シーン6 なんだか追われてますけれど
シーン6 なんだか追われてますけれど
彼女の言う事は、当然の様にもっともだ。
この人たちに、アタシを助ける理由は無い。
だけど、それではアタシが困る。
シャーリィが、冷たい目で睨んだ。さて、どうしよう。ここは正直に。
「・・・実は」
アタシは言葉をためた。
ごくり、とタコ、・・・もといバロンが息をのんだ。
「借金取りに追われているの。だから、もうテアには戻れなくて!」
うん、我ながらひねりの無い受け答えだ。
二人とも「・・・・」って顔になった。
「借金、でやんすか」
「それって、どのくらい?」
「9・・・いや、そこまではないかな。多分8億ニートくらい」
「・・・・・・・」
「どうやったら、そんなに借金できるのよ」
「あはは、その色々あって・・」
全てが嘘じゃない。
蒼翼のライ時代の清算をするのに、数億ニート以上かかったんだもの。泣く泣くプレーンや宇宙船を売却しても全然足りないし。その上、アジト破壊したり、協力してくれていたドッグや施設の移設費を出させられたり・・・。
あと、あれだ。
ちょっと余計なこともした。
敵から奪った金銭を使うのは、正義の精神にもとるからって、寄付金やら惑星復興の支援センターを創設したりとか。
良い事したはずなんだよな―。
でも、アタシは正体不明で通してたから、非営利団体とかに協力してもらったんだけど、どーもそいつらに、なんか無駄に搾取されたみたいなのよね。
最後の最後で自分の経歴も全て抹消したから、実際には借金も抹消してきたようなものだけど。まあ、金貸しなんて、基本的には弱い者いじめなんだから、たまには痛い目にあうのも良い薬だわ。
「騙されたの。とにかく、悪い事は全然してないの」
嘘で―す。借金は踏み倒してきました―。
内心舌を出しつつ、様子をうかがう。
二人とも、言葉を失ってる。
とりあえず、あと一押しだ。
「っというわけで、お願い! ほとぼりが冷めるまで、って―か、安全な所まででいいから、アタシをこの船に乗せて」
アタシは拝み倒しに出た。
困ったように、二人が顔を見合わす。
シャーリィの方は、多分強敵だ。味方になってくれそうなのは、やっぱりこっちのタコの方か。
「どう思う、バロン」
「そうでやんすね~。でも、本当に困ってるみたいでやんすよ」
ないすフォロー!タコ、いや、バロンありがとう。
プラス10点あげよう。(これで、・・・何点だっけ。まあいいか、総合40点くらいで)
「そうねえ、悪い奴じゃあないみたいだしね」
シャーリィが頷いた。
ええ、ええ、そうですとも。アタシは良い子ですよ―。
「頭は悪そうだけどね」
・・・てめえ。覚えとけ。
アタシの前で、二人は何かしら納得した様子だった。
「まあ、色々と子細があるって事だね。仕方ない、他の星系に行くまでだよ。それならいいかい」
「本当! ありがとうシャーリィさん」
アタシは歓喜した。シャーリィはにこりと笑った。
「多少は助けられたしね。どこで覚えたんだい、あの銃さばき」
「ほとんどは独学だけど、惑星トマスの内戦で、ドゥ帝国軍のエイダさんに手解き受けたのが始め・・・」
あ。
「ほー。ドゥ帝国ね―」
しまった―。誘導されたぁ―。
「さて、もう少し色々と、話していただきましょーかねえ」
シャーリィの眼が怖い。やば、アタシの苦手な人リストのベスト10に入りそうな感じ。
「いや―。その、トマスに居たのは、色々とコレもワケがありまして」
思わず視線を反らす。こういった時はこっちのタコ…バロン頼みだ。
と。
どどん。
変な振動が起こった。
バロンが慌てた様子でモニターを見た。
「姐さん、こうしちゃいられないでやんす。なんか、来たでやんす」
「なんか、って、何だい?」
「コクピットに行くでやんす」
二人が慌てで駆け出す。
どさくさに紛れて、あたしも一緒に走った。
ゴミだらけの通路をかき分け、居住スペースのハッチを抜けると、船の操縦室まではワンブロックを挟んですぐだった。
意外と狭いコクピットだ。
クルーザー風の操縦室は、パイロットと、サブパイロットの座席が並び、その後ろにキャプテンシートと補助スタッフ用の席が二つある。
シャーリイがパイロット席に滑り込み、バロンがサブに着く。
アタシは偉そうにキャプテンシートに座った。
いやほら、一番座り心地良さそうだったし。
「ライ」の時も、いつもこの席だったし。
「モニター開けて、索敵」
つい、言葉が出た。
「ほら、バロン急いで、って、なんであんたが指示出してるのよ」
シャーリィが気付いて怒鳴った。まあ、ごもっとも。
センサーが周囲を探り、三機の小さな機体の接近を確認する。
「この大きさは、プレーンでやんすね。でも、なんで?」
「あたし達の仕事がばれた? にしても、早すぎない?」
二人が早口に言葉を交わす。アタシは聞き耳を立てた。
「こっちの居場所がばれてる?」
シャーリィが焦った表情になった。
うん。確かにばれてる。
でも、さっきのは威嚇射撃だったんだろう。だとしたら、いきなり撃墜される恐れはない。
問題は、どうしてこの船が狙われているかだ。
入星管理局を襲った連中が乗っている船だと、ばれたから?
