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シーン3 銃撃戦は気持ち悪い

 シーン3 銃撃戦は気持ち悪い


 眼下に、カース星の明かりが広がった。

 ビルディングと、ハイウェイを流れる無数の光。やっぱり、人の営みが作り出す光は、心に染みる。

 この美しい光の中で、名前も知らない沢山の人々が、きっと暖かな普通の生活をおくっているのだろう。例えそれがタコ星人であろうとも。

 けれど、夜の風は冷たい。そして、腕は痺れる。

 タコの方は良い。フライボードのフックにしっかりと固定されているから。

 アタシはといえば、そのタコ人間に腰のあたりを巻きつけてはもらっているものの、ボードの収納用バーにしがみついている状況だ。

 高度を取り始めたせいか、寒い。


「追ってきたね。ちっ、時間をかけすぎた」


 女が、ボードの操作バー上に浮かんだ、実体のないパネルを見て呟いた。

 アタシは後方を見た。

 赤い点滅と、けたたましいサイレンの警告音を立てながら、幾つもの機影が上昇を開始していた。

 大きさからすると、無人機だ。追尾して、アタシたちを撃墜するつもりだ。

 施設を破壊するような凶悪犯罪者は、捕まえたりはしない。凶悪犯=即断罪だ。このまま撃ち落として、死んだらそれで済ます気だろう。


「どこに向かってるの? 逃げ切れる?」


 アタシは訊いた。

 女のかわりに、隣のタコが応えた。


「宇宙船でやんす」

「すごい、船を持ってるの。場所は?」


 アタシは目を輝かせた。

 惑星に降りる能力を持った宇宙船を持っているというなら、それはすごい事だ。

 普通の宇宙船はその名の通り宇宙専用だ。宇宙生活者が大気圏のある本星に降りる場合は、専用のシャトルを使うか、星によっては大気圏を突破して宇宙空間に繋がる巨大エレベーターを利用する。

 それらを利用しなくて済む宇宙船は、当然規制も厳しく、それだけに高い。

 当たり前に買えるような代物ではないのだ。


「カモフラージュして隠してあるでやんす、あの先でやんすよ」

「だけどね、このままじゃ追いつかれる」


 女が焦ったように言った。

 確かに、無人機がどんどん迫っている。もう数秒もしたら、そいつらの射程圏内だ。


「もう少し、スピードは出ないの?」

「定員オーバーだからね」


 じとりと、女がアタシを見た。


 ・・・。

 ごめんなさい。

 アタシのせいですよねー。そのくらいは、わかっていますとも。

 しゅんとして見せようと思ったが、鼻先を、ブラスターの熱線が掠めていった。

 うわ、ヤバ。これ、当たると死んじゃうレベルじゃない。


 一斉射撃が始まった。

 女は左右にフライボードを振りながら、追尾者の攻撃を巧みに躱した。なかなかの操縦テクニックだ、只者ではない。

 でも、揺れる。こりゃ、結構きついよ。

 女が片手で、腰のホルダーから銃を抜いた

 半身を後方に向けて、狙いをつける。

 銃声が三回聞こえたが、追尾用の無人機はあっけなくそれを躱した。

 いや、躱したというより、単に外れた。さすがに運転しながら迎撃するのは難しいのだ。


 タコの方は、何してる?

