変な一族。笑っちまえーアオイの頃ー
アオイは想う。アオイの父は、酒屋の長男。アオイの叔父は酒屋の次男。アオイの叔母は酒屋の長女。もうひとりの叔母は酒屋の次女。アオイの祖父は神風特攻隊の生き残りであり、アオイの祖母は戦後すぐに酒屋を開業。祖父は、パチンコを楽しみ、祖母は、一生懸命に酒屋を営んだ。アオイの母は変人であり、母方の叔父はテレビ局のカメラマンであり、その弟である叔父は建築士であり、もうひとりの叔父は、何と、芸能リポーターを職としており、若くして、癌で死んだ。アオイは、今、44歳。疑問に想うことが多すぎる。アオイの父の家系もアオイの母の家系も変な人が多すぎるのではないか。と。アオイの父は酒屋を経営したのちにコンビニエンスストアを営み、過労死で若くして天国へ。とても、良い親父であった。母も父もアオイが画家になりたい、詩人になりたい、カメラマンになりたいという願望を応援してくれた。しかし、母は痴ほう症を患い、アオイが30歳の頃、突如として家から姿を消し、今どこで何をしているのか家族の誰も分からない。アオイは天涯孤独。アオイの祖父も祖母も安らかに天国へ旅立った。アオイは煙草を吸い、酒屋の次女だった叔母が苦労したという過去を聞き流す。しかし、叔母も、もうお年寄りに。75を超え、終活をはじめ、突如としてアオイが、部屋が狭い、絵を置くところがないと困った時に預かっていた作品をアオイの狭い部屋へと送り返してきた。アオイは困る。かなり大きな段ボール箱が二つ、部屋へ届き、中を開けると乱暴に汚く、叔母が梱包したと思われる絵を処分することに。しかし、アオイは思った。デビュー作だけは記念にして部屋へ置こうと。アオイは、また、続けざまに煙草を吸い、珈琲を飲む。そして、アオイが住まいを置くマンションの管理会社から絵をゴミ置き場に捨てていいと許可を一か月前にもらったことを思い出し、10階の部屋から1階にあるゴミ置き場まで何度も往復し絵を処分した。アオイは溜め息を漏らす。そして、想う。変人ばかりだ、この家系。と。叔母の主人であった叔父は、教育教育と厳しい人で、ドイツの新聞社にまで、仕事で呼ばれたものの、叔父が40歳を過ぎた頃に出会った、宗教団体に洗脳され、生きていることは悪いことだと、海へ車ごと突っこみ自殺した。叔母は、しょうがない人だと、言うだけで葬式もあげず地方へ引っ越し、今は畑を営んでいる。アオイは、また、煙草を吸う。何なんだこの感覚。アオイはコーラを一口飲み、家族を不思議に想う。母方の叔父の息子、アオイのいとこにあたる兄さんは、箱根駅伝に出場した経歴を持つ営業マンでもある。アオイは過去を苦く思い出してしまった。以前、その兄さんが叔父と同居していた頃の話だ。アオイは彼女を連れて、その家の仏壇に線香を上げに行った。その時である。その兄さんは、アオイの当時の彼女を、「可愛いね。可愛いね。アオイが羨ましいよ。駅まで送っていってあげよう」と、愛車のベンツの助手席にその彼女を乗せ、車中でも、「可愛いね。可愛いね」と口説き続けたのであった。アオイはその彼女と共にした新宿の宿で、想った。兄さんは、そんなにメンクイなのかと。その彼女は、兄さんに褒められた、口説かれたことをその夜、喜びに喜び、「アオイ君、コンドーム、下のコンビニで買ってきて」とアオイにセックスをせがみ、その夜は素晴らしいものになった。しかし、次の日、アオイとその彼女は、千葉にいる親戚の兄さんにも挨拶にいかねばならなくなり、朝5時起きで、電車に乗った。アオイは想う。千葉に行くと、また、その兄さんに彼女を口説かれるのであろうかと。千葉の叔父の家。叔母が出迎えてくれ、玄関にはアオイの絵がデカデカと飾られてあり、アオイは喜ぶのであった。アオイは、その彼女と叔母と共に、その家の仏壇にも線香を上げる。叔母は言う。「アオイ君、きれいな彼女だね。結婚するの」「いやぁそれは、まだ」その後も、その彼女は叔母から「きれいだね。きれいだね。女優になったら売れると思うわよ」と言われ続け、彼女は喜ぶ。その後、リビングで叔母と、建築業を自宅で営む叔父、そして、その後継ぎである、建築士である、いとこの兄さん、そして、その妹であり、アオイの、これまた、いとこに当たる、姉さんも揃いに揃い、「きれいだね」「きれいだね」「きれいだね」の連発。彼女は喜びに喜び続け、時間を忘れ、一晩、この家に泊まっていきなということに。「アオイ君、ここではセックスできないね」と彼女は調子に乗り、アオイに乗った。しかし、アオイは想う。生死とは。生命とは。幸福とは。アオイが唯一まともに話せ、何度も心から楽しい酒を楽しく酌み交わし、アオイと顔もよく似ていた、もうひとりの癌で亡くなった、テレビのワイドショーにもレギュラー出演するまでの経歴を持つ、芸能リポーターであった母方の頼もしい叔父。