5.待機、挨拶と戦前対話
俺の試合が終わった後。
俺が破壊してしまったステージの修復と、【非殺結界】を張り直し作業が行われてる。
ステージの方は、学園の教師が【土魔法】を使い元通りのステージに作り直している。
【非殺結界】は、デュエラ様がティオ様に結界の張り方のレクチャーをしている。
そう、教皇様をわざわざ学園トーナメント戦に呼ぶ用事というのは、【非殺結界】を張る作業をお願いする為なのだ。
この結界を張れるのが、代々【結界魔法】を継承している『マルス家』しかいないのだ。
実践的な試合を行いたかった学園長が、デュエラ様にお願いして始めたのが学園トーナメント戦の始まりらしい。
この復旧作業の間、ナレーターの女生徒と学園長がトークでつないでいる。
「いやー、先ほどのレイ選手の一撃は凄かったですねぇ。私、あのレベルの魔法初めて見ました」
「でも、あの魔法自体は凄くシンプルな攻撃よ。あそこまでの威力は出ないでしょうけど、DEXと総MP量が高ければ似たような事は簡単に出来るはずよ」
「そうなんですか!?」
「えぇ、原理は簡単よ。ただ、彼の場合魔力コントロールが、常人よりも桁外れに上手だからこその『必殺技』よ。常人が使っても、牽制程度の攻撃にしかならないでしょうね」
「はぁー、試合を見れば見るほど、レイ選手の異常な強さが際立ちますね………。正直な話、先ほどの一撃も学園生として次元の違う攻撃だった気がしています」
「その感覚は間違いでは無いわ。あの魔法攻撃力は、冒険者ギルド基準であればAランクの魔物ですら一撃で屠れる威力よ」
「じ、純金級の実力者という事ですか!?」
「しかも、あくまでINT特化の魔術師だったらの話よ。彼の場合、今までの試合の傾向から、STRやINTだけでなくDEXやAGIも高水準でまとまっているはずよ。それで回復士や召喚士なんて、世の中のバランスはどうなっているのでしょうね?」
「ハハハ………。レイ選手、今年で12歳でしたっけ?才能とかも凄いんでしょうけど、私は今までどんな人生を送ってきたかの方が気になりますよ」
「それは私も聞いてみたいわ。他にも、あの子が召喚士として、どんな魔物を呼び出すかも興味があるわ」
「あ、それは確かに気になりますね!あの実力ですから、常人がアッと驚くような魔物が居てもおかしくは無いですよね。学園長も見た事無いんですか?」
「えぇ、私も見た事は無いわ」
なんか、えらいハードルが上がっとる。
それにしても、俺今回の大会でどれだけ力を晒そうかな………。
流石に奥の手という意味も込めて、精霊種のスキルと竜種のスキルは使う予定は無い。
『コウ』の正体バレするから、【魔翼】何かはもっての外だな。
つまり、人間状態で使用出来るスキルだけ使う予定なのだが、イラっとした勢いで最大火力の【金魔光線】使っちゃたんだよな。
次の生徒会長戦、どう戦おうか。
申請忘れて剣使えないし、やっぱ素手なんだよなぁ。
それとセルディマの奴、来賓席からニヤニヤしながらこっちをチラチラ見ている所を思うと、まだ何か企んでそうなんだよな。
わざわざ『二重乙女』を連れてきたりして、何をする心算なんだろうか………。
そうやって何とも無しに考え事をしていると、【非殺結界】を張り終えたデュエラ様とティオ様が此方に向かってきていた。
おっと、御挨拶。
「こんにちは、レイ様!今、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ、ティオ様。お元気そうで何よりです」
「はい!ティナ様のお陰で、心配事と無縁の日々を送っています!」
ティオ様は、最後に会った時と同じ様な屈託の無い満開の笑みを浮かべている。
本当に元気そうだ。
「ふふっ、本当にティオはレイ様に懐いているようね」
「そ、そうでしょうか………!?」
そんなティオ様を見て、デュエラ様はそう零した。その表情には、ティオ様と似た微笑みが浮かんでいた。
ティオ様も、恥ずかしそうに笑みを浮かべている。