 見ると、タコは自由になっている二本の触手を拝むようにあわせて、まるで、祈っているような雰囲気だった。

 この期に及んで、神頼みですかー。

 そうこうしているうちに、相手との距離はどんどん縮まっている。それに合わせて、射撃も正確になってきている。このままじゃ、マズイ。


「ねえ、ちょっと銃を貸して」


 アタシは必死に片手を伸ばした。

 女が驚いたような顔をした。その眼が、一瞬だけ迷いを見せた。


「このままじゃ、逃げきれない。お願い」

「ちっ」


 女は微かに体をかがめボードの下に手を伸ばした。アタシの手が、グリップを掴む。

 ケッペラー78か、なかなか渋い銃だ。女向きじゃない。

 射撃時の反動と排熱が強い。だけど、アタシは好きだ。


「タコさんっ」


 あ、思い余ってタコって呼んじゃった。ごめん、流して。


「アタシの体、しっかりと抑えて。絶対に放さないでよ」

「ちょ、何するでやんす?」


 アタシは両足で、タコの胴体を挟み込むと、そのまま体をそらして、逆さ吊りの態勢になった。太ももに、タコの触手が巻きつく。

 気持ち悪いなんて言ってられない。生きるか死ぬかの瀬戸際だ。

 アタシは両手でグリップを包み込み、照準をあわせた。


 まずは一発。

 反動と、熱線の焦げる匂い。

 一台の無人機が正確に中心のセンサー部を撃ち抜かれ、軌道を失って墜落していく。

 下で、小さな爆発が見えた。


 あれって、街に落ちたよね。これって、なかなか大変な事をしてしまっているのでは。

 少し、血の気が引いた。

 だけど、まだ終わっていない。

 熱線がアタシの肩をかすめた。

 痛い。火傷したかも。


「冗談じゃないわっ」


 アタシは立て続けに銃を乱射した。

 無人機は次々に落下を始めた。

 どーだ、見たか。これでも射撃の腕も、宇宙では五本の指に入るライ様だぞ。実戦は三年ぶりだけど、まだまだ、鈍っちゃいない。


「すげえな」

「お見事でやんす~」


 二人の、感心する声が聞こえた。

 最後の一撃が終わり、全ての無人機を撃退し終えると、アタシはほっと溜息をついた。


 あーあ、やっちゃった。

 もう二度と、銃なんて持たないと、誓ったのに。

 明日からもう一回誓いなおさないと。

 だけど、これで当面のピンチは免れた。いくらなんでも、こんな所で死ぬために、海賊稼業を辞めたわけでは無い。


 しかし、これが更なる地獄の幕開けだとは、アタシも気付いてはいなかった。


 アタシは銃を返そうと、体を持ち上げようとした。

 その時だ。

 なんか、うえっときた。

 胸が苦しい。そして、なにやら視界が真っ赤だ。

 あれ、今どういう体勢だっけ。


 アタシは不安定なフライングボードの下に、さかさまになって、揺られ続けていた。

 これは、やばい。気持ち悪い。

 酔った。ついでに、頭に血が上った。レッドアウトって奴だ。


「どうしたでやんす?」


 訊いてくれるな。いや、アタシを見るな。

 うわ、マジやばい。誰か、助けてくれ。いや、誰も見ないでくれ。


 程なく。

 あっけなく限界がきた。


 ・・・※※※ 自主規制 ※※※・・・。


 アタシは。吐いた。


 ・・・・。


 ああ、アタシのまき散らしたキラキラしたものが、美しい街並みに降り注いでいく。

 安らかな毎日を送る、住民の皆さん、本当にごめんなさい。


 胃の中のものが、空っぽになり、それでも終わらない地獄。

 いや、これからがもう地獄。

 押し寄せる後悔と敗北感。助かったのに、全然嬉しくない。


 アタシの人生。違う意味で終わったかも。


 ちらりと見た。

 アタシがまき散らした姿、誰も見ていないで欲しい。


「盛大にぶちまけたわね―」

「あ、あっしはそんなとこ、何も見てないでやんすよ」


 冷たい女の声と、痛いくらい気遣うタコの声。


 あ、終わった。


 アタシは無言で銃を返した。

 女の指が、銃をつまむようにそれを受け取る。・・・この女、汚れてないか気にしてる。


 とりあえず、シャワー浴びたい。

 そして、全てを忘れ去りたい。


 それ以上は、二人とも何も言わなかった。

 いや、何でもいいから話してくれ。無言の方が余計きつい。

 この、なんかやらかしちゃった空気間。

 凄い気まずい。

 何でこんな奴を連れてきちゃったんだー、って考えてるのが、ひしひしと、伝わってくる。



 しばらくして、目的の場所に着いた。

 フライングボードがすっと下降した。

 ほっとしたのもつかの間。


 女の奴、アタシがさかさまにぶら下がっている事を忘れたな。


 減速もほどほどに、地面が迫ってくる。

 ・・・ん、これはもしかして。


 アタシは地面に後頭部を強打した。


「あ、やべー」

 激痛の中、薄れゆく意識の合間で、女の悪気の無い呟きが聞こえた。





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