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シーン18 プライドだけの問題です

 シーン18 プライドだけの問題です


「この男を知っているか」


 シェードはモニターに、一枚の画像を映しだした。

 中年のテア人が映っていた。

 何かのパーティのワンショットのようだ。映像の状態からすると、隠し撮りしたものだろうか。

 薄い金髪を横になでつけたその顔には、微かに覚えがある。確か、プレーンの新作発表の時なんか、よくパフォーマンスをやっている。


「オルダー社の取締役員の一人で、名前はフィリンクス・オコーネル。オルダー社も手広くやっているが、まあ、プレーン事業のトップといっていい」


「こいつが黒幕なのか」

 単刀直入に、シャーリィが聞いた。


「正直、フィリンクスがどこまで関与しているかは俺も調べきってはいねえ。だが、彼の後ろをよく見てみろ。どうだ、見覚えのあるやつがいるだろう」


 むむ。アタシは目を凝らした。すると、確かに!


「バロンさん!? バロンさんが居る!?」


 アタシはまた、声を出してしまった。

 え、バロンがどうして?

 一体、これはどんなシチュエーション?


「よく見るでやんす~。それはあっしじゃないでやんすよ」

「え・・・?」


 アタシはもう一度画面を見た。


 カース人。つまりタコ型宇宙人が映っている。

 って、ごめーん。遠目からだと、カース人って見分けがつかない。

 だって、全部タコにしか見えないし。


「こいつは、あたしが潜入した時、工場に居た奴だ。・・・データを管理してた。あたし、こいつを騙して、データを盗んだんだから」

 シャーリィが言った。すごい、見分けがついているのか。恐るべしシャーリィ。


「こいつの名はブリック。こう見えて、カース星のプレーン工場では、ナンバー2だった男だ。この写真はその前の映像で、その時はフィリンクスの側近をしていた」


 シェードは画面を切り替えた。

 そこには、別の場所で、買い物をしたり、海辺でくつろぐタコ。もとい、ブリックの姿が映っていた。

 まるで、リゾートのような場所に見えた。


「これが、つい先日の映像だ。この男、工場の爆発事件の直前で異動になった。何とも絶妙なタイミングでな。 ・・・移った先は、有名なリゾート星。役職はプロモーションリーダーだそうだ。・・・良い環境じゃないか、見ろよ、この豪遊っぷり」


「どういう事?」

 シャーリィの眼が、厳しくなった。


「この男が、事件のカギを握ったのは間違いが無い。おそらく、実行犯は・・・爆弾を仕掛けたのはこいつだ。そして、ちゃっかりと事件の前に星を離れた。誰かから、結構な額のボーナスを頂いてな」


 やっぱりか。

 アタシは、今回の事件を起こしたのは、オルダー社内部の人間だろうとは思っていた。

 わざわざ宇宙海賊の仕業に見せたのは、事故ではない事を強調するため、つまり、会社としての格を下げないためだ。

 ただ、問題は、なぜ爆発を起こす必要があったか。という所にある。


「この男、まだ、そのリゾート星にいるかな?」

「居る。そいつの手掛けるプレーンショーがあるからな。なに、ここから、そう遠くない所だぜ」

「情報はこれで終わり? 他には」

「確実じゃないものでもいいんなら」

「何でも良いよ。今は少しでも手掛かりが欲しい」

 シェードは画面を消した。

 急に、辺りが静まった感じがした。


「今回の件、色々な思惑が絡まっている。おそらくは、一筋縄じゃない」


 それは、アタシも感じていた。


「オルダー社の内部にも怪しい点がある。軍にもだ。だが、一番怪しいのは、RIMGリングの連中だな」

「リングって? 何だい?」

「表向きは新興の通商ギルドだ。だが、その裏側は宇宙海賊どもの隠れ家さ。犯罪結社と言っても良い」

「なんで、それが出てくるのさ」

「理由は、まだ推論だから話せない。だが、二つほど、知っていることがある」

 シェードは声を潜めた。


「まず一つ。・・・あんたらに仕事を依頼したエクリプスだ。あいつはリングの手先だ。そして、さっきのブリック、あいつとも接触をしている。・・・それも、頻繁にだ」

「なるほど、繋がってるねえ」

 シャーリイは、怒りを飲み込むような声を出した。


「二つ目だ。そのリングの傘下に、この間パープルトリックって組織が入った。まあ、・・・そいつらに関しては、あんた達の方が詳しいだろう」


 バロンとシャーリィ、二人が言葉を失った。

 チープパープル。人を小馬鹿にしたような名前だが、彼ら二人が、その昔所属していた組織だ。という事は、デュラハンがスケープゴートにされたのは、たまたま条件があって利用されたのではなく、計画的だったと考えた方が良い。

 組織を抜けた者に対する、制裁、見せしめも兼ねている。


「とまあ、今話せるのはこんな所だ。サービス情報にしては、役に立っただろ」


 シェードは自慢げに言った。

 腕組みをして、真意を読ませない目を光らせながら、アタシ達を見る。

 いや、アタシを見た?

