12.実食、ラピスの卵
卵。
それは、俺がこの世界で欲しかった物の一つ。
理由はいくつかあり、純粋に俺の大好物である『TKG』が食べれるとか、異世界チート料理編のキーワード『マヨネーズ』を作れるとか、まだいくつか存在する。
だが、この世界では『生食』が忌み嫌われる。
まぁ、正直日本ほど衛生的では無い国で生食をしようなどとすれば、食中毒待った無しだ。それをこの世界の人々は良く分かっている。
それゆえ、過去の転生者、転移者達も生食を布教する事は出来なかった。
だからこそ、俺は『新鮮な卵』を欲した。
新鮮であるならば衛生面でも問題は無い筈だし、何なら毒だったとしても俺は【状態回復】が使えるから無問題なのだ。
それゆえ、将来卵を探す旅に出ようとすら考えていた。
そんな最中―――。
「うーん………」
俺は目の前にある『卵』を見つめる。
日本で食べていた一般的な卵より一回り大きく、日本では見る事の無い薄い水色をした卵。
そして、魔物であるラピスが産んだ卵。
ラピスは俺に卵を差し出した後、ニコニコしながら横で見ている。
ラピスに卵を渡された時、俺は動揺が止まらず咄嗟に―――
「えっ、これ俺の子供っ!?」
とか、凄いアホな事を言ってしまった。
その後、少しだけ落ち着いた俺がラピスと会話(ラピスはジェスチャーだが)した結果を、俺が思った通りに纏めると―――
1.ハーピィは発情期に入ると、ほぼ毎日卵を産む。
2.これは全て『無精卵』であり、雛が生まれる事は無い。
3.もし『有精卵』を産みたい場合は、前日に交尾を行った上でハーピィ自身が望んだ場合のみ有精卵が生まれる。
4.ハーピィは自分が番と認めた人物が現れない限り、発情期に入る事は無い。例えハーピィが奴隷で、命令で強制されても無理やり発情期に入る事は無い。
5.ハーピィが卵を差し出すのは、番と認めた人物に対する『アピール』であったり『愛情』を表現する物である。その為、卵を他の者に触られるのを全力で嫌がる。
凄い生態だ………。
さて、この卵だが、俺は食べようと思う。
実際、ラピスに『この卵って食べてもいいのか?』と聞いた所、ニコニコ顔のまま頷いていたので、ハーピィ的にもあげた卵を相手が食べるのは全然アリらしい。
そして記念すべきラピスの初卵で作る料理は―――
「TKGを食べます」
「キュ?」
俺がそう宣言すると、横にいるラピスは首を傾げる。まぁ、そりゃ分からんか。
本来は鮮度チェックを念のためするべきだろうが、ラピスが見てる横で卵を疑うような真似はするべきでは無いと思うので、今回は省略する。
本来であれば行うべき鮮度チェックでチェックするのは2点。
1:塩水で沈むか?
2:白身や黄身がベチャベチャと水っぽくないか?
卵の鮮度を図るのは、この2点が有効とされている。
殻の『色』は鮮度に関係ない。
卵の殻の色は、産んだ鳥の羽毛に近い色になるのが一般的だ。カラスとかは例外らしいけど。
1番では、水に沈むと新鮮だ。
原理はあまり良く覚えていないが、卵の内部に引っ付いている白身の部分が時間とともに剥がれ、そこに空気の塊が出来るから浮かぶとかなんとか。
正直うろ覚えなので、『沈めば新鮮』とだけ覚えておけばいいだろう。
2番は、黄身が丸く盛り上がり、盛り上がった白身がこんもりと包んでいる物は新鮮だ。
これに関しては原理は忘れた。
ベチャベチャしてる奴は、あまり新鮮では無いらしい。
新鮮でない卵は、『サルモネラ菌』とかいう菌が危ない。
その為、卵はなるべく早く冷蔵庫(8℃以下)に入れ、新鮮なうちに食べるのが基本だ。
もし、1番や2番に引っかかった卵、もしくは殻に傷がついて居たり罅が入った卵は、大人しく熱を加えるべし。
だし巻き卵やオムレツだって十分美味しいぞ!
以上だ!
