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生徒会の朝

 

 桜の花が散り始めた新学期の通学路。 


 私が登校すると大抵の男女問わず足を止め。羨望の眼差しで振り向いてくる。これを言っちゃうと自慢になるが、この私の容姿端麗の姿が眩しいからだ。

『いや、それこそ自慢だろ……』まぁいいか。


 私は正門に止まる。

 三週間前転校してきたばかりでようやく慣れてきた。私か通う高校は都内でもトップレベルの進学高で、校名は私立桜橋高校。


 それで私は転校早々話題になった。さらに一週間後には生徒会長にスカウトされ生徒会に入部した。

 まぁスカウトされた理由を考えると多分。私が今もっとも話題性があり生徒会の一員になればより注目が集まるからだと思う。

 とは言え結局理由が分からないのが正直なところ。だから私が生徒会入りしたのは運命だと受け入れた。


 さて、下駄箱で上履きに履き直すと、教室に向かわず三階にある生徒会室に向かった。行く途中知り合いとすれ違い挨拶しながらたどり着いた。


 私は古い引き戸タイプのドアを開けると、一人の男子生徒と目が合った。私が一番先だと思っていたが、その上をいく真面目君がいるんだな。


「副会長おはようございます」

「あっおはようございます御門君。朝早いわね」


 私はドアを閉めるとニッコリ笑って返事した。そう恐縮だが、たまたま副会長の空きがあったからその座についた。

 なに私の実力ならいずれは副会長になれるハズだ。しかし時間が短縮出来て良かったと思う。詳しく言えないが、私に残された時間は少ないのだ。


(……………)


 しかし、背中に蕁麻疹(じんましん)が走りゾワゾワした……慣れない仕草などするものじゃないな。


 とは言え、私に挨拶したのは三年男子の御門渉(みかどわたる)。ルックス成績運動共に並レベルの冴えない男子だ。私は訳あって渉を生徒会に誘ったのだ。


「御門君いつも朝早いわね?」


 換気の為窓を開けながら聞いた。まぁ黙っている訳にはいかないからね。


「そうですか……うん、なにも取り柄のない僕に出来るのは誰よりも朝早く来て、生徒会の準備をするだけですからね」

「……そうなんだ。でも自分に自信を持たなきゃ駄目ですよ御門君」


『なるほどそう言う理由で一番乗りしているのか……』だがやはり先を越されて悔しいぞ。

 それで私は引きつった笑みを浮かべながらお茶の準備をした。


「ははっそうですね」

「ふふ……」


 御門が笑い私も釣られて笑ったがこっちは愛想笑いだ。本当は君に自信を持ってもらわなきゃ困る事情があるんだ。

 まぁ、今は言えない。


「熱い紅茶を入れました」

「えっ紅茶ですか?」

「ええ無糖だから大丈夫ですよ」

「それじゃお言葉に甘えて」


 御門少年がティーカップに手を伸ばすとドアが開いた。


「また紅茶飲んでる。貴方たち校則違反よ」


 凛とした少女の声だ。


 振り返ると入り口のドアに寄りかかり腕組みする少女。そして『フンッ』と首を振ると腰まで伸びた黒髪が揺れた。

 そんな彼女に御門少年は目を合わさない。それは嫌っているのか? 

『いや違う』うぶな少年は彼女のことが気になるのか気恥ずかしくて目を合わせられない。

 それほど彼女は容姿端麗なのだ。私とは違うタイプで非常に魅力的だ。


 そんな彼女が眉を釣り上げて我々を睨んでいた。


「相変わらず手厳しいわね生徒会長」

「副会長貴女は甘過ぎるのです」


 そう言って彼女はズカズカと歩いて鞄を乱暴に机に置いて椅子に座った。

『なんだろう?』彼女は真面目な性格で私たちが校則違反の茶飲みをこっそりしているのを良く思っていないからかな?


