時代が時代で行動さえしていれば300億の男を作れたかもしれない漫画家
やあ。
ここはとある漫画出版社である。
今日も連載獲得を目指した若い漫画家がここにやってくる。
「これじゃあダメだね」
この編集者の男の名は桃太郎。
昔話の世界からやって来た本物の桃太郎である。
現代日本に来たときは戸惑ったが、今や20年目のベテラン編集者だ。
「……どんな話ならいいんですか?」
若い漫画家志望の女が言った。
桃太郎はなにかのヒントになるかと彼の身の上話をする事にした。
もちろんフィクションとして。
「……鬼退治。なんてどうだい?」
「……鬼退治かぁ」
桃太郎は思い出した。
昔話では語られる事のない鬼を殺すための部隊でのあの日々を。
若くして鬼に殺される仲間たち、妹の様に可愛がっていた少女が鬼になってしまった時はなんとか人間に戻せないかと悩み苦しんだ。
「桃太郎さんのお話。なんかフィクションにしてはリアリティーがありますね」
「うっ!? ……それは」
「おーいももちゃん!」
「やってるー?」
「金ちゃんにたろちゃんか」
素晴らしいタイミングで同期の金太郎と三年寝太郎が声をかけてくれた。
一緒に昔話の世界からやってきた桃太郎にとってかけがえのない友である。
四人で少しだけ雑談をして金太郎と寝太郎は仕事に戻った。
「……なんだか。濃い人たちですね」
「はっはっはっ! 漫画に使えそうだろう?」
熊や猪に育てられた獣の様な猪突猛進男に寝るほど強くなる男。
「……鬼と戦う少年。二人の仲間。鬼になった妹……」
(おっ? いい顔をしているな)
漫画家は眉間にシワを寄せて右の手のひらを額に当てている。
桃太郎は長年の経験からこれはいいアイデアが生まれる瞬間が見れるぞと思った。
「桃太郎さん」
「なんだい?」
「鬼のボスはどんな男でしたか?」
「……ボスか」
『きちく』
『ぶれい』
『つよい』
『じしんかじょう』
ってところかな?
「……最期まで無惨な男だったよ」
「おう! お疲れ様ポーン」
「あっ! 社長! おはようございます!」
葉巻を吸った太った男が桃太郎の肩を叩いた。
これがこの会社のトップ。
人間に化けた『カチカチ山のタヌキさん』
偽名は『勝勝山太一』である。
「ほう。いい顔をした漫画家ポーン」
漫画家の顔を見て社長はそう言った。
社長がデビュー前の新人にこんなことを言うなんて珍しいことだ。
何か感じるものがあったのだろうか?
「……背中をいや、心を燃やすポーン」
「心……を?」
『漫画家というのは大変な仕事ポーン。常に人気を維持して連載というレールから落ちないように走り続ける……君は無限列車という名の人気漫画家になれるポーンかねぇ?』
「……むげん……れっしゃ……なってみせます!」
「いい返事だポーン!」
……
その後、その漫画家は漫画家の道を諦めて実家のアスパラ農家を継いだとか。
うまくいかないもんですね。
人生って。
描けばよかったのに。
ひん。