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我らの安住の地は此処に

作者: 夏目 梓

 

 目に入るのは朽ち果てた家屋に、壊れた車。割れて砕けたガラスは光を反射し、もはや原形を留めていない錆びて茶色くなった金属製の何かが地面に転がっている。変なものを踏んで怪我をしてはたまらないので、一歩一歩慎重に歩く。


 建物に入っていく背中を追って、日陰に入る。かつては家電量販店だったらしいその建物は、入り口のガラスは悪戯されたのか砕けて粉々になっていて、柱だけが空間を一定間隔に区切っている。その合間をくぐり、階段をのぼった。


 2階はありとあらゆるかつての電化製品が置かれているが、目的はそれらじゃない。白物家電には目もくれず、背中は壁際のおもちゃ売り場へと進む。私もそれに倣って歩を進めた。





「こいつは……ダメか。こっちは……修理すればなんとかなるかのう……」



 背中を丸め、ぶつぶつと独り言を呟きながら、品定めをする主から少し離れて、私は床に寝そべる。今日は特に予定もないし、主は当分この品定めをやめないだろう。今のうちに寝ておくことにした。




「……ら。……つづら。あぁ、やっと起きた。お待たせ。さ、帰ろうか」


 名前を呼ばれて、重い瞼をこじ開ける。満足げな主がただでさえ細い目をさらに細め、皺だらけの顔の皺を深めて微笑んだのを見て、「ウニャ」と返事をしながら両手を前に出して伸びをする。


 それを見届けた主はパンパンに膨らんだリュックサックを背負い「――よっと」と言う掛け声とともに立ち上がった。






「やっぱり、サイドカーでくればよかったかねぇ……」


 白髪を額に張り付かせ、息を荒くしながら主がぼやく。


 ――今日は天気がいいし近場だからたまには健康のために歩こう――そう言ったのは何処の誰だったか。そんなことを思いながら歩みを止めてじっと見つめると、


「わかってるよ、自業自得だって言いたいんだろう?」と言って大きな溜息を吐きつつ主はリュックサックを担ぎ直す。その様子を確認して、私は歩みを再開した。




「つづらぁ。待っとくれぇ……」


 後方から聞こえるそんな声には耳を貸さず、私は軽い足取りで坂道を上る。坂の頂きに近づき、我が家が見えてきた――のだが、予想外のものが目に入ってきた。



「ニャーーーーン」


 振り返り、普段より気持ち低い声で長めに鳴く。息も絶え絶えにようやく私に追いつきかけた主が「お客かい?」と私を見つめる。「ンニャ」と返事をして、道を主に譲った。




 主の3歩後ろについて歩を進めると、我が家の壁にもたれかかって俯いていた男が顔を上げた。ぼさぼさで整えられていない髪に、アイロンのかけられていない皺だらけでヨレヨレのシャツにジーパン。清潔感の欠片もないが、今時それらは重要視されないらしい。


 健康的に日焼けした主と比べると病的なまでに白い肌をした男は、私達を見つけてへらりと笑う。


「あぁ、よかった、帰ってきて下さって。せっかくトウキョウから遠出してきたというのに、お店が開いていなくてどうしようかと途方に暮れていたところだったんです」


「それは悪いことをしたねぇ。今日は来店予約がなかったから、掘り出し物を探しに出掛けててね。中に入って待っててくれてよかったのに……」


「鍵が掛かっていて開かなかったものですから」


「鍵? んなもんつけとらんよ?」


 主はそういって扉の取っ手を回し、手前に引く。赤茶色の扉が音もなく開き、中から冷気が漏れてきた。


「あ……あれ? おかしいな、たしかに……」

「引き扉なのに、間違えて押してたんじゃないかい?」

「そ……そう、かもしれませんね……」


 男は首を傾げながらも我が家の敷居をまたいだ。




 かつてはゲームセンターだったらしい我が家の中は、窓がほとんどなく昼間だというのに薄暗い。私は夜目がきくし主はこれに慣れているから問題ないが、客人はそうもいかない。中に溢れる品々に躓きそうになっているのを見かねて、主が電気をつけた。


