シーン36 エピローグ
遂に最終回になりました
ぜひ最後まで、よろしくお願いします
シーン36 エピローグ
『BAR Shade & shade』
真新しい看板の下に、新装開店、近日オープンの文字が張ってある。
入り口の鍵はかけてあったはずなのに、男は、難なくその扉を開いた。
「まだ、開店前だぜ。何しに来た」
真新しい店内のテーブルを拭きながら、黒髪の男、シェードが言った。
客は、多少不機嫌そうな目で、彼を見た。
金色の髪、そして、甘いマスク。
「エクリプス。お前か。それとも今日はリバートの方か?」
「どっちでも良いよ」
エクリプスは、カウンターに腰を預けて立った。
「良い店だね。今回の件で、いくら儲けたんだい?」
「何の話かな、俺は何も」
「してないとは、言わせないよ」
エクリプスは、手を出した。
何かをよこせ、そう、その手は言っていた。
仕方なく、シェードは真新しいアルコールの瓶を一つ開けた。
受け取って、エクリプスは一気に喉を潤した
「僕を利用した分の種明かしくらい、して貰っても良いだろう。君のおかげで、僕は今回だいぶ価値を失った。だが、君に対しての価値はあった筈だ」
「面白い論理だな」
「君が何を知ったのか、そして、何をしたのか、僕にはそれを知る権利がある。そうだろう、シェード」
「俺はお前にたいして、何なんの義理も無いぞ。まあ、どうでもいいけどな」
シェードは、掃除の手をとめて、ポケットからデータキューブを取り出した。
「良いだろう。教えてやるよ。たまには手柄話をするのも、気分が良いもんだ。とくに、相手がお前ならな」
言いながら、掌の中で、キューブを弄ぶ。
「まずは、このデータだ。オルダーの仕入れと出荷、そして、金額の明細が詰まっている」
「そのくらいは、知っているよ」
「まあ、これだけなら、なんてことないデータだ。だけど、俺が事前に手に入れてあった、ヤック社、リンキ―社、カザキ社の同様データと照合してみる。すると、なんとだ、軍への納入記録が、きれいに順番に並ぶようになる。ほれ、金額もこの通り」
「談合だね」
「そういう事。企業同士、そして軍の癒着、見事に裏付けるデータだ」
「なるほど、それで企業を強請ったか。君らしい手だよシェード」
「まあな。俺は不正をする奴らは嫌いでね。まして、金持ちは特にな」
「よく言う」
エクリプスは笑った。
「でも、それだけか。僕たちの船でも、何かしたんだろう?」
「そっちのは、大したことじゃない」
シェードは両手を広げて見せた。
「ただ、オルダー社プレーンのプログラムにミスがあって、それで船が沈んだことを証明するだけのデータを、コピーしてきたくらいさ」
「ぐらいって・・・」
エクリプスは呆れた。
「軍としては、内部不祥事の記録。そして、事故隠ぺいの記録。オルダー社としては、欠陥商品の記録。億単位の価値じゃないか」
「分け前が欲しいかい。」
シェードが言った。
エクリプスは横に首を振った。
「君の金などは期待していない。ただ、君に少しでも、僕に対する謝罪の気持ちがあるのなら、一つだけ教えて欲しい事がある」
「へえ、何だい」
「彼女の事さ、ラライ・フィオロン。彼女は一体何者なんだ」
シェードの顔が、面白いものでも見たように、愉快そうな顔になった。
「珍しい事もあるもんだな、エクリプス。おまえ、もしかして彼女に惚れたか?」
「馬鹿にするな。これは、単なる興味だ」
ふうん、とシェードは腕組みをした。
少し、考えてから。
「彼女はテア人の女で。それ以上は俺も知らん。知っているのは、スリーサイズが85、57、86って事くらいだ」
無言で、エクリプスはシェードを見つめた。
小さく、ため息をつき、テーブルの上に置かれた、店のアドレスが書かれた紙を一枚手にして、胸のポケットに入れた。
「もういい、邪魔したな。シェード」
彼は、帰ろうとして、ふと、思い出したように足を止めた。
エクリプスは不敵に笑った。
「君は一つだけ間違ってるよ。彼女のスリーサイズは、87、57、86だ」
「な!」
「僕はこの目で見たからな。間違いない」
「んだとー。エクリプスてめえーいつの間にー」
シェードの声を背中に受け流して、エクリプスは去っていった。
そして。
・・・・・。
・・・・・・。
ほうほう、そういう事だったのですか。
それは、ようございました。
大変、儲けが出たようでございますねえ。
って。
一部始終は、見せていただきましたよシェード君。
「てめー、そういう事だったのかー!」