その亡くなった叔父の奥方であった、アオイの叔母も、これまた、新興宗教に洗脳され、神の教えとし、生前、入院はしたものの、病室にいた、叔父には点滴、手術、注射を施してはいけないとしていた。アオイは、深く、不快に想う。宗教、宗教。命。命。何がこの世で一番に大事なものなのであろうか。何がこの一族に大事なのか。しかし、時は流れ行くもので、アオイは喜び続ける彼女と共に、次の日、東京駅で新幹線に乗り、帰郷した。しかし、アオイには想うことがあった。その彼女が、初めての新幹線、指定席に乗車することを、異常に喜び、褒められ続けたことに調子に乗ったのだ。そして、大きな声で彼女は指定席に座るやいなやアオイに言った。「しりとりしよう。あ、愛」と。その頃の新幹線は、煙草が吸えた。アオイは彼女の、このバカげた行動に笑えない。そして、アオイの地元の駅に着くのは、それこそあっという間。アオイは家路に着き、彼女も駅前の駐輪場に停めていた自転車に乗って、嬉しくて嬉しくて、しょうがないまま笑顔を絶やすことなく、帰宅した。そして、アオイは自宅の鍵を開け、誰もいないリビングで服を脱ぎ、苦笑い。そして、夜7時を時計で確認したアオイは風呂場へ向かう。いつものように、ラジカセを風呂場の前の洗濯機の上に置き、大音量でバスタブの中で、アオイのお気に入りである曲を聴いていた。すると、風呂の扉が開いた。そこには父方の叔父が「やかましわ」と何故だかやってくる。アオイは全裸のまま、叔父に殴られ、玄関まで引きずりまわされた。アオイは全裸で想った。この叔父、狂ってる。サイレンが鳴り、パトカーでオマワリサンがアオイの元へやって来る。アオイは強面のオマワリサンに「大丈夫やからな」と、パトカーに保護され、交番へ。その頃、アオイは23歳。まだ、父とも母とも同居していた頃だ。交番のトイレでそのオマワリサンからガウンを貸してもらうアオイ。その後、アオイの父が交番に迎えに来てくれた。そして、狂っている、叔父が逮捕され、交番に叔父がやって来ては、事実上、アオイに一応、形だけ、謝るだけ謝った。もう、こりごりなアオイ。母も交番へやって来る。深夜の交番、アオイは父が警察から言われたようにアオイの服を持ってきてはアオイに渡し、オマワリサンに事情を聞かれる。叔父の事。アオイは想う。この家族ってイッタイ何。その叔父は大工を職にしており、この前の年までアオイの台湾出身の叔母がいたのだが、叔父の不倫が理由で別れていた。さらには、その罰が当たったのか、仕事のミスで左手小指を電動ノコギリで失くした。家族でイチバン厄介な叔父。アオイの家族皆がこの台詞を時折、言う。金と女に執着する、本当に厄介者だ。そして、アオイはその夜、父と母、三人で街中を歩きに歩き、常連のラーメン屋へ。父は六本もビールを空け、吞み続けていた。母は叔父の逮捕を喜んだ。アオイは悩むばかりである。叔父が出所しても、どうぜ、同じ。そして、忌まわしい。父の携帯電話が鳴り、祖母が入院先の病院で死んだと。知る。アオイは想う。俺は何のために生きているのだろうか。と。煙草に火を点け、孤独を知るアオイ。祖母の亡骸に会う。通夜、葬儀。を行うなと。生前、言っていた祖母。アオイは想った。俺って何。そうだ、「一族」と題して、この家庭を小説にすればいいと。なんていう、信じられない突拍子もない、一族でなのであろうか。アオイは、その小説を賞に出したが一次選考で落選。そして、アオイは、今、44歳になり、新幹線事件のバカげた彼女とも別れ、笑える、独身のヘビースモーカーのおっさんになった。何とか生活ができる、月、手取り八万という、心底、貧乏な画家である。でも、アオイはそれでいい。何故なら、家族が全員、バカげているのだから。もう、全てを笑っちまおう。もう、いいよ。アオイは明日、とりあえず、アーティストとしてオシャレに決め込むために、モテたいが故の旅自慢を多くの女子にするために、デッサン旅行と題して、F1モナコグランプリ観戦へ貯めに貯めた貯金で旅に出る予定であった。しかし、アオイにはツキがない。緊急事態宣言。コロナが憎い。結局、旅を自粛、断念した。再び、本当に何のために俺は生きているのであろうかと、意味不明になるアオイ。眠れない夜。もう、笑っちまおう。アオイはマンションの地下駐輪場に停めてある自転車に乗り込んでは、自宅マンション前にあるコンビニへ、寝酒。日本酒を買いに行くのであった。
コンビニに着いたアオイは再び、想う。笑いが健康にイチバン。この一族に笑っちまおう。この一族のそうそうたる面子よ、もう、泣くことさえもないだろう。笑っちまえ、家族よ。笑っちまえ、全ての人間よ。
合掌。