シーン14 あれ?これってデートかな
シーン14 あれ?これってデートかな
アタシの心配をよそに、数日後、船は無事、遊星R-7、通称ドッグ星に辿り着いた。
見た目はただの巨大な小惑星。ごつごつした岩ばかりの星に見える。
だけど、その内部には、何千の船を同時に受け入れることのできる、巨大な宇宙船ドッグが口を開け、更に、数万以上の人間が暮らす街までも存在する。
着船を終え、手続きをすますと、シャーリィはアタシの部屋に来た。
あたしは、辛うじて自分の足で歩けるようにはなっていたが、まだ走ったりできる程には回復していなかった。
「あたしは、ちょっと会う人がいるから街に行くけど、あんたはどうする?」
「滞在はどの位なんですか?」
「船の状況次第だね、でもまあ、2日くらいかな」
「街には行ってみたいけど、この足じゃあ、長く歩くのは辛いですね」
「だったら、バロンと一緒に行きな」
「バロンさんは、シャーリィさんと一緒じゃないんですか」
「最初から、別行動の予定なんだ。あいつはプレーンのジャンクパーツを見たいって」
「あ、アタシもそれ見たい」
「あんたも、変わってるねえ」
呆れたようにシャーリィは言った。
10分ほどして、バロンが迎えに来た。
お、自動制御の二名用車いすか。良いね。
「無料で借りれたでやんすよ」
見た目は普通の車いすに近いが、後ろに介護人も立ち乗り出来るようになっていて、一緒に移動できるようになっている。
ただ、スピード制限があるのが難点だ。
アタシたちは街に繰り出した。
機械の匂い、油の匂い、様々な匂いが入り混じっている。
街の片隅にはジャンクパーツが山に詰まれて、あちこちでフリーマーケットが行われていた。
いや、もう、よだれが出るなんてもんじゃございません。
アタシの眼から見たら、もう宝の山。
見ているだけで眼福だけど、やっぱり色々欲しくなる―。
でも、ああ無情。
アタシの財布には、たったの1200ニートしかない。
バロンは、そんなアタシの欲求不満をよそに、楽しそうに物色を続けていた。
「お、これなんかいいでやんすね」
彼が嬉しそうに見つけたのは、照準器だ。
レイライフルを折角装備したんだし、照準器があれば、確かにずっと使いやすくなる。
だけど。
「それって、カザキ社の奴じゃない。アタシ、こっちのリンキー社の方が良いと思うけど」
アタシは、スクラップの山から、違う照準器を見つけ出した。
値段は、カザキ製が15万ニート。リンキ―社が12万。ほら、安いし。
「えー、リンキ―社でやんすか~」
バロンが、明らかに嫌そうな声をあげた。
ほほう、リンキ―社は嫌だと。
それは、アタシへの挑戦ですか。
「リンキ―社、最高じゃない。価格の安さに対して、このクオリティと、独創性」
「えー、でも、リンキ―社はかっこ悪いでやんす。流通も少ないでやんすから、パーツのスペアも探しにくいでやんすよ」
「カザキなんて、すぐ壊れるよ。耐久性紙レベルじゃない」
「む、カザキ製品を馬鹿にするでやんすか」
バロンが反論してきた。
おのれ、タコの分際で、リンキ―製品を侮る気か。
アタシはリンキ―信者なのだ。リンキ―の部品を使えば間違いないのだ。
だいたいどんなマシンでも上手くいくのだ。
「さてはラライさん。リン菌患者でやんすね」
バロンが、言ってはならない言葉を吐いた。
リン菌とは、リンキー製品を愛する人を貶める言葉だ。もはや許せない。
「そういうバロンさんこそ、カザキは漢のマシン、っとかって幻想に惑わされてるだけじゃない? カザキはカタログ数値だけは良いんですよねー。スペック至上主義者にあわせてー」
「なんてこと言うでやんすか、その言葉、例えラライさんでも、許せないでやんす!」
「何よー。やろうって、言うの。喧嘩なら買うわよ!」
アタシ達は睨み合った。
もはや、引けない。
そして20分後。
「これで勝った方の部品を買う。良いわね!」
「受けて立つでやんす!」
アタシ達はゲームセンターに居た。
プレーンシュミレーターを使った摸擬戦ができる、有名なゲームだ。
毎年バージョンアップを繰り返し、今年でもう20年くらいにはなる。
ふふ、見てるが良い。
これでもアタシは「蒼翼のライ」。
プレーン戦では、一度も負けたことの無い女だ。
そして、このゲームでも同じ。
以前プレイしたのはもう数年も前の話だけど、操作感は覚えている。
アタシは当然リンキ―社のプレーン「ヤイバ」を選ぶ。対するバロンは、カザキの誇る名機「ザファー」ですか。
ゲームが始まった。
む、バロンの奴、タコのくせになかなかやる。
接近戦と見せかけて、誘導型ミサイルか。なんだか、どっかで見た戦い方だ。
だが、その戦法は攻略したことがある。
「手強いでやんすね」
「バロンさんこそ」
アタシは操縦桿を握る手に力を込めた。
よし、距離を取った。ここから旋回して、一見無軌道にも見えるジグザグとした移動からのヒット&アウェイ。
これが、百戦錬磨、アタシにしか出来ないライの必殺モード。蒼翼のライ、もう一つの通り名「サンダーライ」の由来になった戦法だ。
ふふ。背中を取った。
「これで、終わりよ!」
「甘いでやんす―!」
・・・やんすー
・・・やんすー
・・・やんす―(←木霊)
アタシは目を疑った。
バロンの機体が反転もせず、背後を撃った。
最初から、アタシがこの位置に来るのを、既に見切っていたというの?