 なんか、背筋が寒くなる。

 こいつ、理由ないけど、やっぱり苦手だ。


「だいぶ役にたった。ありがとよ」

 シャーリィが、腰を上げかける。


「なあ、悪い事は言わない。この辺で、引くのも手じゃねーか」

 突然、シェードが言った。

 カウンターの向こうで、自分のコップに飲み物を注ぎ、一気に飲み干す。


「手を引けだって?」

「ああそうさ、考えてもみな。これ以上この事件に首を突っ込んだところで、あんたらにメリットは何もないぜ」


 シャーリィの眉に、不機嫌そうな皺がよった。


「あんたらは俺にメモリーキューブを売って、報酬も得た。おそらく、少しはお釣りの出るくらいの額にはなっただろ」

 言いながら、アタシを睨む。

 いやいや、アタシを恨まれても困るから。

 交渉だし。

 そういうもんだし。


「あんたらは宇宙海賊だ、テロリストの称号くらい、かえって箔が付くくらいだ。わざわざ、何の見返りも無しに相手を刺激する必要は無いかと思ってね」


「誰かに、そう言えって、言われているのかい?」

 シャーリィが鋭い目で彼を見据えた。


「まさか。ただ、あんたがこれ以上危ない橋を渡って死んだりしたら、俺はデートに誘う相手を一人無くしちまう」

「くだらない。誰が、あんたなんかと」

 シャーリィは席を立った。


「言っとくけどね、あたし達が宇宙海賊を名乗るのは、それだけのプライドがあるからだ。誰かの起こした事件で名を売るなんざ、願い下げなんだよ。売られた喧嘩は、百倍にしてこっちから売ってやる。それがあたし達の生き方だ」

 彼女の啖呵は、見ているこっちの方が気持ちよかった。


 なかなか言うじゃないシャーリィ。

 アタシ、少しだけあなたを見直したわ。


「さすが姐さん。その通りでやんす!」

 隣でバロンが、吸盤をぺたぺたさせて喝采を送った。


「・・・シェード、礼だけは言っとくよ。だけど、こっからはアタシたちの問題だ。これ以上の口出しは必要ない。行くよ、みんな」

「はいでやんす~」

 二人が出口へと向かい始める。


 アタシも行こうっと。


 と、突然アタシは目の前を遮られた。

 シェードがいつの間にカウンターのこちら側にきていた。


「あんたには、別にちょっと話したいことがあるんだ。時間、良いかな」


 え、アタシに?

 ちょっと、たじろいだ。


 時間なんてもんは、・・・そりゃー住所不定無職のアタシには沢山ありますけれども。

 でもほら、シャーリィ達を待たせるのは良くないし―。


「あ、その、私にはちょっと」

 話なんてありません。と言いかけたが、


「別に取って食ったりはしねーよ。もちろん、あんた・・いや、君にその気があれば、別だけど」

 シェードは小さくウインクし、囁くような口調になった。


 は、何を言ってやがるのこの人は。


「おい、シェード。てめえ、うちの仲間に手を出す気か?」

 怒りを込めた声で、シャーリィはシェードの肩を掴んだ。


「無理強いはしないって。・・・だけど、気になるだろう。この子が何者なのか?」

「・・・何だって?」

「あんたらも、知らないんだろ。この子の正体」


 何、どーゆーこと。

 この男、アタシの事がどうしてそんなに気になるワケ。ってーか、アタシが正体不明の謎の女って事を、こいつは何で知ってるの?


「あんたは、こいつが誰か、調べたのか?」

 シェードは、肯定も否定もしなかった。


「正体不明ってものに、俺はすごく惹かれる性分てね。しかも、この通り可愛い子だしさ。・・・だから、少しだけ話したい。10分で良い。絶対に変な事はしないと約束する。多分だけど」

「旦那の約束はあてにならないでやんす~。ラライさん、行くでやんす。こんな奴に構っているだけ無駄でやんすよ」

「俺は、数少ないあんたらの協力者だぞ。そういう言い方は心外だなー」

 シェードはバロンを見下すように睨んだ。


 シャーリィがアタシを見た。

 はてさて、どうしたもんか。

 だけど、何だかこのままにしておくのも、かえって後ろ髪を引かれそうだ。

 気乗りはしないけど、仕方ないか。


「10分だけですね。それなら」


 アタシは応えた。


「二人きりで話すかい、それとも彼らを同席させる?」

 やけに嬉しそうに、シェードが聞いてきた。


 どうしよう。ちょっと悩む。

 二人がいてくれた方が心強い。でも、アタシが彼らに知られたくないと思っている事を、もしこいつが知っていたら?

 それを二人の前でばらされたら。

 嫌だ。


「二人きりで、話しましょう」


 どうやら、それしかないようだった。



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