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シーン5 名乗りあいは探り合い

シーン5です。よろしくお願いします

 シーン5 名乗りあいは探り合い


 タコが。いや、ここは敬意を表して名前で呼ぼう。バロン男爵(自称)が入り口に立っていた。

 やば。引き出し開けてたの、見られたかな?


「シャワーありがとう。気持ちよかった」


 アタシは誤魔化すように笑顔で言った。

 バロンはちらりとアタシを見て、そそくさと部屋に入ってきた。

 何気ない様子を装ってデスクから離れ、彼に場所を譲ると、ベッドに腰を落とした。

 痛い。

 勢いよく座ったら、お尻がしびれた。

 なんだこの固いベッドは。

 よく見ると、クッションなど何もない。言うなれば、でかい「まな板」のようだ。

 ああ、そうか。

 カース人は体が軟体だから、柔らかいベッドじゃダメなんだ。

 でも、こいつがこのベッドに寝ているのを想像すると。


 まな板の上のタコ。


 ・・・・。


 とりあえず変な想像を忘れて、バロンを見た。

 彼はデスクの前に座った。椅子の形も変だ。丸い形で、真ん中に大きな穴が開いている。

 どう例えればいいだろう。

 洋風便器が丸い形をしていて、その穴のなかに触手を収納する感じか。


 ・・・・。


 うん、嫌な沈黙だ。


「あ、あたしラライ。ラライ・フィオロン。よろしく」

 アタシはこの空気感を打ち破る一歩目を踏み出した。

 まあ、一応は名乗っておかないとね。


「あっしは・・・」

 タコがぽつりと答えた。

 バロン、って名前でしょ。もう知ってるけど。


「あっしは、リカルド・マーキュリー・三世、でやんす」


 おーい。バロン男爵はどこ行った―。


「え、それ、本名? えと、リカルドさん」

「でやんす。決して、タコではないでやんす」


 げ、覚えてましたのね。


「じゃあ、リカルドさん、って呼べばいいのかな」

「いえ、もう少し親しみを込めてリッキーでも・・・」


 ・・・どんなだよ。

 さすがに突っ込みたくなったが我慢した。

 と、その時。ドアがいきなり開いた。どうやらこの船ではノックやチャイムといったマナーは存在しないらしい。


「おーい、バロン。準備できてっかぁ―」

 あの女が入ってきた。


「あ、姐さん!?」

 タコが(名前が特定できないので、結局タコと呼ぶアタシ)、あわててその女を見た。


「今、バロンさんって・・・」

「それは、その。いわゆるコードネーム、って奴でやんす」

 慌てふためくタコ。

「え? 何がコードネームだ。本名だろバロン」

「あー、言っちゃだめでやんす。いきなり正体をバラしたら面白くないでやんす」


 正体をばらすって? いや、大丈夫、その名前でも十分正体不明だから。

 女がアタシに目を向けた。


「お、ゲロのねーちゃんも起きたか」


 ・・・ゲロって言うなあ!

 折角、忘れかけていたのに。


「ラ、・・・ラライです」

「ララライ?」

「いえ、ラライです。ラライ・フィオロンです」


 アタシは精一杯の笑顔を作った。こめかみがピクピクしているかもしれないけど、あんまり気にしないで。

 女はフーンと、あまり興味もない様子に見えた。


「あたしはシャーリィ」


 一応は名乗ってくれた。

 シャーリィか。ふむふむ、多少はまともそう・・・かな。


「で、何ですか、準備って」

 アタシは聞いてみた。

 シャーリィは疑わしい目つきでアタシを見た。


「あんたの尋問だよ。ゲロのねーちゃん」

「ラライです! ・・・って尋問?」

「そりゃそうさ、正体不明の女を、このまま乗せとくわけにもいかないもんでね」


 まあ確かに。考えてみればこの場で一番怪しいのはアタシの方か。


「あの射撃。なかなか良い腕だったな。素人じゃあないんだろ」

 シャーリイの眼が鋭さを増した。

 アタシは彼女を観察した。

 銀髪のグラマー美人。テア星系人に見えるが、気になる点がある。

 右手の甲に、分厚い金属製のガードをつけている。あれは、何のため?