アタシより先に、シャーリィの手が出た。
「最低な奴でやんすね~」
バロンが、しみじみと呟く。
アタシは軽蔑の眼差しを向けながら頷いた。
「お前たち、・・・デュラハン? ・・・って、どこから入った?」
「開店祝いを持ってきたけど、正面が開いてなかったから、裏から」
「で、結局、旦那の目的は、自分の金もうけのためだった、ってわけでやんすね~」
「少しでも、あなたの事を見直しかけたアタシ達がバカでしたー」
アタシ達の剣幕に、さすがのシェードも、大量の汗を流し始めた。
さて、どうしてくれましょうねえ、姐さん。
アタシはシャーリィをちらりと見た。
「そのくらい儲かったってんなら、当然あたし達にも分け前ってもんがあるわよね。さんっざん、人を利用しといてさ」
シャーリィが睨みをきかせた。
さすがに、これだけの美人は凄みをきかせると、随分と迫力がある。
シェードがひきつった笑いを浮かべた。
「分かった。ま、確かに儲かったのはお前たちのおかげだ、1000万。いや、3000万でどうだ?」
シェードは三本の指を立てた。
「へー。3000万? 桁、間違ってませんかー」
調子に乗って、アタシは言った。
トラの威を借る、ならぬ、シャーリィの威を借るアタシなのであった。
「じゃあ、5000万。いいだろ、それで手を打ってやる」
泣きそうな顔になって、シェードは片手を広げた。
バロンが嬉しそうな顔をしたが、駄目よ、まだ早いわ。
アタシとシャーリィは顔を見合わせた。
「一億!」
「い。一億だあ???」
シェードの悲鳴にも似た声が、店内に響き渡った。
・・・・・。
・・・・・・。
それから10日後。
アタシ達は修理の完了した船の試運転をしていた。
パイロット席にバロンが、サブパイロット席にはアタシが座って、シャーリィはキャプテンに頼まれて、彼の部屋の掃除を手伝っていた。
「エンジンも快調、計器も良好でやんすね~」
「そうね~」
まだ視界にはドッグ星が見えている。
宇宙の漆黒はどこまでも広がって、幾億の未来までアタシ達を招いているようだった。
そろそろ次の目的地を決めなくてはいけない。
アタシはバロンの横顔に、そっと視線を向けた。
「次はどうするの? また、なにか仕事を探すの?」
「どうするでやんすかね~。せっかくだから、海賊らしい仕事もしてみたいでやんすがね」
バロンは呑気な口調で答えた。
アタシは考えた。
海賊らしい仕事か。まあ、彼らは海賊なんだし。仕方ないか。
「だったら、アタシは手伝わないよ。それでもいい?」
「ラライさんは、居てくれるだけで良いでやんす」
さらっと言いやがった。
だからこいつは。
なんだかさー。
あーもう、プライドとかって、どうでもいいや。
恋愛とか、そんなのはアタシ疎いから良く分からないけど。
それがどの程度の感情のレベルなのかはわからないけど。
アタシは、彼の事が好き、なのかもしれない。
そして。
今はこの船に乗せてもらえる事が、それだけで良いって言ってもらえることが、嬉しい。
色んなところを彷徨ってきたけど。
時々、どうしようもない現実に潰されそうになったけど。
どうやら、アタシにも、居場所はあるって、事だ。
アタシは計器類の端っこにあるスイッチを押した。
最高にノリノリで、ハッピーな曲が流れ始めた。
エピソード1 おわり
最後までお読みいただいて、ありがとうございました。
楽しんでいただけましたでしょうか
正直、不安だらけの公開でしたが
しっかりと最後まで連載できて良かったです。
最後まで読んでいただいた方にお願いです。
ぜひぜひ。
評価、感想、レビュー
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みなさんの声をお聞かせください
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励みにして、これからも頑張っていきます!
と、いったところで、お知らせです。
蒼翼のライ エピソード2
~美貌の元宇宙海賊は、旅行会社に就職してツアーコンダクターになりました~
2020年5月1日から、連載開始しています。
色々と思うところあって公開を悩みましたが、折角なので続けていこうかなと考えています
次回はエピソード1を超える全42回と、ボリュームアップ
ポンコツと呼ばれても、ボロボロにされても立ち向かっていく、
ちょっぴりハードボイルド?になったラライの新しい活躍に、どうぞご期待ください




