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シーン1 どっちを見てもタコだらけ

公開初日なので、シーン2まで、公開します。

ぜひ、お読みください。よろしくお願いします。

 シーン1 どっちを見てもタコだらけ


 入星管理局とは、いわゆる不法移民や不法滞在者を取り締まるところだ。

 到着するなり、殺風景にも程がある程の酷い部屋に押し込まれて、タコにしか見えない取締官から尋問攻めにあった。


 質問その1

「どうやってこの星に来た?」


 アタシは正直に答えた。嘘を言っても、すぐにばれるだけだ。


「お金が無かったので、モグリの貨物便に頼んで、潜りこんできました―」

 タコが眉間にしわを寄せた。ほほう、タコも表情があるのか。

 これで、まず一つ目、不法入星が確定した。


 質問その2

「本星はどこだ、どこの星に住民申請をしている?」


 あー、これも痛い質問だ。アタシは経歴を消去したから、どこの星にも登録なんてない。


「本星はありません。宇宙生活者で―す。住民申請もしてません」

 タコの皺がさらに深くなった。あれ、正直に答えているのに、心象が悪いみたい。

 アタシのカルテに、身元不明の箔がついた。


 質問その3

「で、何しに来た?」


 別に、悪いことしに来たわけではありません。


「三食住み込み可の求人を聞きつけてきました。でも、就職詐欺にあいました」

 タコが少し目を丸くした。

 ほんの少しだけ、同情してもらえたようだ。


「強制送還ですか?」

 アタシは率直に訊いてみた。


「送還先にあては?」

「ありません」

「・・・・身元引受人は?」

「ありません」

「移民申請を出すつもりは? 時間もかかるだろうが。あと、金も」

「ありません―」


 さすがの管理局員もあきれ顔になった。

 アタシは一言も嘘はついていない。

 仕方が無いじゃない。全部その通りなんだもの。


「最後にもう一つだけ質問だ。これまでに逮捕歴や、犯罪歴は?」

「ありません―」

 最後だけ嘘をついた。これも仕方ない。


 だけど、アタシがあの宇宙海賊『蒼翼のライ』だと名乗ったところで、誰も信用しない。そもそも、彼女は正体不明が売りだったし、まさか、こんな所でホームレスになっているなんて、誰一人想像もしないだろう。


 タコ型管理局員は、面倒そうにアタシの中身の無い情報カルテをまとめ上げた。少し待つように言われ、一人取り残された。どうやら、今夜の・・・もしかしたら今後しばらくお世話になるであろう留置施設にアタシを入れる手続きをしているのだろう。


 その間に簡易食を貰えた。

 制度なのか、好意なのかはわからないが、有難いので、お礼をちゃんと言って食べた。

 思った以上にパサパサしていて、喉が詰まった。

 苦しんでいると、どこかで見ていたのかというくらい、ばっちりのタイミングで迎えが来て、水も飲めないまま、死にそうになりながら連行された。

 お礼を言ったのは、少し気が早かったかもしれない。


 辿りついた先は、思ったよりは小奇麗な施設だった。

 てっきり、独房かと思ったら、集団部屋だった。というか、集団部屋に二人きりだった。


 先客がいた。当然のようにタコだった。

 まったく、右を見ても左を見てもタコばっかりの星だ。

 だが、このタコは少しだけ様子が違った。

 格子の入った窓辺にもたれて、少しアンニュイな感じを醸し出している。

 ここに居るという事は、身元不明者なのだろうが、妙な違和感だ。


「あの―」


 話があるわけではなかったが話しかけた。

 アタシは基本的にはコミュニケーション力は高いと思っている。

 タコは、アタシを無視した。気付いていないだけかもしれない。


「あの―、ちょっと、聞こえてる?」


 もう一度、さっきよりも大きい声を出した。

 タコの耳、と思われるあたりが、ピクリと動いた。


「ん、あっしの事でやんすか?」


 違和感ありまくりの返事が返ってきた。


 なんだこの発音、というか訛りは。

 一瞬だけ声をかけたのを後悔したが、もう手遅れだった。

 タコはにゅるり、とこっちを向いた。

 アタシは仕方なく、最高の愛想笑いを浮かべた。


「あなたも、捕まったの?」


 我ながら間抜けな質問だ。ここに居るのだから、それ以外の答えがあるわけがない。

 だが、このタコは不敵に笑った。


「あっしは、好きでここに居るでやんす」


 その眼が、あなたとは違うのだ、と言っていた。なんだこのムカつく野郎は。

 ん? 野郎?

