第303話 白金蓮の精霊科学
『マナ』とは、不可思議な性質を持った未知の”素粒子”である。
この異世界の宇宙には、自然にも生物にも、満遍なく『マナ』という素粒子が内在しており、それらが魔法的現象の全ての要因になっている。
ここまでを解説した上で、ようやく『精霊魔法』に関する僕の考察を述べることになった。
すると、シスルが真っ先に現在の認識を示してくれた。
「”自然界のマナ”が『精霊』として解釈され、術式を仲介することで、『精霊』と人が持つ『マナ』とがリンクし、人為的な自然現象を引き起こす。それが『精霊魔法』だよな?」
「そう。そのとおり。さすがだな、シスル」
「まぁ……エニシダの講義でカジっただけだけど」
「さらにこの『精霊』は、『地』『水』『火』『風』に大別される。これらの精霊を全て駆使すれば、大抵のことは実現可能となる。その理論に基づいて開発したのが、僕の『宝珠システム』なんだ」
と、ここまで基礎的な事柄を説明したところで、嫁さんが元気よく手を挙げた。
「はーーい!質問!」
「はい。百合華くん」
「前から思ってたんだけどね。蓮くんが作る魔法って、なぜか『火』が多いよね。光の魔法とか、雷の魔法とか、あと氷の魔法とか。でも、中身を聞いてみると、みんな『火』の精霊魔法の応用だって言うでしょ」
「うん。そうだね」
「普通、そういうのってさ、”光の精霊”とか、”雷の精霊”がいるもんなんじゃないの?」
「あぁ……なるほど。いい質問だね」
嫁さんの疑問は当然のことかもしれない。通常であれば、異世界に来て精霊がいれば、自然現象ごとに多彩な精霊が存在してもおかしくない。
しかし、この世界には、『地』『水』『火』『風』以外の精霊は認知されていないのだ。
「では、簡単に結論から言おう。百合ちゃんにもわかりやすいように、ここからはあえて『属性』という表現を使うね。『地水火風』という4大精霊の性質を『属性』とすると、それぞれ『属性』ごとに対象となる物理現象が次のように決まる」
地:個体
水:液体
風:気体
火:プラズマ
「という感じだ」
「何それ!魔法なのに物理っぽいのが来た!」
「そう。実は4大精霊は、物質の持つ4つの状態をそれぞれ司っているので、これだけで森羅万象の全てを表現可能なんだ」
「ていうか、プラズマってカッコいいね!よく知らないけど!」
嫁さんはビックリした顔をしているが、分類の仕方が気に入ったようで、食い入るようにグイグイ反応してくる。
ここで先に、彼女が理解していない”プラズマ”について、解説しておこう。
個体、液体、気体については、改めて説明する必要もないと思うが、「水」を例に挙げれば、氷、水、水蒸気が、それぞれ「水」という物質が取りうる個体、液体、気体の3つの状態である。それぞれ物質ごとに必ず3種類のいずれかの状態で安定しており、一般的には温度によって変化する。
これに4番目の状態として、”プラズマ”があるのだ。
”プラズマ”とは、難しい言い方をすると、気体が陽イオンと電子に電離して運動している状態、あるいは電離した気体である。
大雑把な表現を許していただければ、物質がエネルギーを解放した状態とか、活性化した状態と言う方がイメージしやすいだろうか。
例えば、物質と物質が化学反応を起こして生じるのが”火”であるが、火もプラズマの一種であり、雷もプラズマである。
ゆえに、この分類に従って、『火』の精霊魔法はエネルギーを放出する物理現象を全て再現可能であり、光を発する魔法が既に存在し、電気を操る魔法を開発することもできた。
また、『火』の精霊魔法の反転作用を起こすことにより、熱エネルギーを奪う”冷凍魔法”も僕は実現したのだ。
「というわけで、個体、液体、気体、そしてプラズマという、物質が取りうるの全ての状態を4大属性が網羅しているんだ。よって、これらを駆使すれば、理論上、どんな物理現象も魔法によって再現可能となる」
「すっごーーい!!!なんか、全部はわからなかったけど、今のを聞いただけで、なんとなく頭良くなった気がする!」
僕の解説がツボにハマったらしく、嫁さんは鼻息を荒くして身を乗り出した。オタクという人種は、”能力の系統”みたいなものをしっかりと分類すると、やたらと興奮するものである。僕もそうであるが。