「悪いねぇ、気が利かなくて。大丈夫かい?」

「あ、ありがとうございます、助かります……」


 返事をしながら、物を蹴とばさないように下を向いていた男が顔を上げる。その目が、驚きで見開かれた。


「――っ! すごい……これ全部、あの『荒廃地区』で見つけてきたものなのですか?」


 荒廃地区、というのは我が家を含めたこの辺一帯のことだ。部屋の奥の方に置かれたソファーに座った主は私を抱き上げ、膝に乗せながら肯定した。


「あぁ、そうさね。『保護地区』であるトウキョウに住んでるお前さんには珍しいものばかりだろう」

「えぇ、電子世界で見たことはありますが、実物を見るのは初めてです! まさか失われた文明の遺物がこんなにもあるなんて! ……近くで見ても?」

「好きにせい」


 物珍しそうに品々を見て回る男から視線を外し、主は私の背中を撫でる。誰に言うでもなく「電子世界なんぞ、何がいいのかねぇ……」と呟いた。


 けれど、その声は男の耳に届いたらしい。男は品々から目を離すことなく、言葉を返す。


「あれはあれで、良いものですよ。自分の容姿や身なりに劣等感を抱くことがありませんし、欲しいものもすぐ手に入りますしね。疫病の流行なんかもありましたし、現実世界を捨てて電子世界に移住する決断をした昔の人は慧眼だったと僕は思います」


 男はそう肯定しながらも「まぁ、その代償としてかつての優れた文明を失ってしまったわけですが……」と付け加えた。




 男が見ている品々――主が見つけてきた掘り出し物たち――具体的に言えば人形やゲーム、絵画に花瓶といったものたちは、いずれも大昔は日常にありふれたものだったらしい。

 しかし、人々が現実世界を捨て、電子世界へと移り住んだことで、現物の多くはその価値を失った。


 人々が電子世界にうつつを抜かす内に、モノづくりの技術を持つ者たちはその数を減らし、「モノづくり」という優れた文化や技術が失われたと気づく頃には、もう既に手遅れだった。

 技術は廃れ、センスは衰えた。模倣しようにも、保護地区にそれらは存在せず、荒廃地区に残るものも原形を留めぬ残骸ばかり――


 それ故に、主が荒廃地区で見つけてきた「掘り出し物」は、かつてはありふれたものでありながらも現在では非常に希少で貴重なものとして、骨董品扱いされている。そして、そうしたものを好む蒐集家が、こうして時々やってくるのだった。





「いやぁ、本当に素晴らしい。まさかこんなに保存状態の良い品があるとは……!」


 男が品々に穴が開くんじゃないかと思うほど凝視しながら呟く。「そりゃあどうも」と主が返事をした。


「友人からこのお店のことを聞いたときは半信半疑でしたが、まさかこんなに素晴らしいとは……何故荒廃地区のこんな辺鄙な場所に店を構えているのです? 保護地区にあればもっと大勢のお客がくるでしょうに……」


「……『住めば都』というであろう。ワシにとってはここが安住の地よ……。それに、電子世界に移住するつもりもないしの」

「ニャオ」


 短く鳴いて、私は主の言葉に同意する。保護地区では動物は一か所に集められて飼い殺し同然の生活をしているらしい。そんなのまっぴらごめんだ。


 男は「そういうものですか……」と返事をしながら部屋の中を物色していく。とある一角に体を向けた時、男の身体がびくっと震えた。


「――っ! ご店主っ! あちらにあるのは――」


 突然目の色を変えて、男が部屋の隅に置かれた筐体を指差す。それは四角柱の上半分が透明なガラスで中が見えるようになっていて、真ん中らへんにボタンが2つほどついている。天井からは空飛ぶ円盤のような物体から金属の棒が2つ、空間を包むように生えている。


