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シーン8 宇宙海賊、その名はデュラハン

 シーン8宇宙海賊、その名はデュラハン


 とりあえず、危険宙域は離れたらしい。

 アタシは二人の顔を見比べた。


「で、さっきの襲撃、本当に心当たりないの?」

 バロンに向かって訊いた。


「宇宙海賊って、言ってたよね。それって本当」


「・・・」


 シャーリィは難しい顔をしていたが、バロンが先に耐えきれなくなった。


「姐さん・・」

 一度だけ、彼女とアイコンタクトを交わす。

 シャーリィが頷いて見せると、ほっとしたように彼は口を開いた。


「まあ、宇宙海賊の話は、本当でやんす」


 あら、まあ素直だこと。


「じゃあ、どっかの犯罪結社とか、海賊ギルドとかの傘下に入っているの?」

「あっし達は、フリーの宇宙海賊でやんす」


 バロンの答えは、少し意外だった。

 少し疑い深くシャーリィの方に視線を向けると。


「そうだ。・・・どこにも属しちゃあいない」

 彼女も、仕方なさそうに認めた。


 フリーで生きるのは難しい。

 先駆者たるアタシが言うんだから本当だ。

 宇宙の犯罪者たちは、すぐに徒党を組みたがる。その方が仕事もしやすいし、安全だ。そのうちに、上下関係が出来たり、もっと大きな組織に組み込まれたりして、訳の分からない巨大な犯罪グループが出来上がる。


 アタシが壊滅させたのも、その一つだった。

 エンプティハートと呼ばれたその組織は、エレス同盟の軍部にまでその毒牙を広げ、あと一歩間違えれば、大規模な宇宙戦争を巻き起こしかねない状況まで生み出した。


 こういった時代の中で、どこのグループにも属さないという事は、良い行いをしても、悪い事をしても、常に周囲に敵を生み出すことになる。


 それが出来るのは、よっぽどの覚悟がある者か、よっぽどの馬鹿かだ。


 あ、勿論アタシは前者ですよ。

 馬鹿ではないですよー。


「フリーでなんて、今どき珍しいですね」

 驚いたように思わせつつも、尊敬した目線でシャーリィを見た。

 彼女が、この場ではトップだ。

 半分は無意識だったが、彼女に対しては敬語になった。涙ぐましいアタシの処世術だ。


「まあ、もともとはパープルトリックっていう、ケチな犯罪組織に入ったんでやんすがね」

 彼女のかわりに、バロンが答えた。


 犯罪組織パープルトリックか。

 ・・・。ごめん、知らない。

 まあ、自分たちで「ケチ」って言うくらいだから、その通りなのだろう。


「でも、ある時、目が覚めたでやんす」

「それは、また、どうして?」

「彼女でやんす」


 バロンは、遠い目をした。

 憧れと尊敬を、そのつぶらな瞳に映して、壁のポスターを見る。


「え、それってまさか。蒼翼のライ?」

 バロンは頷いた。

 シャーリィを見た。彼女は気恥ずかしそうに頭を掻いていた。

 だが、バロンの言葉を否定しようとはしなかった。


 そういえば、バロンは「自由の翼」って言った。あれは、アタシの異名の一つだ。


「あっしは何回か、ライと戦ったことがあるでやんす」


 ・・・。


 うええええええええ?

 何それ。まじか。


「そ、それって、いつの話」

「五年くらい前でやんす」

「どこで? どの辺の宙域で?」

「あれは、確か、ザンタ星系の八の字流星群のあたりでやんす」

「ってことは、ハートの補給基地があったあたりね」

「詳しいでやんすね」

「はっ・・・」


 うわ、シャーリィの眼が、また鋭くなっている。あの目ちょっと苦手。


「アタシ、ライの大ファンなの。ほら、映画で見たりして」


 危ない危ない。


 ごまかしきれたと信じよう。

 シャーリィが言葉を引き継いだ。


「その補給部隊の警備の仕事があってね。まだ駆け出しだったし、キャプテンともまだ知り合う前だったからね。あたしたちも」


 キャプテン?


 ちょっと意外な言葉だった。

 この船には、もう一人乗組員がいるのか。

 そういえば、使用中らしき部屋は三つあった。


「今思えば、あの時代があっし達の黒歴史でやんすねー」

「で、その中で、ライと遭遇した。そういうわけ?」

「でやんす」


 少し記憶をたどってみた。

 ザンタでの戦闘は、しっかりと覚えている。

 すごい腕利きの敵がいたはずだ。

 確か「赤」い重量級プレーンに乗っていて、近接戦が得意かと思えば、予想外の遠隔攻撃を混ぜ込んできて。とにかく厄介な相手だった。

 三度戦って、最後には大破させたはずだけど、このアタシをそこまで追い込んだパイロットは初めてだった。

 正直、あの操縦テクニックには、敵ながら惚れ惚れした。相手の顔を見たい、と思ったのは、それが初めてだったかもしれない。


 ん?