 さて、彼女の名は宝石椿(ほうせきつばき)

 学園一と名高い美少女で、桜橋学園三年生徒会長だ。しかし、私が転校してきたことでその地位も危うくなったがその美貌と人望は盤石なな人気だ。


「ふふっそうおっしゃらずに会長も一杯いかがですか?」


 気の強い彼女に怯まず私は白い陶器のポットを持ってお茶を勧めた。なに、私はこの程度では動揺しませんから……。


「鮫島副会長、貴女が甘やかすから部員がたるむのです」

「そうですかぁ、でも私、転校して間もないですからぁ」


 口に手を当て困ったフリをした。あー慣れない芝居に背中がピリピリして拒絶反応する。


「しかし君は可憐な容姿なのに、やけに厳つい苗字だな……」


 ほら私の苗字についてイジられた。『鮫島』なんともハードボイルド推理小説的な苗字だよね。

 まぁ仕方ないでしょう。親から引き継いだ苗字なのだから。変えたくても変えられない。


『まぁギャップ萌え』と言うことで人気の要素の一つだ。


 生徒会長は横目で私を睨んで紅茶に角砂糖三つ四つ入れた。コーヒーなら分かるけど、紅茶にその砂糖の量はないんじゃない?

 甘過ぎて飲めたものじゃないよ。ま、個人の自由だね。


「ふふ……良く渋いって言われます」


 さて、私は愛想笑いを浮かべ窓に写った己の姿を見た。


「……」


 腰まで伸びた銀色のサラサラストレートヘアーに、容姿端麗成績優秀の優等生なんだな一応。


 私の名前は鮫島楓(さめじまかえで)。桜橋学園三年生徒会副会長だ。現在学園ナンバー2の人気女子高生だ。しかし、私はこの人気は全く持って不本意だぞ。詳しく言えんが浮かれるどころか足を引っ張る要素なんだ。


「しかし鮫島っ君の様な優秀な生徒が生徒会に入ってくれてあたしは感謝しているぞ」

「か、会長……」


 椿が私にハグした。『んっ』椿はスタイルバツグンで胸が当たってドキドキする。

『思春期真っ只中の男子高校生かっての!』まぁ、ある意味当たっている……。


「生徒会長に副会長おはようございます」


 生徒会の一人二年男子の田中(しげる)が挨拶して入って来た。眼鏡をかけた彼の顔はまぁ普通で積極的に告白するタイプじゃないので安心出来るタイプ。


「あ……こんにちは」


 鞄を背負いよそよそしい態度で生徒会室に入った来たのは一年女子の村上小丸(こまる)さん。黒髪おかっぱ頭が可愛らしい子だよ。


 以上が生徒会のメンバーですが、コレと言って危険人物はいない様ですね。ああ、私が言う危険人物とは女の子に告白する様な輩のことです。

 告白されたら断れば良いと思う人もいるでしょう。でも私の場合違うんです。告白されてはならない秘密があるのです。


「ところで最近下級生に告白されて困ってるのよ」


 椿が私に愚痴を言った。愚痴を言う程親しい仲になっていたからだ。


「新入生たちだから仕方ありませんね。同学年なら貴女の性格を知って声をかけないのにね」

「副会長〜人を鬼みたいに言うな」


 本当のことを言った訳だが、しかし一方私は転校して間もないのに同級生男子に告白された。

 常に微笑む優しげな私はスキのない生徒会長と違って告白しやすい雰囲気に見えるらしい。


 当然断ったけど告白されてはいけなかったのだ……。


「あらっ副会長どうしたの?」

「えっ!生徒会長私が何か……」


 急に椿に声をかけられたのでちょっと動揺した私は振り向いた。


「なにかって神妙な面持ちでどうしたの?」

「ふふっ気のせいですわ。さて、お代わりはいかがです?」


 彼女に心情を読まれない様に笑って誤魔化し、気を取り直してポットを持ち上げた。

 最初は不審げに私を見つめていた椿だが、その表情は和らぎいつもの彼女に戻って部員たちと談笑始めた。

 やれやれ、ここに来て演技力が必要になるとはね……。


 コンコンと誰がドアをノックしたので私が応対した。


「はい。どなたですか」


 ドアを引くと見知らぬ男子生徒が起立していて目が合うと手紙を私に手渡した。


「副会長好きですっこっコレ受け取って下さい!」

「あ……」


 手紙を受け取った瞬間見る見る血の気が引いた。私の気持ちを知らぬ男子生徒は手紙を渡すと立ち去ろうとした。


 ピピッ……!


