貴族道中~ロックオン~
貴族同士が一触即発の空気を醸し出している間に暇になってしまったルームは、今回一番ひどい傷を受けたロサ・ロサのケアを行うことにした。ルームは腕が1本吹き飛んでいるので本来は一番重体なのだが、特にそれは気にしていないのだった。
「ロサ・ロサ、元気になった?」
「はぁ……はぁ……余はもう駄目かもしれぬな……見よ、この花弁の色を……こんなにくすんでしまってはもはや薔薇ではない……余は……もう……」
ぐったりとしている本体を抱き上げるルーム、確かにロサ・ロサの花弁は色がくすんでしまっている。しかし、くすんだ色の薔薇になっているだけで別に枯死しかけているわけではない。これは心配されるのが心地良いために少し大げさにアピールしているに過ぎない。
「んんっ、薔薇のお人? 魂はそんなに消耗しているようには見えないでありんすが」
「枯れるような匂いはしないから大丈夫だよ、ルーが心配するほどでもないような気がするな」
「うーんとねー、あんまりやりすぎると後でいじわるされるよお?」
同じ穴の狢には一発でバレている。とはいえ、除草剤のようなものを直接ぶち込まれた事に変わりはないのである。苗床亭の他のメンバーに教えられてもルームの態度が変わることはなかった。
「直接で良いから飲んで、元気になって」
「良いのか、今は少し加減が効かぬやも……」
「大丈夫だから、ほら」
ルームが腕を差し出す、そこに幾分細くなった茨が巻き付いていく。もちろん柔肌に茨が食い込むことで血が流れる、それをそのまま吸い上げる。
「どう? 元気になれそう?」
「ああ……生まれ変わったようだ」
見る見るうちにロサ・ロサの花に鮮やかさが戻っていく、本当のことを言うとあと1時間もあれば自然に戻るくらいのダメージまで中和されていたのだが。
「くっ……」
腕の再生に加えてロサ・ロサが血を直接飲むというイレギュラーによってルームの血が足りなくなる。それによって引き起こされた貧血は軽い目眩をルームにもたらした。血が足りなくなるということは思考力が落ちることにも直結する。これが何か問題なのかというと、ルームが不用心な発言をする率が上がるという効果がある。
「流石に血が足りないかな……【寄生】は血を増やす効果はないからなあ……」
なんでもない発言である、普通に聞いていても禁忌スキルのことを話しているとは思わないため聞き流す発言だった。しかしこれは聞いているのが禁忌スキルの関係者ではないという前提の話だ、貴族というのはペルに代表されるようにいずれ禁忌に至るような体質やスキルを継承しているものなのだ、それは『寿限無』の到達点であるトワも例外ではない。
「ほぉ?」
なんだかんだと問答をした末に勃発したペルとドネとの戦闘を軽くこなしながら、トワの注意が少しだけルームの方に向く。禁忌スキル所持者としてなんとなく知っているくらいの認識であったのだが、【寄生】を有しているにしては邪悪ではなく、味方らしき者たちも支配というよりも情による鎖で相互に縛り合っている様に見える。ルームの特異性に少しだけ気を取られた。
「もらいましたわ」
「隙あり」
蜘蛛感を持つ2人がその一瞬を見逃すはずもなく、渾身の一撃がトワの顎に直撃する。
「ん? すまんの、よそ見をしておった」
が、その攻撃はトワに何の痛痒ももたらすことはなかった。たとえ寝ていても使うことのできる程に鍛えられた体術が全ての衝撃を地面に逃がしていたのだ。
「んー、貴様らはもう良い。あっちにおる小僧と話をする手伝いをするならば認めてやろう」
「は?」
「え?」
いきなり殺意を引っ込めて護衛と話をさせろと言ってきた絶対強者である、命がけで立ち向かった姉妹にとってはなんともあっけない幕引きであったがこれはまたとない機会である。これ以上やってもできるのは【偽神格】の限定発動による攻撃くらいしかないのでほぼ手詰まりであったのだ。
「それは、できますけれど。本当にそれで許してくれるんですの」
「良いと言ったぞ。確かに貴族の秩序維持はワシがワシに課した役割ではあるが、それはワシの好奇心に勝るというわけではない。ワシは今あの小僧と話がしたい、そのために利用できるならそれはもう存在する価値があると言えるからの」
急に戦闘が終わった事でルームが違和感を感じた時には既に手遅れだった。もしかしたらロックオンされる前にとんずらできればここでトワと話すという特大の爆弾に触れることはなかっただろう。
「おい小僧、少し良いかの?」
「……賤しい身分の自分などに話しかけるのはおやめください。貴方様の輝かしい人生に傷が残ってしまいます。貴方様ならばそれは永遠の傷、自分のことは路傍の石とでも思っていただければそれで幸いです」
できる限りの敬意を持って、全力で拒否をする。これが今のルームにできる最大限のことである、トワの持つ権力を考えると今から逃げてもどうせ捕まる、ならば無礼にならない程度に全力拒否しかできなかったのだ。
「そんなに寂しいことを言うでない、ワシは少しだけ、そう、ほんの少しだけお話がしたいだけなんじゃよ? のう、いいじゃろ? 小僧の【寄生】について2,3質問させてもらうだけじゃ」
「私から答えることのできることなどございません、私はただの何でも屋まがいですゆえ」
「ぬはは!! 何でも屋!! 禁忌の中でも特に忌み嫌われる【寄生】があまつさえ何でも屋とは、世界を食える力でそのようなことをできるのものか!!」
ルームは自らの失態を反省する、更に興味を持たれてしまったことはどう考えてもマイナスである。下手に気に入られでもしようものなら、この先一生をトワの玩具として過ごすことになりかねない。そして、トワはそれをしてもなんの咎めも受けない立場である。最悪の可能性としては、全身ぐちゃぐちゃになるまで弄ばれたあげくにずっと生かされるという生き地獄まであり得るのだ。それができる能力と権力がトワにはある。
「小僧の【寄生】、もしやする側ではなくされる側の【寄生】なのではないか?」
「っ!?」
言い当てられたことに動揺する、動揺してしまった。これはYESという以外の意味は持たない。これを見たトワが酷くいやらしい笑みをこぼす。
「ほっほ~う、なるほどの~う」
ルームが下唇を噛む、しまったという心が表に出てしまっている。ここで何を言っても無駄である。ルームはただ執行人の刃が振り下ろされるのを待つのみであった。
「ワシの婿にならんか?」
刃では無く超弩級の爆弾が投下されることになった。




