非日常の一幕
閑話その2。
誤字報告いつも助かっています。
とある闘技場。
その一番大きな特設ステージにて、本日の大目玉である決戦『王者決定戦』の決勝戦が佳境を迎えていた。
戦うは二組のチーム。
チーム『ヘキサグラム』
〈メンバー〉
レイ・ヘキサグラム
フィーリン・ヘキサグラム
VS
チーム『剛腕』
〈メンバー〉
レグレッサー
ガルデニア
驚くほどのコンビネーションが売りの『ヘキサグラム』と、ソロプレイに趣を置く屈強な戦士の集まりである『剛腕』。
単騎戦闘を得意とする『剛腕』に対し、各個人の強さで負ける『ヘキサグラム』がコンビネーションプレイで対抗し、試合は接戦だった。
競り合う試合が動いたのは数分前。
『剛腕』の二人組が『ヘキサグラム』の二人を分断する事に成功したのだ。
現在、『レイ・ヘキサグラム』対『レグレッサー』、『フィーリン・ヘキサグラム』対『ガルデニア』という構図になった。
それにより『剛腕』が流れを掴んで優位に立ち、『ヘキサグラム』が抗っているという状態の中。
フィーリンのHPが危険域に入った。
剣と剣がぶつかり合う。
「くっ!」
「うらぁ!」
苦しそうな声と気合を込めた声が会場に響く。
競り勝ったのは、大剣を全力で振り下ろした、毛皮を纏った筋骨隆々な戦士のような30代ほどに見える男―――『ガルデニア』。
競り負けたのは、レイピアに近い細い剣でいなそうとした、騎士のような白い鎧を着た学生ほどの年齢のイケメン―――『フィーリン・ヘキサグラム』。
『技』を蹴散らす圧倒的な『力』。
その光景に、会場にびっしりと詰まった観客たちは興奮して歓声を上げる。
既にピンチに陥っていたフィーリンは、今の競り合いで剣を弾かれて隙が出来た。
そして、その隙をガルデニアは見逃さなかった。
ガルデニアは振り下ろした勢いそのままに、フィーリンに向かって突っ込む。
そのガルデニアの勢いは、『この一撃で決める!』という思いの表れだった。
そして、クール系イケメンであるフィーリンに対する僻みが少なからずあってこそのものでもあっただろう。
ガルデニアは、全力で駆けながら大剣を振り上げる。
「いくぜェ!『勇猛な一撃』ッ!」
スキルを使ったガルデニアの大剣が光を放ち始める。
ガルデニアは、その状態でフィーリンに詰め寄る。
フィーリンは何とか体制を立て直したが、回避を行うには一歩遅く、体験を防御できる術も持っていなかった。
この一撃を食らったらやられる、というピンチを迎えているはずのフィーリンは、それでも余裕の表れを見せる様に薄く笑い、レイピアを構えて攻撃の態勢を取る。
ガルデニアはその余裕が気に入らない。
「ウオォッ!沈め!」
勢いに怒りを足して、さらに加速したガルデニアがフィーリンに迫る。
ガルデニアには、俺の全力をあんなレイピアの一撃で止められるはずが無い、という確信があった。
それは観客もそう思っているし、何より実際に不可能だった。
その光景を、ステージの対角にて戦闘を行っていたレイとレグレッサーも目撃する。
「おや、お仲間さんがやられそうですよ?」
拳を握って隙なく構える白い鉢巻を付けた道着姿の男―――『レグレッサー』は、相手の動揺を誘う意味も込めてそう話しかける。
しかし、レグレッサーの目の前に立つ威圧感のある漆黒の全身鎧に身を包む者―――『レイ・ヘキサグラム』はそんなフィーリンを一瞥するも、慌てるそぶりも見せずに両手剣を構える。
「いいや、寧ろここからは俺達のターンだ」
レイはそう呟くと、両手剣を右腰の位置に下ろし攻撃の構えを見せる。
降ろされた剣は、風に包まれ始める。
レイがスキルを発動させた前兆だ。
そんなレイの様子に、レグレッサーは訝しげな表情を浮かべる。
ここからの援護は間に合うはずもないし、何よりレイはフィーリンに背を向けている。攻撃を飛ばせるはずも無かった
訳が分からない。
そんな中、ガルデニアの攻撃がフィーリンめがけて振り下ろされた。
だが、それでもなおフィーリンは攻撃の構えを解かない。それどころか、フィーリンもレイピアに光を纏いスキルを発動させる。
決まるかに思われたガルデニアの一撃は―――。