「『クレーンゲーム機』かね? 今時のお人はクレーンゲーム機を知らなんだか」


 筐体そのものについて答えた主に対し、男は首を振る。


「あ、えっと、クレーンゲーム機については存じています。電子世界にも、同様の娯楽がありますので。そうではなく……僕が聞きたいのは中に入れられているモノについてです。これは、クレーンゲームの景品、ですよね?」


「うむ、見ての通り」


「正気、ですか? ……いいえ、失礼。ご店主は、これの価値をご存知ないのでしょうか?」


 男が信じられない、と呟きながら、ツカツカと筐体に近づいて行く。


「これですよ、これ! これがどれほどの価値を持つものか、ご存知ないのですか!?」


 男は興奮した様子で指差すが、筐体が置かれているのは部屋の隅だ。老婆である主の視力では筐体は見えても中の景品の区別まではつかない。主は私を膝から降ろすと仕方ない、というかのように重い腰を上げ、筐体の側へと近づいた。


 降ろされてしまったので仕方なく、私も主の背中を追ってとてとてと筐体へ向かう。



「ふむ……どれのことかと思えば、フィギュアのことか」


 男の指差すものの正体を確認した主は、興味を失ったように一言だけ呟いた。


「『フィギュアのことか』じゃないですよ! これはただのフィギュアじゃないんです! 国宝級の一品なんですよ!?」


 それがこんなところにあるなんて! と男が叫ぶ。



 ――ちょっと落ち着け、五月蠅い。



 私は主の後ろ姿越しに騒音の元凶を睨みつける。しかしそれで五月蠅さが軽減するわけはないので、少しでも騒音を緩和しようと、耳を折りたたんで自己防衛に努めることにした。




 興奮冷めやらぬ男は、聞いてもいないのにこのフィギュアについてどんなに希少で貴重な代物なのかを主に語り聞かせ始める。


「いいですか? この『代理ちゃん』は、とある小説界隈で作り出されたキャラクターで、彼女を登場人物として数多の小説やイラストが生み出され、のちにアニメ化やゲーム化にまで発展した作品も現れた、非常に愛されたキャラクターなんです!」


「そして、彼女に魅せられた同人フィギュア作家のとある男が代理ちゃんのフィギュアを作成して、その完成度の高さに公式さえもが驚き、ただの同人作家がアニメ公式とコラボレーションを果たしました。それがこの『代理ちゃん浴衣バージョン』です! 全て手作業で作成されているので制作数が非常に少なく、当時から幻の作品と呼ばれていました!」


「『代理ちゃん浴衣バージョン』が素晴らしいのは、その髪の毛のぼさぼさ感などを忠実に再現していることはもちろんですが、それだけではありません。公式とのコラボレーションによって、アニメの声優さんが声を収録しているんです! 普段は『ねむい』『かえる』など単語しか言わない代理ちゃんが、『所長、鼻緒が切れたんですけど、どうにかしてください』とちゃんと喋ってくれるんです。しかも、ウィスパーボイスで人気を博した声優“マイマイ”の声でっ!」


 早口でまくし立てた男は「声フェチの人間には垂涎ものなんですよっ!」とその熱弁の最後を締めくくった。



「そ、そうか……興味の引くものがあったようで何より。――それなら、クレーンゲームやるかね?」


 若干男の熱量に気圧されながら、主は男に挑戦するかを問う。


「もちろんです! この至宝の一品を見つけて何もせずに帰るなど男が廃ります!」


 どうでもいいけどもう少し静かにしてくれ、という気持ちを込めて私は「ミャーオ」と鳴く。効果がないとはわかっていても、声をあげずにはいられなかった。




「ところで、この筐体って現実世界で生活していた頃の硬貨で起動するんですよね? 私、電子マネーしか持っていないのですが……」


 男が筐体の下部にある硬貨を入れる穴を見つめながら呟く。それに主は「案ずるな」と答えた。


「硬貨ならワシが立て替えよう。其方ら保護地区の住民が電子マネーしか持ってないことは知っておる」


 主は電子マネーのやり取りを終えると、かつての貨幣である銀色の硬貨を男に渡した。



「ありがとうございます、ではさっそく……!」


 男が私達に背を向け、筐体の下部に硬貨を投入していく。チャリン、チャリンという硬貨の気持ちいい音が聞こえ、次にガタッと一瞬筐体が震えるような音を響かせて、クレーンゲームが起動する。天井のライトが点灯し、軽快な音楽が流れ始めた。