「いやあーーーーーー」
アタシのヤイバが、完全に破壊される。
ああ、なんて無残。
目の前に、GAME OVER の文字が点滅する。
アタシは真っ白な灰になった。
負けた。
そんな筈はない。
アタシが負けるなんてありえない。
しかもバロンに。バロンなんかに。
あはははは。
これは夢だ。夢であってくれ。
バロンがアタシの肩を叩いた。
「ラライさん。まさかラライさんがサンダーライ戦法の使い手とは、あっしも少しは驚かせていただいたでやんす」
うわ。なんだこの、上から目線は。
ムカつく。
前回良い人だと思ったけど、撤回。やっぱりこいつタコだ。
タコ―。タコ―。タコ―。
悔しー。
ただでさえショックなのに、バロンはさらに追い打ちをかけた。
「でもラライさん。サンダーライ戦法は、もう古いでやんす。対処法はとっくに編み出されているでやんすよ」
・・・。
・・・・。
・・・なんだってー。
アタシの戦法が、古い。三年でもう、古い。
そうなの。それが時代なの?
アタシのプライドが音を立てて、崩れていく。
その横で、バロンが小躍り、もとい勝利のタコ踊りをしていた。
・・・そして数分後。
「え、さっきのカザキの照準器。もう売れたよ。リンキーのなら残ってるけど」
マーケットの親父が、笑いながら言った。
「・・・・」
「じゃあ、・・・それ下さいでやんす」
結局。リンキ―社製の照準器を買った。
ざまーみろ。ばーか。
数時間後、アタシ達はファミレスに居た。
「そんなに怒らないででやんす―。何でも好きな物頼んで良いでやんすよ」
アタシがあんまり不機嫌になったものだから、バロンなりに気を使ってくれたようだ。
「何でも良いのね、じゃあ、このページ全部頼んで良い?」
「そんなに食べれるでやんすか」
呆れるようにバロンが言う。
「・・・。」
アタシはしばらく彼を睨んだのち、結局、好物のフルーツジュースと、適当なスイーツを注文した。
甘いものは、心を中和する。うん。
半分くらい食べたら、彼がじっとアタシを見ているのに気付いた。
「何見てるのよ」
アタシが意地悪な声を出すと、バロンは照れたように顔をそむけた。
「いや、美味しそうに食べるでやんすね~」
「あたりまえじゃない、だって、美味しいもの」
言いながら、少しアタシも気恥ずかしくなった。
外を見ようとして横を向いたら、ガラスに、自分たちが映った。
顔が赤くなった。
やだ、はたから見たら、デートしているみたいじゃない。
よりによって、こんな奴とデートだなんて。
・・・。
・・・・。
・・・・・。
デートか。
今まで、そんな事、考えた事もなかったな。
「ライ」として生きていたころは、毎日が戦争みたいなものだったし。チームのメンバーも5人全員が女で、男っ気なんか一つもなかった。
この三年だって。
常に何か、自分の生活が壊されるんじゃないか―って、怖くて。気が付いたら転居を繰り返して、友達なんか一人も居なくって。
お金も気付いたら無くなって。
人と、本気で付き合ったり、遊んだりした事なんて、一度もなくて。
・・・・。
・・・・・。
「なんか、・・・ごめん」
アタシは、無意識に呟いていた。
「え、どうしたでやんすか?」
聞き返さないでよ。馬鹿。
「何でもない」
アタシはそう言って、またスイーツの残りを胃袋に放り込んだ。
それからまた買い物をして、船に戻ったのは、大分遅い時間だった。
シャーリィは、まだ戻っていなかった。
ずいぶん遅いな、と思っていると、船の通信機が急にけたたましい呼び出し音を上げた。
「姐さんからでやんす」
バロンが通信機を手に取る。
なんだか、嫌な予感がした。