他のメンバーも、目を丸くしながら、ため息交じりに感嘆している。今まで精霊の種類を物理学的に分類した人間など、皆無だったに違いない。
とはいえ、この世界の魔法が万能ではない理由もある。それを僕は語った。
「ただし問題がある。個人ごとに、生まれながらにして契約精霊が決まっているってことだ。宝珠を使わない限り、自分が発動できる魔法は、どんなに努力をしても、その精霊の魔法だけになる。ゆえに『火』ならプラズマやエネルギー系、『水』なら液体を扱う系、というようにジャンルが固定されてしまう。だから、この世界の魔法は、単純なものしか開発されてこなかったんだ」
「なるほどねぇーー。ところで、契約精霊って、いつ決まるの?」
「どうも生まれた時に自然と決定してるっぽいね。その人の生まれ持った気質や体質によって、最も近しい精霊と契約したことになるんだ」
「ふーーん……私や蓮くんは?」
「異世界転移者は、召喚された時点で固有能力と共に決定している。ただし、勇者と魔王のチート能力は、例外的に複数の精霊を扱っている場合がある」
「えっ!それズルいね!まんまチートだね!」
「例えば、『砂塵の勇者』灰谷幹斗が使っていた【塵は塵に】という固有魔法は、個体である砂を自由自在に操作した。”個体”は『地』の属性だけど、自由自在に操作するのは『風』の得意分野なんだ」
「『地』と『風』の複合魔法だ!本人は最低なヤツだったけど、能力はカッコいい!」
「また、彼の討伐対象だった『凶作の魔王』桃園萌香は、触れた物体を砂に変える固有魔法を持っていた。アレは『地』の反転作用と『水』の反転作用を複合して、崩壊と乾燥を同時に行う魔法だった」
「すごっ!!!っていうか蓮くん、そんなことまで分析してたの!?あの時から!?」
「まあね」
「はぁーーーーっ」
嫁さんは感動したような呆れるような微妙な顔で僕を見つめてくる。「私、なんでこんな変な人と結婚したんだろ?」等とでも考えているのだろう。まぁ、いつもの光景だ。
『これほど詳細に、勇者様と魔王の固有能力を解明された方は、古今東西おられませんわ……』
ラクティフローラはオンラインで深々と嘆息していた。
また、嫁さんは他にも気になることが残っており、それを尋ねてきた。
「ところで蓮くん、話を戻すけど、”光の精霊”がいないってことは、”闇の精霊”もいないの?」
「もちろん。そもそも”闇”ってのは光が存在しないことだ。自然現象が存在しないのだから精霊も存在しない」
「じゃあ、”聖”とか”邪”の属性も無いんだよね?」
「そんな曖昧なものは無いね。だいたい物理現象に善悪が無いのと同じで、魔法現象にも善悪は無いよ。ただし、明らかに人に悪影響のある術式は、個別に禁術と定められる」
「なるほどーー」
「僕が開発した【世界樹の葉】だって、人を癒すという点では”聖なる魔法”と言えなくもない。だけど、使い方を誤れば、いくらでも人を残酷に殺すことができる諸刃の剣でもある。医療と同じさ。技術そのものに善悪は無いんだよ。だから、”聖”も”邪”もあるはずがない。あるのは、使用する人間の善悪だ」
「すっごくよくわかる」
「ていうかね、僕の実感で言わせてもらえば、人の身体を治療するってのは、普通なら見たくないものまで見なきゃいけない血生臭い戦いなんだよ。緻密で繊細で高度な技術なんだよ。”聖なる”なんて言葉で片付けてほしくない。そんな綺麗事じゃないんだ」
「なんか蓮くんが熱い!」
次第に僕からの苦言になってしまったが、これには、かつて実際に命を救われたローズや、治療を手伝ってくれたラクティフローラとシャクヤも深く頷いていた。
ということで、属性の分類と物理現象との関連については、これで一通りまとめることができた。
次は能力面での立て分けだ。これまた嫁さんが激しく食いつく内容である。
「さて、今まで話は、物質の状態による分類だった。でも、それぞれ精霊魔法ごとに得意分野がある。それらもまとめるとこうなる」
地:硬化、変形、解析。反転作用は崩壊
水:生成、性質変化。反転作用は乾燥、消失
風:操作、移動。反転作用は静止、固定
火:エネルギー発生。反転作用はエネルギー喪失