仲の良さがこれでもかと伝わるね。
「お初にお目にかかります、デュエラ様。御存じだと思いますが、私の名はレイと申します」
「えぇ、ティオから全て聞いております。私の大事な孫娘を助けていただいて、レイ様には本当に感謝しています。誠にありがとうございました」
俺がデュエラ様に自己紹介をすると、デュエラ様はそう言って頭を下げる。
「お、お待ちください!一庶民にそう簡単に頭を下げては………!」
予想以上の腰の低さに、俺は驚きを隠せない。
何せ、この人は大陸に名を連ねる国家の代表だ。そんな人が敬語を使い、平伏する勢いで俺に頭を下げたのだ。動揺しない訳が無い。
「いいえ。私はレイ様に、それほどの感謝と敬意を持っているのですよ。それにレイ様は、一宗教のトップである精霊王。私が敬うのは当然では無くて?」
「流れで精霊王になっただけであって、俺自身そこまで大層な存在ではありませんよ?」
「うふふ、流れで精霊王になれるお方が、大層じゃない訳が無いと思いますよ?」
俺が言葉を返すも、デュエラ様はそう言って俺に向けて微笑む。
そりゃそうだ、って俺も納得した。
「出来れば私としては、デュエラ様達とは良き隣人の様な中を築いていきたいのですよ。だから、あまり大層な扱いは………」
「あら、それは私としては願ったり叶ったりだわ。ティオもレイ様とは仲良くしたいものね?」
「ハイっ!一信者として、そして一個人として、私もレイ様と仲良くしたいです!」
デュエラ様が話を振ると、ティオ様もにこやかに答える。
本当にこの一族は良く笑う。ティオ様みたいな明るい聖女が誕生する訳だ。
その後、ステージ修復が終わるまで三人で雑談を行っていた。
「お待たせしました!今から、学園トーナメント戦、決勝戦を行います!」
全てが修復された闘技場に、ナレーターの声が響く。
「波乱の展開となった、今年の学園トーナメント戦もいよいよ大詰めです!この決勝にコマを進めた、各ブロックの選手紹介を行います!」
ナレーターは興奮が抑えきれない様で、司会席から身を乗り出しながらコールを行っている。
「まずは、波乱の展開を巻き起こした、下克上達成のAブロック勝者!攻・速・守揃った、怒涛の猛攻を見せる前代未聞の後衛職!先ほどの試合では、結界やステージを壊し、空をも裂く高火力な魔法すらも放って見せる彼に、果たして弱点は存在するのか!?」
実況の言葉と共に、ステージに登る。
観客が俺に注目しているのが、否応にでもわかる。
実は、学園長から『名前呼称と同時にアピールをして?』という無茶ぶりを食らっているので、とりあえず右腕に【王覇】を【充填】しておく。
「二年Aクラス!回復士、レイ選手!」
名前を呼ばれるタイミングで、真上に向かって【噴火】を放つ。
虹色の魔力が柱の様に噴き上がり、淡く煌く虹色の魔力の残滓が俺を包む。
そんな俺の姿を見た観客席から、地を揺らすほど盛大な歓声が上がる。
アピールは、何とか成功という事でいいだろう。
「続きまして、こちらは不動の結果を見せつけたBブロック勝者!実力学園トップの座に君臨する生徒会長!文武両道、才色兼備を地で行く才能の塊なエルフは、成りあがる奇才に学園一位の意地と実力を見せつける事が出来るのか!?」
あちらもナレーターの紹介と同時にステージに上がってくる。
染み一つ見当たらない白い肌に、良く生える背中まで伸びた煌く金髪の合間から尖った耳が覗く、スラっとしたモデル体型の美形エルフ。
武器は、背中に背負った弓。
まさに、俺らがイメージする『エルフ』そのものを体現した存在だ。
拝んでおこうか。
次のアピールに備えてか、ディゼルさんは弓を構える。
だが、矢は装填していない。
「4年Aクラス!弓士、ディゼル!」
自分がコールされると同時に、構えていた弓に炎の矢が具現化する。
それを真上に打ち放ち、途中で爆散させる。
ディゼルさんは頬の残滓に包まれて、髪が輝く。
此方のアピールも成功の様で、観客席から大歓声が上がる。
まさか、アピールを被せて来るとは………!
