お母さん、私のこと嫌いにならないで
子供にとってお母さんに嫌われるのは、とてもショッキングなことです。
お母さん、私のこと嫌いにならないで。
お母さんが悲しそうに言った。
「どうして、漢字のテストが100点だなんてうそをついたの?」
ゆりちゃんに、うそをついてごめんなさい。
私、いつも計算が100点満点でしょう。
そうしたら、ゆりちゃんが「漢字はいつも0点のくせに!」っていったの。
くやしくて、私、どうしても漢字が書けるようになりたかった。
だって、ゆりちゃんは漢字も計算も得意でしょう?
だから、うそついたの。
言葉にしたら、本当になるってお話をきいたから。
お母さん、ごめんね。
私、漢字もがんばるよ。
だから、嫌いにならないで。
お母さん、私のこと嫌いにならないで。
お母さんが寂しそうに言った。
「どうして、お友達となかよくできないの?」
みんな、『私のこと嫌い』っていうの。
私、「冬ちゃんは、太っているから足がおそいんだよ」って本当のことをいったの。
そうしたら、「あーちゃんは、そうやって私たちの気持ちをいつもキズツケル」って、女の子たちにいわれた。
じゃぁ、なんていえばよかったの?
どうしたらお友達になれるか、クラスの女の子たちはだれも教えてくれない。
お母さんに心配をかけてごめんなさい。
私、ぜったいよい子になる。
だから、嫌いにならないで。
お母さん、私のこと嫌いにならないで。
お母さんが、少し怒ったように言った。
「どうして、たく君をにらみつけるの?」
お母さん、私はにらみつけてなんかないよ。
たく君はやさしいからだい好きなだけ。
私が、消しゴムや教科書をわすれるたび、かしてくれるの。
うれしくて、となりの席のたく君をじっと見てしまうだけ。
でも、お母さんが「それは、たく君がいやな気持ちになるよ」って教えてくれたから、もうしないよ。
だから、嫌いにならないで。
お母さん、私のこと嫌いにならないで。
お母さんがしょんぼりして言った。
「お母さんの育て方が悪かったのかな。」
お母さん、お母さんは悪くないよ。
私が、みんなとちがうのが悪いの。
みんな、私のこと「へんな子」っていうもの。
私のせいで、お母さんがないちゃうのはいや。
悪い子でごめんなさい。
お母さん、わらって。
ね、おねがい。
どうすればよい子になれるかおしえて。
きっときっと、よい子になるから。
だから、嫌いにならないで。
お母さん、私のこと嫌いにならないで。
お母さんは、辛そうに言った。
「あーちゃんは、もしかしたら、今欠点が目立ってしまう時期なのかもしれないね。」
お母さん、私を生んだこと、いやになった?
私のこと嫌いになった?
欠点っていう言葉は、私分からないけれど、お母さんが元気なら私も元気だよ。
お母さんがわらってくれれば、私もわらえるよ。
お母さんが一番好き。
だから、嫌いにならないで。
お母さん、私のこと嫌いにならないで。
お母さんは、はっきり言った。
「私、この子のことを信じています。この子の可能性、長所を信じて伸ばしたいと思います」
先生の前で、お母さんなんていったの?
信じているって言った?
お母さん、私、うれしい。
お母さんが私を信じてくれるなら、私どんな時もがんばれる。
帰り道、お母さんが明るい声で言った。
「あーちゃん、きょうは先生に、お母さんの本当の気持ちをいったよ。」
私は、勇気をだしてきいてみた。
「お母さん、私のこと嫌いにならない?」
「嫌いになるわけがないでしょう。一番の宝物だよ」
「ほんとうに?こんなに悪い子なのに?」
「あーちゃんは、悪い子なんかじゃないよ」
「そうなの?」
「うん。これからお母さんとたくさんのことを勉強しよう」
「うん!あのね、お母さん」
「なあに?」
「私のこと。ぜったい嫌いにならない?」
「うん、しかるときはあるかもしれないけれど、本気で嫌いにはならないよ、ぜったい」
「ぜったい?ぜったい?」
「うん、ぜったい。ぜったい」
お母さんは、私のこと嫌いにならなかった。
お母さん、私ね、みんなが私のことを嫌いでもがんばれる。
それだけじゃないよ。
ゆりちゃんも冬ちゃんもクラスの女の子たちも、みんなみんな好きだよ。
なかよくなれるような気がするよ。
だってだって、だってね、お母さんが私のこと、好きなんだもん!
「お母さん、私の良いところはどこだかわかる?」
「あーちゃんは、何が好き?」
「絵を描くこととピアノを弾くこと。でも下手だよ」
「そうか。でも、好きなまま一生懸命がんばれば上手になっていくよ」
「うん!」
「それとね、お母さんがあーちゃんの一番好きなところはね……」
「よいところじゃなくて?」
「うん。よいところでもあるけれど、好きなところ。それは、みんなと仲良くしたいって気持ちがちゃんとあること。お友達と仲良くできなくても、ちゃんと仲よくしたいって思えるところ。それは、とってもすごいことだよ」
「どうして?」
「人によっては、お友達に嫌われるといじけちゃったり、意地悪で返したりするけれど、あーちゃんは仲良くなりたいと思えるんだからすごいよ!」
お母さん、私ね、なんだか不思議な気持ち。
すごくワクワクして、走り出したい。
自分のことをかんがえると、うれしくなる。
今すぐだれかにあいさつしたい気持ち。
お母さん、私のこともっともっと好きになって!
お母さん、ありがとう!
私も自分のことをもっともっと好きになるよ!
だから、私をもっともっと好きになってね!
おわり
かくいう私も欠点だらけの子供でした。
でも、家族が好きでいてくれたのは大きな支えでした。
特に、いつも苦労をかけてきた母に感謝しています。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
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