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ウチの嫁が最強すぎて魔王すらワンパンなんだが  作者: 東条賢悟
第六章 王国の賢者と帝国の勇者
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第174話 白金蓮包囲網

僕、白金蓮とその一行が王都マガダに到着してから2日が経過した。

この世界における9月15日のことだ。

ちょうど、あの決戦の日から1ヶ月後でもある。


この日は、騎士団とハンターによる『魔王討伐連合軍』が魔王の討伐を果たしたことを祝う『魔王討伐記念祝賀会』が王室主催の下、開催される予定になっている。


諸々の準備を整えた僕たちは、王都の宮殿に向かった。さすがに自動車では目立ちすぎるという判断から、馬車を雇っての移動である。


前回は、この宮殿を騎士に追われて脱出した。それが今や、堂々と招聘を受けての訪問である。


「すごい!すごーーい!」


一際テンション高く、はしゃいでいるのは牡丹である。大都会である王都に来て以来、何を見るにしても喜んでいた我が娘だったが、宮殿に入ってからは、なおいっそう喜びを露わにしていた。馬車の中にいても盛んに外を見ようとし、お尻を振りながら夢中で窓から顔を出していた。


そんな彼女は今、綺麗なドレスを身に纏っている。

さながら幼い貴族令嬢のようである。


ハンターでもあり、『プラチナ商会』の代表でもある僕と嫁さんは、この日、来賓の貴族や商人と挨拶できるように、豪華な衣装を取り揃えてきたのだ。相談役は、貴族令嬢のシャクヤである。彼女に王都でのドレスコードを教わりながら、嫁さんが上手にコーディネートしてくれたのだ。


また、もちろん我が商会の専属ハンターであるシャクヤ、ローズ、ダチュラもまた、気品のある出で立ちで着飾っている。全員、美人なのでとても綺麗だ。


極めつけはウチの嫁さんだった。


正直に言おう。

マジで超かわいい。


こんな子が僕の嫁さんでいてくれるのか、と今さらながらに現実を疑ってしまいたくなるほど、ドレス姿が可憐だった。


かつて僕は、嫁さんと結婚できたことで人生の運を全て使い果たした、という想いを彼女に告白したことがある。それも、この王都でだ。今もこうして嫁さんの美しい姿に見惚れていると、やはりその想いは真実であり、現実なのではないかという気がしてくる。


きっとこれからも僕の身に不幸が降り注ぐとすれば、それはもはや、百合華という女性と結婚できた僕の人生の必然なのだろう。


そんなことを考えながら、つい僕の視線は彼女の姿を追ってしまう。すると、嫁さんがイタズラっぽく笑顔を向けた。


「どうかした?蓮くん?」


「いやっ……なんでも……」


「ふーーん……」


照れくさくなって僕が横を向くと、嫁さんはニヤニヤしていた。



やがて現地に到着し、馬車を降りた。


祝賀会の会場は、宮殿敷地内の中央に位置する王宮だった。儀礼用の大ホールが使われるという。


本来であれば、ハンターのような粗暴な連中が招かれる場所ではない。しかし、魔王を討伐したという事実は、堅苦しい伝統に縛られている宮殿の人々でさえも、その例外を許してしまうほどの慶事だった。


それもそのはず。王都は今回の戦争で、魔獣の群れに襲われるという大惨事を経験した。その元凶たる魔王が討伐されたのだ。人々の祝賀ムードは最高潮に達している。


魔王討伐連合軍にしても、結成当初こそ、ぎこちないものだったが、魔城での過酷な死闘を経た後は、騎士とハンターは互いに手を取り合い、生還の宴を楽しんだと聞いている。


この日ばかりは、互いの軋轢を気にすることなく無礼講で楽しめるように、騎士たちは笑顔でハンターを迎えていた。招待を受けたハンターたちも、それなりの仕度を整えて集い、王宮の前で歓談していた。


「ど、ど、ど……どうしよう……わ、私みたいな庶民が……きゅ、宮殿に入るなんて……だ、誰かに怒られないかな……」


思いの外、ドギマギしているのはダチュラだ。彼女は王国出身なので、この場所に来ることがどれだけ身分違いであるのかを熟知しているのだ。


「フフフッ、ダチュラ、そんなに畏まる必要もないぞ。堂々としていればいい」


「そうだよダチュラ。私たちは、ちゃんとお呼ばれして、来てるんだから。魔王を討伐したハンターの一員としてね」


ローズと嫁さんが笑いながら落ち着かせる。

ダチュラは悔しそうに嫁さんに言った。


「ううぅぅーー、ローズさんはわかるけど、なんでユリカまでそんなに落ち着いてられるのよぉーー」


「私も前に一度来てるからね」


「それで騎士団に追われたくせにぃーー」


三人の女性がそんなやりとりをしている中、もう一人、この場に最も慣れているはずの貴族令嬢が、別の意味でオドオドしていた。


「どうかした?シャクヤ?」


僕が問いかけると彼女は静かに答えた。


「レン様、ユリカお姉様、事前にお伝え致しましたとおり、わたくしは、本日は隅っこの方でおとなしくしております。万が一、わたくしの両親や親族に見つかりますと、少々厄介でございますので」