俺がそんな感想を抱いていると、ディゼルさんが俺の傍に近寄ってくる。
「初めまして。ディゼルと、言います。宜しく、お願いします」
ディゼルさんは、挨拶と同時に手を差し出してくる。
少し言葉少な目タイプみたいだ。
俺も手を差し出し、握手を行う。
「此方こそ初めまして。御存じでしょうが、レイと言います。宜しくお願い致します」
「本当は、この場で王様に平伏したい所。だけど、トリス様に止められてしまった。ので、今回は。これくらいで許してくれると、ありがたい、です」
学園長、GJ!
って、俺が王様ってどういう事!?
「あ、あの、俺が王様とは………?」
「トリス様や族長から、王様が精霊王なのは伺って、います。私達は精霊教、なので、敬うのは当然の事、です。それに―――」
そこまで喋ると、ディゼルさんは一度言葉を区切り、俺の方をチラッと見る。
「それに?」
「族長が、『怜司―――レイがこの里に来れる様になったら、その時はレイは王様よ』って」
「おぉい!?」
俺は思わず驚きの声を上げてしまう。
実力で手に入る貴族階級―――『子爵』もしくは『男爵』辺りを狙ってたんだが、恐ろしくハードルが上がってる!
夕莉がそう言っている以上、夕莉を嘘つきにしない為にはそれ以下がダメになってしまった。
オイオイ、王様とかどうやってなればいいんだよ………!?
「何か間違いが?」
「い、いや、相違ありませんよ?学園を卒業したら貴族階級を取る事は考えていましたから」
あくまで、ハードルが跳ね上がっただけで!
「そう。それなら、私の進路希望は安泰、です」
俺の言葉を聞いて、ディゼルさんはホッと胸をなでおろす。
「進路希望?何処を希望しているのですか?」
俺の進退で決まる進路希望って、どこを希望しているんだ?
「王様の、近衛騎士」
「それは、また………」
エルフでその地位を狙うとなると、どうしても難しいだろう。
なんせ、エルフは日常を過ごしていても、常に周りから狙われる種族だ。そんなエルフが、貴族が率いる騎士団なんて、それこそ貴族のいいカモだ。
それなら、エルフ親派で宗教主に当たる俺が王になるのなら、その地位を狙うだろう。
「にしても、何故そのような役職を?」
そんな危険を背負ってまでもなりたいという理由が気になったので、聞いてみる。
すると、ディゼルさんは少し恥ずかしそうに頬を染める。
えっ?恥ずかしくなるような理由が?
「王様の御情けが、欲しい(照)」
「ぶっ!?」
予想の斜め上をぶち抜いてくる、ダイレクトアタックに俺は吹き出す。
「王様が、エルフの里に来たら、大人気なのは確定。なので、周りよりも近しい立場になれば、可能性がグッと上がる、と思いました」
グッとの所で、握り拳を見せるあざとさよ。
それよりも、コイツも夕莉の布教に飲み込まれた信者か!?
「それに、今、お情けが欲しいのは、私だけじゃない、です」
「ま、まだいるのですか………!?」
ていうか、『今』!?
「フェールス、おいで」
ディゼルさんが名前を呼ぶと、ディゼルさんの真横に魔法陣が浮かび上がり、光り出す。
この魔法陣は―――精霊召喚!
ディゼルさん、精霊契約してたのか。初めて知った。
どんな精霊と契約したんだろうか?
俺が気になって魔法陣を見ていると、魔法陣を包む光が弱まっていく。
魔法陣から出てきたのは―――
「ん?どうした―――って、レイ様ぁ!」
出てきたのは、少しパサついた暗めの茶髪のショートヘアーに、少し焼けた小麦色の肌色をした長身の美女。
少し露出多めの服を着ていて、見える体つきは中々に筋肉質な体の持ち主だ。
シックスパックが出来ている女子は珍しいんじゃなかろうか?
