11.交流、新眷属
アッシュを【血の眷属】で仲間にした後、俺は【転移】で宿の近くに転移した。
そして、即座に【魔力遮断】を使い、息を潜めて宿に潜入する。
よし、誰にもバレずに帰還に成k―――。
「………お帰りなさい」
うそぉん。
「―――という事がありました」
「………なるほど」
宿の玄関で仁王立ちしていたシロから正座を指定され、大人しく正座した俺は、今まで何をしていたかを包み隠さず説明する。
完全に、朝帰りを妻に問い詰められる夫のような状態になってしまった。
「………つまり兄様は、私と母様に隠れて危険な所に行って、朝まで知らない女と一緒にいたと」
「い、言い方が………」
「………間違ってる?」
「いえ、間違いないです、ハイ」
いつも以上の無表情で、首を傾げるのはやめていただきたい。怖い。
「まぁまぁ、シロちゃん。ここはとりあえず件のアッシュちゃんとお話ししてみましょう?」
「………確かに」
「という訳で、レイ。アッシュちゃんを出してちょうだい、いいわね?」
「アッハイ」
普通に会話してますが、さっきまで影も形もなかったはずの母さんは、一体何処から出てきたんでしょうかねぇ………?
顔はいつも通りのニコニコなんだが、全く笑ってない眼と冷気が零れ出ている霊体のコンビネーションにより、謎の狂気を感じる。
「【召喚】、『アッシュ』」
「レイ君、私を呼んだようですが何かありm―――ヒィッ」
いくら慌てていたとはいえ、何も【眷属念話】で伝えずにこの場に呼んでしまったのは、非常に申し訳ないと思っている。
すまない。
その後、謎の威圧感を出している母さんとシロの質問攻めに、アッシュは涙目になりながらも頑張って答え、母さんとシロからお墨付きをもらっていた。何のお墨付きなんだろうね?
「うぇぇぇん………すごく怖かったです………」
大きな図体にクールな顔つきのアッシュは、すごく怖がりなアラクネ少女なのだ。そんなアッシュにとって、あの二人は十分恐怖に値するのだろう。
そんな所に俺が問答無用で呼び出してしまったの、凄く申し訳無い気持ちになってくるな………!
「アッシュ、本当にすまなかった………。あの二人も悪気がある訳じゃ無くて、俺の事を心配してくれているんだ」
「それはわかります………。お二方、すごく怖かったですけど、レイ君の事を案じているが為の行動だというのは、ちゃんと伝わってますよ………!」
まだ涙目の中、そうやって微笑んでくれるアッシュは、本当にいい子なんだろう。
数百年間周りが敵だらけの中を一人で生きてきて、ここまで純粋な子なのは本当に奇跡クラスの事だと思う。
「お詫びと言っては何だが、俺が一回だけアッシュの言う事をなんでも聞いてあげるから、それで勘弁してくれないか?」
「えっ、なんでもいいんですかっ!?」
俺の言葉に、盛大に驚いた顔をするアッシュ。
「………へぇ」
「なんでも、ねぇ」
俺の背後にいる二人の反応が少し怖いです。
「あ、あぁ、なんでもいいぞ。男に二言は無い」
少々後が怖いが、願い事自体に関してはアッシュは相当ないい子なので、そんな無茶なお願いはしてこないだろうという安心をしている。
「えっと、えっと………!」
アッシュは、頬を赤く染めながら必死でお願い事を考えている。
「ねぇ、レイ?」
「ハイ、なんでしょう」
俺に声をかけながら、背後から右肩に手を置く母さんなのだが、その右手がやたらと冷気がこもっている。
思わず、油の切れたブリキ人形のようなぎこちない動きで後ろを振り返る。
「私達にも心配かけたんだから、アッシュちゃんと同様の要求を行う権利はあるわよねぇ?」
「………(コクコク)」
後ろを振り返ると、微笑む母さんと同意するように頷くシロがいた。
「は、はい」
勿論、俺には同意する以外の答えは無かった。
心配かけたのは事実だしな。
「うふふ、アッシュちゃんが何を頼むか楽しみねぇ」
「………(ワクワク)」
こ、これは、アッシュの要求が非常に重要になってしまった………!
「レイ君、決めました!」
俺が思わぬ危機に冷や汗を流していると、アッシュからそう声をかけられた。
「おう。それで、何を要求する?」
さて、どんな要望なんだ………!