 私がはめている首輪から警告音が鳴り響いた。生徒会の皆んなは何ごとかと私に注目した。

 しかし、それどころではない私は急いで男子生徒の後を追い左手を掴んで止めた。


「えっ副会長……」


 振り返った彼は告白が上手くいったと勘違いしたのか笑顔だった。ごめんね違うよ。


「悪いけど手紙は受け取れないしごめんなさい」


 私は彼にお辞儀して断った。


「はは……そうだよね……悪かったね急に告白して」


 そう言って彼は後頭部を掻きながら立ち去って行った。


「……」


 私は告白されたショックからしばらく立ち尽くしていた。


「くそっ!」


 苛ついた私は思わず壁を強く叩いた。理由は言えないが、告白だけはされてはいけなかったんだ。


「全く迂闊(うかつ)だったわ……」


 思わず口を手に当てて呟いた。額から冷や汗が流れ落ちた。

「急に走り出しと思ったら彼を振って挙げ句、壁に八つ当たりしてらしくないわよ」

「!?」


 ふと振り向くと心配そうに私を見つめる椿に声をかけられた。あとをつけられていたのに気づかなかったのが何たる失態だ。


「な、なんでもございませんよ。あのつい、転びそうになってとっさに壁に手を突いたのです」


 苦しい言い訳だが……。


「大丈夫? 手に血が滲んでるよ。良かったら保健室行く!」

「……ふふん、大丈夫です。血はすぐに止まりますから」


 ええ本当にこれぐらいの傷ならすぐ治るんだ。だから今見るとかすり傷が消えていた。


「本当に大丈夫だからお構いなく」


 完治した右手を後ろに隠して左手を振って後ずさりして笑顔で職員室に向かった。そのあと授業を終えて、放課後生徒会長の書類作成の手伝いを終えたらすでに、夜6時を過ぎていた。