「以上が、精霊ごとに発揮しやすい物理作用になる」
「蓮くん!これって、やっぱり”念能力”に近くない?」
「近いかもね」
「『地』が”強化系”で、『水』が”変化系”、『風』が”操作系”で、『火』が”放出系”って感じ?」
「厳密には異なる部分があるけど、基本的にはそんなイメージだ」
「じゃあ”特質系”は置いておくとして、”具現化系”は?魔法で水を出したりしてるよね?」
「これまたいい質問だ……」
今日の嫁さんはとても優秀な生徒である。引き合いに出すのが少年漫画だが、僕の講義に盛んに相槌を打ったり、口を挟んだりすることで、僕の説明を大いに補助してくれる。
特にこの課題――魔法で生み出した水は、どこから現れたのか――という問題は、僕が最も謎としてきた部分であり、魔法現象を物理的に考察する上で、避けては通れない難所なのだ。
「では、それに答えるために、精霊魔法によって生み出されたモノが、どこから来るのかを話そう」
「昔、蓮くんが言ってたよね。この水どこから来てるんだって」
「そう。僕は最初、マナが物質だとしたら、どんな物質にでも変換可能な万能物質ということになると考えて、そんなモノはありえないと疑った。これは、マナが素粒子だったとしても、やはり同じことが言える」
「ふーーん」
「そこで、様々な術式を解析し、考察した結果、一つの結論に辿り着いた。魔法によって生成された水などの物質は、この惑星のどこかから転移してきている。召喚に近いんだ」
「え、そうなんだ!”具現化系”みたいなことじゃないんだね!」
「そう。素粒子『マナ』が、物質に変換されるわけじゃない。もともとこの世界に存在する物質を空間転移で呼び出しているだけなんだ」
「だから飲んでも平気なんだ!」
「僕は『水』の反転作用で、乾燥させる魔法も開発してるけど、あれは逆に水分をどこか別の場所に転移させているんだ。水の分子を消滅させてはいない」
「へぇーーーー!」
「ということで、僕の出した結論。精霊魔法で生成できる物質は、自然界に存在する無生物である。この場合、”生成”とは、実際には”召喚”であり、”発掘”である」
「ふむふむ!」
「この理論に基づいて、”生成”が得意な『水』の精霊魔法と、”個体”を司る『地』の精霊魔法を連携し、特定の金属を召喚する術式を考案してみた。それがコレだ」
説明しながら、僕は宝珠システムから、とある術式を発動した。
長らく難しい話が続いたので、ここらで、あっと驚く僕の研究成果を目に見える形で示したいと考えたのだ。
きっと皆、度肝を抜かれることだろう。
そんな、ほくそ笑む気持ちで、地面に連携魔方陣を描き出す。そこから淡い光が放たれると、次の瞬間には、その場に金色に輝く小さな物体が複数コロコロと転がった。
「ということで、”金”の登場です」
その瞬間、まるで時が止まったかのように室内が凍りついた。
僕が呼び出したのは、紛れもない純金だったのだ。
時は金なり。
ということわざがあるが、それとは逆で、いきなり黄金が目の前に現出したことにより、皆の時間が空虚に過ぎ去っていく。
誰も彼もが呼吸すら忘れたように硬直し、その内側に地殻変動のような感情の震えを蓄え、やがて噴火するようにいっきに放出した。
「「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!!!!!!」」
大気は振動し、この屋敷だけ地震が起きたかのように揺れた。
途中から居眠りしていたダチュラは驚いて目覚め、真っ先に前に進み出て、転がっている金の欠片を拾い上げる。彼女は色合いや重さを確かめた後、それを口に持っていき、歯で挟んで柔らかさまで確認した。
「こ、これ!本物よ!本物の金よ!!!」
「れ、れ、れ……錬金術だ!!!ガチの!!!」
ウチの嫁さんも震えながら叫ぶ。他の面々も皆、動揺していた。
ところで、皆の驚きようは予想どおりだったのだが、僕としては実験結果に少々不満があった。
「やはり、この惑星でも金は希少金属のようだ。水なら、いくらでも出せるのに、金だと一度の術式で、このわずかな量しか呼び出すことができない。惑星全体が持つ保有量に影響されるんだな」