俺がそう身構えていると、アッシュは人間部分の両腕を広げて―――
「私が満足するまで、ギュゥゥゥって私の事抱きしめてください!」
―――と、顔を真っ赤にしながらそう言った。
思っていたよりも、乙女チックな願い事だった。
「だ、駄目ですか………!?」
俺が無言のままでいると、アッシュはワタワタと慌てだす。
「いや、駄目じゃねぇよ。俺には拒否権が無いし、それにそれくらいだったら構わないよ」
「よ、よかった………!」
俺がそう声をかけると、胸に手を当て安心した様子のアッシュ。
「あらあら、思っていたよりも穏やかなのねぇ」
「………でも、兄様からギュってされるのはイイ」
「そうねぇ、あの子照れ屋だから、滅多な事じゃないとあの子からしてくれないものねぇ」
後ろから二人の会話が聞こえてくるが、今はスルーだ。
「そ、それじゃあ、お願いしますっ!」
アッシュは、蜘蛛の体を器用に使いながら上半身を低く落として、俺と同じくらいの位置に持ってきた後、再度両腕を広げウェルカム状態になる。
ちなみに、恥ずかしいのか顔は真っ赤のままだ。
「よし、それじゃあ行くぞ」
「ハイッ………!」
俺が声をかけると返事を返したので、近づく。
そして、思いっきり抱きしめる。
「どうだ?」
「も、もっと強くと要望しても………?」
アッシュの上半身、ふよふよしててめっさ柔らかい。
アッシュはさらに強めを要望してきたので、それなりに力を込めてみる。
「あっ………これくらいがいいです………えへへぇ」
力を込めると、アッシュがそう言いながら抱き付き返してきた。
あぁ、ふよふよが増しててやばい(脳死)。
「レイ君………レイ君………レイくぅん………」
「あ、アッシュ………?」
無意識化の行動なのだろうが、アッシュは俺に抱き着いたまま俺の後頭部を撫で始め、勝手にどんどん蕩けて始めた。
それに比例して、アッシュが抱き着く力が増してくる。
「―――って、中々洒落にならないくらい力が………!」
まだ現段階では骨が軋むとまではいかないが、このままではいずれサバ折されてしまうかもしれん………!?
まだステータスは確認していないが、やはりアッシュSTR:A説が濃厚だ。
「れぇいくぅん………えへ、ふふふ、えへへぇ………」
だが、アッシュが満足するまで抱き続けると言ったのは俺だ。一度口に出した以上、守り切らねば………!
たとえ、この身がへし折れようとも………!
恐怖のカウントダウン抱擁から開放してもらったのは、それから30分後でした。
あと数分遅れていたら、ガチでサバ折される所だった。
そのことに対し、アッシュは平謝りしていた。
あ、アッシュの抱擁が終わった後、母さんとシロにも同様の時間抱擁をしました。
30分間ずっとニコニコしたまま俺を撫で続けた母さんと、最初は尻尾をパタパタさせるほど興奮していたのに次第に落ち着いていったシロが印象的でした。
修学旅行3日目!
といっても、本日はシロと母さんによって学園寮にずっと軟禁されていた。
昨晩の反省を促す意味でも、俺も大人しくすることにしました。特にフレディでする事も無くなってたんで………。
現在、既におやつ時と言ってもいい時間だが、俺は寮にてハーピィと不死鳥の鳥っ子二匹と、ソファの上でじゃれて遊んでいる。
その横のリビングデスクでは、母さんがラーナから入れてもらった紅茶を飲みながら俺を眺めている。
リリスとレナウンは、二階の一室でおままごとをしているはずだ。
シロは、剣士四人組とクリス先生を連れて、学園の訓練室で組み手中だ。
今回は、そこにフランとミナ姉も加わっている。
勿論、学園長公認である。
俺が戻るって話をしたら、皆付いて来ちゃった。
あ、そういえば、午前中の内にフランやリリス、レナウン、ハーピィ、不死鳥の5人を眷属化しました。
幼女三人組は、眷属化がすっかり遅れてしまった。
眷属化スキルは以下の通りだ。
フラン:【龍化】
リリス:【魔妃顕現】
レナウン:【猪突猛進】
ラピス:【良妻】
ルビィ:【良妻】
何て言うか、こう、名前だけでもツッコミどころがね………?