「付き合わせて悪いかったわね副会長」

「ええ、よろしくてよ」

「……ところで貴女、下級生からの告白断ってから壁を叩いていたけど、振った側が苛つくのは変じゃないの?」

「ん……」


 もっともでございます。だけど私にも人に言えない事情があるのです。特に椿さん貴女はね……。


 まだ朝の私の態度を気になっていたのか、だからと言って訳を話すことは出来ない私はすっとぼけた。


「もう遅いから帰りましょう」

「あ……ええそうね……」


 いつもと変わらない私の態度を見た椿は納得して帰り支度を始めた。そして生徒会室の鍵を閉めて途中まで一緒に帰ることにした。


「ところでさ、副会長の家はどこなの?」

「え〜とっちょっと遠いお台場海浜公園のマンションです」

「えっ結構遠いわねっしかもそこ家賃高くない?」


 高校が建つ鶯谷エリアからJRからゆりかもめの乗り換えで結構な距離だ。しかも彼女の言う通り家賃は高い。

 だけど私はそこに住んでいるんだ。色々事情があって変えられない。


「う〜ん、まぁ私が家賃を出してる訳じゃないしねぇ……」

「副会長の両親セレブだもんねー羨ましい。で、お父様の職業は?」

「えっ……」


 頭の良いのに他人のことグイグイ聞いてくるな。


「えっと、これ言って良いのかしら……」


 私がためらっていると椿が興味津々と顔を見つめていた。仕方ない。別に教えても良いけど。


「最初に絶対誰にも言っちゃ駄目ですよ」


 指差し釘を刺しておいた。まぁ彼女なら約束守るでしょう。


「私の父親は陸上総体総司令官よ」

「わおっ副会長の親父さんって滅茶苦茶偉い一人じゃないですか? 成る程だから高級マンションに住めるのね」

「いや、そんなことは……」


 だからと言って国民から頂いた税金で暮らしてると思うと申し訳ないんだ。だから自慢は絶対にしてはいけない。


「では逆に会長のお家は近く?」


 学校を出たところで聞き返した。あぁ、数少ない会話ネタの一つを消費した。『はは……』理知的に見えて裏で結構苦労してるのですよ。


「んんっ? 私の家は上野でいつも大好きな博物館を通って歩いて通ってるよ」

「そうですか、確かに上野公園は他にも美術館や動物園があって知的好奇心を刺激する良い場所ですね」

「でしょー」

「でも、夜道を歩く時は気おつけて下さいね」

「うん。そう言う副会長もだよ」

「ふふっですわね」


 お互い気を遣い別れた。

 私は電車に乗って乗り換えて海浜公園に着いた。


 ビルが立ち並ぶ辺りは人通りが少なく治安もよろしくない状況だ。セレブが住む場所だとしても、どんな人間でも夜中まで徘徊出来るから治安が悪い理由だ。


 すると背後から数人の足音が聞こえてきた。


「……」


 人数は三人で靴音からして品のない輩だ。背中から受ける視線が自分に向けられていると気づいた。それでも知らんぷりして歩いていると。


「ちょっとお嬢さん」


 輩に呼び止められ私は足を止めた。


「今から俺たちと遊びに行きませんか?」


 頭の悪そうな茶髪の男が回り込んで誘ってきた。


「済みません。私未成年なので」


 私はニッコリ笑って輩をすり抜け歩き始めた。全く制服着てるのに分からないかなぁ?


「おいっ待てよ!」


 輩が乱暴な声で私を呼び止めた。全くその呼び止め方、どこぞのタクアンですか……。


「なあっ俺たちが声かけたのに断るなんて生意気だな」


 背後から輩が私の右肩を掴んだ。はい。先に手を出したね。そのあと反撃しても正当防衛ってことで罪には問われない。ただやり過ぎは逆に逮捕されるから注意ね。


「はっ!」


 私は輩の手を掴んでそのまま背負い投げした。


「てめっ!」


 続いて坊主頭の輩が私に殴りかかる。しかし私はバク転して宙に舞い交わし、着地後背中にハイキックを与えた。


「ぐあっ!」

「残り一人」


 最後に残った輩の懐に飛び込んで腹部に正拳突きした。


「ぐっがっ……」


 私にしがみつき崩れ落ちる輩。ちょっとドサクサ。脱げるからスカートは触るな。


「やれやれ……今はそれどころじゃないのに手間をかけるな」


 警察に連絡しようとスマホを取り出すと丁度着信が入った。私は発信者名を確認すると電話に出た。


「もしもし私だ」

『鮫島司令官大変です!』

「……狗飼(いぬかい)か……どの国が滅んだ?」

『報告します。中央アフリカにあるマカダミア共和国がたった今、エイリアンによって壊滅しました……』

「……そうか……直ぐに戻る」


 私は電話を切って急いでマンションの地下駐車場に向かった。自分で運転して防衛省本部へと向かうためだ。

 もちろん免許はあるし、制服着たまま運転するのは訳あって特例だ。まぁ事情を知らない警察官に止められると説明が厄介なのだが……。


 自家用車に乗り込みハンドルを握ると私は独り言を呟く。


「マカダミア国が異星人によって侵略されたのは、今朝私が男子生徒に告白されたからだ……」


 そう私に男女問わず告白されるとランダムで国一つが異星人の攻撃を受ける。そう言う約束したゲームのペナルティだからだ……。

 だから私はハンデとして魅力的な容姿なのだ。


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