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シーン2 月夜のタコは脱走を図る

シーン2 お届けします。ぜひ、お読みください。

よろしくお願いします

 シーン2 月夜のタコは脱走を図る


「それよりさ、さっきの狙われてるって話だけどさ」


 とりあえず、仕方が無いので話題を戻した。

 ついでに、精一杯の作り笑いと甘える様な眼差しを送ってみる。まあ、タコにアタシの魅力が伝わるとも思えないけど。

 あ、赤くなった。嘘。タコだけにもともと赤い。


「パイロットのあなたが、どうして狙われるわけ?」

「この星の軍事機密に、関わったからでやんす」


 まあ、「機密」な話をいとも簡単に話すこと。これが本当なら、このタコ、狙われるどころの騒ぎじゃないよね。

 でも、何だか胡散臭い。


「軍事機密って、どんな」

「プレーンパイロットが関わる機密といったら、プレーンに関する事しかないでやんしょ」

「それもそうね。じゃあ、軍事用プレーンなの?」

「表向きは民間企業なんでやんすがね」


 どんだけ口の軽いタコだ。

 聞いておきながらなんだけど、こうもあっさり話をされると、こっちが引くわ。


 それにしても、民間企業か。


 アタシは少しだけ気になった。

 プレーンとは、宇宙生活者の船外活動には欠かすことのできない市販の汎用作業マシンだ。巨大な人型、つまりロボット型のものが多いが、飛行機の形だったり、重機だったりと、その形や目的は様々だ。それらが、全てプレーンと呼ばれている。

 宇宙にはいろいろなプレーンメーカーがあって、自分の用途に合ったプレーンを購入し、カスタムをして使っていく。

 だが、そこにも規制はある。

 基本的に、武装はご法度だ。

 もちろん、そんな宇宙法はあってないようなものだし、武器のカスタムパーツも、どこでだって入手できる。極端な話、軍が古くなった武装品を、経費対策に売ってしまう事もある。

 それでも、正式な民間企業メーカーは、プレーンの不法改造や武装を辞めるように発信する立場にいるし、企業が軍事利用を前提とした開発に携わっているとなると、それなりに問題にはなることだろう。

 カースみたいな辺境星系に事業展開している企業か。

 多分、それなりに大手だろう。オルダー社か、ヤック社だな。


「じゃあ、潜入捜査でもしたの?」

「それに近いでやんすね」


 あれ、少し口ごもった。

 アタシはまじまじと、このタコを観察した。


 そういえば、軟体のくせに、ちゃんと服は着ているんだ。

 こうしてみると、縦になったコイノボリみたいな服だな。コイノボリの口から頭が、尻尾から触手が出ている感じ。うん、タコノボリか。


「まあ、どっちにしても、あっしの仕事はもう終わったでやんすからね。こうして迎えを待っているんでやんす」


 タコノボリは窓の外を見つめた。

 ほんとに、目だけはつぶらだな、こいつは。


「迎えか。いいな―」


 アタシを迎えに来る人なんて、誰もいない。


「この星に知り合いはいないでやんすか?」

「居ない」

「移民でやんすか?」

「ううん、ただの不法入星。就職ミスったの」

「苦労してるでやんすねー」


 同情されてしまった。なんか、嫌だな―。

 特別、大それたことなんか、しなくていい。ただ、温かい部屋があって、毎日の仕事があって、ご飯が食べれて、ドキドキしないで眠れればそれだけでいいのに。

 苦労なんか、したいわけじゃないし。しなくていい苦労はしなくていい。

 このままだと、未開惑星の強制労働か―。

 きっと、免疫の無い風土病なんかがあって、病気になったりするんだ。それなのに無理やり働かせられて、一人ぼっちで冷たくなったりして・・・。

 うわ、なんだか寒くなってきた。心が。

 ぼっちって、響きがキツイ。


「身元を引き受けに来るのって、どんな人?」

「え、誰でやんすか?」

「だから、あなたの身元引受人よ」

「そんなの、いないでやんすよ」

「え?」


 あれ、さっきと言ってることが違う?


「身元引受人じゃなくて、迎えに来る人でやんす?」

「それって、・・・どういう」


 事?

 って、聞こうとした時、アタシの耳に、聞きなれた音が響いた。

 低く連続した低音と、時々何かが破裂する音、そして、腹の底に響く振動。

 タコノボリの眼が、ぱっと輝いた。


「来たでやんす!」


 嘘ん。

 こいつ、脱走する気だ。

 この音は、明らかに戦闘の音だ。ってことは、こいつ、本当に潜入とかしてたワケ?