などと冷静に分析していると、映像通話の先からラクティフローラとシャクヤの狼狽した声が届いた。
『お、おおおお、お待ちください!お兄様!こ、これは大問題というか……世に知れ渡ってはならない代物だと、お、思いますわ!』
『レン様のご見識は存じ上げていたつもりでございますが、これはさすがに禁忌とすべきかと……』
彼女たちの意見に嫁さんも呼応する。
「だ、だよね!この技術だけで戦争が起きちゃうでしょ!」
そして、桜澤撫子と山吹月見も、ため息をつきながら苦言を呈した。
「白金くん、さすがにコレはやりすぎよ」
「どう考えてもォーー、ヤバいヤツだよォ、これはァーー」
魔族を除く全員がドン引きしている現状に、僕も少し後悔した。
「あ……やっぱりそう?封印した方がいい?」
一同は一斉に深々と頷いた。
皆、黙って僕の顔を見つめるのみだ。
僕は乾いた笑顔で聞き返すしかなかった。
「えっと……みんな、今のは見なかったことにしてくれるかな……?」
「「……………………………………」」
どうしようもなく気まずい空気が場を支配し、しばらくの間、皆、何を言えば良いのか思いつかない様子で沈黙していた。
あまりのやりきれなさに居ても立っても居られなくなった嫁さんが、仕切りなおすように発言した。
「蓮くん!もう少し問題になりにくそうなのは無いの?」
「そうだね……あとは…………」
ネタを探せばいろいろあるのだが、ここでもう一度、記憶を振り返ると、最後にとっておきのものが残されていた。
「自分の娘を見て、疑問に思って、研究したことがある。牡丹の固有魔法は、『地水火風』の4大精霊のどれにも属さないんだ」
「あぁ……」
嫁さんも思い出しながら納得した。
僕はその研究結果を述べる。
「そもそもこっちの世界では、”重力”の存在すら意識されてないからね。僕や桜澤さんでなければ、研究対象にもできないだろう」
「で、何かわかったの?」
「うん。僕は4大精霊の次に来る、5番目の要素を提案したい」
「え、それって、”フィフス・エレメント”?」
「英語で言うとそうなるかな……。ただ、キリスト教世界には5番目が無いんだけど、実は、僕たち日本人には既に答えがあるんだよ」
「うっそ!?」
「宮本武蔵。知ってるよね?」
「知ってる!名前だけだけど!超有名な剣豪だよ!」
「江戸時代初期、彼が遺した兵法書、『五輪書』というものがあります。これは全5巻で記されているんだけど、それが『地』の巻、『水』の巻、『火』の巻、『風』の巻と続きます」
「へぇーー。魔法みたい」
「で、最後の5番目が『空』の巻」
「おおーー!」
「もともと仏教では既に説かれてるんだ。『地水火風空』の『五大』がね」
「うっわ!何それ!超カッコいい!『空』ってことは時間とか空間!?」
「仏教で説かれる『空』については、いろいろ議論されるだろうけど、物理学の側面で捉えれば、時間と空間に相当するよね」
「じゃあ、5番目の精霊は『空』の精霊なんだね!空間魔法とかあるわけ!?」
「転移魔法がその1つだよ。『水』の”発掘”とは全く異なる純粋な空間移動魔法だ。そして、重力を操る牡丹の固有魔法もコレになる。重力とは空間の歪み。おそらくは四次元時空間を司る『空』の精霊魔法なんだと推測している」
「すごいね!あとで牡丹に教えてあげよ!あぁ……でも牡丹じゃ、まだわからないかぁーー」
「ちなみに百合ちゃんの契約精霊も『空』のはずなんだよ。魔法ではないけど、『次元斬』なんて理不尽なスキルは、やっぱり空間に特化した特性を持ってないと身につけられない」
「うっそ!私も『空』なんだ!ヤバい!テンション上がる!」
嫁さんは単純に大はしゃぎであるが、やはりこちらの世界の常識をよく心得ている美少女は愕然としている。
『く、空間という概念を司る5番目の精霊……でございますか?そのようなものが発表されれば、大事件になりますわ……』
シャクヤが虚ろな目をして理解に苦しんでいる。
そんな彼女を見て、微笑みながら僕に確認を取るのは桜澤撫子だ。
「でも、その存在を証明するのは骨が折れそうね?」
「うん。実を言うと『勇者召喚の儀』にも『空』の精霊が大きく関与していると睨んでるんだけど、人々にわかりやすく見せるには、精霊神殿を建造するしかないかもしれない。もしくは、それが既にあるとすれば、聖峰グリドラクータだと思ってる」