「「『息の合った連携』」」
二人揃った声が邪魔をした。
ガルデニアの前に立っていたはずのフィーリンは、淡い光に包まれると同時に姿が消える。
そして代わりに、そこには攻撃の構えを取る『漆黒鎧』が立っていた。
『息の合った連携』
タッグ専用技。
二人同時に同タイミングでスキルを発動させると、互いの位置を入れ替えるスキル。
なんと『ヘキサグラム』の二人組は、あの状況下で互いに連絡を取り合う事も無くこのスキルを発動してのけたのだ。
この超連携こそが『ヘキサグラム』の強み。
「くっ、そがぁッ!」
ガルデニアは突然の事態に動揺が零れそうになるも、その動揺を叫び声で掻き消した後、大剣を振り下ろす速度を上げてレイを叩き切ろうとする。
だがレイはフィーリンと違い、既に反撃の準備が出来ている。
「『上昇する嵐』」
レイは風を纏う両手剣を振り上げる。
レイの両手剣とガルデニアの大剣が、ぶつかり合ったその時―――
猛烈な爆風が上空に向かって吹き荒れた。
「うぉっ!?畜生ッ!」
飛び込みながら大剣を振り下ろしていたガルデニアでは、その吹き荒れる爆風に耐えられなかった。
ガルデニアは真上に吹き飛ばされながら悪態をつく。
「なっ、ガルデニア!?」
それを見たレグレッサーは動揺の声を上げる。
だが、その行為は目の前に立つフィーリンに隙を晒す事となった。
「『極光の百閃』ッ!」
フィーリンが構える光に包まれたレイピアが一瞬ぶれる。
その瞬間、数えきれないほどの突きがレグレッサーを襲う。
「しまっ、ぐわぁっ!?」
数多の金閃は、隙を晒していたレグレッサーに余す事無く直撃する。
だがこの時、攻撃が当たった安心感からフィーリンが一瞬気を抜く。
その一瞬、弱まった連撃の隙を見逃さないレグレッサーは、集中力を急激に高めて連撃中のレイピアを掴み、強制的にスキルを中断させる。
「やばっ」
一気に状況をひっくり返されたフィーリンは、焦りの声を零す。
咄嗟の事態に、フィーリンは動きが止まってしまった。
「貰ったッ!『獰猛なる堅拳』ッ!」
そんなフィーリンめがけて、レグレッサーがスキルを発動させる。
そしてその攻撃と同タイミングで予想外の方向からも攻撃が飛んでくる。
「『飛翔する剣』ッ!」
なんと、空中に飛ばされたガルデニアから大剣が飛んできていた。
獲物を逃がさないガルデニアの執念の一撃だった。
(ごめん、兄さんっ!)
フィーリンはこの状況をどうにかする手段が咄嗟に思いつかず、思わず目を瞑る。
殴打される音、大きな剣が突き刺さる音が会場に響く。
静まり返る会場。
その音をフィーリンは自分の耳で聞いて居た。
「………えっ?」
呆然と眼を開いたフィーリンが見たのは―――。
左腕が二の腕の真ん中あたりからへし折れた状態で、大剣に体を貫かれた漆黒の全身鎧が立っていた。
「に、兄さんッ!?」
フィーリンは思わず、周りへ隠していた実際の呼び方でレイに対し、悲痛な声を上げる。
察したのだ。
兄が自分を守る為に、自分の身を犠牲にして盾になってくれた事に。
そんなフィーリンを尻目に、空中から落下して轟音をたてながら着地したガルデニアと、レグレッサーは声を交わし合う。
「マジかっ!?あの状況下で躊躇い無く盾になる咄嗟の判断を取れるのはヤベェな!」
「感心している場合か!考えろ、さっきまでダメージを負ってなかったレイもボロボロになったんだ!逆にチャンスだろうがよ!」
「確かに!ここで決めるぞッ!」
「応よ!」
そして『剛腕』の二人組は、畳みかける様に『ヘキサグラム』の二人の下に突っ込んでいく。
フィーリンは、自分の代わりに犠牲になった兄の事でいっぱいいっぱいでオロオロしており、『剛腕』の二人に対処する余裕は無かった。
そしてレイは、ガルデニアに大剣によって貫かれているせいで、身動きが取れなくなっていた。
それを見た『剛腕』の二人組は、フィーリンから仕留める算段をたてて、フィーリンめがけて突っ込んでいく。
「………ンの野郎が」
そんな二人組を見てボソッと何か言葉を零したレイは、右手に握っていた両手剣を片手で振るって―――