「レイ、本当に食べるの………?」
ラピスと同じく、俺の横で見守っていた母さんが心配そうな声を出す。
まぁ、生食を嫌うこの世界の人からしたらそうなるだろう。
「大丈夫だよ、母さん。俺が元々暮らしていた世界では当たり前に食べられた料理なんだ」
だが、俺からしたらまたとない機会だ。
折角の貴重な新鮮生卵。逃す訳にはいかない。
まぁ、これを産んだのがラピスっていう所に、思春期男子として思う所が無い訳でも無いが………。
「そう?でももし何かあったら、母さんは………」
「そこも大丈夫。俺は【状態回復】が使えるんだ、問題は無いよ」
それに俺が唱えられないような状態になってもいい様に、先ほどラーナに頼んで俺が【状態回復】を唱える所を【録音】してもらっている。
もしもの場合にも完璧だ。
そんな訳で、俺はラピスを筆頭に母さんやラーナに見守られながらTKGを食べようとしている。
視線が多い………。
さて気を取り直して、目の前には茶碗一杯の白飯。
そこの頂上に、窪みを作る。
そのポイントに、割った生卵を入れる。
「おお………!」
一目見てわかった。
この卵、今まで食べてきた卵と違う。
まず、黄身が大きい。こんもりと丸く膨らんだ黄身は新鮮の証。
そして白身は、血などの不純物は一切無い透き通ったいい白身だ。
「ゴクッ」
思わず唾を飲み込む。
否応にでも、期待値が上がる。
今回は素材の味が知りたいので、醤油はかけない。
なので、このまま黄身を箸で割る。
「うわっ」
今まで食べてきた卵で、一番濃厚な黄身がご飯に広がる。
それを見た瞬間、俺はもう我慢できなかった。
「いただきますッ!」
茶碗を手に取り、ご飯をかきこむ。
熱々のほか他ご飯を頬張ると、口いっぱいに広がる濃厚な黄身の味と風味。
「うまぁ………」
思わず零れた一言。
それ以降、食べ切るまで俺は一言発する事無くご飯をかきこみ続けた。
そんな俺を、ラピスはニコニコしながらずっと見ていた。
TKGを食い終わった後、俺の中で喜びや感動といった感情が爆発して、ラピスを抱きしめながら大喜びしてしまった。
そして、それをいつの間にか帰ってきていた訓練組や上にいた幼女二人組に、思いっきり見られてしまった。
だって、久々に食べた念願のTKGが最高にうまかったんだよ………。
それを見たシロが、『………私も抱きしめてほしい』とか言い始めたからさあ大変。
母さんやラーナにフラン、挙句の果てに幼女二人組までもが『私も私も』と言い始めた。
母さんとシロは、今朝目一杯抱きしめたはずなんだがなぁ………?
全員言い出したら止まらないメンバーだったので、俺が大人しく全員に抱擁をして終わりかと思ったら大間違いだった。
俺が皆を抱きしめている間、剣士四人組が小声で何かやり取りしているなぁって思っていたら、突然―――。
「わ、私達もいいかな………?」
「だ、駄目かな………?」
「は、早く答えなさいよ………!」
「これ、すっごく恥ずかしいわ~………」
とか真っ赤な顔で言い出したので、本気で驚いた。
『そんな事言いだすお前らじゃなかったはずだろ?』と俺が疑問気に問いかけると、耳まで真っ赤な4人組が答えてくれた。
最近俺と眷属の距離感が急に縮まっていて、自分達だけ仲間はずれになるのが嫌だったらしい。
本当に良いのか再度確認するも、今にも倒れそうなほど恥ずかしがりながら『問題無い!』とか言うので、ちゃんと抱きしめました。
「こ、これ、凄いね………」
「み、皆、こんな恥ずかしい事あんなにやってたんだね………」
「ここまでとは、思ってなかったわね………」
「………(キュウ~)」
抱きしめた後、全員もれなくその場から逃げ出して部屋の隅に座り込んでしまった。ニルに関しては本当に倒れそうだ。
そして、これで終わりでは無かった。
残りのクリス先生とミナ姉までもが、やると言い出した。
「私はどっちでも構わなかったのだが、皆がやったというのなら公平に私にも抱き着くべきだろう?」
「そ、そうだな!他の人がやったってんならしゃーないよな!?」
全然余裕そうなクリス先生と、照れを誤魔化して余裕ぶろうとして失敗してるミナ姉の対比が、かなり印象的でした。
実際抱き着いた時も―――
「ほう………これは案外いいものだな。私もこれから機会があれば頼むとしよう」
「うわッ………これ、凄………コイツ意外とがっしりしてる………あ、暖かくてなんか落ち着く………」
クリス先生は余裕そうだったし、ミナ姉は真っ赤になって縮みこんでしまった。
