」
「はいっ我々も全力でサポート致します!」
話しはまとまった。あとはカプセルの中の少女になるだけだ。
「おいボルト。私は覚悟は出来ているぞ」
「ほうっ矢張りお前か……良かろう船の中へ」
「ああ頼む」
心配する部下をよそに私は光の柱の中に自ら入り宙に浮く円盤の中に吸い込まれて行った。
そのあと少女型素体に魂を移す作業は、たった3分で終了して異星人の科学力に舌を巻いた。
私は慣れぬ女子の身体に困惑していると背後からボルトが声をかけて来た。
「いかがかな、我々が用意した素体は?」
「ん……身体が軽く悪くないが、いささか魅力的に作り過ぎやしないか?」
円盤内部のメタリックな壁に映ったとても美しい少女の姿になった自分を見て聞いた。
するとボルトは見えない椅子に座ると片手を振った。
「何を聞くかと思いきや聡明な君なら分かるだろ?」
「……男子に告白され易い様にあえて魅力的に作った?」
「ご名答。コレは侵入して直接サポートするリスクだ。困難があるからこそゲームは面白いのだ」
「成る程……しかし厄介ね」
腕を前に組み睨んで見せた。
「ほうっもうスイッチを入れたか……」
ボルトは感心した様子だ。
「ええ、すでにこの日から貴方方スピラリス星人との人類の存亡を賭けたゲームが始まった。ですのでなり振りかまっていられません。そして宣言します。我々人類最大の武器である愛が必ず貴方方に勝つでしょう」
「ほう〜面白い。私に愛を見せて見ろ……」
改めて鮫島楓はスピラリス星人人類殲滅隊最高司令官ボルトに指差し戦線布告した。
翌日早々この作戦のための部隊を結成させた。総司令官は私で部隊名は不殺の軍隊その名は恋愛防衛軍。