へし折れた左腕を、肩の位置から切り裂いた。
「に、兄さん!?何をしているんだ!?」
自分の兄が取った凶行に対し、フィーリンは自分に突っ込んでくる『剛腕』の二人組などそっちのけでレイに問いかける。
自分らそっちのけの『剛腕』は、そのフィーリンの態度が全くもって面白くない。
「てめぇ、俺らをッ!」
「無視してんじゃねぇよ!」
二人はそれぞれ拳に光を纏いながら飛び込み、フィーリンにとどめを刺そうとする。
「「『獰猛なる堅拳』ッ!」」
スキルを発動させながら飛び込む二人の攻撃を止めたのもまた―――
「『拡散する嵐』」
漆黒の全身鎧だった。
レイは、右手に握る両手剣を二人組に向けてスキルを発動させる。
「コイツ、またッ!」
「チッ、この似非魔法使いがッ!」
その剣先から横向きの竜巻が放たれ、その大渦に二人組は吹き飛ばされる。
先ほどからレイが発動する【風魔法】のスキルには攻撃力は殆ど無い。
その代わり『相手を吹き飛ばす』といったり『物を浮かびあげる』といった補助スキルとしては有効だった。
魔法使いであるレイが、全身鎧を着ても身軽に動けたり、両手剣を片手で振り抜けるのは、ひとえにこの【風魔法】のお陰だった。
『剛腕』の二人組は、熟練の技術を駆使して吹き飛ばされた体勢から綺麗な着地を決め、レイを睨みつける。
それに対しレイは、右手の両手剣を地面に突き差して、そこに右手を乗せて『勇猛なる騎士の構え』を取り、フィーリンを背後にさりげなく隠す。
そして、二人組に対し声を荒げる。
「てめぇら、よくも俺のフィーリンに手を出そうとしやがったなッ!?」
レイの『俺のフィーリン』宣言に、会場全体から歓声や悲鳴が巻き起こる。
特に女性の声が一際大きく響いた。
「兄さん!?な、何恥ずかしい事を………!?」
フィーリンはレイの宣言を聞いて、文句を言いたげながらも頬を赤く染めて、恥ずかしそうに目元を伏せる。
その満更でも無さそうな反応に、会場のボルテージは更に跳ね上がる。先ほど叫んでいた女性陣なんかは、もはや絶叫に近い歓声になっている。
その声を聴いて尚、大舞台で感情が高ぶったレイは思いのままに言葉を連ねる。
「フィーリンは俺のだッ!手を出した事を後悔させてやるッ!」
「に、兄さんッ!」
『俺の』宣言にフィーリンは、今にも爆発しそうなほど顔全体を真っ赤に染めて、文句の声を上げる。
この二人の掛け合いに、会場の熱狂や歓声は最大級に跳ね上がる。
観客の何割かは、ギラギラした目を二人に向けていた。
「ハンッ、てめぇこの状況をどう覆すつもりだ?」
そんなレイに対し、ガルデニアは周りの観客の反応が面白くなさそうな感じを隠しもせず、刺々しくレイに問いかける。
実際、観客を味方につけたものの、『ヘキサグラム』がピンチなのは変わらない。
だが、レイは余裕そうな態度を全く崩さない。
「覆すも何も、まだこれからだろ?」
レイがそう返すと、レイが着ている全身鎧から黒いオーラのエフェクトが溢れて来る。
「な、なんだそれは!?」
「ちっ、この似非魔法使い、いくつ隠し玉を持ってるんだよ………!」
『剛腕』の二人が慄くのを正面に、レイは背後に立つフィーリンに話しかける。
「フィーリン、ココは俺に任せろ」
レイは背後に立つフィーリンにそう話しかける。
「に、兄さん、でも………!」
「おいおい、素が出てるぞ」
「あっ………!?」
フィーリンが追いすがろうとするも、演技が途切れてるのを指摘してフィーリンの勢いを削ぐ。
指摘されたフィーリンは驚きの声を上げると共に、無意識的に両手で口をふさぐ。
そんなフィーリンに対し、レイは優しげな声で言葉を発する。
「まぁ、任せな。兄ちゃんがお前の事ずっと守ってやるからな」
その言葉をフィーリンに向けて、レイは敵の所に一人で向かっていく―――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「夢か………」
私はそう零しながら目を覚ます。
随分と懐かしい夢を見た。
夢で見たのは、私が中学二年の時に高校一年生の兄さんと参加したVRゲームの日本大会の決勝戦の時の光景だ。