その後、照れ隠しの右ストレートが飛んできた。
精霊で、あの物理はやばい。
そんな感じで過ごし、自由時間終了前にフレデイに戻って修学旅行3日目は終わり、その翌日に何の問題も無く学園都市へ全生徒帰還した。
中々バタバタした3日間だったよ。
それから1か月ほど経過した。
俺はそれなりに憔悴していた。
正直、早く学園トーナメントが始まってくれないかと思っている。
この一か月、周りからの陰口や文句といった事がひどくなった。
なんせ『陰口』が『悪口』に進化したくらいだしな。俺の目の前で平気で毒を吐きやがる。屑だゴミだ底辺だなんだと、いつでも何処でも誰にでも言われる。
同級生にとどまらず、3年や4年、挙句の果てに下級生である新入生にすら悪口を言われる。
そして、やたらと因縁を付けられる。
何かあれば俺の所為。嫌な役は俺の役。めんどくさい事も俺の役。
2年になってクラス担任がクリス先生から、親貴族派の教師に変わってしまったのが特に痛かった。午前中に良い事なんざなんもありゃしねぇ。
更に、シロに手を出そうとする奴がどんどん増える。
例の『イケメン伯爵息子』を筆頭に、学年関係なく様々な連中がシロの『所有権』を奪おうとする。そして、担任は止めない。挙句、クリス先生以外の教師は学園長への情報規制まで始める始末だ。くそったれが。
幸いなのは、誰もシロに物理的に手を出さない事だ。
獣王と同じ【獣化】のスキル持ちだから、勝つ自信が無いのだろう。そんな奴にシロを渡す訳には絶対にいかない。
クリス先生は俺達の事を何とかしようとしてくれているが、教師陣の中では新規組であり『冒険者上がり』という所から、教師連中に相手をしてもらえない。
冒険者上がりって事は実力があるという証明なのに、それを認めず自分の肩書に溺れた連中ばかりで嫌になるね。
そんな感じで、最近の風当たりの強さがあまりにもひどいので、剣士四人組に『学園トーナメントが終わるまで俺に近づくな』と伝えてある。
渋る四人だったが、俺が無理やり納得させた。
その代わり、今度一人ずつそれぞれの言う事を聞く事になってしまったが、背に腹は代えられぬ。
思う所が無い訳では無いが、事情を知らない一般の生徒達は向上心が高いだけなので、俺が『屑野郎』に見えるのはしょうがないと思う。『一般』の生徒はな。貴族は知らん。
だが教師陣は、学園長がセルディマ公認のクエスト証明書を見せて説明しているはずなのに、この様だ。
あまりにも屑過ぎる。
学園長は、どんだけ学園を空けたんだろうな。腐るのが早すぎるだけかもしれんが。
更に教師陣は、止める連中が居ない為暴走を始め、学園長にすらたてつき始めたらしい。
何処までアホなんだか。この学園の結界誰が貼ってると思ってるんだよ。
学園長もいい加減頭にきたらしく―――
「レイが優勝できなかったら辞めてもいいわよ?でも、優勝したら貴方達も同様の処罰を受けても問題は無いわよねぇ?」
と、言ってのけたと本人から聞いた。
カウンターで、教師陣の首を全て刈り取るつもりだ………!
その言葉を冗談か本気かどう思ったか知らないが、教師陣は『それでも構わない』といったらしい。
まぁ、学園長は確実に本気だろう。
さて、そんな最悪な環境に身を置いている俺だが、流石にこのままでは心が荒むと思ったので、ストレス発散の為に冒険者ギルドで討伐依頼を受けて、山脈麓の森に来ている。
勿論、休日にだ。これ以上平日に休んだら、何言われるか分からん。
今回の依頼は『金属蜂の集団討伐』だ。
金属蜂とは、体の骨格が金属の様な堅い外殻で出来ている蜂の事だ。
体が金属なだけあって防御力が高く、また素早い上に空を飛び毒まで使う、相当に厄介な魔物として知られる。
だが、特に厄介なのは常に2体以上で行動し、集団で狩りを行うという所にある。
依頼ランクはA級であり、『純金冒険者』がパーティを組んで討伐するのが推奨されている。
だが金属蜂の素材は、中級以上の軽鎧や武器の素材として使われており、特にレアドロップである『金属蜂の剛針』を使った槍が鋭く毒も帯びている為、相当強力な武器として知られているので、実力者からしたら儲けの良い獲物なのだ。俺も『金属蜂の剛針』のドロップを狙っている。
通常ドロップの『金属蜂の堅殻』も鎧装備としては魅力的な素材なので、是非この機会に搔き集めたい所だ。
「これから、狩りの時間だ!」
討伐クエスト『金属蜂の集団討伐』スタートッ!




