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悪夢のような本当の話

 ルームを取り囲んで怒鳴る声がする、それはどこからも聞こえてくる。誰でもない誰かさえ自分を嫌悪して指を刺す。そのように思ってしまうほどルームの精神は追い込まれていた。

 親友だった男が言う。


「お前がそんな奴だったとは思わなかった。幻滅した、この隊には相応しくない。早く去ってくれよ、攻撃しないだけありがたいと思ってくれ」


 本当にそう言っていたのかは分からない、でもルームの耳にはそう聞こえていた。ルームは反論する、こんなスキルを使わない、使ってもいないと。

 幼馴染の少女が言う。


「汚らわしい、同じ空気を吸うのも嫌。寄生される前に殺してしまいたい」


 これも本当に言われたのかはルームには分からない、だがそう言われた筈だとルームは記憶している。なんで、どうして、とルームは問う。それに返ってくるのは嘲笑まがいの野次と嫌悪の表情だけだ。

 頼れる盾だった男が言う。


「お前を守ってきたのは間違いだった、こんなことになるのなら盾を構える価値はなかった」


 言われた、筈だとルームは思う。ここまで来ると記憶は既に曖昧で、ただ絶望と焦燥だけが心にあった。今すぐに消えてしまいたい、そうでなくとも今すぐ走りさってしまいたい。心からそう思っていた。

 幾度となく救ってくれた神官が言う。


「お待ちなさい」


 希望を抱いた、この女性ならば自分を擁護してくれるのではないかと。だが、淡い希望はすぐに粉々に打ち砕かれることになる。


「装備は置いていきなさい、それは救世のための金子で買ったもの。正当な権利なく持つことは神の摂理に反します」


 ルームは絶句した、そして同時に悟る。ああ、本当に僕の居場所はなくなったのだと。禁忌と呼ばれるスキル【寄生】を発現させてしまったのが運の尽きだったのだと。


「さあ、その場に置いていきなさい」


 面のような表情をしながら装備を地面に置いた、そして一瞬の後。今までルームが装備していた諸々は光に包まれ破壊された。


「穢れた装備はこれで浄化されました。これで憂いはありません。何処へなりとも行きなさい、そして人としてありたいのならばそのまま獣に喰われなさい。【寄生】を使った瞬間に貴様は畜生以下になると知りなさい。」


 もう一瞬だってこの場所に居たくはなかった、前も見ずに走り出す。背中に浴びせられる笑い声をルームは聞かなかった事にした。


「はぁっ……はぁっ……」


 あてもなく走って、走って、迷い込んだ先は危険度C相当の茸森(バルト・マシュウ)であった。キノコを始めとすると菌類の宝庫であるこの場所はありとあらゆる死骸を養分として勢力を広げている。

 死に場所を求めていたルームにとってうってつけの場所だった。


「もう、良いや」


 気力なく座り込んだルームの耳には絶えず元仲間からの罵声が響いている。もう何を言われて何を言われていないのかの判断はついていなかった。


「言われたとおり餌になるのがお似合いだ」


 全てを諦め、そのまま倒れ込んだ。どんな光ももうルームの心を照らすことはない。


「あーむっ!! おいひぃ〜!!」


 ぐしゃりと景色が潰れてヒュープの口の中に入っていく。最も絶望の濃い部分だけを喰らう美食家ぶりを発揮しながらも、ものはついでと麺のようにそれまでの悪夢もすすっていく。


「あっさりした喉越しも良いよねえ〜」


 夢喰獣の捕食とはこのようなものである、文字通りに夢を喰うのだ。頬をいっぱいに膨らませて咀嚼する様は非常に愛らしいものであるが時折口から漏れる呪いのようなオーラがそれを台無しにしている。


「まふまふ、ごくんっ!! さあ次はどんなのかなあ?」


 ルームの悪夢は目が覚めるまで尽きることはない。何度も何度も悪夢は繰り返しやってくる。しかしここで言っておかなければならないのは夢喰獣が悪夢を誘発しているわけではないということである。夢自体を食い尽くして糧とするのは夢喰獣であるが夢を弄れるのは吸精鬼の方である。


「飽きのこない良いお味だけど、食べ過ぎるのは良くないよねぇ。眠らせすぎると身体に悪いみたいだし」


 夢を弄れない代わりに夢喰獣は眠りを延長することが可能である。地獄夢喰いともなればその延長は半端ではない。極東にある昔話に三年寝太郎というものがあるがそれと同じように年単位での睡眠を破綻なく継続させられるほどである。それを知る長命種などは夢喰獣と契約を結んで休眠期に入ることもあるという。


「でもでもぉ、一週間くらいだったら良いかなー?」


 その発言をした直後にヒュープの毛が逆立った、己を死滅せしめる存在からの威圧を感じたからである。それは暴君の名を冠する薔薇かもしれないし、女王と呼ばれる菌類かもしれないし、はたまた極東より流れ着いた怨霊かもしれない。もしかしたら最古の魔女の一角であったかもしれない。


「あははー、冗談じょーだん、ヒューは8時間きっかりで終わり。怒られちゃうもんねえ。それにお掃除もあるし」


 真夜中の苗床亭に近づく何者かの存在を住人は感じ取っていた。




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