 男がボタンを操作すると、天井から吊り下げられた空飛ぶ円盤のような物体が駆動音を響かせ、若干かくつきながらも移動を開始する。その様子を男は背伸びをして見たり、横から覗き込んで見たりしながら止めるタイミングを図る。


 ……下からだとよく見えないな。移動するか。


 近場の棚に飛び移り、寝そべったタイミングで、男が叫ぶ。


「――ここだっ!」


 それと同時に、ボタンを押していた指を離す。円盤から生えた2本の金属が獲物を喰らわんとする動物の口のように開き、円盤が降下する。左側の金属棒が目当てのフィギュアに近接する。どうやら男は、金属棒が閉まる時の力でフィギュアを倒し、落とす戦法を狙ったらしい。


 規定位置まで下がり切った円盤が動きを一瞬とめ、金属棒が閉じ始める。男の思惑通り、フィギュアが傾いていき、男が「おっ、お――?」と声をあげる――が。


 かなり斜めっていたにも関わらず、倒すまでには至らなかった。フィギュアは元の位置から微動だにせずその場に残り、クレーンゲームからは残念そうな音楽が流れてきた。


「くっ――惜しいっ! 次こそは――っ!」


 言うが早いか、男は次なる硬貨を投入する。長丁場になると踏んだのだろう、主は「ワシは奥のソファーに座っとるよ」と声を掛けて踵を返した。私は腕枕に顎を乗せ、いつでも寝られる体制を整えつつ、薄目を開けて男の末路を見守ることにした。





「――ご店主っ! もう1回頼むっ!」

「はいよ」


 あれからどれほど経っただろうか。いつの間にか眠っていたらしい。男が主に再挑戦を依頼する声で目を覚ます。


「わりといい所まではいくのに……。ご店主、まさかとは思いますが、絶対に取れない設定にしている、なんてことありませんよね?」

「そんな面倒なことしないよ、全く……どれ、一つ手本を見せてやろうかね」


 男に渡す分の硬貨から1回分の硬貨を抜き取り、そのまま筐体に投入する。チャリンチャリンと硬貨が筐体に吸い込まれ、小気味いい音楽が流れだす。主がボタンを押すと円盤はスムーズに動き出した。


「よっと……この辺かね」


 主がボタンを押さえていた手を離すと、円盤が降りていく。主は男同様、片方の金属棒で倒す戦法を取ったらしい。広がった棒がフィギュアを捉え、閉まるに応じて傾かせていく。