「軍人か、もと傭兵か、どっちだ?」


 おっと、そうきたか。

 アタシはにこやかに答えた


「軍人でも傭兵でもないです―。ただの武器マニアで、普通の女の子でーす」


 シャーリィの眉が、ぴくっと跳ねた。


「ふざけんな―、只の武器マニアが、あんなに正確な射撃が出来るわけないだろ」


 怒鳴られた。

 まあ、そうだよね。


「ったく、女の子って年でも無いくせに」

「・・・・!?」


 っと、我慢だアタシ。ちょっとは傷ついたぞ。

 シャーリィ、どうやら貴女とは敵かもしれません。


「まあまあ、姐さん、落ち着くでやんす」


 バロンが助け舟に入った。この場合、アタシの助け舟か、あっちの助け舟か?


「でも、えーと、ラライさんでやんしたね。でも本当に、ラライさんは何者でやんすか?あの留置場に入ってきたのは、本当にただの不正入星で?」

「本当にただの、不正入星です」

「何しに来たでやんすか。わざわざこんな辺境まで」

「ただ、仕事探しに来ただけなんだけど。って、言ったら信じてくれる?」

「するわけないでしょ」


 ジト目で、シャーリィはアタシを見た。

 だけど、こういう彼女達だって、一体何者だろう。

 入星管理局の留置所を武力でこじ開けようなんて、普通なら思いつきもしない。


「あんたの持ち物見させてもらったけど、身分を証明するような物、何にもないね。よっぽどの経歴不明者でもなければ、あんな留置場にはお世話にならないよ」

 シャーリィが言った。その通りかもしれない。でも、という事は。

「つまり、バロンさんも、よほどの経歴不明者って、ことですよね」

「意外と頭が切れるね」

 意外は余計だ。

「ともかく、アタシは色々あって、地元じゃ就職出来そうもないんで、ただ仕事がしたくてこの星に来た。それだけなんです」

 それより、あんた達こそ何者なのよ。って質問はまだ早い。

 今はお世話になっている身だ。少し慎重に対応しないと。


「仕事したくて・・・ねえ」

「ええ、だから、どこか近くの星で降ろしてもらえれば、あとはシャーリィさんたちにご迷惑をおかけするつもりは」

「そこで働き口を、探すってコト?」

「はい」

「そっか―。でも、無理だと思うよ」

「え?」


 シャーリィは意味深な顔をした。

 気の毒そうな。・・・いや、これは面白がっている顔だ。


「バロン、例の放送を」

「はいでやんす~」


 ぱっ、とモニターが浮かんで、画像と音声が流れ始めた。


 『カース中央TVより、ニュースをお知らせします』

 この星系のローカルニュースだ。え、何が始まるの。


 『昨日夜、ヘイダルシティの入星管理施設が、何者かによって襲撃されました』


 画面が切り替わった。

 これは、昨夜の銃撃シーン。って、どこから録画していた?

 映像は、思った以上に鮮明だった。

 フライボードから逆さまにぶら下がった女が、嬉々とした表情で銃を乱射している。

 画面がアップになる。

 ぐえ、これって、アタシ。ってーか、顔ばれしてるじゃない。


『現在、入星管理局を脱走したこの女の行方を追っています。情報をお持ちの方は・・・』


 頭が真っ白になった。

 このテレビって、ローカルって言っても、この星系全体に流れているよね。

 ・・・ってことは。アタシは、お尋ね者? そうなの?

 いや待って。何でアタシだけ。どうしてシャーリィのアップやバロンの顔は、映像から見切れているの? なんか、悪意があるんじゃない。


「と、いうことでやんす。・・・っとと」


 画面が切り替わろうとした瞬間、バロンが少し慌てた様子になって映像を止めようとした。

 ん。今のは。

 シャーリィがにやりとした。

 まさか、そんな。


 アタシはバロンの腕を抑えた。

 映像は続いていた。

 テロップで『情報はこちら』が映しだされる向こうで。

 アタシの顔にモザイクが掛けられた。


 やめてぇ―。

 もう止めてぇ―。

 お願いだからやめてあげて―。


 ・・・。

 ・・・・。

 ・・・・・。


 アタシは撃沈した。

 いや、まだ記憶の中だけならいいよ、忘れるから。

 これ、残るじゃない。

 黒歴史なんてもんじゃない。もう真っ暗よ。闇しかないわ。


「さて、と。わかったかいゲロのねーちゃん。あんた、この辺の星に降りたら、即刻逮捕されちまうよ」


 シャーリィの声が虚ろに聞こえる。

 ああ、もう、どうにでもしてくれ―。

 アタシは力尽きる寸前だった。


「さて、あんたが正直に正体をばらすなら、安全な星系までは、この船に乗せてあげても良い。だけど、ちょっとでも疑わしければ、あたしにはアンタを救う義理なんて無いんだよ」


 シャーリィが勝ち誇ったように言った。


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