俺の名前を呼んでるし、俺の事は知っているようだが、正直俺は心当たりがない。
ここまで特徴的な見た目だと、覚えていると思うんだが………。
俺が疑問気な表情をしているのを見て、件の精霊が名乗りを上げる。
「俺―――ゴホンッ、私です!『岩石精霊』です!」
「嘘だろ、オイ!?」
今日一番の驚きの声を上げる。
今日は驚いてばっかだが、マジで今日一驚いた。
『岩石精霊』は、俺とラーナが精霊界で初めて戦った上級精霊だ。
だけどあの時戦ったのは、女好きを隠そうとしない拒否感を覚える男だったはずだ。
それが、なんでまた女になってるんだ?
しかも、何かアイツ、熱の籠った目で俺の事を見てるんだけど、どういう事だ?
「嘘ではありません!私はあの時、レイ様に成敗されて心を入れ替えようと思ったんです。その一環として、まずはレイ様に拒否されない『女』に生まれ変わったんです。そして、死に物狂いで努力し、直ぐに上級精霊に戻ったのです」
岩石精霊―――フェールスは、否定的な声を上げた俺に弁明を始める。
「『男』でさえなければ、禊なり反省に伺っても拒否されないと思って『女』になったのですが、レイ様が『男性』であるのは寧ろ幸運でした!これならば、私が体を差し出す事が出来ます!」
言葉を募れば募るほど、フェールスの眼に熱が籠っていく。
話や態度を見る限り、コイツは嘘を付いていない気がする。
だからこそ、あんな女好きの下種野郎が、ここまで掌をひっくり返されると本気で怖いんですけど!
「な、何でまた、心を入れ替えようと思ったんだ?」
コイツがここまで変わる理由が知りたいわ。
「それは―――」
俺が問いかけると、フェールスは赤くなった頬に両手を当て、身もだえ始める。
「あの時、レイ様の膨大な魔力で消し飛ばされる瞬間!逆らう事の出来ない絶大な力に翻弄された時ッ!強烈な圧力に屈服した時ッ!私は、しがらみの様な何かから解放された気分、快感を感じたのです!それ以来、あの屈服した瞬間が忘れられず………!」
えっ、それってつまり、俺のせいでドM覚醒したって事!?
俺、新しい扉ブチ空けた!?
俺が戦々恐々としてる中、フェールスの語りが止まらない。
「ですから、レイ様に今までの自分を塗り変えてほしいんです!寧ろ、レイ様色に染めてもらいたい!」
ちょっ、圧力、勢いが、怖っ!?
「なので、この戦いも私の全力で行きます!だから、それを超えるレイ様の力で私を………!」
おわっ、何か、ビクビクしだした!?
だが、ディゼルさんはそんな相方を無視し、弓を構える。
「私も、レイ様に実力を披露するいい機会。なので、全力で行きます」
色々驚きが強すぎて、俺はココが決勝戦のステージ上なのをすっかり忘れてたよ!
「どうやら、レイ選手とディゼル選手の会話が終わったようです!」
「中々話も盛り上がっていたようね。それに、ディゼルも初めから本気で行くようね」
「えぇ、何を話していたかは聞こえませんでしたが、ディゼル選手奥の手の『精霊召喚』を初手から行うという事は、ディゼル選手はレイ選手の事をそれだけ警戒しているようです!」
どうやら、俺達の会話は観客には聞こえていなかったようだ。
そこまで気が回ってなかったので、良かった。
「………………」
まぁ、横にいるルルーラさんは全て聞こえていた様で、何か言いたげに俺の事を見ている。
やっぱり、後でルルーラさんにも色々説明するしかないようだ。
「それでは、決勝戦!回復士、レイ選手VS弓士、ディゼル選手の試合です!」
気持ちを切り替えたルルーラさんから、試合開始のコールがかかる。
俺も色々動揺しているが、切り替えていくしかない。
ココで、精霊ごとディゼルさんを倒せば、実力を見せつける事が出来るはずだ。
「それでは、始めッ!」
「行きますッ!」
「来いッ!」
試合開始のコールと同時に、俺とフェールスがぶつかった。