 今まで男が何回挑戦しても元の位置に戻ってしまっていたフィギュアはしかし、金属棒に押された方角へとそのまま倒れ、重力に従って筐体の下部へと落下した。


「ほれ、この通り。 ワシはイカサマなんてしとらんよ」


 落下したフィギュアを取り出しつつ、主が男を見上げて言う。男は主の手に収まったフィギュアを、目を見開き凝視する。


「なんで……私が何度挑戦しても取れなかったのに……」


 呆然と呟く男を放置し、主はフィギュアを元の位置に戻そうと筐体のガラス扉を開ける。フィギュアを置こうと腕を突っ込んだところで、男がその腕をがしっと掴んだ。


「……なにか」

「いや……えっと、その……う、売ってくれませんか?」

「……は?」


 主が眉間に皺を寄せて小さく呟いた。


「お、お金なら払います! 言い値で買い取らせてくれませんか?」

「……さっきも言ったがのう。これは『景品』。『商品』ではないから売りはせん」

「そこをなんとかっ! お願いします!」


 腕をつかまれて心底嫌そうな顔をした主がこちらを見る。私は仕方なく立ち上がると、乗っていた棚から飛び降りた。


「――うわっ! な、ななな!?」

「ウ~」

「これこれつづら、お客さんに飛び乗るでない。すまんのう、うちの猫が失礼した」


 ――飛び乗れと目線を送ってきたのは主だろうに。


 私は声には出さずに半目で主を見上げながら、伸ばされた手に大人しく抱かれる。


「ここら辺が潮時であろう。今日はもう諦めい。またクレーンゲームに挑むというなら、歓迎するでな」

「……はい。お騒がせしました……」


 私が飛び乗ったことで頭が冷えたのか、男は主の言葉に素直に従った。私と主が見送る中、未練がましく筐体を振り返りながらも、強引な手段に出ることはなく我が家を後にする。




 ――ガチャン、ガチャ




 男の姿が見えなくなり、扉が閉まると金属的な音が響いてきた。視線を感じて顔を上げると、主が何か言いたげにこちらを見ている。


「ニャ?」

「『ニャ?』じゃないわ。いつまで猫被っとるつもりだ?」

「……『人の前では話すな』と言ったのは主でしょう」


 それに、猫を被っているのではない。正真正銘、猫である。


 しかし、主は過去の自分の言葉は棚に上げて「つづらがもっと早く口実を作ってくれたら今日の掘り出し物を修理する時間が取れたのに……」とぶつぶつ文句を言っている。


「あの男のおかげで暫くは遊んで暮らせるだけのお金は儲けられたのでしょう? なら、いいじゃないですか」


 クレーンゲーム機が現役だった頃は子供のお小遣いでも楽しめた金額だが、今の貨幣価値で換算して男が払ったのは庶民がひと月は余裕で遊んで暮らせる額のはずだ。それを言うと、主はニヤリと笑って私を見る。


「それはもちろん。当然じゃろ? しかし……あの様子だと、認められなかったらしいの?」

「えぇ。あの男がクレーンゲームに目をつけた辺りから五月蠅くて仕方なかったですよ。『こいつには絶対渡さない』『やだ』って」


 私は、今は静寂を取り戻した一角に目をやる。クレーンゲーム機は軽快な音も止まり、時が止まったようにその場に佇んでいるだけだ。


「主もわかっていたのでしょう?」

「あぁ。鍵をかけていなかったのに入れなかった、という事はそういうことだろうからねぇ」


 付け加えるなら、男が出て行った瞬間に鍵が掛かっていた。どうやら男はこの家の住人達に完全に嫌われたらしい。


「時々いるんだよなぁ……物を大切にしない輩が。手に入れたことで満足して、あとは放置したり捨てたりする輩が。あやつもその類だったか」

「そのようですね。私達よりも長きを生きた彼らは、それを感じ取ったのでしょう」



 猫だって十数年生きれば猫又になるのである。命無き物でも百年近くも経てば霊魂が宿る――いわゆる付喪神という奴だ――になるのは道理だろう。そして、この家には百年近く前の物たちがごろごろ存在しているのだ――クレーンゲーム機しかり、フィギュアしかり、この家自体しかり。



 人間である主は彼らの声を聞くことはできないが、なんとなくは感じるらしい。そしてそれを尊重しているが故に、彼らからとても愛されている。物の価値が歪に変化した今この時代において、安住の地を提供し、守ってくれているから。



「そうかい。なら、鴨が葱を背負って来るのを楽しみに待つとするかねぇ。『言い値で買う』とまで言ったんだ。あれは金持ちだよ」


 くくく、と主が悪い顔をして笑う。そんな主を見上げて、私は二股に分かれた尻尾をパタパタと振った。


「クレーンゲーム」「声フェチ」「浴衣」という3単語を使用して小説をつくる、という企画で書かせて頂いた三題噺です。


プロット段階ではジジイだったはずの主は、気づけばババアになっていましたが、まぁいっか、ってことでそのままになりました。


フィギュアを実際のキャラクターにするか迷ったのですが、せっかくなのでこの企画元のキャラクターである「代理ちゃん」にご登場頂きました。いやぁ、キャラが立ってる、っていいですね。男にオタクらしく語らせるのがとても楽しかったです(笑)

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