「赤」い重量級プレーン。


 いやいやいやいや。

 あの時の敵はもっとハイグレードな機体だったし、まーさーか、こんな奴のワケがない。

 アタシの想像の中では、あのくらいの強敵は、ビジュアル的にももっとまともな奴でないといけない。例えば、無精髭の似合うダンディな傭兵って感じとか。


「あっしは、あの時、プレーンでの一騎打ちで始めて負けたでやんす。あんな、ウェストの細い青いプレーンに負けたのは、あっしの人生で最大の屈辱でやんす」


 そういえば、昔の機体はアタシ好みの体形じゃなかったな。

 いろいろな事情はあったとはいえ、今思えば、その頃のアタシはある意味自分を捨てていたのかもしれない。

 勝つ事や、生き残る事が全てだった。・・・気がする。


「で、あっし達は誓ったんでやんす。いつの日か、もっともっと強くなって。蒼翼のライを、あっし達の力で必ず倒すと。その為には、ちっぽけな組織に縛られているわけにはいかなかったでやんす!」

 バロンが触手で握り拳らしきものを作った。


 ほー。その心意気やよし。

 でも、それって、憧れとかではないのね、むしろ、敵対心?

 うーん。こうなると、この状況って、アタシここに居ていいの?


「でも、蒼翼のライって、もう引退したんだし。戦う機会なんてこの先ないんじゃない」

「そんな事は無いでやんす!」

 全力で、全否定された。


「あっしには分かるでやんす。ライは英雄なんかじゃない。あれはただの戦闘バカでやんす。このままじっと引退なんてしていられないに、決まっているでやんす。そのうち、絶対に姿を見せるでやんすよ!」


 誰が戦闘バカだー!


 マイナス9億点。


 やんすやんすって、うるさいタコめ!


 アタシはけなげに感情を抑え込んだ。

 このままだと、かなりフラストレーションたまりそう。

 落ち着いたらサンドバックでも買おうかしら。


「まあ、ライが出てくるかどうかは別にして」

 シャーリィが続けた。


「組織の傘の下で、ちまちま犯罪に手を染める生き方が、嫌になったのさ。だから、今は宇宙海賊っていうよりも、実際はフリーランスの何でも屋だな」


 なるほど、それなら、少しだけ理解できる。


「それに、宇宙海賊は名乗っているけど、まあ、あたし達のチーム名なんて、実際のところ、あんまり知られてないしな。まずは仕事もしながら、ちまちまと稼がないと」

「チームの名前、あるんですか?」

「ああ」


 ちょっと期待した。

 二人が顔を見合わせ、声を重ねた。


「宇宙海賊、デュラハン!」


 ・・・。


 やば。

 聞くんじゃなかった。


 なんといいますか。

 ・・・ださ。

 ダサすぎる。


 なんなのデュラハンって。

 確か、地球の伝説に出てくる、首なし騎士の名前だよね(←詳しい)

 それにしても・・・。

「宇宙海賊」ってフレーズ。

 組み合わせ次第では、ここまでかっこ悪く聞こえるものなのか。


 二人が、妙にソワソワしたようにアタシを見た。


 待って。感想を求める目で見ないで。

 アタシ、今、口を開いたら、毒しか吐けない気がするの。


 うわあ、なんかすごく期待している目をしてる。


「か・・・・」

「か?」

「か・こ・・・」

「か・・こ?」


 言いたくない。かっこいいなんて、言いたくない。それを言った瞬間に、アタシは最後のプライドを捨てちゃう気がする。


「か、過・・・去には・・・無い、独創的な名前ですね」


 目を逸らしながら、アタシは言った。

 頑張った。


「まあ、そうでやんしょ。あっし達も、この名前を名乗るまでは、けっこう試行錯誤したでやんすよ」

「うむ。悪くない選択だったな」

 シャーリィが満足しているのが意外だった。

 この女も、やはり、いろんな意味でただ者ではない。



 とっとと、名前から話題を変えよう。


「じゃあ、さっきの追手は、シャーリィさんたちが宇宙海賊だと知って攻撃を仕掛けてきたっていうより、何でも屋として、今引き受けている仕事と関係がある。違いますか」


 彼女はフリーランスの何でも屋と言った。

 バロンは、カース星で、プレーンメーカーへの潜入捜査をしたと言っていた。

 そして、追いかけてきた謎のプレーン。

 そう考えれば、答えはシンプルだ。何か、危ない橋を渡る仕事を、彼女達は引き受けた。


「話が早いね。さすが借金を8億も抱えてるだけの事はある」

「それって、今の話の流れに関係ないと思いますけど―」

「あるさ。あんたが敵でないって、保証はない」

 シャーリィは意地悪そうな目つきをした。


「え、どうしてですか?」

「借金抱えた正体不明の女。そんな奴に根掘り葉掘り聞かれたら、そりゃあこっちも警戒したくなる。・・・あんたって、はたから見りゃ、十分、怪しいんだからな」

「そう、ですかねー?」

「自覚は無いのかい」


 いえ、自覚はございます。

 ただ、自分の事は多少棚上げしてました。


「別に、シャーリィさん達の、詳しい事情までは、聞かなくても良いんですけど」


 少し、間を取る事にした。

 好奇心に負けて、話を性急にしすぎた。

 あんまり彼女の心証を悪くはしたくない。


  「ただ、安全な所に連れてってもらうまで、この船が撃墜でもされたら、たまらないですからね―」

「ふん。まあ、正直だね」

「その代わり、アタシだって、少しくらいは役に立つと思いますよ。シャーリィさんも、さっきの戦闘を見てましたよね」

「あ、あっしは修理してて見逃したでやんすー」


 バロンには聞いてないって。

 この場で権限を持っているのは、・・・キーマンはシャーリィの方だ。

 これから先、少しの間でもこの船に乗せてもらおうとするなら、シャーリィの信頼を得なければならない。


 アタシは彼女をじっと見つめた。


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