シーン34 その光は優しさにも似た
シーン34 その光は優しさにも似た
巨大戦艦「クラウチ」の後方から、四方八方へと、幾筋の光が走った。
その光の色は、淡い太陽の輝きにも似て、微かに優しさを感じさせるほどに美しかった。
でも、それは破壊の光だった。
一斉に放たれた光子兵器の束。その事実を把握するのに、アタシは少しの時間を要した。
とぎれとぎれの緊急無線が飛び込んできた。
エマージェンシー・エスケープを告げる声。これは、船からだ。
『緊急退避、総員、緊急退避せよ、本艦内において 重篤な事態が発生した。繰り返す、緊急退避、総員、緊急退避せよ・・』
無音の世界に、立て続けに爆発が生まれ、消えていく。
戦艦内で何が起きたのか。
それは、おのずと知れた。
シェードが何かをしたのだ、きっと、トマス星系で行うはずだった、3000機のプレーンによる暴走が、船内で起こったのだ。
「バロンさん!?」
アタシはその名前を叫んでいた。
エクリプスはまだ、アタシに銃口を向けていた。だが、その眼は、内部からの破壊によって急速に外観を変化させていく「クラウチ」に注がれていた。
先程、アタシが飛びだした格納庫の、すぐ近くで大きな爆発が起きた。
バロンとシャーリィがいるあたりだ。
こうしてはいられない。
「エクリプス、中に入って、今すぐ」
彼はアタシを見た。
「早くしなさいよ。今、争ってる場合じゃない事くらい、わからない?」
だが、彼は何かを迷ったまま、動かなかった。
いや、動けなかった。
こうなりゃ、問答無用だ。
アタシはコクピットハッチのスイッチを入れた。
足元がせりあがり、彼の体が反動でコクピット内に押し込まれてきた。
運悪く、彼の銃が、おそらくは暴発した。
コクピット内に、嫌な音と、衝撃が響いた。
「くっ」
彼は呻いた。
アタシに覆い被さる様な格好になっている。
「頭、邪魔よ」
アタシは彼の体をぐいっと押して、視界を確保した。
V-ウィングをクラウチの側面へと向けて発進させた。
なんだって、視界が悪い。それに、速度も進路も全然安定しないや。
アタシは操縦感覚が狂っている事に気付いた。
だが、原因を追究している場合じゃない。
時々、全てを破壊する光のシャワーが、走った。
その度に、破片が雲のように進路をふさいで、機体が衝撃で悲鳴を上げる。
それでも、アタシは目的の位置に辿り着いた。
やっぱりだ。
格納庫のハッチのすぐ横の外層がべろりとめくれて、ハッチを塞ぐ形になっている。
「バロンさん、シャーリィさん、聞こえる? ハッチが開かない。中から、何か出来る?」
アタシは拡声機能と、通信機能の両方をオンにして叫んだ。
返事はない。
届かないだけなのか、焦りが生じた。
アタシは、せめて、ハッチを塞ぐ外装を引きはがそうと試みた。
パワーは、駄目だ。足りない。
嫌な音がして、V-ウィングのどっちかの関節が折れた。
くそ、どうする。
レイナイフで切れ目を入れて、中にレイライフルで一撃すれば、多少の穴は開くか?
「何をする気だ」
エクリプスが、聞いてきた。
「うるはい、この、外装ほ、取り除くのよ」
何でだろう、言葉がもつれた。
レイナイフにエネルギーを充填し、めくれ上がった根元の部分に、つきたてる。
ディックブレードがあればなあ。
アタシはそんな事を考えた。
と、
手が滑った。
あれ。
うまく切れない。焦点があってないな。どうかしたのか。
あ、何だこれ。
アタシの視界の左半分が、真っ赤になっている。
ヘルメットが汚れた?なんで。
触ってみたけど、とれない。っていうより、コレ、中じゃない?
アタシは気付いた。
これ血だ。
え、アタシ怪我してる?
ヘルメットの正面左上、あたしの左のこめかみの横あたりに、溶けたようなあとがあって。
アタシの顔が血に濡れていた。
やだ、アタシ、撃たれちゃってたんじゃない。
しかも頭じゃん。
これじゃあ、視界がおかしいわけだ。
気付いた瞬間、いきなり力が抜けてきた。
震えが、襲ってくる。
だめだ、このままじゃ、バロンやシャーリィが閉じ込められたままだ。
でも、ここに何とか傷をつけて、ライフルを撃ち込まないと。
アタシは、最後の力を振り絞って、外装に小さな穴をあけた。
よし、ライフルに・・・。
・・・この。穴に。
あ、意識が、やばい。このままだと飛ぶ・
はやく、しないと。
力、いれ、ないと。
・・・。
照準、・・・あわせ。ライフルを、・・・つっこんで。
・・・・。
だ、め。か。
アタシの手を、誰かが掴んだ。
「ここで良いんだね。ラライ」
その声って? エクリプス?
「意識を強く持って、今、何とかする」
ライフルが光を放った。
邪魔をしていた外装の一部が吹き飛び、格納庫の入り口に、プレーン一台が入れるほどの、小さな穴が開いた。
V-ウィングは、中に滑り込んだ。
操作しているのは、もう誰なのかもわからない。
ヘビーモスの姿と、アタシ達の船の姿が見えた。
格納庫の中は動力が失われた状況になっていて、赤い緊急ランプが数か所でほんのりと光っていた。
爆発の音と、振動が続いていた。
「ラライさん!!」
バロンの声が聞こえた気がする。
もしかしたら、気のせいだったかもしれない
「・・・エクリ、プス」
・・・船を、助けられる?
アタシは聞こうとした。でも、言葉がでない。
ちょっと、血が、出すぎちゃった。み、たい。
アタシは。そこで、意識を失った。
・・・・・・・。
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。