まず、リリスのスキルがヤバそう(語彙力)。
そして、ラピスとルビイのスキルが全く一緒であり、スキル名を見ても能力が分からない。
フランのスキル【龍化】は、『龍の息吹』や『龍爪』といったドラゴン種固有の能力が使えるようになるスキルだ。
それの副産物として、手足といった胴体の末端部に龍の鱗が、頭部には大きな角が常に生えている。そこが俺の【竜装】と違う所だな。
まぁ、鹿の様な角くらいなら獣人にもいるので、手足の鱗さえ隠せば普通の獣人に見えるのは幸いだろう。
フランはこのスキルを使いこなせるように、ミナ姉と特訓を最近始めた。
次は、個人的に気になるリリスのスキル【魔妃顕現】。
これは、一日一回だけ一時間のみリリスの前世の姿に変身できる、というスキルだ。
だが、現在リリスはこのスキルを使う事が出来なかった。
理由としては、前世の記憶が無いからだろうと思われる。
だが、このスキルが付いた以上、リリスにはそれなりの前世があるはずなので、それは今後に期待と言った所だろう。
レナウンのスキル【猪突猛進】は、走れば走るほどその距離に応じてステータスが上昇する、というシンプルなものだ。
分かりやすく言うと、助走をつけて攻撃すると攻撃の威力や速度が上がるといった感じだろう。
地味に末恐ろしいのが、上昇するステータスはLUK以外の全てだという事だ。
走れば走るほど、スピードと攻撃力と同時に、防御力も上がっていくのだ。どんでもない核弾頭だ。
だが、レナウンはまだ戦闘訓練みたいな事はしていないので、この能力は今の所レナウンがかけっこの時に走れば走るほど速くなる、という平和な使い道をされている。
ラピスとルビイのスキル【良妻】は、正直良く分からないスキルだ。
スキル説明文には、『スキル使用者が連想する、『夫』に対して『妻』として相応しい技能を習得する』という説明文しか書いて無かった。
このスキルも、効果が良く分かっていない。
ただ分かるのは、二人?二匹?が『夫』として見ているのは、俺だという事。
このスキルを発現してから、ラピスとルビイは召喚中はずっと俺に引っ付いているのだ。流石に俺でもわかる。餌付けって凄いね。
「気持ちいいか?」
「キュィィ………」
そんな感じで、今もワンピースを着たラピスを膝の上に乗せて、翼の毛づくろい?をやっている。中々の触り心地です。
ルビィは、ラピスの膝の上で睡眠中だ。
羽だけじゃなくて、頭も撫でてみる。
昨日はかなりごわごわだったが、お風呂で一度しっかりと洗ってやったら中々の仕上がりになったので、撫でるのに全然問題は無い。
「キュイ?」
「ん?今の状態でも髪気持ちいいぞ」
「キュィ!」
俺が頭を撫でていると、不思議そうな顔でこっちを向いたので撫でたまま褒めると、ラピスは嬉しそうに一度鳴いて正面を向き直した。
「キュィキュィキューン♪」
そして、ご機嫌に鳴き始めた。中々綺麗な鳴き声だ。
そのまま撫で続けていると、ラピスの気分が更に高揚してきた。
「キュゥゥゥン………」
なんか、蕩けた様な甘い鳴き声を出しながら俺の胸にもたれかかり、俺の顎下あたりに頭を押し付けてグリグリし始めた。
この子、びっくりするくらい俺に甘えてる。
甘えられた事が素直に嬉しかったので、俺も調子に乗り始める。
「ギュー」
「キュッ!?」
まず、後ろからラピスに抱き着く。
ラピスは、驚いた様に体をビクッと震わせる。
「ウリウリ」
「キュ、キュィィ………!キュゥ………!」
そして、その体勢でラピスの喉元をナデナデする。猫をあやすあの感じで。
その攻撃にラピスは、声を堪える様に我慢ずる。
「フー」
「キュイィィ………!?」
トドメに、耳元で息を吹きかける。
それにはラピスも思わず鳴き声を上げる。
俺、満足。
「キュ………キュィィ………キュ、キュゥゥン………」
ふと気づけば、ラピスが何かビクビクと震えていた。
これは恐怖で震えているって言うより、何て言うか、まるで快楽に溺れている様に………?
俺がラピスの様子を窺っていると、ラピスは翼を上手く使ってワンピースの裾をまくり上げる。
「うわっ、ちょ、待、見え、止めっ!?」
「キュゥゥ………」
思わず俺が慌てていると、ラピスはその状態のまま俺を見上げて来る。
すっごい恥ずかしそうに羞恥に頬を染めたまま、俺に何かを見せる様にワンピースの裾を上げたまま。
俺も直視するのは恥ずかしいので、薄目でワンピースの中を覗く。
寧ろ、変態的な目つきになっているのは否定しない。
「って、お前それ!?」
だが、直ぐにそれどころでは無くなる。
何せ、ワンピースの中にあったのは―――
どう見ても『生みたての卵』があった。




