13.戦闘、金属蜂
さて、探索開始から30分も経たずに金属蜂との戦闘が始まった。
話に聞いていた通り、人間の腰くらいまでの大きさで金属質な見た目をした大きな蜂だった。
戦ってみた感想としては、思った以上に素早くて情報通り堅かったが、外殻の隙間や体の節々の関節部を狙って攻撃を当てる事が出来れば、それなりのダメージを与えられるのと同時に部位破壊を起こす事が出来た。しかも、関節部のみに攻撃を当てて撃破すると、上質な外殻をドロップした。
なので現在は特訓も兼ねて、【魔力弾】のエイム練習を兼ねて【魔力弾】のみで戦闘している。
いるのだが―――。
「数が多すぎやしないか!?」
1匹撃破する内に2匹増え、2匹撃破し終わったら4匹増え、と繰り返し現在では数えるのも億劫になるほどの金属蜂に襲われていた。
ココが森じゃなかったら、金属蜂の集団に囲み撃ちされて只じゃすまなかったかもしれん。
余りにも数が多いので死角を作らない様に、【魔力探知】をエコーの様に5秒間隔で発動させながら【魔力弾】のみで仕留めている状態だ。
【魔力探知】で位置取りを把握しながら【魔力弾】でタゲを狙うのは中々に難しく、討ち漏らしが出てしまうときがある。
「【魔力弾】ッ!あ、やば、外した」
実際に今も、1匹仕留め損ねた奴がこちらに突っ込んできたが、俺は既に他の金属蜂を処理している最中で【魔力弾】を撃つ余裕は無い。
こんな状態でも未だに無傷であり、今も焦っていない訳は―――。
「………させない」
俺のすぐそばまで迫っていた金属蜂は、突如発生した銀色の光が数回煌いたと思うと、胴体をバラバラにしながら地面に落ちていく。
そして、煌きの残滓の後に立つ銀狼少女。
そう、今回のクエストは、シロと一緒に来ている。
俺が打ち漏らした敵は、シロが全て仕留めてくれているのだ。
いくら金属蜂が速いとはいえ、シロに速さで勝てる筈は無い。だからこそ、安心して【魔力弾】のエイム訓練が出来るのだ。
実は俺、この前の一件から、絶賛一人行動禁止中なんだ。
風呂とトイレと寝る時以外は、常に母さんかシロが俺と一緒にいるのだ。
母さんとシロは、風呂と寝る時も一緒に居ようとしたが、『そこは譲れぬ』と何とか必死に説得しました。
風呂は嫁入り前だから諦めてくれたんだが、『寝る時こそ見張るべき』って全く折れてくれなかった。この前山脈行ったの夜だもんね。そう思ってもしゃーないわ。
最終的に『次、無言で夜どこかに出かけたら、即監禁』という条件と共に認められました。
自分の首をどんどん絞めてる気が最近します。
そんな感じでシロと共闘中なのだ。
戦闘を始めてからそれなりの時間が経ってきたが、未だに金属蜂が途切れる気配は無い。
俺の討ち漏らしを捌きながらドロップアイテムを拾っているシロはまだ余裕そうだが、このまま戦闘を続ければいつかは体力が尽きるだろうし、余り長時間戦闘していれば俺も被弾しない自信は無い。
上質な金属蜂素材も、十分集まっただろう。
これは、そろそろ特訓を辞めて殲滅に切り替えるべきかな。
金属蜂を殲滅できる方法はある。
だがそれは、ココで使うと周りの木々ごと蹴散らしてしまう為、周りに何もない平原が望ましい。
現在ソナーの様に連打している【魔力探知】を、前にリリスを探していた時の様に薄く引き伸ばして効果範囲を広げ、丁度いい場所を探す。
すると、南西にそれなりに大きい平原を発見した。
互いにアクロバティックに動き回りながら、シロに作戦の切り替えを伝える。
「シロ、特訓から殲滅に切り替える!」
「………どうすればいいッ?」
「ここから南西に500mほど先に平原がある!そこで俺が全てを蹴散らすから、そこまで誘導するぞ!」
「………了解ッ」
そうして会話を終えると同時に、指定した平原を目指して二人同時に駆けだす。
後ろを振り返れば、金属蜂はしっかり付いて来ていた。
被弾しない様に【魔力探知】を撃ちながら駆け抜けていると、件の平原に金属蜂の集団の反応があった。
どうやら平原に巣があるようで、尚の事殲滅するには格好の舞台となった。
だが1つ気になるのが、平原には金属蜂以外の『蜂型魔物』の反応があるのだ。
