シーン12 逃げる?戦う?やっぱり逃げる?
シーン12 逃げる?戦う?やっぱり逃げる?
あっちゃー。逃げる方向間違ったかも。
路地に入り込んですぐ、アタシは後悔した。
この通りは市内中心に向かう通りだ。ってことは、雑踏から整然へと、街並が変わる。人通りは少なくなって、建物がだんだん巨大化する。
つまり、身を隠すところが少なくて、しかも走る距離は長く必要だ。
背後を見た。
敵は誰だ?
こんな市街地にもかかわらず、堂々と爆発を起こし、銃撃をしてくる奴ら。
暗殺者っていうより、襲撃者。ってことは、マフィア系か。
背後から追ってくる気配はない。
おかしい?
「バロンさん!」
アタシは指さした。
上空を。
前にシャーリィが使っていたようなフライングボードに乗って、上空から男がアタシたちを狙っていた。遠目にはテア系の人種に見える。
バロンが銃を撃った。
命中した。彼も、なかなか良い腕してるじゃない。
だけど・・・。
「やっぱり機械だ。死なない!」
アタシは咄嗟に周囲を見た。
路地の横に設置されたグレーチングの先に、やや大きめの排水用ホールが見える。
「バロンさん!、あそこ」
「承知でやんす!」
バロンの触手がホールの蓋に巻きついて、楽々と外した。
銃撃が来た。
ホールの蓋を盾がわりにして防ぎながら、アタシたちは排水ホールに飛び込んだ。
うわ、くっさ。
もう鼻が曲がりそう。
当たり前だけど、とんでもない異臭だわ。
普通なら、アタシには、最も縁遠い場所よね。
中は思ったよりも広く、左右には人が立てるくらいのスペースがあって、真ん中を下水が流れていた。
真っ暗かと思ったけど、そうでもない。メンテナンス用の発光パネルが、数メートルおきに設置されている。
「どうするでやんす、すぐに追ってくるでやんすよ」
アタシはさらに奥を見た。路上に繋がる登り口は、幾つもあるようだ。それに、奥で別れているのが見える。まずは身を隠せるところまでいかないと。
「あそこに身を隠そう。で、迎え撃つ」
「でも、あっしの銃弾、弾いたみたいでやんしたね」
「多分距離のせい。それと、当たり所」
ああいった人間の形をした機械人形は、過去にも戦った記憶がある。さっきのエクリプスは遠隔操作型だけど、今追ってきた奴は、おそらく自動追尾型だ。反撃を受ける事も想定されてるから、基本的に装甲が厚い。
だけど、関節やセンサー部を狙えば、意外と脆い事もある。
狙い所は、目や口、首だ。
アタシはバロンに耳打ちした。
で、待つ。
さっき飛び込んだ穴から、すぐに姿を現すかと思ったら。
なかなか来ない。
あれ、なんか変だ。
「もしかして、あっし達を見失ったでやんすかね」
「ちょっと静かに」
アタシは、耳を澄ました。
変な音がする。これは。・・・まずい。
「やば、これナパーム弾の音よ」
この排水溝の中を、一気に燃やし尽くす気だ。
どうしよう。逃げ道は?
あった。けど、無い。
下水に飛び込むしかない。
・・・けど。
カミングアウト、パート2です。アタシ、泳げない。
だって、宇宙に住んでて、泳ぐ必要ってある?
アタシ、レジャーとか縁がなかったから、海とかプールとかで遊んだ経験もないし。
「ラライさんっ!」
バロンが無理やりにあたしを抱きかかえ、水路に飛び込んだ。
拍子に足をしたたかに打った。
水面上で、炎が巻き上がるのが、かすかに見えた。
一気に頭まで沈んで、泥水が鼻に入る。死ぬ。これ、ほんとに死ぬ。
もがくアタシを押さえつけ、バロンはすごいスピードで水中を進んだ。
あ、こいつタコだ。
生まれつきの水陸両用か。
でも、アタシは陸上専用なの。水中は専門外なの。
息できない。意識が飛んじゃう。
助けてくれたのは嬉しいけど、アタシ、あなたにとどめを刺されそうよ。
全てがブラックアウトした。
さようなら皆さん。短い間でしたが、応援ありがとう。
・・・・。
・・・・・。
・・・・・・。
ぶはあああっ。
アタシは泥水を吐いて起き上がった。
「大丈夫でやんすかっ!?」
バロンの声だ。
ってことは、ここはまだ天国ではない。
目を開けると、間近にバロンの顔があって、アタシを心配そうにのぞき込んでいた。
周囲は、暗い。まだ、水路の中にいるようだ。
「はあ~、びっくりしたでやんす。死んだかと思ったでやんすよ」
「死んでないのが不思議なくらいよ。・・・アタシ、どの位気を失ってた?」
「1分くらいでやんす」
「相手は?」
「見えないでやんすよ」
アタシは立ち上がろうとして。膝から崩れた。
ありゃ、どっか捻ったかな。
見たら、足首がぷらぷらしてる。これって、折れてない?