 窓の外が光った。

 一瞬、中空を一人乗りのフライボードが横切ったのが見えた。


「って、危ない。離れて!」


 アタシは呑気に手を振るタコの襟首をつかんで、引っ張った。

 そのまま二人で、部屋の中央に転がる。

 窓辺が轟音と共に破壊されたのは、その直後だった。

 なんて乱暴な。一歩間違えたら、タコノボリがタコ焼きになってた。

 ぽっかりと空いた壁面の向こうに、人が立っていた。正確には、丸いフライボードに足を固定し、熱線式のハンドガンを手にした女が浮かんでいた。

 お懐かしや。久しぶりに、タコ以外の人間を見た。

 長い銀髪に、切れ長の眼。随分きつい印象だが、結構な美人さんだ。それに腰のくびれが凄い。これは、やばい、・・・負けた。

 ん、でも年はきっと、アタシの方が若い。


「早くしな」


 女が言った。

 見た目の印象によく合う、ハスキーだが艶のある声だ。フライボードの下に、フックがついている。そこに、このタコをひっかけて飛ぶつもりらしい。


「姐さん。遅かったでやんすよ~」


 言いながら、タコがにゅるにゅると走った。

 タコが走るのを始めた見た。なるほど。ちょっと興味深い。

 いや、そんな事を言っている場合じゃない。


「ちょっと持って」


 アタシはタコの足を掴んだ。

 ちょっぴり後悔した。

 ぬるっとした感触。柔らかいくせに芯があって、そのくせ生暖かい。うわ―、これキモイ。先端の吸盤、やけにコリっとしてるし。


「ねえ、どうせならアタシも連れてってよ」

「はあ?」


 女がアタシを見た。

 明らかに困惑したような、・・・いや、面倒そうな顔をしている。

 タコが振り向いた。


「今助けてあげたじゃない。かわりにアタシを助けてくれない」


 自分でも滅茶苦茶な論理だってことくらいわかってる。

 だけど、このままここに残って強制労働させられるくらいなら。この二人が何者なのかはわからないけど、少なくとも今より状況が悪くなるなんてこと。

 ・・・あるかもしれないが、無い事を祈りたい。


「無理」


 女がアタシを強制労働に突き落とそうとした。


「いいじゃない、二人くらい大丈夫でしょ、アタシ重くないよ」

「無理ったら、無理。なんで見ず知らずの他人を助けなきゃならないのさ」


 ごもっとも。

 だけど、ここで諦めるわけにはいかない。


「お願い。・・・ええと」


 しまった! タコタコ言ってて、こいつの名前もまだ聞いてなかった。

 仕方なく、タコを見つめてみた。

 少しだけ瞳を潤ませて、情熱を込め・・・たふりをして。


 まあ、美的感覚も違うだろうし、泣き落としなんて通用しそうにもないけれど、やってみるだけ損は無い。

 ところが、タコは何かを感じ取ったように、大きく頷いた。


「姐さん、あっしからもお願いするでやんす。この人を、助けてやっておくんなせえ」


 急に時代劇みたいな喋り方になった。たぶんタコなりに格好をつけた結果だろう。


「へ、何言ってんのさ、この女、一体誰なの?」


 女が呆れたように訊いた。

 時間が無いらしく、大分頭上を気にしている。そりゃそうだ、一応は惑星の重要な施設を襲撃してるんだから。

 でも、今重要なのは、アタシが助かるかどうかだ。


「この人は、えーと、・・・でやんす~」

「肝心な所きこえないんだけど」


 タコはアタシを振り返った。任せておけ、良いね、って感じのジェスチャーをした。わからないけど、ここは合わせておこう。アタシは頷いた。

 タコは言った。


「この人は、あっしの彼女でやんす。ついさっき、将来を誓い合った仲でやんす~!」


 ・・・・・・。


 ・・・・。


 ・・・へ?


 アタシは頭が真っ白になった。

 女も、顔が点々になっている。

 タコがアタシを小脇に抱え、そそくさとフックに自分のベルトをひっかけた。

 女が、ふっと笑った。


「そうかい、それじゃあ仕方ないね」


 ちょおっと待て、仕方ないんかーい。

 ってーか、信じるな、そんな話。 


「行くよ。しっかりとしがみつきな!」


 フライボードが上昇を始める。

 一瞬にして、アタシたちは空中の人になった。


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