【魔力探知】の反応を見る限り、金属蜂と同じく蜂型の魔物の様だが、細かい造形や魔力反応が違うので別個体の様なのだ。
そしてもっと分からないのが、その別個体の『蜂型魔物』は一匹を残して全て死んでしまっているのだ。
そのたった一匹の生き残りも多勢に無勢の様で、攻撃をかなり被弾してしまってるみたいだし。
俺とシロが平原に到着した。
そして、その同タイミングで『蜂型魔物』が墜落していくのが見えた。
さて、ここで俺への選択肢だ。
1.金属蜂と『蜂型魔物』の両方を消し飛ばす。
2.金属蜂のみを消し飛ばす。
3.『蜂型魔物』のみ消し飛ばす。
4.両方見逃す。
選択肢として出したが、『3』と『4』は無しだ。金属蜂の討伐は確定事項だ。
とどのつまり、俺が『蜂型魔物』をどうしたいかで選択肢が決まる。
『攻撃する』か『保護する』か。
安全を考えるなら『1』一択だ。
あの魔物の正体が分からない以上、今のうちに一緒に倒してしまうに越した事は無いのだ。
だがその考えを、俺に残る日本人的発想が邪魔をする。
『争いを第三者目線で見た時に、弱者の味方をしたくなる』
これだ。
本当に治らない。
しかも俺はこれに加えて、弱者側を守ってしまいたくなるオマケ付きだ。
本当に何かあったらどうするつもりなのか、と毎回反省するところなのだ。
まぁ、俺の答えは『2』なんですけどね。
即座に行動に移さないと森からの追っ手にやられてしまうので、直ぐに動く。
「【防御】、『一体のみの蜂型魔物』」
まず初めに、死にかけの『蜂型魔物』を巻き込まない様に、シーラからの借用スキル【防御】を発動させ、『蜂型魔物』を保護しておく。
これで、死ぬことは無い筈だ。
今回使うのは『新技』だ。
『新技』をスキル登録するには、一度全ての手順を踏んで発動させる必要がある。
例を挙げるなら、【二重噴火】の時は―――
【魔力武装】
↓
【二重詠唱】
↓
【噴火】
と発動させ、それら一連の動作を【二重噴火】として登録した。
なので今回も、森側からの追っ手に攻撃される前に全ての手順を踏んで『新技』を発動させる。
「【王覇】」
まず【王覇】を発動させると同時に、【王覇】を右腕に集中させる。
「【二重詠唱】」
そして、【二重噴火】を覚えてから一回も使っていなかった【二重詠唱】を発動させると、左腕にも【王覇】が纏われる。
「【充填】」
更に【充填】を使って、両腕の【王覇】に魔力を籠めていく。
森側の金属蜂の先頭が森を抜けてきた。時間が無い。
右手を正面に、左手を背面に構える。そして両方の掌を、やや上向きに向ける。
「【閃手】ッ、【二重詠唱】ッ!」
そして【閃手】を発動させれば、豪速で右腕が右向きに振り抜かれる。
このままでは左腕が置いていかれるので【二重詠唱】を使用し、左腕も右腕と同時に同方向に振り抜かせる。
「【連撃】ッ!」
更に【連撃】を発動させて、振り抜かれるだけで止まる筈の【閃手】を止める事無く発動させ続ける事で、俺は物凄い速さで回転を始める。
先ほどから【充填】しっぱなしの【王覇】が、そろそろ暴発しそうだ。
平原側にいた金属蜂が、俺が放つ異常なほどの魔力に反応し始める。
このままではやられる事を察したのかは分からないが、蜂型魔物を放置して俺に向かって突っ込んでくる。
森側の金属蜂は、もうすぐ俺に接触する所まで来ている。
「シロ、全力で伏せッ!」
俺の傍に立ち、先頭集団の金属蜂を処理しようとしていたシロに指示を飛ばすと、シロは何の迷いも無く俺の足元で『伏せ』の態勢を取る。
この信頼度が今はありがたい。
あのままだったら、シロごと消し飛ばしたかもしれなかったから。
追手の先頭を走る金属蜂の毒針が俺に当たる瞬間―――
「【二重噴火】ッ!」
俺は、いつもの決め技を発動させる。
黄金の魔力が両手の掌から放たれると同時、俺が巻き起こしている豪速の回転に巻き込まれて、真っ直ぐに放たれたはずのベクトルが歪んでいく。
そして、その魔力は渦状の暴威となって金属蜂を飲み込み、消し飛ばしていく。
荒れ狂う魔力の奔流は留まる所を知らず、渦の下に逃げ込んでいた金属蜂を引きずり込んでいく。
