第3戦 スタンダVSロサ・ロサ
3度目の抽選によって選ばれた種目は今までよりもさらに難しい課題となった。
「芸術対決!!」
高らかに叫ばれたのを聞いた瞬間にウォーカーが頭を抱えることになった。
「残りは俺とスタンダ、それで芸術対決とかもうどうにもならねえだろ」
ルームの意図を読んで引き分けを狙おうにも、芸術という分野に全く興味がなかったウォーカーにはどうすれば引き分けにできるのかが全く想像できなかった。
「なあ?」
同意を求めた仲間はなぜか声を発さずにきまりの悪そうな顔をしていた。
「スタンダ?」
「実はな、ウォーカー。言ってなかったんだが、俺の趣味は彫刻でな」
「マジで?」
「秘密にしておきたかったんだが、事ここに至って隠し続けるわけにもいかないだろう」
「てことは」
「ああ、俺が出る。絶対に勝利をもぎ取って見せよう」
「いや、そこまでは頑張らなくても、良いんじゃないか、程々でも」
「何を言っているんだ、勝負にはいつだって本気で挑むのが礼儀だ」
「うー、そうなんだが。まあいいか、ルームがなんとかすんだろ」
説得がめんどくさくなったのと、今までの審判を見る限りどうあがいても引き分けに持っていくだろうと考えてウォーカーはスタンダを送り出した。
「芸術、となれば余が出る他あるまいな」
「それでいーよー、ヒューはあっちの人間とやり合いたいしー」
苗床亭チームは何故か自信満々のロサ・ロサがさっさと出てきていた。
「余が誇る大輪の花でもって引導を渡してやろうではないか」
「暴君薔薇が芸術とは驚いたな、だがこちらも全力だ。簡単に勝てるとは思うなよ」
双方睨みあっているとルームが近づいてくる。
「何を作るかによって材料を用意するよ、何が欲しいか教えて欲しいな」
「俺は太い丸太が欲しい、そうだな。太さは力士熊の胴回りくらいだ」
「余は自分で用意するゆえ要らぬ。そなたの手を煩わせることなどない」
ちなみに力士熊とは非常に肥満体となった熊型の魔物である。恐るべきことにその重さでも速さが普通の熊と変わらない強敵である。個体によっては重力魔法を使うこともあるという。
「これくらい?」
ルームが両腕で輪を作る。それに対してスタンダは首を横に振った。
「これくらいだ」
ルームのものよりも2回りほど大きな輪を提示する。
「こんなに大きな丸太用意できるかな……」
後ろを向いてアンケの方にアイコンタクトを取る、すると手で丸を作ってOKと示してくれたのでほっと胸をなで下ろした
「大丈夫そう、これでいいかな?」
目の前に突然出現した巨大な丸太に驚きつつもスタンダは頷いた。
「ああ、これで作れる」
「ロサ・ロサは本当に何もいらないの?」
「ふむ、では少しだけ欲しいものがある」
ロサ・ロサはそう言うと茨でルームを引き寄せた、万が一にも傷をつけないように最新の注意を払っているのでノーダメージである。全力・全速でやれば大抵のものを引き裂ける茨ではあるが、気をつかえば細かい作業はできなくはないのである。
「少しだけ励ましをいただこう」
茨に絡め取られるままになっていたルームの顔に自分の頬を近づけた。ここで強引にいってしまっても問題は特にないのだが、あえて至近距離で止めてルームからしてもらうというのを望むのがロサ・ロサの乙女心である。
「うん、頑張って」
そこで流石に何を求められているのかをル-ムは察したので軽いキスをロサ・ロサの頬にした。その瞬間にロサ・ロサの周りには薔薇が咲き乱れ瞬く間に周辺が薔薇園の如き様相を呈す。今まで未発見の色の薔薇まで一気に咲いてしまっているので、その一輪だけを持ち帰ったとしても莫大な利益を出すことができるだろう。だからといって、そんなことを言えば瞬時にロサ・ロサに五体を吹き飛ばされるが。
「が、がんばりゅ!!」
顔を真っ赤にさせたロサ・ロサが心底嬉しそうに笑う、嬉しすぎて噛んでしまったのはご愛敬だ。
「可愛らしいことでありんすな」
「女の子だねえ」
「ルーのキスかぁ、良いなあ」
苗床亭のメンバーはほっこりとしながらも、それと同時に自らの内でくすぶる嫉妬の炎を感じていた。ルームの唇を奪うことは容易で、なんならしたことがある者もいる。しかし、しかしだ、ルームの方からされるキスというのは値千金どころか世界の半分をやろうと言われても揺らぐほどのものである。
「見ててくれ、そなたに勝利を捧げよう。この身を越える芸術などないのだから!!」
「ん? ロサ・ロサは何を作るつもりなの?」
「何を? 決まっていよう、余は花束を作るのだ。999本の薔薇を使って作った作品をそなたに捧げよう」
薔薇の花束の本数には意味がある、1本ならば「一目惚れ」、2本ならば「この世界に2人だけ」という風に。これは人間が持たせた意味に過ぎないのでロサ・ロサはそんなことを知ってはいないだろうが、999本の薔薇の花束が持つ意味は「何度生まれ変わっても貴方に恋をする」である。
「そ、そう」
地下図書館によってその意味を知っているルームは、思いがけない一撃を食らったようで動揺を隠し切れていなかった。表情には出さないが耳が赤くなっていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
そんな甘い空気を全力でぶち壊すのはスタンダの雄叫び、丸太に向かってノミを振るうスタンダの鬼気迫る様子はもはや本業の彫刻師顔負けである。
「え?」
そんな様子で作っているものが、等身大の女性のフィギュアだとしたらどうだろうか。しかも、非常に精巧である。肌の質感から纏っている布まで同じ木であるとは思えぬ仕上がりができつつある、趣味が高じたとかいうレベルでは明らかにない。
「吠えろ槌!! 燃えろ情熱!! 俺の全てをこの木に込める!!」
「スタンダ……」
元仲間の意外な一面に戸惑いを隠しきれないルームは複雑な表情のままで、フィギュアと花束ができるのを見守っていた。