いやー、いくら何でも見間違いよね。あはははは。
痛くもないし。うん。
足をそっと撫でる。
・・・・・・・痛―う。
アタシは泣いた。
「ラライさん、足が変な方向を向いてるでやんすー!」
「わかってる。わかってるから!」
それ以上指摘しないで。現実を受け止めるメンタルが、今ちょっと弱ってるから。
でも、本気で何とかしないと。
きっと、すぐに追手が来る。アタシたちの死体を確認しない限り、あの機械人形は諦める事は無いはずだ。
でも、アタシ、この足じゃあ。
・・・そっか。
「バロンさん、アタシを抱いて」
アタシは言った。
あ、変な意味ではございません。
正確には、アタシを抱きかかえて、の意味です。
彼は4本の腕で、アタシの体を優しく抱き上げた。
「銃を貸して、それから、あの排水口の下に走って」
「逃げないでやんすか」
「どうせ逃げ切れない。だったら」
バロンはアタシを抱えて走った。
あの機械人形は、必ずあそこから突入してくる。だったら、真下で迎え撃てば、最も至近距離で銃を当てられる。
本当に間一髪だった。
アタシが排水口の真下に辿り着く。眼前に、機械人形の体が降ってきた。
間髪を入れず、銃口を相手の口に突っ込んでぶっ放した。
機械の頭が吹き飛んだ。
熱い!
今度は火傷した。
だけど、死ぬよりはましだ。
連続で、肩を、膝を破壊する。
5.6発撃ちこんだところで、ついに相手は沈黙した。
「やったでやんすね」
「とりあえずはね」
安心してはいられない。相手の数も、正体も何もわかっていないのだから。
それに、シャーリィの方も心配だ。
それでも、少しだけホッとしたら、いきなり足の痛みが蘇ってきた。
うう、痛いよお。
なんで、アタシこんなに不幸な目にばかり合うの。
「これから、どうするでやんす?」
「船に、メディカルボックスはある?」
「骨折を直すくらいのなら、一応あるでやんす。」
「スリープ式?」
彼は頷いた。
良かった。スリープ式なら、痛みを忘れて治せる。
折れただけだし。無くなってないし。大丈夫。
自分に言い聞かせ、涙を堪えた。
「それなら、一旦船に戻ろう。シャーリィさんも、戻っているかもしれないし」
「上に出るでやんすか」
少し悩んだが、それが賢明だ。
「早めに、この場を離れよう。警察とかが来ても面倒になるから」
「そうでやんすね」
彼はアタシを抱えたまま、排水口を登った。
そこから先は、ある意味ちょっとした罰ゲームだった。
排水口から出てきた泥まみれの二人、それも、明らかなタコ人間と、それにお姫様抱っこされた女が、街を走り抜けた。
あー、そりゃあ、注目されますよねー。
目立ちますよねー。
タコと付き合ってる痛い女がいる、って、思われちゃいましたかね―。
アタシは恥ずかしさで顔を覆った。
お姫様抱っこされるなんて、人生初だ。それも、人前でなんて。
アタシがショックで泣いているのだと、勘違いしたのだろう。
よしよし、と、バロンがアタシの頭を撫でた。
やめてくれ、よけい恋人同士みたいに見えるじゃないか。
しかも。
嘘だ、ドキドキするなアタシの心臓。
思った程の妨害も無く、アタシたちは船に辿り着いた。
「バロン!ラライ!、無事だったかい」
シャーリィの声が出迎えた。
アタシたちに駆け寄り、ハグしようとして。
「臭っ! あんた達何してたの」
そりゃあ、そうでしょうけども。
「とりあえず、シャワーとメディカルボックス、使わせてください」
アタシは泣きそうになりながら頼んだ。
お読みいただいてありがとうございます
また、これからもよろしくお願いします。