その吹き荒れる苛烈な奔流は、まるで『嵐』の様で。
「【覇嵐】ッ!」
『技名』を叫ぶと同時に【王覇】や【連撃】などの一連のスキル全てを解除し、再度【王覇】を発動させ直して両足にのみ【王覇】を集中させ、腰を落とし踵を地に据え付けて全力で踏ん張る。
その甲斐あって、大量の砂煙を巻き散らしながらではあったが回転を止める事に成功する。
だが荒れ狂う【覇嵐】の渦は、直ぐには消える事無く数秒の間その暴威を維持した後、淡い魔力の残滓となって消えていった。
後に残ったのは、暴流に飲み込まれた金属蜂の残骸と、暴風によって荒れた平原、後は【防御】に守られた『蜂型魔物』と俺の足元で伏せるシロのみとなった。
「………腰が痛い」
改めて普通に立つと、無理な動きをした腰の痛みが目立つ。『自己回復』が出来ないので我慢するしかない。
それにしても新技【覇嵐】、俺の予想以上にえげつない技だった。
あまり乱用してはいけない類だな、これは。
そうやって俺が新技の率直な感想を零していると、ずっと伏せていたシロが立ち上がる。
「………兄様」
泥まみれの状態で。
いつもの無表情もジト目に見えなくもない。
「すみませんでしたァッ!」
即座に土下座。
ある程度シロの泥を落としてやった後、『蜂型魔物』の所に向かう。
『蜂型魔物』の正面まで歩き目の前で立ち止まると、『蜂型魔物』は残った力で精一杯、と言わんばかりの緩慢な動作で顔を上げる。
そのまま、見つめ合いに発展する。
「とりあえず【回復】」
このままだと、アッシュの時の様に見つめ合いに無駄な時間を使いそうだったので、軽く動けるレベルまで回復させる。
『蜂型魔物』は、折れた数本の足以外の傷が治る。
………なんか、体の節々に白いモコモコがついてて頭の触角も若干大きいし、何か普通の蜂より格が高そうな見た目の蜂だ。
「『降伏』か『敵対』か、選びな」
言葉は伝わらないと思うが、俺はある程度の傷が治った『蜂型魔物』にそう問いかける。
さて、ここでこの魔物がどうするかで今後の身の振りを考える事にしよう。
勿論襲ってきたら、即撃退だ。
さぁ、どうする?
そうやって俺が何もしないで見つめていると、『蜂型魔物』は持ち上げていた顔を伏せ、動かなくなる。
つまり―――
「それは、俺に敵対の意思は無いとみていいのか?」
俺は再度問いかけると、『蜂型魔物』は伏せたまま頷いた。
まさか、言葉をちゃんと理解できているとは………。
もしかしたらこの魔物、中々の掘り出し物だったのではなかろうか?
「それなら、俺の眷属になってもらう。一度眷属になったら、俺に逆らえなくなるが、それでも降伏するか?」
俺がそう問いかけても、『蜂型魔物』は頷く。
『雷撃槍蜂・女王の眷属化が可能になりました』
『蜂型魔物』が許可を出したようで、スキルガイダンスが聞こえた。
いや、今はそれどころじゃない。
雷撃槍蜂・女王!?
むっちゃ強そうな名前の魔物だし、挙句女王とかどうなってるんだ。明かに金属蜂と格が違うだろ。
これを仲間に出来るとか、俺のリアルラックやばいな。
これを仲間にしない訳にはいかないだろう。
「よし、これを飲め」
俺は軽く親指を噛んで血を出し、それを雷撃槍蜂・女王の前に持っていく。
親指から滴り落ちた血を、下に伏せている雷撃槍蜂・女王は口に含む。
その瞬間、突然雷撃槍蜂・女王は光輝き始めた。
「な、何だッ!?」
「………兄様ッ!」
咄嗟の事に俺は思わず声を上げてしまう。
そんな俺を守ろうと、シロが俺の前に飛び出して来て構える。
依然止まぬ光に混乱する俺の頭に、またスキルガイダンスが響いた。
『【血の眷属】の眷属数が一定数を超えました。
スキル【主君同体】を取得しました』
「………【主君同体】?」
恐らく、この現状をを作り出しているのがこのスキルなのだろうが、名前だけではどんなスキルかが分からない。
俺が首を傾げていると、光が徐々に収まる。
そして、そこにいたのは―――
「えっ、ハァッ!?こ、これは一体どうなっているんですのー!?」
自分の体を見まわし、悲鳴を上げる裸の女性がいた。
ちょっ、おいっ!?それはこっちのセリフだよ!?




