続・記憶喪失の僕と謎の家 ~夏の日の二人~
「そうです!四季、夏の何かしましょう。」
名案だと、エオラは顔に近いほうの手をポンと叩き、笑顔でそう言った。その下にある手は食器をせっせと片付けていた。ちなみに、四季というのは僕の名前だ。
「エオラ、夏の何かって・・・、具体的には何をするの?」
「何かというのは、んー・・・、何しましょう。いろいろあるですが、悩んで選べていないです。」
「エオラが直感でやりたいことをやればいいんじゃないかな?」
「そうですか?それならば、アレからやります!」
エオラは少しは上手になった日本語でそう言うと、食器棚の扉を閉め、頭の触角をピクピク動かしながら物置部屋へと向かった。僕はそんなルンルン姿の彼を見て、少し微笑ましい気持ちになっていた。
僕が目覚めてから、結構な月日は経っていると思う。エオラの奇妙な存在にも随分慣れた。誰もいない町並みにも、時折空を飛んでいる宇宙船にも、違和感を感じなくなってきていた。そのせいか、逆に現実だと未だに受け入れられていない自分がいた。
「四季、まずはコレを楽しみましょう!」
そういって、エオラが持ってきたのはかき氷機だった。しかも、ペンギンの形をした手動でガリガリと削るタイプのものだ。
「これ、どうしたんですか?」
「私が遺跡に残されていた資料をもとにつくりました。かわいい生き物をモデルにしたアナログマシーンです!よくできているでしょう!」
エオラはかなり優秀らしく、今までにいろんなものを復元した経歴がある。食べ物や道具はもちろん、この星に生物が暮らせるようにした環境も、そして、僕も。いや、僕はどうなんだろう。遺跡に残されていた人の骨の化石をベースに僕をつくりだしたとエオラからきいてはいるけれども、それも何だか現実味がなくて実感がわかないでいた。
「実は朝、山行って湧き水汲んできたです。」
「何しようかなって悩んでたみたいだけど、かなりかき氷食べる気満々だったんじゃん。」
「はい。かき氷はつくる気満々でした!」
見た目は割とハードな感じだが、話すとかなりふわふわしたかわいらしい性格で、スイーツ好きという一面ももっている。他の食べ物は基本口にしていないみたいだが、甘味に関しては色々なものを作っては僕と一緒に食べている。
「シロップは用意してあるの?」
「もちろん!あと、果肉入りジャムや練乳もあります。」
「かなり本格的じゃん!」
「せっかくつくるです!美味しいの食べたいです!」
エオラはそう言うと冷凍庫から氷をたくさん持ってきた。
「ここから時間との勝負です。氷がとける前に美味しいの作りましょう。」
かなり大きな塊の氷に、この涼しい部屋の中なので、そんなすぐには溶けないとは思うが、彼のかき氷への情熱で氷が水にならなくもないなと思い、否定しなかった。
「四季もそうめんの器でつくるでいいよね?」
そういいながら、透明などんぶりを用意していた。もう、大きなカキ氷作る気満々なのが伝わった。
「さっそく作っていきましょう。まず、この氷をここにいれて、器は持ったまま、ゆっくりまわして、ふわふわを目標に・・・。」
シャリジャリシャリジャリ・・・
エオラは器用に器を回しながら、氷を削っていった。ある程度、山が出来ると、手でキュッと軽く表面を固め、その上にイチゴの果肉入りのジャム、練乳をトッピングし、その上からまた氷を削っていった。
「最後にいちごシロップと練乳をかけて、完成!エオラ特製カキ氷の出来あがり!はい、これ、四季の分です。」
まさか、ここまでこだわってつくるとは思っていなかったので、この綺麗なカキ氷を食べるのがもったいなく感じた。
「四季、早く食べないと溶けます。食べてください。」
「でも、なんていうかもったいなくて。」
「これは四季に食べてもらいたくてつくったものです。食べられないほうがもったいないです。」
エオラにそう促され、僕は少し溶け始めたカキ氷をスプーンですくい、口に運んだ。甘い。当たり前なんだけれども、ただ甘いのではなく上品な甘さだ。そして、口にすぅっと溶けていく。
「おいしい。」
「よかった。がんばってよかった。」
エオラは自分の分のカキ氷を作りながら、笑顔でそう言った。そのとき僕は、ふと、ここ最近のエオラを思い出す。毎日、地下の研究室にこもっていたけれども・・・。
「ねぇ、そういえば、僕以外の人間をつくるって言ってから結構経つけど、それはどうしたの?」
ゴトン・・・
手から大きな透明な器を落としたエオラはいつも異常に顔色が悪くなっていた。
「この間来た、『オーロヌ』さんって方・・・。」
「きこえない、きこえない。私、きこえてないね。」
僕は察した。これ、現実逃避だと。
「エオラ、大丈夫なの?研究成果のデータ提出の日が近いって言ってたよね?」
「今日はいいんです。気分転換の日なんです。四季の目が覚めるのもかなり時間かかった。今回もそうだと思います。だから、気長に待つです。」
「わかったよ。だけど、明日からは家事は僕がやるから、お仕事がんばってね。」
エオラは大きく頷くと器を持ち直し、また器用にカキ氷つくりを再開した。
チリンチリンと風鈴が鳴る。だんだん甘みが強くなるカキ氷を僕は頭がキーンとならない程度に頬張るようにして食べた。
「エオラ、何やってる?」
「オーロヌさん!!」
うわさをすれば何とやら、オーロヌさんが来てしまった。見た目はエオラより少し筋肉質なだけでほとんど一緒で、見分けるのが難しい。
「オーロヌ、いつの間に日本語話せるようになったのか。」
「俺はお前の子と話したい。俺は天才。やればできる。それより仕事は終わった?」
やばい。また、エオラの顔色が悪くなっていく。僕がどうにかしなければ。
「ご、ご、ごめんなさい。僕がその、このカキ氷を食べたかったので、今日はお仕事、お休みにしてもらったんです。」
「かきごおり・・・。これ、かきごおり。これ、食べ物?」
「そうです。氷を削ったものに味付けしたものなんですが、おいしいんですよ。」
すると、オーロヌはエオラがつくっていたカキ氷を取り上げ、適当に机に並べられていたシロップをかけて、食べ始めた。
「うん。すこし、頭痛い。でも、おいしい。」
丹精こめて氷を削っていたエオラは少し涙目だったので、僕のカキ氷を少し分けてあげた。
「エオラ、おいしい?」
「美味しいです。」
そのあと、カキ氷を食べて満足したオーロヌは、『よい休日を』と言って、笑顔で帰っていった。
「嵐のように去っていきましたね。」
「はい。ただ、明日からまた研究と調査頑張らないとです。オーロヌ、急に来る。こわい。」
はははと笑いながら、僕はカキ氷の片付けをし始めた。
「あ、そうです。四季、夜になったら、お空見ましょう。この時期の星は綺麗ですよ。」
「うん、そうだね。天体観測しよう。」
急に星を見ようだなんて少し変だなと思いつつも、特にやることがない僕はエオラの提案に素直に乗った。
そして、夜。
ヒューーーーーーー・・・・・ドーン
「エオラが本当にしたかったのは天体観測じゃなくて、花火だったのか。」
「先に教えたら、面白くない。でも、星も綺麗だよ。」
「ほんとですね。」
こうして、僕達のとある夏の一日が終わった。
久々にこの二人(?)の話を書きました。
ずっと続編を書きたいとは思っていたので、書けてよかったです。