部屋のタンスの上に飾ってあるガラスケースを見れば、その時貰った思い出の品である優勝トロフィーが飾ってある。
そう、何と兄さん本当に一人で勝ってしまった。
勿論兄さんが私にすら隠していた隠し玉の効果が絶大であったが、それを差し置いても片手が無い状態で二人のトップランカーを相手取る兄さんは凄かった。
本人のテンションで実力が変動するスタイルなのは知っていたけど、あそこまで強くなるとは思いもしなかった。
私はその兄の姿を見て、実の妹なのに心臓が高鳴るのを感じていた。
その後、ゲームを行っていると周りからよく声を掛けられるようになったが、皆私の事を『弟』だと勘違いしているので、『薔薇の騎士組』とか通り名を付けられて凄い恥ずかしかった。
私は髪が短くて、身長も女子にしては高いし、何かと『王子様』扱いされる事が多かったけれど、まさかあんなあだ名をつけられるなんて、本当に恥ずかしかった。
そんな私を見て兄さんはいつも申し訳なさそうな表情をし、私の事を励ましながら頭を撫でてくれたっけ。
「兄さん………」
私は思わず、窓際においてある写真を見る。
そこに映るのは、私と兄さん、そして兄さんの幼馴染の3人で撮った記念写真だ。
3人とも満面の笑みで写っていて、その時の生活がいかに充実していて楽しかったかがわかる写真だ。
でも、もうこの写真のような風景はやってこない。
「兄さん………どこに行ったの………」
私は溢れて来る涙をこらえる事が出来なかった。
私―――『六星春奈』の兄―――『六星怜司』が行方不明になってから、もうすぐで一年が経過しようとしていた。
ある日、突然兄さんの幼馴染の『柴咲夕莉』姉さんと出かけてから、二人共戻ってこなくなってしまった。
勿論、警察に届け出を出したけど音沙汰は全く無い。
兄さん達と遊ぶ予定だった、兄さん達の後輩だという『大槻美咲』さんとも話をしてみたけれど、二人は待ち合わせ場所に来なかったという。
元々両親も無く、一人身になってしまった私は、同じく娘を失った夕莉姉さんの両親に引き取ってもらった。
二人も夕莉姐さんを失った悲しみの中だったが、そんな中でも私を拾ってくれた事に感謝している。
だけど、私は兄さんを失ったショックでひきこもりになってしまったので、二人には本当に迷惑をかけていて申し訳ないとも思っている。
でも、でも、無理だった。
両親を失い、泣き続ける私を兄さんはたった一人で守ってくれた。
兄さんは、お父さん達の遺産を少しづつ使いながら生活し、色んな事で夕莉のおじさん達や学校の先生たちといった周りの大人に頭を下げ、自分を後回しにしながら私には何不自由ない生活が送れる様に頑張ってくれていた。
寂しい時にはいつも一緒にいてくれたし、私が病気になった時も学校を休み私の看病をしてくれた。
私が少しでも兄さんを楽にする為に家事を練習した時には、凄く喜んでくれて本当に嬉しかった。
これほどの苦境に立ちながら私をずっと守ってくれた兄さん。
気が付いた時には、兄さんに対し一言では説明出来ないほどの思いを抱いていた。
血の繋がった兄妹だけどそんなものは関係なかった。
姉代わりの夕莉姉さんの思いも知っていたが、それも正直な所どうでもよかった。
私には兄さんだけだった。
兄さんが私の全てだった。
だからこそ私は兄さんに対して何も否定しない。全て受け入れる。
兄さんがしたい事は常に後押しし、一緒にやった。VRゲームもその一環だ。
学校行事も出来る限り全て参加させた。兄さんの雄姿が私の喜びだった。
だから私は、そんな兄さんが居ないという現実に耐えられなかった。
だから私は、現実から逃げ続ける。
そして、今日もまた、兄さんとの思い出の詰まったVRゲーム『Brave Fantasy Online』にログインする。
兄さん、やっぱり私は兄さんがいないとダメだよ。
一人でなんて生きていけないよ。
神様がいるならどうか。
私の全てを差し出してもいいから。
だからどうか。
私を兄さんの所に連れて行ってください。
今回はエタる事無く妹ちゃんもどうにかしたいです。
ただ、順調に行っても魔王編のあとなんですよね。
頑張ります。