 こいつ、男だ。


 信じられない、アタシを男と一緒の部屋にしやがった。いくら外見がカース人とは違っても、性別くらい確かめろ。


「好きでって、なんで」

 馬鹿じゃない。と言いかけたが、危ない。なんとかこらえた。


「あっしは、待ち人が居るでやんす。迎えに来るまでは、ここが一番安全なんでやんすよ」

「留置所が安全って・・・、もしかして犯罪者かなんかに追われてるの?」

「それは、内緒でやんす」


 触手を、チッチッ、と振る。

 いちいち気に障る動きをする奴だ。

 だが、こんな所で人を待つって、どういう事なんだろう。態度にはイラっとするけど、俄然興味は湧いてきた。


「で、あんたは不法入星者でやんすか?」


 今度は向こうから訊いてきた。


「まあ、そんなとこ」

「送還は?」

「本星が無いから無理。ねえ、こういう場合って、どうなるか知ってる?」

「まあ、聞いた事くらいは、あるでやんすよ」


 タコは明らかに同情した顔をした。

 今日一日、何人ものタコと話したせいか、タコの表情が解るようになってきた。


「そのうち、管理下にある未開惑星あたりに送られるでやんすかね」

「未開惑星に?」

「でやんす」

「それって、どんな所。暮らしていけるの?」

「死ぬまで強制労働が普通でやんす」

「マジで?」

「マジでやんす」


 さーっと背筋が冷たくなった。

 強制労働は嫌だ。できれば働きたくないのが本音だが。三食昼寝付きでフレックスタイムが良い。


「なんか、他に無いのかな―。例えば、少しくらい働かせられても良いから、この星の滞在権がもらえたりする制度とかさ」

「金があればなんとかなるでやんす」

「それが無いから、ここに居んの」


 タコは無言になった。

 つぶらな眼で、じーっとアタシの方を見ている。

 少しずつ、タコの顔も見慣れてきた。


 アタシ達テア星系人の特徴その2として、適応力の高さがあげられる。

 アタシはその中でも、もっとも遺伝適合力の高いエレスシードを普通の人の3倍くらい持っている。だから、カース人が相手でも、生理的に拒絶することは無い。


 あ、エレスシードってのは、いわゆる人類を定義する言葉の一つ。

 宇宙には何万もの知的生命体が存在する。

 その姿や形、性質や特徴は様々だけど、それらの生命体の約7割に、エレスシードが存在する。

 これは、壮大な進化プログラムを経て、人類種として様々な惑星で誕生した人類共通の特徴だ。エレス同盟では、この遺伝子特徴を持つ生命体を「人類」と定義している。だから、見た目は違っても、このタコとアタシは同じ人類なのだ。


 そして、同じエレスシードを持つ人類同士は、高い確率で自然交配が出来る。

 こうして、アタシたちはどんどんその生活圏を広めてきたのだ。


 それはともかく。


「で、あなたは誰を待ってるの? 何かしたの?」


 懲りもせずアタシは質問を再開した。


「話せば長くなるでやんす」


 タコは遠い目をして、窓の外を見た。

 アタシも窓辺に寄ってみた。格子の入った強化ガラスの向こうには、数メートルの芝生と、その先に特殊合金の塀が見えるだけだ。

 もう夜になったんだ。

 塀の上には無数のライトが灯っていて、それが周囲を明るく見せていた。


「あっしは、狙われているでやんす」


 ほうほう、やっぱり。なんか、そんなこと言ってたね。


「こうみえて、あっしは腕利きのプレーンパイロットでやんすよ」

「へえ、プレーンに乗るの。どんなの、戦闘機型? 人型? 重機型?」


 話題に喰いついてしまった。

 自分で自分を「腕利き」なんていう奴の話に・・・。

 でも、アタシも「ライ」として、人型戦闘用プレーンを操ってきただけに、同じパイロットとして興味がある。ってーか、カミングアウトすれば、アタシは兵器ふぇちだ。

 これだけは何とかしないと、普通の生活にはなれない。と思いつつも、ぶっとい大砲やら巨大なレーザーブレードの動力パイプなんかを見ると、それだけで興奮してよだれが出てしまう。


「もちろん人型、超近接攻撃型の、重火器搭載ヘヴィィモデルでやんす」


 くわっ。

 ナイスチョイスだ。近接のくせに、重火器ってところが、また無駄で素晴らしい。

 アタシの中でタコの評価が48点くらいアップした。(現在計59点)


「もしかして、メイン兵装はグラビティバスターとか?」


 完全に話が脱線したが、戻す気が起きない。

 タコは、おや? という顔になった。


「なかなか分かってるでやんすね。でも、グラビティバスターはあっしの機体には流石に容量オーバーでやんす。破裂型のNボムと、ディックブレードⅡでやんす」

「イイね―。ディックブレード。あれで叩き斬るの快感だよね。装甲を吸い込みながらブチブチっていうのがさ」

「使ったことあるでやんすか?」

「そりゃあ、モチ・・・」


 アッぶな―。

 思わず正体ばらすところだった。

 アタシは普通の人生を送るんだ。


「もちろん。映画で見たの―」


 誤魔化すように笑う。タコが、じっとりとした眼で、アタシを見た。


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