「そういえば、そう言ってたね。…………ねぇ、シャクヤ、できれば僕は、君のご両親に挨拶したいんだけど」


「えっ!?なぜでございましょうか!?」


「なぜも何も、大切な娘さんをお預かりしているんだ。しかも貴族のご令嬢を。こちらからご挨拶しないと失礼じゃないかな」


「そ、それはお気持ちだけでありがたいと申しますか……」


ぎこちないシャクヤに嫁さんが尋ねた。


「もしかして、お父さんお母さんに会いたくないの?」


「いえ、その……何も言わずに家を飛び出してしまいましたので、気まずいのでございます……」


「でも、いつかは必ず実家に元気な姿を見せなきゃいけないでしょ?私も母親になってよくわかるんだけど、ご両親は絶対に心配してると思うわよ?」


「それは理解しております。ですが、せめて我が祖父を無事に救い出すことができるまでは待っていただけませんでしょうか。何も成し遂げていないままでは、合わせる顔もございません」


僕と嫁さんは、困った顔で互いに目を見合わせた。

そして、軽く苦笑しながら僕は答えた。


「シャクヤがそう言うなら、仕方ないね。わかったよ」


「ありがとうございます」


こうした間、その辺を元気に走り回っていた牡丹を呼び止め、僕たちは王宮に入った。既に多くのハンターと騎士が集まっている。


ところが、入口ホールで受付を済ませた直後、一人の騎士が僕に近づいてきた。


「レン・シロガネ様でございますね。あなた様には、騎士団より特別な部屋がご用意されております。どうぞ、お越しください」


「それは、ありがとうございます。みんな、こっちだって」


「いえ。申し訳ございません。部屋のご用意は、レン様お一人になっております」


「そうなんですか?僕は家族や仲間と一緒に出席したいんですけど」


「のちほど合流できますので、それまで特別室で、ごゆるりとお過ごしください」


何やら奇妙なお出迎えである。しかし、僕一人に特別な便宜が図られても家族とバラバラなのでは困る。すぐに辞退しようと思った。


「いや……だったら別に……」


「蓮くん、王都に来るまでは運転手やってくれて、こっちに来てからも働いてばっかりだったでしょ。たまには休んだら?」


ところが、嫁さんが横から後押ししてくれた。

そう言われると、確かに悪い気がしなくもない。


「え、そう?……まぁ、たまには一人になるのも悪くないか。じゃ、ちょっと行ってくるよ。またあとで」


「うん。あとでね」


僕は皆と別れ、一人だけ別室に案内された。

残った嫁さんたちは、会場の大ホールに入り、出席者たちを見渡した。


「あ、こんにちは!アッシュさん!」


魔王討伐連合軍でハンターをまとめた”突撃剣”のアッシュ隊長。彼を見つけた嫁さんは、明るい声で呼びかけ、近づいて行った。


「おお、ユリカ!久しぶりだな!」


アッシュ隊長も気さくに声を掛け、歓談が始まった。知り合いであるローズとダチュラとも挨拶を交わす。それが終わると、アッシュはおかしそうに苦笑した。


「……とは言っても、あまり久しぶりという感じもしないな。不思議なものだ」


「会うのは1ヶ月ぶりだけど、電話では何度も話してたもんね!」


「うん……それなんだがな、ユリカ。この”スマホ”という宝珠は返そうと思うんだ。俺には身に余る」


「え、どうして?」


アッシュ隊長から差し出された携帯端末宝珠を見ながら、嫁さんは不思議そうに尋ねた。それに真面目な顔つきで彼は答える。


「いや、これはとんでもない代物だぞ。遥か遠く離れた地にあっても即座に連絡を取ることができる。これ一つあるだけで、政治、経済、そして戦争の概念が大きく様変わりしてしまうだろう。俺なんかが持っていていい物じゃない」


「そうなの?でも、蓮くんがアッシュさんを頼りにしているから渡しているのよね。これからも持っててくれると嬉しいな」


「しかしなぁ……」


「ふふふっ、アッシュさんでもビビっちゃうってことなのかな、”スマホ”は。じゃあ、私が受け取るわけにはいかないから、蓮くんが戻ってきたら直接相談してよ。きっと同じこと言うと思うけど」