「私もその仮説に同意するわ」
以上で話は一段落した。
僕の講義はこれで終了なのだが、一同の表情を見ると、話を十全に理解したとは言い難いが、それでも様々な新しい概念に触れることができて、充実した顔をしている。
だがしかし、その代わり疲れ切っているようにも見えた。僕の話について行くのがやっとだった。と言わんばかりの顔で眉をひそめている。
しばしの間、静寂の時間が流れた後、ラクティフローラが、ため息交じりに言った。
『……やはりお兄様の論理展開は、この世界の今の知識では追いつくことが困難でございます。あまりにも高度で、高邁で、高尚な理論ですわ』
それに呼応してシャクヤも懸念を示した。
『むしろ、無知と無理解の愚か者が、自分を棚に上げて、逆に非難してくることすら想像できてしまいます』
「そうか……いつの時代も最先端を行くものは迫害されるってことかな」
と、理解ある美少女二人の意見に僕が納得していると、ウチの嫁さんが全く異なる視点で、元も子もないことを口走った。
「ていうかぁーー、ぶっちゃけ、わかりにくい!」
「……え?」
「だからぁーー、わかりにくい!」
「ひどい言われようだな……あんなに食いついてたくせに……」
「それとこれとは別だよ!細かく聞いて、いっぱい質問して、やっとわかるんだもん!たまたま興味ある話だったから良かったけど!」
なんと酷評されてしまった。これはさすがに辛い。
嫁さんは僕のショックなど構いもせず、賛同者を集める。
「プリムラちゃんもそう思わない?」
「あ、はい。あたいもユリカさんと同じです。レンさんの言葉は一言一句覚えてますが、正直言って……その……イマイチ、ピンと来ませんでした」
「シスルは?」
「おれは……なんとなく呑み込めた……かな。自分では説明できないよ」
さらにダチュラ、ローズ、ストリクスが遠慮がちに発言した。
「えっと……ごめん。私、途中から寝てた」
『あたしは……話の半分くらいは理解できたぞ……だが、ユリカの意見には同意しかない』
「ワタクシは……本日のご講義を録画しましたので、何度も何度も繰り返し拝聴し、勉学に励む所存でございます」
僕の腹心の部下ストリクスに至っては、本人には全く悪気は無いのだが、僕の講義が難解だったことを如実に証明していた。
「ほらね!コンボルブルスって先生は、新種のモンスターを発見したって言うんでしょ?普通の人はそっちに目が行くと思う。蓮くんの面倒臭い説明なんて、いちいち聞いてらんないよ!」
ついには嫁さんから全否定されてしまった。
さすがにあれほど話を聞いてくれた彼女から、ここまで言われると、正直言って大いにヘコむものがある。
あまりにも悲しくなってきたので、僕はあえてイジケてみることにした。
「百合ちゃん……僕が何言われても傷つかないと思ってる?」
「えっ!あ、ごめんなさい!別に蓮くんが悪いってことじゃないから!」
慌てる嫁さんを尻目に、ここで桜澤撫子がそっと僕の腕に触れてきた。思いの外、その声が優しかった。
「大丈夫よ。白金くん。あなたの頭脳を私だけは全部、理解してるから」
「桜澤さん……」
「ちょっと撫子!勝手に間に入らないでよ!」
僕を挟んで、嫁さんと桜澤撫子がひと悶着する起こしそうな空気になる。しかし、桜澤撫子は何やら余裕の表情で笑っていた。彼女には別の考えが既に浮かんでいるのだった。
「まぁ、白金くんの魔法理論は、時代を1000年くらい跳び越えちゃってるから、難しいって言われるのは無理もないわ。てことで、もっとわかりやすいモノにしましょうか。魔法にこだわらず、パッと見でインパクトあるモノに」
これに嫁さんはキョトンとしながら興味深そうに尋ねる。
「何か心当たりでもあるの?」
「とっておきのがね。それこそ新種のモンスターなんて目じゃないわ」
「え、なになに?何があるの?」
「ふっふっふーーーー」
桜澤撫子はあえて話を引き延ばすように笑いながら答えをためた。そして、自らハードルを上げたところで、もったいぶった言い方で告げる。
「か・せ・き」
「「…………え?」」
その予想外すぎる言葉に僕と嫁さんは目を丸くした。




