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寄生される少年

 よろしくお願いします、色々ぶち込んだ話なるのでお付き合いください

 小柄な少年が森の中を歩いている、ここはとても1人で歩いて無事でいられるような安全な森ではない。危険度Bランクにもなる危険地帯だというのに鼻歌交じりで歩く少年に危機感は全く見受けられない。しかも、驚くべきことに少年にはおよそ武器と呼べるものも防具と呼べるものもなかった。全くの無防備、非武装で来ている。


「あ、あれが人型野菜マンドラゴラの群生地だよね。良かったよ、すぐに見つかって」


 少年の言葉通り人型野菜の生息地は目の前であった、しかし、そこには人型野菜を餌とする獰猛な魔物が陣取っている。


「クルルル……」


 魔物の名前はデュランダル・ジャガー、魔剣の如き切れ味を誇る牙を持つ危険度Aを誇る強敵である。この森の中でも三本の指に入る化物であるが少年はその存在を意にも介さず無造作に歩いて行く、まるでこの魔物なぞ敵ではないと宣言するかのように堂々とである。


「シャァアア!!」


 一瞬でデュランダル・ジャガーは接近し少年の首を落とすべく牙を煌めかせた。生半可な鎧も盾も無視してダメージを与える固有スキル【鎧殺しの刃】を持つジャガーにとっては防具すらない少年など赤子の手を捻るよりも容易く殺せる相手であった。


「はいはい、獄炎胞子ブレイズ


 少年の薄皮を裂いた瞬間にそこから炎が吹き出した、正確には発火するほどに高温になる胞子が吹き出した。早さと攻撃力に特化した魔物であるデュランダル・ジャガーはその予想外の反撃によって大きな隙を晒すこととなった。


「シャァアアアアア!!」


 それでも強者の誇りか、耐性の賜物かすぐさま体勢を整えたデュランダル・ジャガーは距離を取る。先ほどの未知の攻撃を食らわないための攻撃として遠距離からの魔法攻撃を選択したためである。高位の魔物であるデュランダル・ジャガーは斬撃を飛ばす魔法であるエアスラッシュを使うことができる。日に数度しか使えぬ切り札を使う相手として少年は認められたのである。


「ごめんね、魔法は使えないよ」


 自らの魔力を練り上げようにもデュランダル・ジャガーの中にはもはや魔力は残されていなかった、その代わりにデュランダル・ジャガーの身体からは真っ赤なキノコが生えている。


「グ、ガ!?」

「終わりだね、きっと良い栄養にするから」


 急激な倦怠感に襲われてデュランダル・ジャガーはその場に伏す。それはキノコに命を吸われたことが原因であった。この危険なキノコの名前は獄炎茸、炎によってできた傷から宿主に寄生する恐ろしいキノコである。


「さーってと、人型野菜いっぱいとるぞー!!」


 急速に朽ちていく骸をよそに少年は人型野菜の収穫を開始する、だが、人型野菜は一筋縄で収穫できるような容易な獲物ではない。デュランダル・ジャガーのように超高速でかみ砕くならまだしも、人がゆっくりと引き抜こうものなら、その口のような器官から世にも恐ろしい叫び声を発生させることでありとあらゆる状態異常を付与してくるのである。


「ヒイイイエエエエエエエエエエエエエエ!!」

「うるさいなあ……でも依頼だもんね。採らないと」


 五月蠅いなあと言うだけで何の意にも介さない少年であるが、即死・石化・麻痺・各種感覚障害・その他諸々を引き起こす人型野菜の【恐ろしき叫び】は耳栓をしようとも効果を発揮する大変危険なスキルであることに代わりはない。声が届く範囲にいた魔物が次々と状態異常の餌食となり倒れていく中ですっくと立ち上がる少年はまさしく異常の権化であった。


「うん、これで10体。依頼達成だね」


 ここで倒れる魔物の山を初めて見た少年は一瞬だけ考えるような素振りを見せた、その一瞬で自分達の生死が決まったなどとは魔物達は思いもしないだろう。


「う~ん、ヴァンシィはお腹すいてる?」

「いいえ、今はお腹いっぱいよ。貯めておくことはできるから食べてしまっても良いのだけれど」

「そっか、じゃあ今はいいや」


 少年の背中から生える様に姿を現した女性型の魔物は女王夜泣き茸(クイーン・ヴァンシィ)という魔物である。全身を黒のドレスのような菌糸で覆い笠の部分から垂れる黒い菌糸で顔を隠した姿はまさしく貴婦人と呼ぶ相応しい出で立ちであると言えるだろう。


「あんまり食べ過ぎるのは身体に良くないもんね」

「うふふっ、あなたのそういう慎み深いところは美点よ。私にはないもの」

「うわわっ!? 今はちょっと!!」

「だ・め❤」


 躊躇いなく少年の口に吸い付くヴァンシィ。喉を見る限り少年の唾液を飲んでいるようである。大きく喉が6度動くまで少年の顔をホールドした手は緩まなかった。


「ぷはぁっ、今日の分の水分はいただいたわ。とっても美味しかったわ宿主さん」

「できれば部屋でやって欲しいんだけど」

「嫌よ。さっきも言ったけど人間の慎みなんて菌類わたしには関係ないの。それを分かった上で私を寄生させてるんでしょう?」

「そうだけど……」

「じゃあ文句を言われる筋合いはないわね、ではごきげんよう」


 ヴァンシイが姿を消す、厳密には形作っていた胞子を解いただけである。


「うう、ちょっとフラフラする。脱水症状だ、ちゃんと帰れるかなあ……」


 少しだけ覚束ない足取り少年は拠点の町へと帰っていく。少年の名前はルーム、かつて神童と呼ばれ世界を救う隊のメンバーに選ばれたが禁忌とされる【寄生】スキルを発現させたためにそこを追われ、現在は苗床亭という宿屋兼便利屋を営む少年である。

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