「あぁ……そうだな。彼に直接、返すことにしよう。……ところで、そのレンはどうしたんだ?」


「蓮くんは、特別待遇なんだって。どっかの部屋に連れて行かれたよ」


「特別待遇?なんだかイヤな予感しかしないんだが……」


アッシュ隊長は不安そうな顔をした。



ちょうどその頃、僕は別室に案内されていた。


そこは、貴族が使う控室のような部屋で、決して悪い場所ではなかった。しかし、お茶の用意もされておらず、どう考えても僕を歓迎する雰囲気ではない。


違和感を覚えた僕は、入室後、すぐに入口の扉を振り向いた。すると、待機していた騎士が、槍を構えて扉を塞いだ。


「これは、どういうことです?」


僕のこの質問に答えたのは、目の前の騎士ではなく、部屋の奥に座っていた一人の大男だった。彼は立ち上がり、豪快に唾を飛ばしながら笑った。


「よぉ!!”ニセ勇者”レン!!!こうしてちゃんと話すのは初めてだな!!魔王の城で会って以来だよな!!あんときゃ、しっかり挨拶できなかったけどよ!今日はちょっくらオレにツラぁ貸してもらうぜ!!」


それは巨漢のゴールドプレートハンター、”斧旋風”のバードックだった。奇妙な同室メンバーから、”ニセ勇者”という懐かしい汚名を聞かされ、僕は彼らの真意をすぐに悟った。


「やれやれ……そういうことか……」


この場で”斧旋風”と喧嘩をしても、僕には何の利益も無い。観念した僕は、黙って彼らに従うことにした。



僕が彼らに拘束された事実は、直ちに首謀者に報告された。別室で優雅に過ごす、この国の第二王子ヘンビットである。


「そうかそうか!まんまと引っ掛かったか!世間じゃ”商賢者”という二つ名で呼ばれているらしいが、大したことないじゃないか!”斧旋風”に捕まったのなら、もうそいつはおしまいだ。あとは煮るなり焼くなり好きにできるぞ!」


高笑いするヘンビットに宰相ゴードも満足そうに告げる。


「では、”偽りの勇者”を監獄へ移送します。すぐに手続きを進めますので、王室裁判によって処断いたしましょう」


事務的な事柄を迅速に進めようとする宰相だったが、それを第二王子は冷ややかに制止した。


「いや、待ってよ、ゴードさん。せっかく大罪人を捕まえたんだ。このボクが!兄上が拒絶し、騎士団が諦めた凶悪犯罪者をだ。魔王を討伐したっていうベイローレルだって、そいつには手を出せなかった。そう。それをこのボクが!」


「はい。ご支援をいただき、ありがとうございました。このご恩は決して忘れは致しません」


「だからね、これから父上も兄上も参加される祝賀会において、”偽りの勇者”を直々に断罪しようじゃないか!このボクが!」


ヘンビットのこの提案には、ゴードも一瞬、息を呑んだ。


「な、なんと……しかしながら、それはさすがに大胆すぎると申しますか、祝宴に水を差すことになりませんでしょうか」


「なんだい?”偽りの勇者”は、我が王国と父上を侮辱した大罪人なんだろ?ゴードさんもそう言ってたじゃないか」


「え、ええ……それはそうなのですが」


「だったら、父上だって怒ってるはずさ!それをボクが捕まえたんだ!きっと喜ばれるに違いない!父上も兄上もボクの活躍に舌を巻くことだろうよ!」


初めこそ戸惑っていたゴードだったが、ヘンビットの自信に満ちた声を聞いているうち、そのとおりであると感じた。もともと誰よりも”偽りの勇者”を憎んできた彼である。国王と来賓、大勢の騎士とハンターが見ている前で、憎き相手を断罪することは、この上ない喜びであると感じた。


「かしこまりました。では、そのように手配致しましょう」


下卑た笑みを浮かべ、宰相は第二王子に頭を下げた。そして、側に控えていた軍事大臣シャガとワックス商会の代表ハゼと共に具体的な手順を決めた。それらの密談が終わるとヘンビットは満足そうに笑った。


「それにしても、世間で噂になっていた”破滅の魔王”が討伐されたというのに、現実には、この国は今、”偽りの勇者”という謎の男に侵略されようとしていたんだ。これではまるで、そのレンという男が『魔王』みたいじゃないか」


「それは、言い得て妙ですな!」


4人の暗躍者たちの笑い声が王宮の一角に響いた。


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