秘密の婚礼
「秘密の婚礼」
とうとうここに辿り着いた
昔 俺のファミーリァがまだ沢山居た頃さ
味方のヒューがまだ身の回りに沢山居た頃さ
放射能鬼の大群が俺のファミーリャを蹴散らし食い散らかした晩の
もっともっと昔の頃さ
しわくちゃで腰が曲がったヒュー
あの、じいが言っていた所
昔々は「婚礼」といって
ソロの男と女がペアールになる時は
沢山のソロやペアールやファミーリァが集まって
「婚礼」と言う儀式をしたそうだ
「教会」と言う所で集まったソロやペアールやファミーリァの前で
お互いに相手を守ると言う誓いを立てたそうだ
本当かどうかは判らない
だってそんなにヒューが集まったりしたら
舌なめずりした放射能鬼やヒュー食いクズリの襲撃を受けるんじゃないかな?
まぁ、いいや
そして
そのあとで
皆で豪勢な食い物やケーキとかいうものをたらふく食べて
歌ったり踊ったりしたそうだ
まるで放射能鬼やヒュー食いクズリを引き寄せる様にだぜ
それにケーキって一体なんだ?
白やら赤やら茶色やらの甘くて丸いものだそうだ
どうせ じいのほら話だと思うけど
その事をお前に話したら
その「婚礼」をしたいというから
何日も何日も駄々をこねるから
俺たち散々やばい思いをして
じいが言っていた「教会」の跡にやって来た
ヒューが沢山集まるところだと言うから
さぞかし立派な要塞なんだろうと思っていたら
崩れた薄い壁に囲まれたしょぼいところだった
まぁ、いいや
話に聞くのと実際に見るのは大抵すげぇ違うもんだよな
そして俺達はそばに流れる川で交代に体の垢を落とした
垢を落とした俺たちは「教会」の跡の前に立った
用心深く周りをチェックして
放射能鬼やヒュー食いクズリや何よりも恐ろしいサィバティーゲルがいないかチェックしてから
身につけた武器を全部はずして
崩れた壁に立てかけた
信じられるかい?
俺たちは今
ライフルもピストルもHGもナイフもバトンも持ってない
すっからかんの丸腰なんだぜ
俺はなけなしのライフルの弾50発!と交換した
白い薄い布(これが本当に空の雲みたいに白いんだ!)を
お前の頭にかけた
そして俺たちは手を握り
周りを警戒しながら「教会」の奥に進んだ
その昔
無実の人たちの身代わりに交差した木に貼り付けられて死んだという
髭を生やした貧相なソロの木像が
斜めに壁に立てかけてある所まで行った
あのソロは釘付けになったのになんで優しそうな顔をしてるんだ?
昔の奴らは何を考えてるかちっともわかんねえや
生きたまま木に釘付けなんて
俺だってそんなのをじっと見てたら気分悪くなるぜ
貴重な弾を使ってでも頭を撃ち抜いて楽にしてやるよ
まぁ、いいや
こいつはただ木を削ったものだから
俺たちはじいに聞いたとおりに
そのソロの木像の前に膝まづいて
じいが言ってた
呪文を言った
お互いにケツを守りあって生きてゆく
どっちかが死ぬまで守りあうと言うやつだ
そして
お前の頭にかけた布をめくって
キスをした
お前は不細工な笑顔を浮かべて
先月 放射能鬼に毟り取られた俺の右耳の傷に注意しながら
俺の頭を抱きしめた
「死が二人を分かつまで」
俺はなんだかほんわかしちまった
こんなところで丸腰で
まわりも警戒しないでお前を抱きしめてるんだ
どうぞ食ってくださいと言うような感じでいるのにな
あの
木に釘付けにされたソロのせいかもな
俺たちは手をつないだまま立ち上がると教会を出た
俺たちはそそくさと武器を拾うと
この時の為に取っておいた
大事な缶詰を開けてお祝いをした
それにしてもケーキって何なんだろう?
そして飯を食ったら苦労して作った俺たちの要塞に
苦労して帰るのさ
「死が二人を分かつまで」
俺たちは特別なペアールになったらしい
なんたって「婚礼」を挙げたから
あいにくと祝ってくれるヒューなんて一人もいないけど
俺達は秘密の婚礼を挙げたのさ
お前は何が嬉しいのかずっとニコニコしてやがる
しっかり後ろを見張れよ
まぁ、いいや
「死が二人を分かつまで」
どっちかがくたばるまで互いのケツを守らないとな
北の山脈の上がうっすらと白くなってる
もうすぐ冬がくる
俺が生まれてから12回目の、お前が生まれてから10回目の冬がやってくる