いや、それにしては早すぎる。周囲の状況を見る限り、船はすでに宇宙空間に出ている。
アタシたち宇宙生活者にとって、都合のいいことに、警察組織や軍事組織は、決して一枚岩ではない。
特に、警察はそれぞれの惑星内での警察と、宇宙空間を取り締まる警察では、組織も違えば、法律も違う。更に、星系が変われば、宇宙警察ですら違う組織にかわる。
もちろん、犯罪の度合いや凶悪さによっては、管轄を超えた特権組織が間に入って、全宇宙の指名手配をかけたりもするんだけど、そうなるまでには、よっぽどの時間がかかる。
入星管理局を襲ったのは、結構な凶悪犯罪だから、もちろんカース星系全体で手配がまわるだろう。だけど、本格的に操作を宇宙空間にまで広げるには、一日や二日では済まない。お役所仕事とは、そのくらい悠長なものだ。
いや、そうでなくてはならない。
「とりあえず、このままじゃまずいね。逃げるよ。」
シャーリィが流圧エンジンの回転を上げた。
「相手の追跡センサーを邪魔しないと、なにか装備はある?」
アタシは訊いた?
「やってみるでやんす」
散布型の障害装置か。まあ、実戦向きだけど、相手は有人機みたいだから、いやがらせ程度だな。
それにしても、追跡の連中の速度が速い。どんな機体だろう。
「後部モニターは開ける? 相手を知りたいの」
「どうも、武装した民間機みたいでやんす」
「その形だと、オルダー社のシビア―ルみたいね」
「シルエットだけでわかるでやんすか?」
「まあね、得意分野だから」
アタシは胸を張った。
シビア―ル。オルダー社の看板プレーン。
超人気の万能機をベースに、綺麗な武装カスタムしている。三機とも同じカスタム形状になっているのは、個人ではなくて、組織に属している機体だという事だ。
思った通り、警察を表すコードは無い。
どうにも、怪しい相手ね。
「ねえ、こいつら、何で追ってきてるの。あなた達こそ、何者なの?」
シャーリイがちらりとアタシを見た。
モニターに視線を戻し、航行ルートを高速で探しはじめる。
プレーンの追跡を逃れる手は三つ。
一つ目は、どこまでも逃げる。
出力限界値が宇宙船とプレーンでは違うから、いつかは引き離せる。
二つ目は、亜空間に侵入する。
基本、プレーンに亜空間航行は出来ない。
そして三つ目は。
とにかく迎撃して、やっつける。
さて、この二人は、どうする?
「何で追いかけてきてるかだって、そんなのあたし達にもわからないね」
「全くでやんす」
「でも、何かしら心当たりはあるんでしょ」
「ありすぎるのさ」
シャーリイが最高出力で固定した。
どこまでも逃げる、を選択したらいい。もしくは、他の選択肢を選べる装備が無いのかもしれない。
「ありすぎるって?」
「あっしらは、宇宙海賊でやんす。宇宙をまたにかける自由の翼でやんすよ」
「へ、宇宙海賊?」
この二人が?
そりゃあ、まともな奴らではないとは思ったけど、
でも、アタシ、折角海賊稼業から足を洗って、普通の生活を始めようと思ってるのに、・・・またまた海賊船に乗っちゃったワケ。
やだ、あり得ない。でも、これって現実よね。
それにしては、・・・海賊にしては、この船なんかそれっぽくない。
突然、プレーンが攻撃を開始した。
こっちが逃げ出したのがわかったからだろう。狙いは、意外と正確。
「エンジン側面に被弾したでやんす~」
みるみると、出力が低下するのがわかる。
これは、危ない。
「逃げるにしても、迎撃して相手の戦力を削がないと。なにか武装は?」
「対プレーン用のは、今のところ無いでやんす」
「使えないなあ。じゃあ、プレーンは?」
「あっしのが、一台あるでやんすけど」
「型式は、武装は? 確かディックブレードあるんだよね」
「あれは将来的な予定でやんす!」
「嘘つき―。じゃあ、本当はどんななの?」
「ヤックのヘビーモス。武装は、解体用ブレード一本」
ジャンクパーツ切り分け用の熱式ブレード。つまり、作業用か。
「上等」
あたしは、シートを降りると、プレーン格納庫を目指して走った。




